◆◇EMERGENCY! NO,3◇◆

 気に食わない奴が一人いる。
 そいつは俺らと高校、ついでに中学、小学校まで同じだったらしい。
 だからって俺の中にそいつの記憶はアノコト以外ろくにないし、はっきり言って他人同士だ。
 俺よりも4歳上のそいつに対して、いくら先輩だといっても敬意なんて表せるわけない。
 もう一度言う。俺達はまったくの他人だ。
 だけど。
 俺はあいつが気に食わない。
 第一印象がこの上なく最悪だった所為もあるかもしれないがともかく、俺はあいつのことなんか大っ嫌いなんだ。
 俺と夕紀の間に割り込んでくるその強引さ。図々しさ。なれなれしさ。
 ・・・分かってる。
 夕紀は俺のものじゃない。
 あいつが誰と仲良くしようと俺にとやかく言う権利はないわけで。
 だからって理屈で押さえられるような感情であれば初めっからこんなにイライラなんかしないんだ。
 夕紀に聞かせられたそいつの話の所為で、俺は昨日ろくに眠ってない。
 自分でも思うが、もう末期だ。
 もうこんな中途半端でいるのも限界かもしれない・・・。

 夕紀に聞いたことはほんの少しだけ。
『明後日ね、もしかしたら一緒に帰れないかもしれないんだ』
 それだけ。それだけ?
   傍から見たら些細なことでも、俺にとっては無茶苦茶重要なことだ。
 だって、いつも側にいた夕紀が、その日だけでもいなくなってしまうってことで。
 この感情、かなりまずいって思うよ?
 でも俺、この独占欲止められない   
 そんな心の動揺を押さえながら平然とした振る舞いで俺はその理由を聞いた。
 そして出てきたあいつの名前。 『上原先輩と、約束したから』
 一瞬思考が止まった。
 聞き覚えのあるその名前を、記憶の糸を解きほどいて何とか見つけた瞬間、再起動する俺の頭。
 カミハラ、・・・上原って、あの男!?
 すぐに浮かんでくる、あの忌々しい光景。
 長身で、カラスみたいな黒髪の眼鏡かけた、上原宏樹って男。
 そいつと夕紀が仲良く一緒に下校してたり、話してたり、微笑みあってたの見るたびに苦しくてイライラした。
 夕紀が他の奴とあんなふうに話してるところなんか見たことなかったのに。
 俺だけが特別だと、そう思い込んでいたのに・・・。
 でもやっぱり思い込みは思い込み、夕紀にとって俺はあいつより特別じゃないと痛感した。
 あいつが一番、俺は二番以下。
 夕紀が友人に順位を付けるようなことしないってことは十分に知っているけれど、それでも、あれ見れば誰だってそう思うさ。
 飛び切りの笑顔向けて、少し頬を赤らめて、楽しそうにしてた、俺の知らない夕紀。

 普通そういうものなんだよ、友情ってのは。
 親友がいて、でも他に仲の良い人間もいて、それが何の問題にもならなくて。
 そう言うものなんだ、友情ならば。
 もう、恋愛は泥沼になりやすいって言うけど、それよりも質悪い。
 俺が一番だって言う基準なんか夕紀の心の中にしかない。
 そしてそれを知る術はなくて。
 俺以外の奴と仲良くしてても、それに対して文句なんて言えない。
   言ったら多分俺が捨てられる。
 でも夕紀は俺だけのものだ。
 俺だけのものにしたい。
 ったく、どうしたらいいんだ、この醜い独占欲はっ!

 また、夕紀に心配かけた・・・。
 その話聞いた後機嫌悪かった俺を、夕紀はすごい心配そうに見ていた。
 不安そうに見てた。
 痛い。
 夕紀のあんな顔見るのって、無茶苦茶痛い。
 だけどそれで夕紀が俺のこと想ってくれてるって分かるわけで・・・多少、うれしく思ってしまうときもある。
 変態か、俺は  
 夕紀を傷付けて喜ぶなんて、少なくとも友人じゃない。
 最低かもしれない。
 俺って実は、最低な男かも・・・。
 夕紀を傷付けるなんて死んでも嫌なのに、想いだけが突っ走る。
 良く言えば一直線。
 でも結局、周り見ずで行動して、色々と夕紀を傷付けて、後から後悔したってどうしようもないことばかりしちまうんだろうなぁ・・・。
 どうせなら夕紀を俺からぶん取って守ってくれる、そんな奴が現れればいいのに・・・。
 なんて、思ってもいないことまで考えてしまう。
 そんなことになったら俺が壊れちまうのに。
 どうせ壊されるなら夕紀にがいいよ。
 あいつにならいいよ、なにされたって。
   って俺、おかしい!
 どうかしてる、し過ぎてる!
 駄目だよもう、感情押さえ切れない。
 俺がそんなに器用じゃないって知ってるだろう、夕紀?
 今更都合のいい友情に戻すなんて、無理みたいだ。

「夕紀・・・」
 今夜もまた眠れない。
 真夜中の部屋の中、意識だけがやけにはっきりしている。
 今日の部活もハードで身体も休みたがってるのに、眠れない。
 眠りの淵についたと思ったとたん、目の前に浮かぶのは夕紀の笑顔。
 そして、現実に引き戻されてしまう。
 それを何度も何度も繰り返してるうちに、きっとまた外が明るくなって、新聞屋のバイクの音が鳴り響いて、鳥がけたたましく鳴きだして、朝が来る。
 また夕紀に会える。
 うれしいけど、苦しい。
 いつからこんなことになってしまったのか。
 いつから友情が歪んできちまったんだろう。
 お前の中の想いは、きっと純粋なままなんだろうな。
 俺がこんなこと考えてるなんて、思いもよらないんだろう?
 いいよ、それでも。その方がいい。
 俺の想いになんか気付かないで、ずっと今のままでいられるのが一番いいんだろ。
 友情と恋愛。
 似ていて、でも結局全然別なもの。
 俺達の求めてるものが別なら、お互い騙しあっていくしかない。
 俺が夕紀と自分を騙していかなくちゃ、あっさり壊れちまう・・・。
 そんなこと、俺に可能なのか?

「なぁ、夕紀・・・」
 もう一度呟く、愛しい人の名前。
 いつか決着の付く瞬間を恐れ、そして少し期待しながら寝返りを打つ。
 また今夜も眠れない。
 

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