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蒼月の間には、とても仲のよい女子高生魔皇がいる。鷹村・夢と月島・日和。
親友同士と公言して憚らないこの二人は、お騒がせながらも仲がよい。
そして、その逢魔同士も仲がよい。ナイトノワールのデューシンスと悠宇。
種族も、外見もよく似たこの二人。兄弟のように仲がよい…。
「ちょ、ちょっと待てよ。デューシンス!!」
…はずである。
ずるずるずる。
「な、何だって言うんだよ。離せってば!デューシンス!!」
無言のまま自分の手を引くのは、デューシンス。自分の反論など耳に入らないようにコートを翻して歩き続ける。
「だから、離せってばっ!」
悠宇は逃れようと暴れるが、そこは年齢差+体格の差。細身の身体のどこからと思われる力で
引っ張られる。逃げられない。
基地の端まで歩くと、デューシンスは手をかざした。黒い靄が湧き上がった。
そのままそこへと足を踏み入れる!
「デューシンス。そこはゲートだろ?待てって!うわっ!」
悠宇が目を開けた時、そこはもう、隠れ屋の外、日本だった。
慌てて悠宇は翼をしまい、人化する。
ゲートを抜けると同時に人化していたデューシンスが手を離したのを見て、悠宇は溜めていた抗議を一気にぶちまけ
る。
「いきなり何だよ。デューシンス。日和、まだ怪我が治ってないんだぞ。俺がついてないと…。」
「今日は、日和さんにはサウスがついてくれてる。おれは、日和さんに頼まれたんだ。」
「…えっ?日和に??」
上げかけた拳は行き場をなくす。視線と同じように宙をさまようそれを、すっと降ろさせると
悠宇を見つめた。
「ああ、お前に気晴らしをさせてやってくれってな。無理をさせてるから…と。」
「俺は、無理なんか…。」
「悠宇…」
デューシンスの声に、悠宇の背筋が何故か伸びた。怒鳴るわけでもない、静かな声だったがそこには何かが込めら
れていたのだ。
「お前、この間、夢に説教ぶったろ…。俺が、解らないと思ってるのか?」
「な、何だよ…。」
「あれは、夢にだけに言った訳じゃない。夢に、日和さんに、そして、自分自身にも言った言葉だ。お前も無理してる。
日和さんを守れなかったことを…悔いている。だから、何かしたくて日和さんの側にいたいんだ。」
違うか?そう問うデューシンスの言葉に返事は返らない。俯く悠宇に小さく笑いかけて背中をポンと叩いた。
「そして、俺や、日和さんの気持ちも、あのときのお前や、日和さんと同じだ。たまには甘えろ。気持ちを軽く持て。俺
たちが信じられないか?」
「そんな、そんなことない!」
「なら、たまには良いだろう。今日の払いは持ってやる。思いっきり遊んでいい顔を日和さんに見せてやるんだな。」
なにか、何もかもお見通し、そんな余裕の顔をしているデューシンスに悠宇は、少し舌を打って見せる。
「解ったよ。付き合ってやるよ。でも、俺は無理なんかしてないからな!日和とデューシンスの顔を立てるのに、付き
合ってやるだけだからな!」
拗ねたような言葉をデューシンスは軽く流して、背中を向け歩き始める。
「置いてくぞ!」
「待てよ!!」
先を歩く大きな背中を、悠宇は追いかけるように走った。
「…なんだって男同士でお出かけかなぁ、こういうところはやっぱ、日和とさ〜〜(ぶつぶつ)」
「なんか言ったか?」
「い〜え、何にも!!」
言葉とは反対の意味を込めて、悠宇は答えた。池袋のファッション街には平日とは言え、かなりの人ごみが今日も流
れている。
その中で、黒服の二人連れは、はっきり言って目を引いていた。若い女性組などは自分たちを指差して何か言ってい
るのを悠宇は感じる。
(デューシンス見てるんだろうなあ、男前だし。)
銀の髪がさらりと風になびく。人ごみの視線など気にする様子も無く歩く、まるでどこかのモデルのような『兄』を見つ
め悠宇はちぇっと悔しそうに呟いた。
だが、その悠宇も自分が、同じかそれ以上の視線を集めていることは気づかなかった。
「ねえ、あの子素敵ね、ちょっと可愛い♪」
彼が聞いたら、赤面しそうである。
何か欲しいものはあるか?
