ラジオデイズ-リテイク-
目次


  • 第1話「僕に彼女がラジオで自宅」


  • 第2話「題『私の家族』2年3組 波乗澄音」


  • 第3話「ハガキ投稿集団 宝条リン」


  • 第4話「う〜ん、初採用」


  • 第5話「もうええ!!」


  • 第6話「思い遣るという事」


  • 第7話「独りじゃない」


  • 第8話「私……ヨゴレになる」


  • 第9話「そうかぁ!!そら、しょうがないなぁ!!」


  • 第10話「こころ confusion」


  • 第11話「相談天国」


  • 第12話「元カノ」


  • 第13話「好き!好き!!大好き!!!」


  • 第14話「はい……リーダーです」


  • 第15話「第19回ハガキ職人グランプリ中間発表」


  • いまがき


  • 第16話〜第29話まで


  • 第30話以降













  • ラジオデイズ-リテイク-


    第1話 「僕に彼女がラジオで自宅」



     新しい人が前に立っている。オバサンという人はタバコを加えながら僕を見下ろす。
    「通(とおる)……寂しくないのか?」
    「うん!!僕、寂しくないよ。皆とも仲良くするし、勉強だって頑張るよ!!……だから……」
    「……?」
    「……だから、この家を追い出さないで」
     遠い……いや、僕にとっては少し前の記憶。媚びる事から始まった新しい生活。



    『ラジオを聞いている場所はそれぞれ。車で、仕事場で、友達の家で、もしかしたら恋人の家でこの放送を聞いてる人がいるかも知れません……』
    「…………」
     僕は今日も自分の部屋でラジオを聞いてる。舌打ちしたくなるような感覚。独りで聞いてる僕はないがしろかよ……
    『でも、私の放送は自分の部屋で独り居る人のために送ります』
    「!!」
    『……私も同じ独りだから』
     この一言が僕を変えた。





     ……四月も中ごろ。聞きたくない声が心地よい眠りから僕を呼び覚ました。
    「おい、多記(たき)、起きろ。お前、波乗の家にこのプリント届けてくれ」  目の前には担任の牛尾が立っていた。ふと横を見る。
     隣の席の波乗澄音(はのりすみね)は学校を休んでいた。さらに波乗は最近や休みがちなので、プリントがたまって机からはみ出している。
    「そういうことは友達か他の誰かにしてくださいよ」
    「そう思ったんだが、ほら周りを見ろ」
     僕は寝ぼけ眼で周りを見る。教室には誰もいなかった。
    「ホントに良く寝たものだな、多記。もう皆は帰った後だぞ」
     ちきしょーっ!誰も起こしてくれなかったのかよ!!



     という事で今、僕は波乗の家に向かっている。
     学校が終わり時間帯は夕方で、周りが少しずつ赤に染まりつつあった。
     波乗の家は住宅街から少し離れた小高い場所にある。その辺り一帯が波乗の家のものらしく、家が見えないのに門があった。こんなのが実在したのかと思うぐらい、大きい門。 自分の背の二倍ぐらいある。ちなみに背は175センチ。



     僕は門についているチャイムを押した。
    「すいませーん。僕、澄音さんと同じクラスの多記透(たきとおる)といいますが、今日学校で貰ったプリントを届けに来ました」
     僕がインターフォンにむかって話すと、門が開いた。
     門をくぐって、舗装がされている山道を歩く。波乗の家が見えないのは多くの木々が生えているからだ。ハッキリ言ってしんどい。息を切らせながら歩く。
     10分ほど歩くと前方に建物らしきものが見えてくる。それは僕の想像を裏切るものだった。というのも僕は最初の門からして家はきっと大きな洋館だと思っていたのだ。
     でも、目の前にあるのはこじんまりとした普通の二階建ての家だった。家の敷地と家の大きさのアンバランスに僕は少し面食らった。



     ふと玄関を見ると誰かが立っているのが見える。夕方というせいもあって、それが波乗澄音だと分かるまで少し時間がかかった。波乗は女子の中でも小柄で華奢だ。ツインテールの少しくせ毛気味、いまどき珍しく髪は染めてない。瞳は大きく、笑い顔が良く似合う女の子である。
     しかし、波乗だと分かったとたん僕は逃げ出したくなる。
     彼女は泣いていたからだ。
     僕は面倒な事は嫌だったので、プリントを渡してとっとと帰ろうとした。彼女も僕に気付いたらしく、僕らは目を合わせる。
     そのとたん彼女は走り寄って来たと思うと、僕に抱きついてきた。
    「!!」



     ちなみに波乗とはこんな事を平気で出来る関係ではない。だから、僕はその場で固まってしまう。
    「…………」
    「…………」
     ……って、いつまでもこんな事してるわけにはいかない。僕は彼女の肩を掴んで引き離す。
    「どっ……どうした?何かあったのか?」
     ホントは早くこの場から去りたい。でも、泣いている女の子をこのままにしておけないし。問いかけに彼女は僕の方を見た。彼女は僕より20センチ以上も小さいので、下から覗きこまれるような格好になる。潤んだ大きな瞳が僕を見つめていた。
    「私じゃあもう限界なのかも……」
     そう言う彼女は学校で見る明るい姿とは大違いだ。こういう場合は関わらない方がいい。



     でも……あの人とだぶって見える。放って置けない。
    「まぁ、落ち着け。僕で良かったら話を聞く」
    「……本当?」
     明らかに波乗は僕に期待の眼差しを向けている。成り行きとはいえ、言ってしまった以上後には退けない。僕はうなずく。しかし、彼女は僕から二、三歩引き下がった。
    「ありがとう。その気持ちだけで十分。元気でたよ。……あっ、今何時?」  僕は携帯を見て、もうすぐ5時だと伝える。5時だと伝えたとたん彼女は慌てだした。「もうそんな時間なの!?家に帰らなきゃ」
     そう言うと彼女は急いで家に入って行く。僕は外に一人取り残された。

    “その気持ちだけで十分”

     そう言われたのは二人目だった。結局、僕は何の役にも立たないってことか。
     何気に手元を見ると、まだプリントを渡してない事に気付く。何度も外から家の人を呼んでみるが、反応はなかった。プリントは玄関に置いていこう。そう決めて玄関を開けた。



