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第14話 「管理人としてお前は失格だっ!!」




「無理だ」
 オレは昨日のIDの一件を相談しに朝希の家まで行った。具体的には菜穂子の兄が今何処にいるかについての相談。
 しかし、朝希はこちらを見ようとせず、パソコンに向かっている。
「そこを何とか。ネットには不可能なんて無いんだろ」
「ある」
「お前、前と言ってることが違うだろ!!」
「私は得にならんことはしない主義だ」
 そう言ってこっちを向いた顔が憎らしい。



「頼む、アクセスログだけじゃあ、範囲が大きすぎて分からないんだよ」
「幾ら出す?」
 結局、朝希はこうだ。金優先、ムカつく。
「朝希!!これは好奇心や冗談で言ってるんじゃないんだ」
「それは私も同じだ!!お前はそれを知ってどうするんだ」
「決まってる!会いに行くんだ!」
「彼女はそれを望んでいるのか?」
「もちろんだ!!」
「……そうか……」
 朝希は眉間にシワをよせ、再びパソコンの方を向く。



 最後の言葉が朝希にしては歯切れの悪いものだったので、少し気になった。
「朝希……お前、何か知ってるのか?」
「……何も知らん」
「…………」
「…………」
 朝希に対してこんな真面目な話をするのも照れくさいが……この際仕方が無い。
「なぁ……お前、本当に人を好きなったことあるか?」
「…………」
「……答えろよ、朝希」
「…………あったらどうだと言うのだ?」
「あればわかるだろ?……好きな人を助けたいって気持ちが」
「さあな……ただ、人を好きになって前後不覚の友人とも呼び難い人間なら知っているがな」
「……もういい!!」
 こいつに頼んだのが馬鹿だった。コイツは人の心の機微なんてわからないんだ。いつだって金のことにしか興味が無い。






 朝希を見限ったオレは自分で何が出来るか考えた。
 しかし、探すにしたって、砂漠に落としたゴマ並に探すのが難しい。たいした解決策の見つからぬまま今日も『a little bit……』に入る。


  scar      :あの、今度の日曜日って空いてますか?
  ダンデライオン:えっ?うん。空いてるけど
  scar      :会えませんか?
  ダンデライオン:いいよ。何で?
  scar      :12月24日ですから……
  ダンデライオン:あっ、そうだった!!


 昨日の事でほんとに忘れてた。今度の日曜日はクリスマスイブだった。
 ちなみに二人でこんなのんびりした会話をしているのは、掲示板の事は彼女に内緒にしてあるのだ。もちろん削除したし。彼女が『探すな』なんて書き込み読んだら、きっと気落ちするに違いないから。


  ダンデライオン:もちろん会おう!!楽しく過ごそうね
  scar      :はい!!


 こうやってお兄さんの捜索は何の進展も見せずに何日も時間だけが過ぎていくのか……いや、そういうわけには行かない。
 ここは駄目モトでチャット常連の人たちに相談してみることにしようと思った。


  E        :書き込みだけで個人を特定するなんて難しいんじゃない?
  ダンデライオン:やっぱり……
  夕凪      :そういうツテがないとキツイよね
  ゴメンライター:オレそういう知り合いが居るけど、頼んでみようか?
  E        :何かヤバそうだなぁ
  夕凪      :ゴメンライターさんの知り合いぃ〜?
  ダンデライオン:マジですか!?おねがいします!!
  ゴメンライター:いいけどさぁ。「探すな」って言ってきたんでしょ?イイのかなぁ?
  ダンデライオン:ですから、まず僕が行って見ます。それで会ってどうすればいいか考えま
           す。


 常連の人たちには菜穂子の兄が人殺しをしたことは伏せてある。言えば協力は取り付けられないと思うし。
 こうして僕は希望を繋げる事が出来た。朝希とは大違いだよ。
 でも、少し前進した。この調子で頑張ろう。






 今日をもって大学での今年いっぱいの講義が終る。
 明日、ゴメンライターさんの知り合いに頼んで調査してもらうことになっていた。だから明日から菜穂子の兄探しに全力投球できる。人殺しをして逃亡している兄だ。そんな簡単に見つかるはずがない。それでもやるしかないのだ。  会ってオレは自首を勧めようとしている。それは本人のためでもあるし、菜穂子のためにもなるはずだ。
 とっている間に講義も終わり、オレは帰り支度をしていた。
「おい、拓真!!」
 振り返るとそこには朝希がいた。朝希は物凄い勢いでオレに近寄ってきた。そして、オレの胸倉を掴むと耳が痛くなるぐらいの大きさで怒鳴る。



「バカかお前は!!危うく見ず知らずの人間に通信ログを見せるところだったんだぞ!!恥を知れ!!恥を!!」
「なんで知ってる?」
「あのサイトを管理してるのは自分だけと思わないことだ。大体は任せてあるが、最近のお前は信用ならんからな。ちなみにゴメンライターには断りのメールを送っておいた」
「なんてことをするんだ!!」
 完全にオレは頭に血が上った状態だった。しかし、それ以上に朝希の勢いは凄かった。
「それはお前だ!!管理人としてお前は失格だっ!!」
「上等だよ!!こっちだって、あんなサイトの管理なんてお断りだ!!」
 売り言葉に買い言葉という言葉が存在しているとすれば、まさに今のがその際たるものだった。