そう聞いたデューシンスの言葉に、悠宇は「服」と答えた。
「この間ジャケットを(依頼で)お釈迦にしたんだ。」
2人は特に選ばずブティックに入る。そこには、もう秋冬物のコートやジャケットが出揃っていた。
「デューシンスが着てるようなずるずるのコートはやだからな。」
言いながら店の中を物色する悠宇は、背後から感じる視線に肩を竦め振り返った。
「な、なんだよ、そんなの機能的じゃないから好きじゃないんだよ。俺がすきなのは、こういうの!」
悪かったな、これにだっていろいろと良いところはあるんだ。デューシンスの呟きを無視して、悠宇はジャケットを引っ
張り出した。
襟まで詰まった黒のショートジャケット。銀の金具がカチリと音を立てる。スリムパンツ、ショートブーツ。色はいずれも
黒。
(色の好みは同じなんだな…。)
ナイトノワールの特性か…デューシンスは小さく笑うと財布を出した。
「あっ、いいよ。俺が出す…。」
駆け寄る悠宇の額をピン、とデューシンスは弾いた。
「約束したろ、今日は甘えろ。」
額を押さえ、痛がる振りをしながら、悠宇はデューシンスの背中に、笑顔を送った。
顔が合っているときには絶対に見せない、嬉しそうな笑みを…。
アクセサリーの露店をひやかしながら、2人は歩いた。
荷物が増えたから、ゲートから一度送るつもりだが
「シルバーのアクセサリー欲しいな。ピアスとか、ブレスレットとかさ。」
と、悠宇が言うので、そちらも見ることにしたのだ。
「そんなのたくさん持ってるだろう。お前…。」
呆れたように肩をすくめるデューシンスを、悠宇はやぶにらみした。
「いいだろ?持ってても欲しいんだ。」
クロムハーツのダガーや、ハート。高級そうなショップよりも、露店の方に悠宇の目は行く。
「指輪とかは、いいのか?」
「…いらない。ナイフも銃もさ、使うときには邪魔になるから…。」
でも、悠宇は、あるショーケースに目を留めた。そこには白いレースに抱かれるようにリングが飾られていた。
二つ、寄り添うようなペアリングだ。
「 …なぁ…こんな小さなものにどうして女の子は、ああまで一喜一憂するんだろう?」
「へえ〜、そうか…♪」
言ったとたんに、悠宇は慌てて口を押さえる。口が滑ったことに気がつくが、もう遅い。
デューシンスの口元にはニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。
「…いや、だから、別に…なんだよ。笑うなよ。笑うなってば!!」
照れ隠しに怒る悠宇の言葉は、もう逆に促進剤にしかならない。
忍び笑いが、やがて笑い声に、そして爆笑に変わっていくデューシンスに、悠宇は抗議を続けた。
それが、無駄だと解っていても…。
「笑ったのは、悪かった。そんなに怒るなよ。」
なだめるデューシンスは悠宇の荷物をゲートの向こうに送った。悠宇は、と言えばまだ頬を膨らませている。
「…ガキだと思ってるんだろ。そうだよ、ガキだよ。俺は!だから!!」
デューシンスが帰り道を繋ごうとしたゲートに強引に介入すると、悠宇はデューシンスを連れて飛び込んだ。
「うわっ!!!」
着いた先は…遊園地だ。
「遊園地の絶叫マシンとか大好きだからな(にか)。ここまで来たんだから、付き合え!いつもは日和と一緒だから乗
れないんだよ!」
「ちょ、ちょっと待てっ!!悠宇。」
朝とはまったく逆のパターンで、悠宇は、デューシンスを引きずった。
彼の行く先には…最強ランクの絶叫マシーンが待っている…。
「随分疲れたみたいね…。」
部屋に戻ったとたん、バッタリとベッドに倒れこんだデューシンスの額に夢は濡れタオルを乗せる。
「ああ…、絶叫マシーンは別に苦手じゃあないが、連続一ダースもつき合わされてみろ、身体が持たない…。」
「若さにはかなわない?」
「…夢。」
くすっ。小さく微笑むと、夢はデューシンスに軽く口付けた。
「ご苦労様…。」
対してこちらはまだ、元気いっぱいのようだ。腕にいっぱいの荷物を抱えても、まだありあまる元気が部屋に響き渡
る。
「たっだいまあ!!」
「お帰りなさい。悠宇。」
寝室から、大好きな声が、出迎えてくれる。
「あ〜ら、いい顔してるじゃないの。楽しんできたようね。」
ベッドの横で本を読んでいたフェアリーテイルはパタンと本を閉じると、じゃあ、と手を振って立ち上がって出て行こうと
した。
入ってくる悠宇とのすれ違いざま、何事か悠宇の耳に囁いて…。
「サウス!!」
赤面して拳を振り上げる悠宇に、軽くウインクして彼女は去っていった。
部屋には、魂の絆で結ばれた魔皇と逢魔同士が残される。
「お帰りなさい。悠宇。楽しかった?」
ベッドから身体を起こして微笑む自らのパートナーに、悠宇は、ああ、と頷いた。
「ありがとう、日和。気を使ってくれたんだろう?」
「ううん、悠宇がいい顔してくれれば、私も嬉しいから。ごめんね、私の怪我で、心配かけちゃって…。」
「いいんだ、日和。俺は、自分でいたくて、日和の側にいるんだから。それに、俺は一人じゃないから…。」
『たまには甘えろ…。』
『おジャマ虫は退散するわ。しっかりおやりなさい。』
(デューシンス、サウス…、みんな。今、俺には家族がたくさんいるんだ。兄も、姉も。守りたいものが、守ってくれる人
が…。)
「どうかしたの?悠宇?」
心配そうに問いかける日和の言葉に、悠宇はいつの間にか閉じていた目を開けて首を振る。
「なんでもないよ。日和。早く治して、今度は一緒に行こう!夢も誘ってさ。」
「そうね、悠宇。」
大体、デューシンスはさあ…。
そう言うと、悠宇は、サウスの座っていたベッドサイドに腰を下ろし、今日の話を始める。
楽しそうに愚痴を言いながら、話す悠宇を、日和は心から嬉しそうに見つめていた。
さて、思いっきり楽しんだ一日の後、悠宇には一つ、謎が残った。
服も、アクセサリーも、遊園地も奢ってもらった。さて。
「デューシンスの財布って、どこから金が入ってるんだ??」
その問いに、彼は答えなかった。
ただ、微笑んで…。
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