    「玄関……だよな?ココ……」
     目の前にはガラス張りの箱状の部屋。中では男性と女性が机をはさんで椅子に座り何やら話をしていた。よく見ると机にはマイクが置いてある。それはあたかもラジオブースと呼ばれるものだった。
    「あたかもじゃないよ。ホントのラジオブース」
    「そうか……って波乗なんでここに?」
     それに俺の心読んだ?
    「だって、ここ私の家だからいるよ」
     そうだ!僕は波乗の家に来ていたのだ……だったらこの状況は何なんだ?
    「波乗、それじゃあ、あの二人は」
     ラジオブースにいる二人を指差して聞いてみた。
    「お父さんとお母さんだよ」
    「マジで!?」
     波乗は少し考えた後、玄関兼公開スタジオと答える。僕はますます混乱した。だがその問題もすぐに解決。帰ろう、何も無かった事にすればいい。僕は波乗にプリントを渡すと逃げるように家を出ようとした。
     と同時に玄関のドアが開いて誰かが入ってくる。僕はその人とぶつかり二人とも尻餅をついた。ぶつかった相手が持っていたらしいCDが辺りに散らばり、僕はとりあえず謝りながらCDを拾う。



    「す、すいません」
    「どうしてこの放送局はCD取りに行くのに、玄関を通らなくちゃあいけないのよぉ」
     僕はその聞き覚えのある声に反応した。ぶつかった相手を見る。
    「……玲子さん?」
     相手もこっちを見た。
    「えっ……多記君?……何でココに?」
     目の前にいる女性は華富玲子(かふれいこ)さんだった。彼女とは少なからず因縁がある。しばらく僕たちは見つめ合ったまま動けなかった。でも、玲子さんは何かを思い出したように立ち上がる。
    「ゴメン。今仕事中だから」
     そう言い残して僕の前から去った。僕はただそれを見送ることしか出来ない。



    「多記君大丈夫?」
     波乗が僕に近づいてきた。僕は立ち上がる。そして、ラジオブースの方を見た。波乗の両親が話をしている向こう側では、ミキシングブースで玲子さんが忙しそうに動いている。僕がそれを眺めている。
     ……と、いつも間にか波乗が僕の隣にいた。何か聞きたそうにもじもじしている。でも僕は知らぬふりを決め込んだ。そうしているうちに我慢しきれなくなったのか波乗の口が開いた。
    「多記君……あの……華富さんとはどういう関係なの?」
    「……」
     僕は答えなかった。波乗に話す事ではないと思う。だから、波乗のほうは見ないでいた。というか、働く玲子さんから目が離せない。 「言えない様な関係?」
     波乗の勘違い発言に僕は思わず彼女のほうを向く。波乗は顔を赤くした。彼女は何か誤解しているようだったので、客観的関係を述べる事にした。
    「……ただのラジオのパーソナリティーとそのリスナー」
     すると、波乗は目を輝かせて僕に近づいてきた。僕はまたラジオブースの向こう側を向く。間直で波乗の顔を見る事が出来ないからだ。



    「ということはハガキとか出した事あるの?」
    「……まぁな」
    「じゃあ、読まれた?」
    「……まぁな」
    「どれぐらい読まれた?」
    「……常連って呼ばれるぐらいかなぁ……ってそんな事知って……!?」
     話しながら横を見ると波乗の姿は無かった。僕が不思議に思っていると、下から声が聞こえる。見ると波乗が土下座をしていた。
    「おっ、おい!何やってんだよ」
    「お願い!私にハガキの書き方教えて!私……ハガキ職人になりたいの!!」
    「おい、こんな冗談、面白くも何とも無いぞ」
    「違う!本気だよ!!」



     顔を向ける波乗の瞳は潤んでいたが、その眼差しは真剣だった。
     こういう時、上手く断ることが出来ない。
     昔の自分を思い出すと……受け入れてもらえない辛さが分かるから……
    「……(汗)」
    「…………」(ものすご〜く、多記を見てます)
    「……どういうことなんだ?教えろ」
    「それじゃあ……」
     波乗の顔がパッと明るくなった。
    「どうするかは聞いてから決める」
     するとすぐに叱られた子犬のような何とも申し訳なさそうな可愛い顔をする。あの瞳に押し切られた……まぁ、こいつに 関われば玲子さんの事も分かるだろう、そう自分に言い聞かせた。





    第1話 終わり



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    第2話 「題『私の家族』2年3組 波乗澄音」



     私は父と、ここ10年ほど話した事が無いです。
     顔は毎日見てるし、声だって毎日聞いているのですが、言葉は交わした事はありません。父はガラス一枚隔てた向こう側で仕事をしています。
     父、波乗丈(はのりじょう)の仕事はラジオのパーソナリティー。



     父が自分の家をラジオ局にすると言い出したのは十年前です。私が七歳のときだったからあまり記憶がないのですが……なぜそんな事をしたのかは私には分かりません。
     それから父はラジオブースから出なくなりました。ラジオブースの中には生活に必要な物はすべて揃っていて、ブースの中で生活し、送られてくるハガキに目を通し、番組構成を考え一日4回の番組放送に備えています。
     朝はお年より向け番組、お昼は主婦向け番組、夕方は情報番組、夜は若者向け番組、今のところ全て父がやっています。放送していない時もハガキを読んだり次の番組の用意をしたり、休む暇がありません。
     小さい頃から私は番組をしている父を外から眺めるのが大好きだったです。それが日課になっていました。それだけで父と会話しているような気になっていたのです。



     また、この私設ラジオ局には波乗家の人々が働いてるんです。
     母、波乗百合音(はのりゆりね)は父と一緒にアシスタントとして仕事をしています。でも、放送時間以外はブースから出て家事をこなしてます。
     祖父、波乗伝之助(はのりでんのすけ)は昔はDJをしていたのですが、今は主にディレクターをしています。
     祖母、波乗琴音(はのりことね)はTD(テクニカルディレクター)としてミキサーを使って音声や音楽を管理しています。
     そして2年前に突然やってきて、居候をしている華富玲子さんはAD。
     私の家族はラジオに冒されています。
     だから私の兄、波乗真行(はのりまいく)はその状況が嫌になり、家出をしました。今でもその時のことは覚えています。



     三年前、私が中2の時。朝早く、私はトイレに行きたくなって起きました。そしたら、玄関で大きな荷物を持ったおにいちゃんを見たんです。
    「あれ?お兄ちゃん何処いくの?」
     でも、お兄ちゃんは答えませんでした。お兄ちゃんはラジオブースを睨みつけて怖い顔です。そしたら突然、お兄ちゃんはブースの窓を叩き、叫びだしました。
    「こんな事いつまで続けるつもりだ!俺はこんなの認めない。アンタのつまらん感傷に付き合ってる暇は無いんだ!」
     しかし、ブースの中には聞こえるはずも無く、お父さんは放送を続けています。暫くして、お兄ちゃんは私の方を見ました。
    「澄音、お兄ちゃん出掛けるけど、必ず迎えに来るからな。それまで我慢するんだぞ」
    「お兄ちゃん待ってよ!お兄ちゃんがいないと……」
     お兄ちゃんは私の言う事なんか聞かずに走り去っていきました。
    「一人でご飯食べなきゃならないよ……」