第14話 終わり



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第15話 「お互いに後悔はしたくないものだ」




 怒り心頭のまま家に帰る。管理人なんて仕事、もうしない!!朝希が困ろうが何だろうが関係ないっ!!
 家に着き部屋に入る。部屋に入ると、いつもの流れでオレはパソコンの電源を入れた。その後、すぐに気付き強制終了する。もう、辞めるって決めたじゃないか。
 そしてオレはベッドに横たわった。何もすることがなく、ただ時間だけが過ぎた。管理人をする前はオレ何やって過ごしていたのだろう?いつの間にかパソコンが自分の生活の一部になっていた事に気付く。
 そんな取り止めのないことを考えているとノックの音がしてドアが開く。入ってきたのは千華だった。



「お兄ちゃん……入るよ……」
「なんだよ……今、いそが……しくないけど、誰にも会いたくないんだ」
 オレは千華とは反対の方向を向いた。しかし、一向に千華は出て行く事はない。
「……朝希さんと仲直りして……」
「チッ……もう知ってるのか……朝希やつベラベラと喋りやがって」
「違うよ!!私が元気のない朝希さんを問い詰めたの」
「……あっそ。悪いけどもう寝るから出て行ってくれないか」
 何で朝希の話をするんだよ、腹が立つ。
 オレの言葉に千華は答えようとせず、出て行くどころか近づいてきた。



「……朝希さんは本当にお兄ちゃん事を心配してたよ……」
「フン、どうだかな。アイツは金勘定の事しか考えてないしな」
「……友達の悪口言うなんてお兄ちゃんらしくない……」
「お前に何が分かる」
「分からないよ……でも……これは朝希さんには言うなって言われたけど……朝希さん、お兄ちゃんが管理人の仕事を引き受けた時、凄く喜んでたよ。『私にも仲間と呼べる人間が出来た』って……」
「……そんなこと誰が信用するか」
 オレが話をしている最中に千華は回りこんでオレの前に立つ。千華の顔が見える。その表情は今にも泣き出しそうだった。



「実は……お金が絡んでくるとあんまり他の人を信用できないって言って独りで仕事してた朝希さんにお兄ちゃんを推薦したのは……私なの……ほら、大学が始まった初日の朝、家まで起こしに行って一緒に学校まで行ったでしょ?あれ、お兄ちゃんと朝希さんが会えるように私が仕組んだの」
「千華……」
 オレは千華の顔を見るのが辛くなり、再び反対を向く。
「お兄ちゃん、パソコンの事は良く分からないけど、信用できる人間だもん。実際、管理人になって他人の事をワザワザ首突っ込んでみたりしてたしね……でも、最初は朝希さん、お兄ちゃんを管理人にするのは嫌だって言ったの。何故だか分かる?」
「……さぁな」



「お兄ちゃんとは対等な友達でいたからだって」
「…………あのバカ」
「確かに無理やり管理人になれだとか、パソコン勝手に買ったりとか無茶なことをしたけど……お兄ちゃんだから出来たんだよ……他人にあんな事出来るわけないじゃない……」
「…………」
「だから……もう一回、会うだけ、会ってみてよ。今、近くの公園で待たせてあるから」
「…………」
「お兄ちゃん!!」



「……行くだけぞ」
「ありがとう!!」
 別に朝希の気持ちを知って反省したとかそんなんじゃないぞ。あくまでも千華が泣きそうだから行くだけだ……と自分に対して必死に弁解してみる。
「それと……」
「?」
「千華、お前はいつから朝希と付き合っているんだ?」
「お兄ちゃんのバカーーーーー!!」
 泣き怒りする(いや、半分笑ってたような……)千華を置いてオレは家を出た。



 家を出て近くの公園の前まで行くと確かに朝希が立っていた。朝希はオレの顔をみると表情を硬くする。
「千華はどうした……そうか……拓真と私を会わせる為に……」
「……なんだ?オレじゃ不満か?」
「あぁ、大いに不満だ。男と公園に行く趣味はないからな」
「なんだと!!」
「そっちこそ、なんだ!!」
 突然始まった怒鳴りあいに周りの人間も静まり返っている。その雰囲気を察した朝希はため息をつくと、オレに言った。
「……こんな無駄な会話をしても時間の浪費に過ぎん。ちょっと来い、お前にきちんと話す事がある」
 その落ち着いた話し振りにオレも冷静さを取り戻す。黙って朝希についていった。



 公園の中に入ると、オレたちはベンチに座った。
「今から話す事柄は私の人生における“過ち”だ。お前に同じ轍(てつ)を踏んで欲しくないから話すのだ」
「……聞くだけ聞こう」
 それを聞くと朝希は上を向き、話し出した。
「scarとかいったな、お前の彼女は」
「ああ」
「……私は以前、彼女の兄と知り合いだった」
「!!」
「彼女が使っているパソコン、以前は兄が使っていたものだろう。ホスト名が同じだからな……そんな事はどうでもいい。その兄はお前が今、管理しているサイトの常連だった」
「待て!でも、他の常連はregretって聞いても反応なかったぞ」
「以前はHN(ハンドルネーム)が違ったからな」



 そういうと朝希は黙り込んだ。言うことをまだ躊躇しているようだ。
 しかし、少しして意を決したのか、重い口が開いた。
「最初は他愛もない話で盛り上がり、すぐ仲良くなった。本人も会った事がある。お前と彼女のようにな……」
「…………」
「そして……ある日、『妹が虐待されてる』と相談を受けた。」
「…………」
「彼女の兄は『幼い頃から妹だけが虐待を受け続け、自分は怖くて今まで何もすることが出来なかった。でも、これからは妹のために何かしてやりたい』と言った」
 朝希には珍しく、俯き加減になって話す。
「私はその相談を聞いて愚かにも励ましてしまった……『頑張れ、妹さんもそれを待っている』と…」
 おそらくオレでもそうしていただろう。



