新しい仲間 ナハト

その日は、6月にしてはかなり良い天気だった。
蒼嵐の結界は東京の影にあるので、天候も多くの場合は、関東地方の天気に準じている。
丁度、その日は結界の中も外も、梅雨の中休み。
久しぶりの快晴に外に遊びに出たものも多かったのではないだろうか?
ここにいる二人も、その一人、ではなく二人…。

「う〜ん!いい天気だ。たまには外に出て太陽の光を浴びないとカビてしまう!」
首を回して伸びをする青年。彼のプラチナブロンドは月の光の下ではまるで月光の化身の
ように銀色に光るが、太陽の光の下では軽く揺れて小さな虹を弾く。
「そうね。たまにはいいわよね。」
横には少女が彼を見つめ柔らかな笑みを浮かべていた。
蒼月の間の鷹村夢とデューシンス。
ほっとくとパソコンに向かいきりの魔皇を逢魔が心配したのか。雑用に忙しい逢魔を
魔皇がデートに連れ出したのかは解らない。
とにかく二人は珍しく、二人で散歩に出かけていた。

蒼嵐の結界は一つの街である。
街を守る城壁の外は、かなり広く深い森で、ごく稀に迷い込む「人間」を惑わせる。
大抵は逢魔が外へと助け出してやったらしく、それが民話や伝説の「天狗」や「鬼」の
正体と言われている。
「まったく失礼な話だよな。」
デューシンスはつまらなそうに呟くが、その目は笑っている。
そんな彼を見て夢もクスクスと笑い出す。
人間にとっては迷いの森でも、迷わなければ普通の森。
小鳥のさえずり、花々の香り、森の深い吐息。人を恐れない動物達。
二人は、当然迷うことなく森林浴を楽しんでいた。

「?」「?」
二人は同時に立ち止まった。
何かの気配を感じる。助けを求めるような、か細い「気」
道から外れた草むらの奥に感じるそれが気になって、二人は顔を見合わせ頷き合うと
木々の向こうへと足を踏み入れた。

人の手の入らぬ森の奥へ、草を踏んでいくと
「あっ!」
夢はその「気」の正体を見つけて駆け寄った。
地面に落ちて目を回しているそれを、膝をつきそっと抱き上げる。
「ふくろうの、子供だな。」
デューシンスの言ったとおり、それはモリフクロウだった。まだ産毛も多い。
子供と言えるだろう。モリフクロウは大人になれば50cmくらいには大きくなる
というがこれはまだ、半分にもみたない。夢の手の中で、それは身動きもせず
身体を伸ばしていた。夢は心配そうにそっとデューシンスへとフクロウを差し出した。
「う〜ん、足には異常は無いみたいだが、羽根に怪我してるな。後は落っこちた
脳震盪だろう。」
特技に応急手当を持つデューシンスは、どこからが消毒薬とテーピングを取り出して
怪我を押さえ固定しようとする。だが、その時、
パチッ。
フクロウの子が目を覚ました。バタバタバタッ!子供といえど猛禽類の爪である。
手の中で羽ばたかれ、爪を立てられ夢はその手を思わず引く。
フクロウはなんとか地面に着地するが、羽ばたきながら数歩も歩くとまた、羽根を閉じて
蹲ってしまう。傷は思ったよりもずっと深そうだ。
立ち上がると夢は、フクロウの子の前に回りこみ、じっとその目を見た。
黒くて丸い目は、自分より大きなそれをどう見たのだろうか。
じっと見つめ、威嚇するように羽根を広げる。が、痛むのだろう。すぐ羽根を閉じる。
「ねえ、傷を見せて。悪いようにはしないから、ね?」
フクロウに人間の言葉が通じたとは思えない。でも、丸い目をくるりと動かしたあと
その子はもう一度そっと抱き上げた夢の手から今度は、羽ばたかなかった。
身を任せるようにそっと身体を横たえる。
傷の手当てをしながら、デューシンスは感心したようにフクロウを見つめた。
(頭のいいフクロウだな。敵ではない、と判断したか。)
獣医ではないので専門的ではないが、少なくともこれ以上悪くならないように
する手当てを行って、デューシンスと夢はフクロウの子をそっと地面に降ろした。
周囲に親がいれば、迎えに来るかもしれない。猛禽類を人間の手に置くことはあまり好ましくないだろう。
地上の獣に襲われないように、木の洞に入れると二人は静かにその場を離れた。