     その日から私は一人でご飯を食べる日が多くなりました。お兄ちゃんが家出をしても父はラジオブースを出ませんでした。
     そんな父が許せないです。だから一言言ってやろうと、無理やりラジオブースに入ろうとしました。
     でも、カギは内側からしか開けられず、入ることができません。
     私は諦めませんでした。だったら合法的(?)に入ればいいのです。
     平日の夜にある若者向け番組「ラジオデイズ」で、半年間に読まれたハガキの数を競うハガキ職人グランプリというコーナーがあるんです。そこで1位になれば……なんと、ご褒美としてラジオブースご招待!!
     私は頑張りました。今までハガキなんか書いたこと無いけど、上手い人を参考にして色々研究しました。
     でも、3年続けているのですが、ベストテンにも入りません。私は限界を感じていました。なんだか元気が無くなって学校も休みがちです……
     そんな時に現れたのが多記透君でした。彼とはほとんど喋った事が無かったのですが、落ち込んでいた私は多記君に頼ってしまいました。






    「よし、とりあえずお前の書いたハガキを見せてみろ」
     なんか多記君は偉っそう。でも、先生なので我慢します。私は一番自信のあるハガキを見せました。多記君はしばらくハガキを見つめたと思うと、すぐに目を離しため息。私は不安になります。
    「何かおかしい?」
     多記君は私の方をチラッと見るとまた、ため息です。
    「お前本気でハガキ職人目指す気あるのか?これで読まれようなんざぁ百年早い」
    「えぇーっ!」
     私はショックを受けました。これでも一生懸命に書いたのです。
    「まず、ハガキにたくさんの色を使いすぎて見難い。ハガキを選ぶ人が目がチカチカするだろう、ネタで勝負するなら黒にしろ!」
    「でもでも、カラフルにして送ると懸賞に当たりやすいってテレビで言ってたし……」
    「懸賞なんてあんな主婦の暇つぶしと一緒にすんな!ネタハガキは内容で勝負だ!!」
     なんか妙に悔しかったので文句を言ってみました。
    「主婦を馬鹿にしないで!」
    「アホ!お前は主婦か!!」
    「主婦になりたいけど今は違います……ごめんなさい」



     さらに多記君は駄目出しをします。
    「それにネタハガキにお前の近況なんていらん。そんなのは普通のお便りでしろ」
    「でも、お父さんが見てるから……」
    「だったらなおさら止めろ。向こうはお前と分かったから故意に避けている可能性がある」
     気付かなかったです。ちょっと驚きました。
    「しかも何だこのネタは?」
    「だって佳代ちゃんが面白いって……」
    「佳代って同じクラスの友達かよ。あのなぁ、自分たちの世代で面白いからといってラジオで通用すると思ったら大間違いだ。お前の父さんは何歳?」
    「えっ?四十二歳だけど……」
     私の返事を聞くと多記君は少し考えていました。
    「微妙だが、一九八〇年前後だな……あのロボットアニメ世代?まさかな……」
     多記君の言っていることはよく分かりません。でも何か一生懸命考えているみたいです。



    「まずはネタにさりげなく八十年代のネタを入れろ。お前の父さんに『懐かしい』とか『こんなの聞いてるヤツは分かるのか?』とか言わせれば成功だ」
    「先生、よく分かりません」
     すると多記君は顔を真っ赤にしました。
    「先生はやめろ。……ハガキを選ぶのはお前の父さんなんだろ?だったら、読まれるハガキは選者の面白いと思うものが選ばれるわけだが、公平に選んでいるつもりでも自分たちの世代の話題が出れば、ついつい選んでしまうものなんだ」
    「ふぅーん。多記君なんだかすごい……」
     今まで多記君とはあまり喋らなかったけど、こんなにすごい人だったとは、またまた驚きです。



    「あとペンネームだが……『ジョニー大好きっ子』ってのはやめろ。っていうかジョニーって誰だ?」
    「ジョニーはお父さんの事です。お父さんの名前が丈だから、みんなから丈兄貴って呼ばれてて、それが丈兄になって、最後にはジョニーになりました!」
    「説明はありがたいが、このペンネームは却下。もっと頭に残るようなペンネームにしろ。ただし、ペンネームだけでオチが付くものはヤメロ。『ペンネームオチはネタがつまらない』これハガキ職人の格言」
    「メモっていい?」
    「おお、メモれメモれ」
     多記君は胸を張っています。ここで私はある事が気になりました。
    「じゃあ、多記君はどんなペンネーム使ってたの?」
    「……○×松……」
    「え?良く聞こえないよ」
    「……マッチョ石松……」
    「聞かなかった事にするね……」
    「……おう……」
    「…………」



     しばらくして、多記君がポツリと言いました。
    「ネタは駄目だが文体はそのままでいい。なんとなくお前の人のよさが現れている」
    「……え?ありがとう!」
     私は初めて多記君に褒められました。少し嬉しかったです。
    「取りもどせると良いな」
    「ん?」
    「家族」
    「……そうだね」



     これで私もハガキ職人になれるでしょうか?
     私は掴みたいモノがあります。それは家庭です。
     お父さんがいてお母さんがいてお兄ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、そして私。皆でご飯を食べるんです。
     だから、ラジオブースに入ったらお願いしたいです。
    「お父さん。私と皆でご飯を食べてください」って。





    第2話 終わり



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    第3話 「ハガキ投稿集団 宝条リン」



     とりあえず、波乗の家でラジオを聴いてみる事にした。自分の家で聴こうとしたのだが、全く電波が入らないのである。この事を波乗に聞くと「分からない」と答えた。彼女自身も自分の家以外で聴いた事が無いからだそうだ。



     「ラジオデイズ」は深夜枠の若者向け3時間番組で月〜金まで毎日ある。パーソナリティーは波乗の父親ジョニー。日替わりで色々なコーナーがあり、曜日によって特徴が違う。月曜日は普通おた(普通のお便り)中心、火曜日は笑い(ベタ)ネタ中心。水曜日はお笑い(シュール)ネタ中心、木曜日は下ネタ中心、金曜日はFAX・メールネタ。
     各コーナーでは、ハガキを読まれるごとに1ポイント与えられる。その中でも一番面白かったハガキにはMVPとして5ポイント与えられる。それを半年後とに集計してNO.1を決めるのが「ハガキ職人グランプリ」ということらしい。



     午前12時、時報と共にジョニーの声が響く。
    『OK!ジョニーのラジオデイズ!!』
     古い。なんちゅー古いタイトルコール。
    『さぁ、今からの時間はみんな手を止めろ!!そんなに考え込んで落ち込んでても意味が無いぞ!今からの3時間は全てを忘れて“だらだら”するんだ!』
     どうやらここまでがお決まりのセリフらしい。隣で聴いている波乗は頷きながら聴いている。頷く所はひとつも無いぞ。
     僕は気になった事を波乗に訊いてみた。
    「ところで、ペンネームは考えたのか?」
    「うん」