「…………それで?」
「そしたら、三日後あの殺人事件が起こった。つまり私は殺人の片棒を担いだわけだ……本当に今でも後悔している。私があんなこと言わなければ事件は起きなかったかも知れないのだ……考えてみれば、お前にあのサイトを任せたのも私の逃避かもしれん……そして、今現在お前はあの兄妹に近づこうとしている……頼む手を引いてくれ、同じ失敗だけは……」
 こんな弱気な朝希を見るのは初めてだった。それだけコイツにはあの事件がショックだったのだろう。
「気にするなよ、お前はあの事件に関係ないさ」
「そういう気休めはよせ。あの時、私がもっとしっかりしてたら……」
「お前らしくないぞ、「〜れば」「〜たら」なんて……お前はもっと毅然とした態度で事に臨むはずだ。そんな弱気になるなよ。変なことにはならないって。オレは菜穂子の兄を探して自首を勧めようと思ってるんだ」
「…………自首?」
「そう。この事件を終らせるために。いつまでも菜穂子に日本刀持たせてはおけないよ。安心してデートも出来ない」
「……ふっ、さすがは私がパートナーと認めた男だ」
 すると朝希は一枚の紙切れを取り出し、オレの前に差し出す。



「なんだこれ?」
「通信ログから割り出した大体の地域だ。おそらく逃亡しているのなら、自分でパソコンを持っているということは考えにくい。するとだ、この地域にあるインターネット体験コーナーをしている電気店、およびインターネットカフェ等に準ずる施設をあたれば、もしかして見つかるかも知れん」
「朝希……ありがとう!!」
「例には及ばん……お互いに後悔はしたくないものだ」
「おう!!」






 次の日。オレは一時間ほど電車に揺られ、紙に書かれた街の周辺電気屋やインターネットカフェを探した。運良くというか、それほど都会ではないのでネットが出来る所なんて限られている。
 しかも、書き込みは夜だったこともあり、電気屋という線はなくなった。
 ということで、この街に一軒しかないネットカフェの前で張り込んだ。



「なんで私まで来なくちゃあいけないんだ!!拓真!!」
「だって会ったことないんだもん。朝希はあるんだろ?」
 言いつつ、首を少し傾けてみた。
「可愛くない」
「彼女から写真か何か貰わなかったのか?」
「貰わなかった」
「アホ」
「……お、お前だって罪滅ぼしがあるだろう!!」
「その責任は昨日果たしたはずだが……」



「考えても見ろよ、いきなりオレが会っても警戒されるだけだ。ここは会った事があるお前にだなぁ……」
「あーっ、もうブツブツ煩い!!乗りかかった船だ。手伝ってやる。ただし、ココでかかる経費はお前の給料から差し引いてやる」
「そこはキチッとしてるんだな」
「当たり前だ」
 ってな感じで数時間が過ぎていった。
 しかし、そんな簡単に現れるわけもなく、オレたちは閉店まで過ごすことになる。
 




第15話 終わり



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第16話 「そういうの世間では何て言うか知ってる?」




「後は私に任せてお前はそろそろ帰れ」
 今日も張り込みをしていると、朝気がオレに言った。
「何で?」
「バイトだろ」
「休む」
「駄目だ。それにココに二人居る意味はない。何かあったら携帯で連絡するから」
「……わかった」
 オレの返事がよほど意外だったのか、朝希は目を見開いた。
「拓真……今日はやけに素直だな……体調が悪いのか?」
「んな訳ねぇだろ……まぁ、強いて言えばいつも損得計算するお前が、自分から損な役回りを引き受けてくれたからかな……」
「……ハッキリ言うな……恥ずかしい……」
「朝希、お前でも恥ずかしいことがあるんだな」
「うるさいっ!!早く行け!!」
 朝希という味方を得て、何だかずいぶん楽になった気がする。コイツの事を少しでも嫌なやつと思ったことを反省することにしよう。
 一向に現れない菜穂子のお兄さんに少々焦りもあるけど、今はこれしか方法が無いんだ。信じよう。






 ということで、オレはバイトに行き、いつもどうり仕事をしていた。
 すると、店長が物凄い勢いで僕のところへ来た。
「森野……オレは信じてたのに」
「何がです?」
「お前にお客さんだ」
「誰です?」
 すると店長は僕の首を締めだした。
「オレにそれを言わす気か!!女子高生だ!!この野郎!!裏切り者!!」
「く、苦ぢい……女子高生?」
や っとのことで店長から解放されたオレは途中、すれ違うバイト仲間に「犯罪者!!」「ロリコン」と罵られ(?)ながら売り場まで出た。



