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”テニスボール大の脳腫瘍”マーチンと、”父も骨肉腫”で末期ガンルディ。同じ日に同じ病院で死の宣告を受けた二人が、同じ病室に入って、壁から落ちてきた十字架によって開かれた戸棚からテキーラを見つける。どこからか塩とレモンを見つけ、それを飲み交わすうちにルディは言う、「海を一度も見たことがない」。マーチンは言う。「天国じゃ、みんなが海の話をするんだぜ」。………

余命いくばくもない二人組がテキーラを酌み交わす。つまり、怖いものは何もない。しかし、酔いに任せて盗んだクルマは、100万マルクを運ぶ途中のマフィアのものだった! 奇妙な犯罪劇を繰り返しながら、海へと向かう彼らのたどりつく場所は――――

とても、とても素敵な映画です。みんな見てくれ!!以上!!

………とかいうとレビューが続きません。でもホントです。とにかく見て欲しい。「バンディッツ」「カスケーダー」はまだ見てないけど、同時期に入ってきたドイツ映画シリーズの中では、イチバン面白いんじゃないか。

場面場面を切れることなくうまーくつないでいるテンポのいい展開と、絶妙なセリフまわし。そしてなにより印象的なのが、見た後も「ああ、あいつあいつ!」と一人一人の顔さえ思い出すことができる、個性的でどこかズレている登場人物たち。どんなツマンネー脇役でも、すごくちょい役の店員とか警官とかでも、すごく個性があって面白い。なぜかルドガーハウアーがちょこっと出ているあたりも見逃せませんよ! 二つで十分ですよデッカードさん!!

こういうヘンな部分(ルドガーハウアーがヘンなわけではない)はドイツ映画の象徴ともいえるし、それを楽しみに見るのも面白いんだけど、でももっと見て欲しいのは主人公の二人、マーチンとルディがたどっていく道。そうこの映画はロードムービーなんすよ。ルディがふともらした「海を見たことがない」という言葉。だったら見に行こうじゃないか。海を見ずに死んだら、天国で話題に加われないぜなんて素敵なことをマーチンが言ってくれちゃって、二人は旅立つわけです。

野暮ったいルディと、とっぽいマーチン。やけに現実的なルディと、じつはけっこう詩人のマーチン。本当だったらまるでかみ合わない二人が、互いに「死」という本当にどうしようもない現実を前にして、マフィアがボスに縛られるような、警官が上司に縛られるような、そんなありとあらゆる束縛から解き放たれる。
そういう状態で一人でいても面白くないし、目的がなければ気が狂ってしまうかもしれないけど、同じような友達が近くにいる。だったら二人でどっか行こうじゃないか。二人だと、気楽。そんな感覚なんですよね。

途中、コミカルで愉快な道中から途端に現実に引き戻されるシーンもあります。ああそうだった、この二人は末期患者なんだって、強制的に思い出させられるんです。これがすごく刺激的な香辛料としてこの作品の緊張感を保たせる要因の一つになっています。

次に何をやらかすのか、次のシーンではどうなっているかわからない二人組は、もしかしたら次のシーンでは死んでしまうかもしれない。もしかしたら捕まっちゃうかも。もしかしたら殺されちゃうかも。………映画的にそんなことが許されないとちゃんとわかっていても、もしかしたら? この映画はそこ止まりのツマンネー映画にすぎないんじゃないか? そこで終わっちゃうのか? とドギマギさせるんです。非常にあやういバランスの上に立っていて、なお微笑むクラウンのよう。

ただ、海に行きたかったから海に行く。それだけじゃない。二人は、周りの人々を巻き込みながらも、ちゃーんと物事のスジを通していく。死んじゃうから後のことはどーでもいーや。なんてことがない、未消化な部分は残さずに、我々の期待を裏切らずに、勿論いい意味では裏切ったりもしながら、前向きに、他人の顔をした自分自身と向き合っていく。

この映画で、自分は二度泣いてしまいました。天国の扉を叩きながら、もう片方の手でこんなことができるか?

素敵な映画です。まだ見ていない人には、是非ともと薦めたくなる。そんな気持ちのいい、爽快な、けど切ない。ふと映画が見たくなったときにビデオ屋にこれがあったら、借りて、観てください。それから、エンディングロールの途中で巻き戻さないで、最後までね!