     波乗は恥ずかしがりな僕に紙切れを差し出す。僕は受け取り、見てみるとそこには幾つかの候補の中で『宝条リン』という名前に丸が振ってあった。
    「…………」
    「どう?」
    「……駄目だ」
    「えーっ!!なんで、ナンデ、何で!!」
    「リンという名前にトラウマがある」
     すると頬を膨らませて波乗が抗議をする。
    「うーっ、そんなの多記君の勝手でしょ!!これには『私がハガキ職人の中でも補助輪がついた初心者に等しいから』って言う意味があるんですっ!!」
     なんかうー、うー、唸って怒ってる。どうやら本人はかなりお気に入りのようだ。
    「しょうがねえな。じゃあそれで良いや」
    「やったー!!」
    「飛び跳ねるな!!」



     番組は少しフリートークをしたらすぐにネタハガキのコーナーへ移った。
    「波乗、毎日通しで行われるコーナーはなんだ?」
    「うーんと……音楽明けにやる一行ネタのコーナーかな」
    「音楽明け?」
    「うん、ウチのラジオCMとかないから。コーナーとコーナーの間には音楽を流して、間を取るの。その時に番組のジングルと共に一行ネタが読まれます」
    「1放送に何回ぐらい?」
    「10回ぐらいかな」
    「多いな……とりあえず、毎日通しで行われるコーナーは重要だ。まずはそこを中心にハガキを出す!!」
    「うん……でも……」
    「どうした?」
    「あそこのコーナーは常連さんがひしめき合っているのです……」
    「ほう……」
    「クックルドゥーさんとか100g98円さんとか……」
    「!!……待て!!」



     波乗が挙げたペンネームに僕は聞き覚えがあった。
     クックルドゥーと言えば……アイドル・声優系のラジオで一時代を気付いたぺンネームで、彼がハガキを出しだアイドル・声優は売れるという伝説があるほどだ。
     100g98円だって、たしか、少年マンガ週刊誌のハガキ投稿ページでNO.1を取った人物。まさか……同じペンネームってだけだろ?
     そして、実際に幾つかネタを聴いてみる……確かにいいとこ突いてる。点取り占い風のシュールなものもあれば、時事ネタを入れたダジャレなんかも冴えてる。
    「この二人は本当に面白いんです」
    「…………」



    『じゃあ、このコーナーのMVPは……PN(ペンネーム)ペンシル祭(さい)に決定!!』
    「!!!」
    「多記君……どうしたの?」
    「今……ペンシル祭って言わなかったか?」
    「うん、言ったよ。この人凄いんだよ、今のところハガキ職人グランプリ5期連続でNO.1なの」
    「…………なんてこった」
     もし、僕が知ってるペンシル祭ならば、全国ネットの深夜ラジオ老舗番組「オールナイトブレイク」において三期連続で読まれたハガキNO.1になり、番組作家になったいわばプロだ。
     意味が分からない。
     なんで、ここまでのビッグネームが揃っているのか?この番組はそこまで魅力のあるものなのか?
     考え込んでいる僕に波乗が心配そうに顔を覗かせる。
    「だから……私、思うんですけど……もっと読まれやすい普通のお便りから狙った方がいいと思います……」
     僕は少し甘く見ているのかもしれない……でも……



    「……波乗」
    「はいっ!!」
    「……それでも、狙うぞ」
    「え?」
    「普おた(普通のお便り)はお前が書け、こっちのネタは僕に任せろ」
    「え?え?えーーーーーーーー?」
    「正直言って、お前一人ではどうにかなる相手でじゃない。だから……ここは束で掛かるしかないだろ?ハガキ投稿集団『宝条リン』としてやろう」
    「でも……それって卑怯じゃ……」
    「卑怯じゃない。集団で書いちゃあ駄目だなんてジョニーも言って無いだろう。ハガキにもキチンとハガキ投稿集団『宝条リン』と書く……凡人が天才に勝つ方法はこれしかない……お前、家族を取りもどすんじゃないのか?」
     『家族』という言葉に波乗は反応した。
    「……うん……頑張る」
    「その意気だ」
     当初、僕は玲子さんの真意を確かめたくて波乗に協力したのだが、今では伝説のハガキ職人たちの相手をしているうちに、僕の中の職人魂が蘇ってきた。
     「この人たちを追い越したい」今はそういう気持ちが先走っている。
     僕らの戦いは今始まった。





    第3話 終わり



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    第4話 「う〜ん、初採用」



     一週間、番組を聴いて各曜日の特徴を掴んだ僕達はハガキを出し始める事になった。
    「この一週間でジョニーが喋った言葉をリストアップしてある。ハガキを書く際に参考にしろ」
    「え? なんで?」
    「お前にはイチイチ説明しなきゃならんのか。いいか、ラジオの番組……とくにネタハガキには流行り廃りがある。それを的確に掴んだものが勝利するんだ」
    「うんうん」
     波乗はメモを取り懸命に僕の話を聞いている。
    「流行り廃りを作る要素は幾つかあるが、まず押さえておいた方がいいのはパーソナリティーの言動をそのままお笑いのネタに入れる事、これはパーソナリティー自身に起こったことだから、ついつい採用してしまう。もう1つ押さえておくポイントあるのだが……お前には無理だ」
    「えーっ、なんで!! う〜っ……」
     どうやら頬を膨らませて「う〜っ」と唸るのが波乗のクセらしい。



    「もう1つは自分で流行を作ること。上手くいけば自分のネタから新しいコーナーが出来たりする。ハガキ職人にとってかなりの名誉だ。しかし、それにはまず、パーソナリティーが大ウケしなくちゃならん。ジョニーを納得させるようなネタをお前は書けるのか?」
    「……師匠……できません……」
    「師匠は止めろ……まぁ、お前は普通のお便りメインで書くんだから、季節ネタや地域ネタ、ハプニングネタや恋愛相談ネタでいいな」
    「うん!! やってみる」
     波乗はやたら体を弾ませてワクワクしているようにみえる。ツインテールも楽しそうに揺れていた。
    「最後にこれも頼む」
    「まだあるの?」
    「番組で読まれないハガキを数枚書くこと」
    「?」
    「番組への意見なんかを書くんだ。これはネタ云々ではなくて番組に貢献するという意味で書くものだ。ネタハガキだけを書くのがハガキ職人じゃないぞ」
    「はいっ!!頑張って、頑張って、頑張って、ハガキ職人になるっ!!」
    「いや……そんなに頑張らんでもいいぞ」