「あっ、菜穂子……」
 売り場ではウチの学園の制服姿の菜穂子が立っていた。千華と同じ学校なんだから同じ制服を着ているのは当たり前といえば当たり前なのだが……
「どうしてここが分かったの?」
「千華ちゃんから聞いたから……」
「あっ、そうなんだ。それで?今日はどうしたの?」
「……うん……ちょっと……拓真さんが働いている所を見たいなって思って……」
 何だか落ち着かない様子で少し恥ずかしそうにしていた。
「あの…制服のままでゴメンナサイ……」
「……これはこれで萌……じゃなかった。別にいいけどさ……」
 今、ふと思った。世間の彼女がいるヤツはこんなおいしい思いをしてるのか!!……チキショーッ!!今までの人生損してた!!
「もう少しで閉店だから事務所で待ってたら?変な店長が相手してくれると思うし」
「変な店長?」
「うん」
 コホン。
 何か後ろで咳払いが聞こえたような……
「どうも、変な店長です」
「…………」
 ということで菜穂子は事務所でバイトが終るのを待つ事に……



 そしてバイトも終り、オレは菜穂子と一緒に帰ることとなった。
 さすがに12月の夜になると寒くなって吐く息も白い。オレたちは特に何も話すことなく無言で歩いてた。
 初めチャットで反応がなかったときは気持ちが焦ったりしたけど、今はそんなことはない。むしろこうやって黙って歩く事を楽しむオレがいる。
 何気なく菜穂子を見る。横顔が可愛い。彼女はオレが「俯く癖は直した方が良い」と言った日から俯く事はなくなった。だから今もしっかりと前を向いて歩いてる。



 菜穂子がオレの視線に気付いたのかこっちを見た。
「何んですか?」
 少し首を傾けて言う。昼間のオレと同じ仕草だけど、彼女がすると可愛い。
「いや、別に……」
「変な拓真さん」
 そう言って少し頬をプクッと膨らませる。おぉ、なんか……
「……もう一回言って」
「もう、変な拓真さん」プクッ
「後一回だけ」
「変な拓真さん」プクッ
 こんな会話をしているバカップルを何回殴ろうかと思ったことか……でも、今は殴られる側さっ♪殴るなら殴れ♪



 しばらくして菜穂子はまた進行方向に顔を向けた。
「実は今日会いに来たのは声が聞きたくて……」
「何で?チャットじゃ駄目なの?」
「えぇ。……勇気を貰いに来たから……ホントの声じゃなきゃ駄目なんです」
「勇気?」
 オレは下らん妄想を止め、彼女の話を聞くことにした。
「明日はお勤めの日だから……立ち向かう勇気……」
「そうか……辛かったら家に来る?っていうか来いよ。千華もいるし(隣の家だけど)」
 しかし、彼女は首を振った。
「私、決めたんです。明日でこんな事、終わりにしてもらおうって……」
 横から見た彼女の目は本物だった。ゆるぎない意思が感じられた。これなら大丈夫。きっと明日で全てが終るさ……そんな気がした。
「オレもそこへ行こうか」
「いいです……私一人でなんとかします……したいんです……そして……」
 彼女は再び僕を見た。満面の笑みをたたえている。
「そして、拓真さんと24日を迎えるんです」
「……あぁ、絶対だ」



「拓真さん。それで……」
「何?」
 すると急に菜穂子は伏せ目がちになり、こっちを見たりよそ見したりそわそわしだした。
「どうした?」
「…………」
 彼女は黙ったままである。今さら沈黙の傷跡でもあるまい。
「言う事があるなら今のうちだよ。10、9、8……」
 オレが指折り数えてカウントしだすと菜穂子は慌てだした。そういう所がすごく子供っぽくて可愛い。
「5、4、3、2、1……ゼ……」
「待って!!キスしてください!!」
「!!!!!!!!!!」
 その言葉に僕は凍りつき、彼女も思わず俯いてしまった。
「えっ?……今、なんて?……キ……ス……?」
「…………」
 菜穂子は黙って頷いた。オレはといえばこの状況をどうしようと今度はオレが慌てだした。(もちろん心の中で)



 よく見ると彼女の方が震えていた。彼女も緊張している。なんだ、よくよく考えてみれば慌てる事じゃないじゃないか。
 オレは落ち着いて彼女の肩に手を置く。彼女の肩が一瞬、強張った。
「じゃあ、目を瞑って」
 すると彼女は素直に目を瞑った。
 そしてオレはキスをした…………おでこに
「え?」
 彼女は不思議そうに僕を見つめる。その瞳は軽く潤んでいた。
「俯いた罰。俯いたらちゃんとキスできないだろ?24日までお預け……だから、頑張れよ」
菜穂子は頷いた。その後、オレは彼女を家まで送った。






 今日も張り込みをしている。しかし現れる気配は全くない。
「なぁ、朝希。ちょっとここ抜けていいか?」
「何だ?もう根を上げたのか?」
「違う!!」
「じゃあ何だ?」
 オレは柄にもなく言うのを躊躇していた。
「……クリスマスプレゼントを買いに……」
「裏切り者。デビルマン」
「訳判らんこと言うな!オレじゃあ良く分からんから千華に選んでもらおうと頼んだら、今日しか空いてないって言うから!!」
 気付いたら襲いかからん勢いで朝希に迫ってた。
「そんな、力説せんでも分かった、分かった。行って来い」
「悪いな」
「気にするな。拓真の金で張り込みをしているんだから」
「……無駄遣いするなよ」
「気にするな」
「するぞ」
 朝希は笑顔でオレを送ってくれた。来月の給料ってあるんだろうか……



 待ち合わせ場所には千華がすでに待っていた。合流したオレたちは早速、プレゼントを買うために店に向かった。
「お兄ちゃんなりに何が良いか考えた?」
「まぁ、考えた事は考えた」
「何?」
「……携帯電話」
「却下」
 千華は間髪いれずに却下した。
「えーっ!?」
「……一応、理由を聞いておきましょうか」
「昨日、菜穂子がバイト先まで来たんだ。自分から来てくれるなんて珍しくて、理由を聞いたら『声が聞きたくて』って言うんだよ。だから……携帯があればいつでも声聞けるし、離れてても勇気付けられる……」