小一時間ほどした頃だろうか。黒い雲がサッと天上を流れ、雨を振り落としていく。
二人は大きな木の下に一時的な傘を借りて、雨が止むのを待つことにした。
夢はあれからほぼずっと、無言であった。あれから、というのはもちろん、さっきの別れからである。
「ねえ、デューシンス。あの子、大丈夫かしら。」
心配そうに問い掛ける夢の真意をしっているから、デューシンスはあえて厳しく言い放った。
「野生の生き物だ。なんとかするだろう。そうできなかったとしても、それもしかたない。野生の生き物の定めだ。」
「…あの子が怪我をしたのも運命なら、私たちと出会ったのもあの子の運命じゃない?」
あの時、あの子と心が通じた気がした。小さなぬくもりが今も手の中に残っている。
「そうだとしても、人の手の中でいきることが、あいつにとって良いとは限らないぞ。」
「それは、解っているけど…」
唇をぎゅっと閉じて、夢は彼の言葉をかみしめる。これは、自分の勝手な気持ちだと
解っているから。
雨はあっというまに通り過ぎ、風が雲を遠くへと掃き出していく。
木陰に太陽が覗き始めても、夢は下を向いたまま歩き出そうとはしなかった。
デューシンスは頭を掻き、小さく息をついた。
「もう一度だけ、様子を見に行ってみよう。親が迎えに来ていたら諦めろよ。」
「うん!」

雨上がりの水を含んだ草は重く、足に絡む。でも、夢は気にせず歩いた。
自分達の踏んだ道が標となって、ほどなくさっきの場所へと帰りつく。
あの子は…。
そう思ってあたりを見回したとき、
バサバサバサッ!
一本の樹から何かが夢をめがけて飛んできたのだ。
「うわっ!」
彼女の胸の真ん中にそれは頭突きをするようにぶつかった。
「魔皇」している夢には驚きこそすれたいしたダメージは無かったが、相手にはそうも行かなかったようだ。
「キュ〜〜〜〜〜。」
かすかな悲鳴と共に足もとへと落下したそれを、夢は慌てて抱き上げた。
「だ、大丈夫?しっかりして!!」
「クル……?ホ?」
また脳震盪を起こしかけていたそれは、小さな黒い目をパッチリと開いた。
「また」そう、さっきのフクロウの子供だったのだ。
バサッ!手の中で羽ばたこうとしたその子は、今度は顔を上げると羽ばたきせずに
羽根を閉じた。自分を見つめているように思えて、夢は目を合わせた。
黒い目と目とがしっかりと視線を合わせる。
「あなた、私と一緒に、来る?」
「ホーホー。」
二回泣くとそのフクロウは夢の肩へと飛び乗った。もそもそ。夢の髪の中に頭を突っ込んでしまう形になり、
夢は悲鳴をあげた。
「わあっ、髪の毛を引っ張らないで〜。」
そっと肩からもう一度腕の中に戻す。と、今度はマフラーの下に、頭を突っ込んで房をひっぱっている。
「もう!この子ったら。」
困ったように、でも嬉しそうに夢は笑う。
その、本当に幸せそうな笑顔を見ながら、デューシンスは常識論、反対論を飲み込んだ。
そして、まあいいか、と小さくつぶやくとまるで、一人と一匹を見守る。
どこか父親のような気分で。

「置いて良いかどうかは、自分でみんなに聞けよ。ここはみんなの場なんだから。」
「うん、良いって言ってくれるかしら。」
「ホッホー。」
ちょっと隠れててね。夢はマフラーの下にその子をそっと隠すといつものように座談会を始める
みんなの前に歩み出た。

「あの〜、みんなにちょっと相談が…」

夢の小さな妹、そして新しい仲間。「ナハト」
蒼月の間に一番小さなメンバーが加わった。



我が秘密基地にはマスコットキャラ、ナハトがいます。
モリフクロウの仔です。

大崩壊以前の話なのでだいぶ前のことなになりますが、この子をここにおくにあたり
この話を作ってみました。
平凡な日常の中の何かを書ければいいと思って書いてたのです。
ただ、連れてきたにしたくは無かったので…。

今はナハトも大事な仲間。

作品展示室には久々UP。楽しんでいただければうれしいです。

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