     そして、僕らはハガキを書き始めた。二人とも真剣に書いているので室内は静だ。
     ちなみにどこの室内かというと波乗の自室。明るい色を基調としていて、かわいらしいカーテンにぬいぐるみも数体おいてあったり……何と言うか、男が想像するような女の子っぽい部屋である。自分の部屋とのあまりの違いに何か落ち着かない。
     最初は自分の家でネタを書こうとしたのだが、波乗がそれを嫌がった。自分の書いたネタをすぐ見て欲しいからだそうだが、彼女がポツリと言った言葉に本心があると思う。
    「一人でネタを書いてると、何が正しいか分からなくなるから……」
     僕にはすごく良く分かる。一人でいると自分が生きているかさえも分からなくなるときがある。自分を自分だと証明してくれるのは結局、他人に委ねるところが多い。



     小さい机に向かい合ってネタハガキを書いていると、波乗が突然クスクスと笑い出した。
    「どうした?」
    「多記君、このネタどう?一行ネタのコーナーに出したいんだけど」
     波乗は僕に一枚のハガキを差し出した。ハガキを受け取るとそこには一言『うーん、皮膚の香り』と書いてある。
    「…………」
    「ねっ?どうどう?」
     恐らく今の波乗にシッポを付けたら、さぞかしよく振っていることだろう。彼女の期待をこめた視線に僕は耐えられなくなった。
    「……ま、まぁ……いいんじゃないか?」
    「本当!?」
    「……あ……う……うん……」
     ハガキを書けた僕らは次々と番組へ送った。家の中で番組をやっているのにイチイチ自分家宛にハガキを送る波乗は律儀だと思う。
     その後も僕らは番組を聴きながらネタハガキを書いていた。



     しかし、なかなかハガキは読まれない。こういうものは一枚読まれるとあとは楽に読まれるものなのだが、最初の一枚が難しい。
    「読まれないね……」
    「まだ出し始めたばかりだろ? 番組だって一週間聴いただけなんだから、ハガキの雰囲気が番組に馴染みだしたらすぐ読まれる」
    「うん……」
     という会話をして一週間がたった。相変らず一枚も読まれない。僕が自信を持って送ったネタハガキもあったのだが……
    「多記くぅ〜ん」
    「……焦るな……焦ったら負けだ!!」
    「じゃあ、私負けてるっ!! 今、焦ってるもん」
    「だから焦るなって言ってるだろ!!」
    「そういう多記君だって焦ってるでしょ!!」
     焦ってる時ってついついケンカ腰になってしまう。僕は我に返った。
    「僕は焦って……ない……とは言えない……」
     すると、波乗も肩を落とす。
    「やっぱり駄目なのかも……」
    「…………」


     
     何も言えず僕らは黙り込んだ。
     そんな僕らを見越してなのか、ジョニーの声が聞こえてきた。
    『一行ネタ。ペンネーム宝条リンから』
    「!!」
    「えっ!?」
     何が読まれるんだ?
    『うーん、皮膚の香り』
    「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
    「やった〜!! 読まれたよ〜!!」
     僕はこの時、何が正しくて何が間違っているのか分からなくなった……なんだか……耳鳴りがして頭がイタイ……
     波乗はお祭騒ぎではしゃいでる。僕の手をとってやたらブンブン振り回してるし、ツインテールがバシバシ僕の顔を直撃する。
    「これね、これね。昔、お父さんとラーメン食べに行ったときに私が偶然言った言葉なんだって、その後お父さん大爆笑しちゃったってお母さんから聞きました!!」
    「そうなんだ……」
     確かに宝条リンとしては大事な一歩を踏み出したわけだが……僕は三歩ぐらい後退した気分になった。
     結局、後のコーナーで僕のネタが立て続けに読まれたことで自信が回復する事になる。どうやら、ハガキを出して読まれるのには一週間ぐらいのタイムラグがあるらしい。






     こうして、宝条リンは順調なスタートを切った。
     書いたハガキの採用率は50%を超えているし、ジョニーにも名前を憶えてもらった様だ。全てが良い方向に進んでいるように見える……
     しかし、トップとの差はなかなか縮まらないように感じた。特にペンシル祭との差は開く一方に思える。
     ペンシル祭は読まれるハガキは少ないが、コーナーの最後に選ばれるMVPになる事が非常に多いのだ。普通にハガキを読まれて1P、MVPは5P。MVPに選ばれるだけで5枚読まれた価値がある。ペンシル祭は確実にMVPを狙ってハガキを書いているに違いない。
     一方、宝条リンは確実にヒットは打てるがホームランが打てない1P奪取のハガキ職人になりつつあった。
     それは一重に僕の実力によるもので、少しずつではあるが限界を感じている。何らかのテコ入れが必要になってきた。





    第4話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第5話 「もうええ!!」



     笑っていれば幸せになれると思っていた。
     お母さんだって、祖父母だって安心して暮らしていける。
     笑いたい、もっと、もっと笑いたい。
     だから……



     いつものように2年5組の教室へ入る。何でもない普通の日……のはずだった。
     しかし、ここ数日間の心の平穏は崩される。波乗澄音が登校していたのだ。私は心の中で舌打ちする。
     新学年が始まって今年も澄音と同じクラスだったのが憂鬱だった私は彼女が学校に来ないのを密かに望んでいた。
     その理由は……
    「佳代ちゃん!! 久しぶり!!」
     澄音は私の姿を見つけるとすぐに近づいてきた。
    「……うん……久しぶりやなぁ」
    「ちょっと休み過ぎちゃった……ごめんなさい」
    「ええよ、それより元気にしとった?って元気や無いから休んでたんやもんなぁ」
     嫌味もこめて言ったつもりだったが、彼女は全く意に介さない。それどことろか、瞳を輝かせて私に言う。
    「うん!!もう大丈夫。問題解決しそうだから」
    「!! ……な、何で? もう、お父さん、ラジオ止めたん?」
     私は驚きを隠せなかった。



     澄音からだいたいの事情は聞いていた。初めは半信半疑だったけど、実際に現場を見ると信じるしかなかった。そして、彼女からハガキ職人の話を聞いたのだ。
    「まだ、お父さんは帰ってきてないけどね」
    「そうなんだ……」
     私はホッとした。澄音がお父さんと会う……彼女が幸せになる……事が喜べない自分がいる。『家族を取り戻したい』と言った彼女を応援できない。
     私はもう……頑張ったって家族は取り戻せないから。






    「ごめん佳代、お父さんとはもう一緒に暮らせなくなったの」
    「何で? 何でやの? お母さん教えて」
     小さい頃の私には意味が分からない。それが離婚だと理解するには少し時間を必要とした。
    「お母さんとお父さんケンカしちゃってね……別々に暮らす事になったの」
    「え? じゃあ、仲直りしたらええやん」
    「……もう出来ないの」
    「何で? なぁ、何で?」
     すると母は私の手首を痛くなるほど握った。
    「痛い!!」
    「もう、ここへは戻らないから。早く準備しなさいっ!!」
    「……はい」
     こうして、私は母の両親が住むこの街へ来た。
     澄音とはこの街に引っ越してからすぐに友達になる。彼女の人懐っこい性格が私を引き寄せたのかもしれない。それだけ私も寂しかったのだろう。