 オレの話を一通り聞くと千華は大げさにため息をついた。
「はぁ〜っ……そういうの世間では何て言うか知ってる?」
「え?」
「ノロケ話」
 そういうと千華は早足でおれより少し先に行った。
「良いよ、それで決まり。私がカワイイ携帯を選んであげる。でも、通話料とかどうするの?」
「オレが払うよ」
 すると千華は振り返る。
「将来、貢いで身を滅ぼすタイプね」
「大きなお世話だ!!」
 その後、携帯の店に行き。千華主導のもと携帯を買った。これを渡した菜穂子の顔を思うと自然にニヤける。それを見た千華はキモイといった。とりあえずほっぺをつねっておく。



 そんな時、オレの携帯がなった。着メロからして朝希だ。オレは慌てて出る。
「もしもし、朝希か?どうした」
 それはやはり菜穂子の兄を見つけたという電話で、オレは急いで朝希のところへ戻る事にした。





第16話 終わり



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第17話 「急変」




 その場所についたのはもうすっかり暗くなってからだった。
 朝希から教えてもらって向かったところは古いアパートの一室だった。鳴らすチャイムもないのでノックする。すると、ドアが開き中から神妙な顔つきをした朝希が顔を出した。
「お前か……入れ」
 言葉のテンションの低さからして、二人の再会があまり良いもではなかった事が窺い知れる。オレは頷き黙って入った。
 入った所は6畳ぐらいの狭い部屋だった。部屋の中はシンプルというより何もない。いつでも逃げ出せる様にだろうか?部屋の真ん中に正座している人物がいた。
「アナタが森野拓真さんですか?」
「えぇ、そうです」
「妹が大変お世話になっているようでスイマセン。僕は兄の木下行孝と言います」



 年はオレとあまり変わらない感じで、物静かな印象を受ける。殺人という言葉からは一番縁遠いように思えた。そして、一年の逃亡生活のせいなのか痩せこけて無精ひげまである。一通りの挨拶が終ると、朝希がオレの横に座って話し出した。
「なぜ自首したくないんだ」
 オレは朝希の方を見た。そこまで話は進んでいたのか……。朝希は行孝さんの方をしっかりと見据えている。
「……妹が心配で……」
「その心配する気持ちは分かるが、妹さんはそれを望んでいるのか?」
「望んでる!!」
 痩せてナヨナヨした体から発したとは思えないような声が部屋に響いた。
「僕が居ないとあの子は駄目なんだ!!現にあの親父を殺したから、今、菜穂子は幸せに……」
 この言葉がすごくオレには身勝手な言葉に思えた。だから、オレは思わず怒鳴った。
「なるわけ無いだろ!!」
「おい、拓真。落ち着け!!」
 妹をダシに自首しないこの人にオレは腹が立った。



「アンタは知らないと思うが、彼女、今度は母親から虐待を受けているんだ!!父親が死んで、兄も出て行って家族がバラバラになった償いだと言って黙って、殴られても蹴られても耐えてるんだ!!幸せにしたと思っているのはアンタだけなんだよ!!」
「拓真!!言い過ぎだ!!」
「これぐらい言わないと分からないんだよ!!」
 この言葉を聞いた行孝さんは、これ以上ないぐらい目を見開いた。
「それは……本当なのか……」
「本当……だ」
 すると行孝さんは膝の上に乗せている拳が震えだし、そのうち体全体が震えだした。俯いた顔から独り言が聞こえてくる。
「……こ……ほこ……菜穂子……オレ……幸……やる……殺……」
「……どうした?行孝さん?」



 朝希が彼の肩に手を掛けようとすると突然立ち上がり、押入れを開けなにやら探り出した。オレと朝希はそれを呆然と見ていた。
 暫くして押入れから顔を出した。行孝さんの手には日本刀が握られている。その姿を見てオレたちは戦慄を覚えた。
「ソコ……ヲ……ドケ……」
 にじり寄ってくる行孝さんにオレたちは後ずさりをする。かといって道を譲るわけではない。
「行孝さん!! 落ち着け!!」
「オレハ……ナホコニ……アイニイクンダ!!」
「おい、朝希!!喋り方まで変わってるぞ」
「何としても我々で押さえなければ大変なことになる……」
 行孝さんは日本刀の鞘を抜いた。そこからは竹光ではない真剣が現れた。顔を見るとすでに形相は別人だった。目は血走り、口もゆがんでいる。オレ達と行孝さんとの距離は徐々に縮まって行った。そして、お互いの臨界点を突破した瞬間、行孝さんはオレに飛び掛ってきた。
「!!」
 避けきれない!! そうオレが思った瞬間、何かかオレにぶっかった。
「!! 朝希っ!!」
 オレと行孝さんの間に朝希が入り込む、そのまま三人は倒れ込んだ。オレはおもいっきり頭をぶつけた。