     澄音は私の後ろで誰かを見つけたらしく、手を振り出した。
    「佳代ちゃんまた後でね」
    「うん」
     彼女は私の横を通り過ぎていく。行く先を見るとそこには多記通が立っていた。二人はやたらした親しそうに話している。いつの間に仲良くなったのだろうか?少し気になったけど、気にしない事にした。
     というか澄音の事は……いや、家族の事はもう考えたくない。



     昼休み、私の元に澄音が駆け寄ってきた。
    「ねぇ、佳代ちゃんお昼食べよ」
    「うん、ええけど……なんでコイツまでおるの?」
     澄音の隣には多記が立っていた。
     下に目をやると、澄音の手が多記の制服の裾をしっかり握っている。
    「僕だって知るか!!コイツが無理やり引っ張って……」
    「多記君とはハガキの作戦会議を開きたいから絶対、逃げちゃ駄目!!」
    「……じゃあ、私はお邪魔やな」
     私の言葉を聞くと澄音は顔を真っ赤にして弁解する。
    「そ、そんなことないよ!! 佳代ちゃんにもいて欲しいの。私がハガキを書き始めた頃、よくネタを見てくれてたでしょ? 今回もお願い」
    「……もう、逃げられへんみたいやな」
     いつの間にか澄音は私の制服の裾も握っていた。



     私達は校舎の裏庭へ移動すると備え付けのベンチへ多記、澄音、私の順に座った。お弁当を食べだすと、澄音は多記と話を始めだした。
    「多記君、『あの人見ました』のコーナーで今流行ってるネタあるでしょ?」
    「? 芸人ネタか?」
    「うん」
     どうやら、多記はどういう事情か知らないけど澄音の手伝いをしているようである。話の内容も恐らくラジオのネタだろう。
    「そこで出てくる。『まえだごろう』って誰?」
    「…………」
     私は前田五郎を知っていたが、黙っている事にした。
    「僕も良く知らないが……新喜劇に出る人だろ?」
    「………………」
     二人のフワフワした会話にイライラしてくる。
    「しんきげき?」
    「……………………」
    「新喜劇っていうのは……僕も良く分からんが……」
     我慢の限界が来た。



    「あーもう!! ええ加減にして!!」
    「え?」
    「は?」
    「前田五郎も知らへんの?」
     すると二人は言葉には出さず、何度も頷いた。
    「前田五郎っていったら坂田利夫とやってるコメディーNO.1やんか!!『もうええ!!』って知らへんの?」
    「さかたとしお?」
    「波乗、坂田利夫はアホの人だ」
    「……分からないよぉ」
     多記は辛うじて坂田利夫は知っていた。私は心の中で駄目だと思いながらも、自分の気持ちを止めるとが出来ない。
    「それに新喜劇って一口にいっても吉本と松竹があるしどっちか分からへんやんか!!」「エッ、そうなのか?松竹も新喜劇やってたの?」
    「アンタ、一回頭カチ割ったろか!!松竹の方が先輩や!!」



     完全に私のスイッチが入ってしまった。澄音が恐る恐る質問してくる。
    「じゃあさ……テントって誰?」
    「はぁ?クモの決闘ネタとか人間パチンコとかわからへん?」
    「わからないよぉ……」
     澄音の向こうで多記が何かメモっている。
    「ちなみに今の狙い目は?」
     記者のように多記は尋ねてきた。
    「ずばり……Mr.ボールドや」
    「誰?」
    「吉本の爆笑王」
    「マジで?」
    「マジや。NGKに出てる。ハゲで一輪車乗ってるオッサンや!!」
    「なんでその人が爆笑王なんだ?わからん……」



     笑っていれば幸せになれると思っていた。
     お母さんだって、祖父母だって安心して暮らしていける。
     笑いたい、もっと、もっと笑いたい。
     だから……
     だから私は今日もお笑いの勉強は欠かさない。



     一通り喋り終わると、私を見る二人の目つきが変だった。
    「佳代ちゃん……どうして今まで隠してたの?」
    「え?」
    「……認めたくないが……お前、凄ぇよ」
    「は?」
     二人は立ち上がり私へ迫ってきた。
    「何? ……何なん?」
    「宝条リンに参加してくれ」
     宝条リン?意味が全く分からない。





    第5話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第6話 「思い遣るという事」



    「なぁ、頼む!!お前の力が必要なんだよ」
    「嫌や」
    「何でだよ、理由を教えてくれ」
    「昨日も言ったやろ、私はラジオには興味あらへんって」
     こんな会話を続けてもう3日になる。多記は諦めずに説得に来た。ホントにしつこい。多記の後ろを心配そうに付いてくる澄音にも腹が立っていた。



    「波乗とは友達なんだろ?だったら……」
    「友達でも出来る事と出来へんことがある!!」
     自然に自分でも驚くぐらいの大声を出してしまった。私の声を聞いて多記は不思議そうな顔を向ける。
    「……どうしたんだよ。たかがハガキ書くだけのことだろ?」
    「べ、別に……ただ……私のお笑い好きは人に披露するためじゃないし……」
    「ん? お笑いって笑わせる対象があってのものじゃないのか?」
    「…………」
     ……笑わせる対象あってのもの?確かにそうかも知れない。
     だったら私の場合笑わせる対象は……自分自身だ。



    「波乗、お前からも何とか言ってくれよ」
    「多記君……もういいよ……佳代ちゃん嫌がってるし……きっと何か深い事情が……」
     深い事情なんて無い……私は単に彼女が……羨ましいだけだ。
     だから余計に澄音の言葉がムカつく。
    「とにかくお断りやっ!!」
    「お、おい待てよ」
    「…………」
     私は二人を振り切るようにして走り出す。
     なんだか全てに腹が立っていた。
     頑張っている澄音、彼女に協力する多記……そして、何もしない自分……



     引っ越してくる前からお笑いは好きだった。父親の影響だったと思う。
     さらにこっちへ来ると私のお笑い好きは加速した。お笑いのビデオや本、グッズを買いあさる。お笑い番組やビデオを見ると、父親と一緒に笑い転げた日々を思い出した。
     でも……
     今、私の隣には誰もいないし、一緒に笑ってくれる人もいない。