「大丈夫か……拓真……」
 朝希の声が聞こえてオレは我に帰った。自分の体が無傷なことに安心する。
「あぁ、オレは大丈夫だ。お前は……!!」
「……なんとも無い、気にするな……」
「おいっ!! その傷……」
 それは気にする気にしないの問題じゃなかった。朝希は右脇腹辺りから大量の出血していた。膝を立てて脇を抑え、必死に痛みに耐えていた。服の大半が赤に染まってる。
「拓真……」
「バカ!! 喋るな!! 今、救急車を呼ぶ!!」
 朝希はオレを制するように右手を掴む。掴んだその手は血だらけだった。
「救急車は今、私が呼んだ……だから………………行孝さんを追え……」
「そんなこと言ってる場合か!!」
「それは私のセリフだ!!」
「……朝希」



 朝希は顔からは冷や汗を流しながらオレを睨みつけてる。
「……恐らく……さっき話を聞いて……行孝さんは母親を殺しに行ったはずだ……これ以上、彼に罪を……負わせてはいけない……それに菜穂子さんも無事でいられるかどうか……」
「もういいから喋るな!!」
「あぁ……あの時オレが……」
 朝希はまだ自分を許してない。自分が刺されても、責め続けている。
「もういい……お前は十分にやってくれた……ありがとう……」
「だったら……早く行け……菜穂子さんの所へ……」
 こうなったら迷わず進むしかない。
「わかった……お前はここでジッとしてろよ」
「フッ……当たり前だ……私にはまだやりたいことが山のようにある……お前からも全額回収してないしな……」
「勝手に言ってろ……じゃあ……行って来る」
 オレは行孝さんの後を追うべく、菜穂子の家に向かった。





第17話 終わり



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第18話 「わがまま」




「お母さん、話を聞いて……」
「煩いよ!!アンタの言う事なんか聞くもんか」
 腹部を蹴られ私はうずくまります。いつもならここで立ち上がるのを止め、だだ蹴られ続けられるのだけど。私は立ち上がりました。
「聞いて……欲しいの……こんな事はもう……」
「黙れ!!」
 今度は平手打ちを受けます。それでも私は怯みません。
「こんな事したって……お父さんも……お兄ちゃんも……帰ってこないよ……」
 母の顔がさらに険しくなりました。
「あぁ!? こうなったのは誰せいだと思ってるんだ!! 全部アンタのせいじゃないか!」
 この言葉を言われると私は黙らざるをえませんでした……今までは……
「そうかもしれない……でも……自分勝手だって言われるかもしれないけど……私……幸せになりたい……」
 母は駆け寄り胸倉を掴みます。
「アンタなんか幸せになれるもんか!!」
「なります……お母さんには悪いけど……それに……私はアンタじゃない。菜穂子です」


「生意気なんだよ!!」
 腹部に拳が入りました。私はおなかを押さえて、ひざまずきます。
 でも、決して倒れる事はありません。もう負けないって決めたから……
「もし……私が気に入らないって言うなら私……この家を出ます……」
「…………」
「本気です」
「…………」
「!! ……で、出来るわけ無いだろ!! アンタなんかに……」



 母は私の言葉に少し動揺しているようです。
「私にとっては出来る出来ないの問題じゃないから……出ます……」
 私の言葉を聞いて母は黙ったまま動かなかった。
「出て行っても……宛なんか無いくせに……」
「あります」
 私はウソをつきました。精一杯の強がりでした。拓真さんの家に行けば何とかなるかもしれません。
 でも、なるべくそれは避けたいです。自分の力で何とか出来れば良いけど……
「なんで……皆、私を追いていくの……」
 ようやく私は母が泣いていることに気付きました。
 今まで殴られ続けて判らなかったけど、母も寂しかったのでしょうか? だから、寂しい気持ちをどうして良いか判らずに私にあたっていたのかも……
「お母さん私……」
「菜穂子……行かないで……お母さん、いい母親になるから……だから…だから……」
 そう言って私にすがり付いてきました。今までの母では想像もつかないものでした。私は何だかお母さんがかわいそうになり……愛しくなってきました。
「……お母さん……立って……私、何処にも行かないから。一人にさせないから……」
「本当?……ありがとう……ありがとう……」
 初めてお母さんと心が通じ合ったと感じました。そして、新しい関係が生まれたと思います。



 私がそんなことを考えていた時、物凄い音をたてて玄関のドアが開く音がしました。続けて大きな足音が聞こえ、こっちへ近づいてくるのが判ります。誰だろうと私が振り返ると、そこには私が会いたいと思っていた人が立っていました。
「行孝お兄ちゃん……」
 私は駆け寄ろうとしたけど、母が私の手を掴み止めました。
「どうしたの?お母さん?」
 お母さんは恐る恐る指を指します。その先を辿るとそこには日本刀があり、さらに辿ると日本刀を握っているのはお兄ちゃんでした。
「菜穂子……その頬はどうした?……」
「え?」
 私は頬をなぞります。赤く腫れていました。これはさっきお母さんから平手打ちを受けたときのものです。
「これは……」
「そこの女にやられたのか?」
「え?……女?」



 今、お兄ちゃんはお母さんの事をそこの女と言いました。 「菜穂子を傷つける奴は誰であろうと許さん……殺ス……菜穂子、お前はどけ!!今、お兄ちゃんがお前を開放してやる!!あの時のように!!」
「たっ、助けてっ!!」
 母は私の後ろに隠れます。私は母をかばうようにして行孝お兄ちゃんのほうを見ました。
「お兄ちゃん、待って!!もういいの!!私とお母さんは……」
「菜穂子……もういいんだ。コイツに庇えって言われているんだろ?」
 行孝お兄ちゃんは私に優しい笑みを向けて話してくれました。
「違うの。私とお母さんはもう和解したの……だからもういいの……」
「そんなはずは無い!!森野拓真って男がお前が苦しんでると言っていた!!」
「えっ!? 拓真さんが……お兄ちゃん拓真さんと会ったの?」
「あぁ……アイツらは自首を勧めてきた……だが、オレはお前が心配なんだ……現にお前はその女に暴力を受けていたんだろ!!」
「お母さんをその女って言わないで。それに……私もお兄ちゃんには……自首して欲しい」
「!! 菜穂子……お前……まさか森野拓真にもそそのかされているんじゃあ……」
「拓真さんはそんな人じゃない!! ……拓真さんは……私にとって……」
「菜穂子……」
 次の言葉を言ったらお兄ちゃんに悪い気ました。でも、いつかは言わなくちゃあなりません。



「私にとって大切な人です」
「そんなバカな……」
 行孝お兄ちゃんは何処を見るとも無く、顔を見上げていました。その口はだらしなく開いて、目だって焦点が遭っていません。傍目から見てもショックを受けているのは明白でした。
「お兄ちゃん……ゴメンナサイ……私……」
「そうだ!!」
 お兄ちゃんは私の言葉を遮るように大声を上げました。
「そうだ菜穂子、僕と一緒に逃げよう!! そうすれば、いつまでも僕らは一緒だ!!」
「ゴメンナサイ……」
「どこか誰も僕らの事を知らない所へ行こう!! そして暮すんだ!!」
「それは出来ないから……ゴメンナサイ……」
「…………」
「…………」
「……この一年で変わったな……」
「ゴメンナサイ……」
「……もう、これ以上変わって欲しくない……」
「え?」
「……一緒に死のう……僕らが変わらないために……」
 そう言うとお兄ちゃんは日本刀を構え、近づいてきました。私は距離を置くように後退します。



「い……嫌……」
 私の言う事なんか構わずにお兄ちゃんは無言で近づいてきました。その顔には表情がありません。そして刀を振り上げると、私の頭上に降りてきました。私は目を瞑ります……
 でも、いつまでたっても刀はお降りてきませんでした。ゆっくり目を開けると、私の目の前にはお母さんが私の前に立っています……しかし、数秒後崩れるように倒れました。
「お母さん!!」
 倒れた体からは畳み伝いに血が流れ出しました。
「邪魔だ」
 そう言うとお兄ちゃんはお母さんを踏み越えてこっちへ来ました。私は怖くて動く事すら出来ません。刀が振り上げられるのをただ見つめる事しか出来ませんでした。
 しょうがないな……私がいけないんだ……お兄ちゃんを怒らせるようなことをしたんだから……
 何となくそんなことを考えていた時です、玄関のドアがあけられる音がしました。
「菜穂子!!いるんだろ!!返事しろ!!」
「え……拓真……さん?」
 お兄ちゃんには声が聞こえていないらしく、そのまま刀を振り下ろします。しかし、私の意識の中に拓真さんが入ってきた今、私は精一杯の力を出して逃げようとしました。 「……痛っ!!」
 日本刀は私の肩を掠めそのまま畳みに振り下ろされました。私は拓真さんに会いたい一心で走り出します。お兄ちゃんは畳みに刺さった日本刀が抜けないらしく必死に抜こうとしていました。



「拓真さん!!」
 拓真さんも気付いたらしく、私に駆け寄ってきました。
「大丈夫か?……って何だ、その傷は!!」
「大丈夫。ちょっと掠っただけです。それより早く逃げて!!お兄ちゃんが……」
「よし、逃げよう!!」
 私たちは玄関へ急ぎドアを開けました。
「逃ガストオモウカ!!」
 すると外には行孝おにいちゃんが先回りしていました。慌ててドアを閉めます。拓真さんが鍵を締めましたが、行孝お兄ちゃんは信じられない力でドアを開けようとします。
「オレがココは引き受けた。菜穂子は裏から逃げろ!!」
 今までの私なら拓真さんの言うと通り逃げたかもしれません。
 ……でも、今は違います。私は拓真さんの手を引っ張りました。
「どうした!!早く逃げろ!!」
「嫌です!!このまま一人になるのは嫌なんです!! 私と一緒に逃げてください!!」
 そうです。私は拓真さんと一緒に生きたいのです。
 拓真さんは暫く黙って私を見つめていましたが、やがて「判った。逃げよう」と言ってくれました。
「で、何処へ逃げる?」
「とりあえず私の部屋へ。あそこなら鍵もかかるし、時間が稼げます」
「よし、じゃあその間にオレが警察に電話するよ」
 私たちの後ろで、物凄い音を立てて玄関が壊れ、お兄ちゃんが入ってきました。



 とりあえず、私たちは部屋へ逃げ込む事が出来ました。拓真さんは携帯で警察に連絡をしてました。
「とりあえずココで粘るしかないな……」
「……ゴメンナサイ……私のせいで……」
 すると、拓真さんは私の頭に手を乗せてなでてくれました。
「これはオレが望んでやったことだ。気にするな。もし、さっき菜穂子が手を引っ張ってくれなかったらオレは丸腰のまま行孝さんと戦って死んでたと思うよ。何せ向こうは日本刀だからな。だから……ありがとう」
「拓真さん……」
 私の選択は間違ってなかった。そう思います。
 でも、何だか拓真さんと出会ってから私は我が儘になった気がします。一緒に逃げようって言ったり、手を繋ごうとしたり、キスをねだったり…………。前は望みや期待なんて無縁なものだと思っていたのに、今では何時も何かを期待してドキドキしています。
 私も望んでいいのでしょうか?“幸せになりたい”って……