     次の日も多記は私に付きまとった。
    「付きまとわんといて、ストーカーっ!!」
    「何といわれようと工藤が参加するというまでは付きまとう」
    「…………」
     私は徹底的に多記を無視する事に決めた。
     昼休み、私は逃げるように屋上で昼食をとる。しばらくして、出入り口から多記と澄音が入ってきた。幸い、私には気付いていない様子なので給水塔の裏に隠れる事にした。
     隠れているだけなので別に聞き耳を立てたわけではないが、自然に二人の会話が聞こえてくる。
    「くそ〜、居ないな」
    「多記君もういいよ。諦めよ」
    「駄目だ。ペンシル祭達に勝つにはアイツの力が必要なんだ」
    「う〜っ……それは分かったよぉ……でも、お昼なんだからお弁当食べようよ」
    「……僕は食べないから波乗、お前は勝手にその辺で食べろ」
    「え〜、なんで?」
    「今日は金がない。だから昼は抜きだ」
    「だったら私のを半分こしよ」
    「嫌だ」
    「う〜っ……」
     そういえばこの前も多記はパン1つにパックの牛乳だけだった。ダイエット? ……んなはずは無い。家が貧しいのだろうか?
     色々考えをめぐらせている私はある事を思いついた。



     放課後、多記は私を逃がすまいと教室を出る前に話しかけてきた。私も話しがあったので、ワザと捕まる。
    「1回でいいからさ、ラジオ聴きにきてくれよ。そうすればお前も……」
    「そうやな……協力してやってもええかな」
    「ホントか!?」
     多記は嬉しそうに身を乗り出すように私に近づく。
    「……10万でどうや?」
    「10万!?」
    「今すぐ現金で10万や。それやったら協力してもええわ」
    「…………」
    「もういいから、私達だけでやろうよ」
     二人の会話を後ろで聞いていた澄音は多記の腕を引っ張った。しかし、多記はそれを振り払う。



    「……わかった……10万だな」
    「多記君!!」
    「心配するな……ちょっと待っててくれ。今、家の人に借りてくるから」
     それだけ言い残すと多記は走り去った。
     私と澄音が残される。澄音は私に近づき、問い詰めてきた。
    「……なんで? なんで、こんな事するの?」
    「何?怒っとるの?」
    「多記君……10万なんてきっと持ってないよ……いつもお昼のパン買うのだって困ってたぐらいだから」
     私は優越感に浸っていた。多記が金なんて用意できるはずがない。そしてなによりも、澄音の必死そうな顔が私の苛虐的な心を満足させた。
     だから、私はとどめの一言を言う。
    「知ってる……分かってて言ったんや」
    「!!」



     澄音はしばらく私をじっと見つめる。私の目には彼女は怒りに震えている様に思えた。
     しばらくして、澄音は手を伸ばすと私の腕を掴み引っ張る。
    「……行こ」
    「は? 何処へ?」
    「多記君の家……謝りに行こ」
     彼女は怒って私を罵るのかと思ったが、怒ることなく謝りに行くように勧めた。
    「!! ……なんで私が……」
    「佳代ちゃんがハガキを書くの嫌ならそれでも良い。お願いだから……多記君を困らせないで」
    「何?アンタ、変にアイツの肩持つやん。もしかして多記のことが好きなん?」
     私は澄音をからかうつもりで言ったが、彼女は表情を変え無かった。
    「好きかどうかなんて分からない。でも……多記君は……私を応援してくれるただ一人の人だから」
    「…………」



     澄音は私から目を離し俯くと呟いた。
    「……ホントは一番に佳代ちゃんにラジオの事を頼もうと思ってた……でも、佳代ちゃん……お父さん居ない事いつも気にしてたから……私がお父さんに会いたいなんて言ったら悪いと思って……」
    「!! ……なんで? 知ってたん?」
    「これでも……10年近く友達やってるんだよ……それぐらい分かる」
    「…………」
     確かにネタを何度か見た事はあったけど、ハガキを書いてくれといわれた事は無かった。澄音は澄音なりに気を使っていたって事?
    「私からもラジオの事は諦めるようにお願いするから……行こ」
    「…………」
    「佳代ちゃん」
    「…………」



     澄音の方が一枚上手だった。この子はトロそうな感じなのに人の機微には敏感だ。私は何を独りで背負い込んでいたのだろう?
     自分のことばかり考えて……周りの気遣いも分からないほど拗ねていた。
     そうだ……何も言わずにお笑いのビデオやグッズを買い与えてくれたのは母じゃないか。母だって一緒に暮らしていたのだから、お笑いが父の思い出だということを承知していたに違いない。
     何してたんだろ私……
    「……よく考えてみたら……お金を要求するのは間違ってたかもな」
    「佳代ちゃん!!それじゃあ……」
    「多記の家に案内して」
    「うん!!」
     私と澄音は多記の後を追うように彼の家に向かった。





    第6話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第7話 「独りじゃない」



    「ところで多記の家は行った事あるん?」
    「無いよ。でも、クラス名簿辿っていけば良いと思って……」
     この子は行った事も無いのに多記の家に行けと私に言ったのだった。私は呆れたが、そこが澄音らしいなと思い直す。
    「それやったら、私が探すわ。アンタが探すとトロいから日が暮れるわ」
    「佳代ちゃん……ひどいよぉ……でも、ありがとう」
    「……まぁ、あれや。確かにお金を要求したのは悪かったと思ってるからな……アイツにハッキリ断るために行くだけや」



     名簿の住所通りに進むと同じような家ばかりの住宅街の中で、明らかに場違いの家が見えてきた。西洋のお城を小さくしたような家(?)。私は何度も名簿の住所とこの家の住所を見比べる。
    「……どうやらココみたいやな」
    「えぇ!? でも、表札は『井端』って書いてあるよ」
    「でも、住所はここって書いてあるし……とりあえずチャイム押してみよか」
     大きな門につけられてあるインターホンのボタンを押す。しばらくして、インターホンから若い女性の子が聞こえて来た。私は自分達の名前を名乗り、ここが多記透の家かどうか訪ねる。するとインターホンの人は門が開き私達に入ってくるように言った。私達は指示に従い家の中に入る。



     玄関と呼んで良いのか分からないような扉が開かれ中に入ると、内装は普通の日本家屋だった。玄関先ではインターホンで話した若い女性が立っている。見た目からして私達より少し年上な感じだった。お姉さんだろうか?
    「あっ、靴を脱いでこちらへどうぞ。まもなく先生も来ると思いますから」
    「先生?」
    「はい」
     靴を脱いで家へ上がると私達は応接間のような場所に案内された。座ると何処までも埋まっていきそうなフカフカのソファーに腰をかける。隣では澄音が感嘆の声を上げていた。案内してくれた女性はお茶を置いて部屋を出て行く。私は当初の目的を少し忘れそうだった。