 ドアを激しく叩く音がします。お兄ちゃんがこの場所を突き止めたと言う事です。私は拓真さんに寄り添います。拓真さんも私の肩を抱いてくれました。少しホッとします。
 ドアを叩く音が激しくなり、今にもドアが壊れそうです。拓真さんも危険を感じたらしく、私に自分から離れるように言いました。そうして、拓真さんは部屋を物色し始めました。そしてある物を見つけ手に取りました。
「これなら対抗できるな……悪いけど貸してもらうよ。菜穂子のお守りを……」
 拓真さんが手にしたものそれは日本刀でした。
「拓真さん、お兄ちゃんを殺すのだけはやめて!!」
「大丈夫さ、殺しはしない」
 その時、ドアのノブが壊され、ドアが蹴り破られました。拓真さんは日本刀の鞘を抜きました。
 ドアの向こうに立っているお兄ちゃんはもうすでに昔のお兄ちゃんではありませんでした。月並みな表現ですが、般若のようです。刀には血糊が沢山付いています。
「……オマエラ……ミンナ殺ス!!」
「やれるもんならやってみろよ……」
 お兄ちゃんと拓真さんは一定の距離を保って対峙しています。二人とも間合いを計っているのでしょうか?
「菜穂子ハ……ダレニモ……ダレニモ……ワタサン」
「菜穂子はアンタのことずっと待ってたんだぜ。こんなバカな真似は止せよ……」
「コワイノカ?黒田朝希ノヨウニナルノガ……コワイノカ?」
「!! ぶっ殺すっ!!」
 最初に動いたのは拓真さんでした。素早く間合いをつめ、刀を振りました。
 でも、行孝お兄ちゃんはそれを数歩後ろに後退して避けました。そして、そのまま拓真さんに近づき、刀を真上から振り下ろそうとしました。



 それを見た私はとっさに拓真さんが置いた刀の鞘を掴み、お兄ちゃんへ投げつけました。
 鞘はお兄ちゃんに当たました。当たった瞬間、お兄ちゃんと私は目が合いました。その時のお兄ちゃんの目は何処と無く悲しそうでした。
 鞘が当たったことで隙が出来たお兄ちゃんに拓真さんは再び刀を真横に振りました。一撃を食らったお兄ちゃんはその場に倒れ込みました。
「お兄ちゃん……死んじゃったの?」
「いや、大丈夫。刀の峰で殴ったから。気絶してるだけだと思う……いや、アバラぐらい折れてるかも」
 確かに、お母さんのときと違って体からは血が流れていませんでした。
 私たちの事件の結末を待つかのようにパトカーのサイレンと赤い光が部屋の中を染めました。





第18話 終わり



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a little bit……ver.1


最終話 「そんな意地悪するからです」




 オレは夜道を走ってる。
「後10分か……」
 そう、後10分で今日が終わってしまう。
 今日は警察での取調べや、朝希の病院へ行ったりして満足な時間が取れなかった。菜穂子の方もお母さんの病院の付き添いなんかで忙しかったんだと思う。
 まぁ、結局今回は誰も死人がでなかった。それはそれで良かったと思う。とか考えているうちに一分過ぎてしまった!!
 なんとかして今日中にクリスマスプレゼントを渡したいと思う。12月24日という悲しい事が起こったこの日に嬉しい思い出を刻みたい。
 彼女の家へ何とか5分前に到着。早速、チャイムを押す……玄関は壊れているけど……。
 ……出てこない……もう寝たかな……家に入っちゃおうかな……



「拓真さん!!」
 一番聞きたかった声が背後から聞こえた。
「あれ?何で家にいなかったの?」
「えぇ……あの……拓真さんの家に伺ったら……千華ちゃんに私の家へ行ったって聞いたから……」
「あぁ、そうなんだ……そうだ、はい。これ受け取ってくれるかな?」
 小包を開け、中身を見た。彼女の顔が驚きに変わる。
「これ……携帯電話」
「これがあれば今日みたいなすれ違いはなくなるよ…………寂しい時も声聞けるし……」
 彼女は嬉しかったのか顔を上げて、オレにその嬉しそうな顔を向けた。その頬にはうっすらと涙がこぼれた。
「……おいおい、泣くなよ。そんな大そうな物プレゼントしてないだろ?」
「……しょうがないじゃないですか……涙は止めたくても出るんですから……でも、今日は俯かなかったですよ」
 彼女がわざわざ顔を上げた訳がようやく判った。でもオレは少し意地悪したくなった。



「へーっ、偉い偉い」そういって頭をなでた。
 すると彼女は嬉しいのか困ったのか判別しにくい顔をした。その顔を暫く眺めていようかなと思ったけど、時間も無いので止める事にした。
「うそ…う……」
 オレが正確には『うそ、うそ。約束だったね』って言おうとした時、彼女の両腕が僕の首に掛かった。彼女の背は小さいのでオレは顔を下へ下げざるをえなかった。
 そして、なんと彼女の方からキスをした。オレはただ戸惑うばかりだった。 「そんな意地悪するからです」
「はは……ゴメン……」
「これかはどんどん積極的に行くのでヨロシクおねがいしますね」
「……はぁ……」
 彼女とオレの新しい関係が今始まった……のか?時計は丁度午前0時を指していた。





最終話 終わり



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