     私達がこの家に圧倒されていると、応接間のドアが開く。入ってきた人物に私達はさらに圧倒された。お姫様のようなドレスを着て、タバコをくわえた女性が入ってきたからだ。年齢は三十代半ばといった感じで、向かいのソファーに座ると鋭い視線を私たちに向ける。向き合ったまましばらく沈黙が続いた後、女性が口を開いた。
    「透ならさっき10万持ってどっかへ行った」
    「えっ!!」
     私達は入れ違ったのだ。
     女性はタバコの煙を空中に吐くと話を続けた。
    「アンタ達なんだろ?10万もって来いって行ったの」
     女性は私達を睨んだまま視線を外さない。私は何も言えなくなっていた。
    「そうです。ごめんなさい!!」
     黙っている私の隣で澄音が女性へ謝った。
    「謝れば済むと思ってるの?」
    「え……それは……」
     澄音は悪くない。私は思わず口を挟んだ。少なくとも澄音はこの件には関係ないから。
    「彼女は関係あらへん!!私が言いました……ごめんなさい。謝って済むかと言われれば返す言葉も無いけど……」



     澄音を睨んでいた女性は今度は私を睨む。
    「別に私はアンタ達を叱ろうなんて思ってないから」
    「え?」
    「この家は見ての通り貧乏じゃない。むしろ、金はある」
    「…………」
    「私はただ透が『何も言わずに十万貸して欲しい』って言うから貸しただけさ。それで、ノコノコアンタ達が来たから、アイツが貢いだ相手がどんなヤツが見たくてね。これは私の好奇心」
    「…………」
    「でも、透は決して自分から金をせびる事なんてしないんだよ。自分が居候の立場だって分かってるからね。十年近くアイツと一緒にいるけど今回で二回目だ」
    「?」
     多記が居候? どういうことなんだろう?
    「多記君はこの家の人じゃないんですか?」
     私の疑問を口に出して言ったのは澄音だった。
    「あぁ。アイツはね昔、両親を事故で亡くしたんだよ。その後、親戚中をたらい回しにされて最後にウチに来たってわけ」
    「…………」
     事も無げに女性は言ったけど、私たちにとっては十分ショックな話だった。



     多記が両親いないって知らなかったから……独りだって知らなかったから……私……私……私……
    「……私……多記を探してくるっ!!」
     私は何かを思い出したように応接間を飛び出していた。
    「佳代ちゃん!!ちょっと待ってよ」
    「待ちな。アンタが波乗って言うんだろ? ……そのツインテールで分かった。いろいろと話を聞かせてもらおうか」
    「はい?」



     私は急いで教室へ戻る。学校へ到着すると静かな教室には多記だけが教卓辺りで佇んでいた。私は息を整え教室に入る。ドアの音と共に澄川がこっちを向く。
    「あっ、居た居た。ほら、これ約束の10万」
    「…………」
     目の前にはしっかりと握られていた為にシワくちゃになった一万円札が十枚あった。
    「どうした? これで協力してくれるんだろ?」
    「……いらない」
    「はぁ? 何でだよ!?」
    「さっき、澄音と一緒にアンタの家に行った」
    「え!?」
    「多記……アンタ両親が……」
     すると多記は片手を自分の頭にあて、舌打ちする。
    「チッ……あのお喋りバアさんめ……」



    「……私は両親が離婚してこっちへ来たんや……」
    「え?」
     私は自分でも良く分からなかったけど多記に自分の事を話し始めていた。今まで誰にも言えなかったこと……私がお笑い好きな理由や澄音への妬み……  最初は戸惑っていた多記も最後は黙って聞いてくれた。
     私の事について多記は何も言わない。何を言っても気休めにしかならない事を身を持って知っているからだと思う。
     そこで、私はなぜ多記が澄音の手伝いをするのか聞いてみた。すると彼は、はにかみながら答える。
    「波乗を見てたらふと考えちまうんだ……僕が手伝うまでは誰にも相談できずに独り黙々と読まれるかどうかも分からないハガキを書いてたのかなって……」
    「…………」
    「そう思ったら……両親が死んで親戚の家たらい回しにされてた時の事思い出してな……あの時の僕も一人で戦ってた……」
    「……そうなんや……」
    「あっ、でも今は幸せだぞ。あの人モノの言い方はキツイけど意外と良い人なんだ」
     私には母親や祖父母が居た。一人になっている気になっていたのは私だ。
     凄く自分の身勝手さが情けなくなる。



    「だからさ、頼むよ。ハガキ書いてくれよ。皆でハガキ書いて、ラジオで読まれて……」
    「…………」
    「最後は一緒に笑おうぜ」
    「あっ………」
     ”一緒に笑おうぜ”言って欲しかったのはこの言葉だった。もう独りで笑うのは嫌だ。皆で笑いたい。私は多記に表情を読まれたくなくて下を向いた。
    「独りの寂しさは分かってるんだろ? だったら、僕らの代わりに波乗一人ぐらい幸せになっても良いじゃないか」
    「…………」
     私は頷く事しか出来なかった。






     深夜0時になる。私は澄音の部屋でラジオを聴いていた。
    「どうだ?実際ネタを聴いてみて」
    「うーん……結構レベル高いなぁ……でも、何とかなると思うわ」
    「佳代ちゃん、ホントに!?」
    「多分な」
    「よし。これで宝条リンもパワーアップだ!!」
    「うん!!」
     なんで今までココへ来なかったんだろう。意地張ってた私が馬鹿みたいに思えた。
    「とりあえずG☆MENSとスミス夫人辺りから攻めて行くから」
    「……そいつら誰だよ」
    「スミス夫人って女の人なの?」
    「あーっもう、アンタ達全然分かってないなぁ!!まずは二人に知識を叩き込もか」
    「……遠慮しとくよ」
    「私も……」
    「あかん!!今から特訓や」
    「ええーっ!!!!」
     今、私の隣には多記や澄音がいます。独りじゃない。笑ってくれる人がいます。
     だから……今日も楽しい。





    第7話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第8話 「私……ヨゴレになる」



     非常階段。オレの目の前で女二人がケンカしていた。原因はオレが二股をかけていたからなんだが、この二人はオレを責めずにお互いを罵り合っている。最初は見ていて面白かったけど時間が経つにつれてつまらなくなってきた。そろそろ終らせようと思う。
    「お前達もう止めろよ。簡単な解決方法がある」
     オレへ顔を向ける二人。視線が集まったところで十分間を取ってから言葉を投げかける。
    「……オレが悪いんだ。どっちかを選ぶ事なんか出来ない。だから、二人とも別れてくれ」
     みるみる顔色が変わる二人。オレはなるべく悲しい顔をして、振り向き、反論のチャンスを与える間もなく立ち去る事にした。残された二人は茫然とオレを見送る事しか出来ない。
     潔いとかそういうのではない。後で個別によりを戻していけばいいだけの話。そうすれば自分だけに戻ってきてくれたと勘違いするわけで……今からそれを思うと笑いがこみ上げてきた。



     教室に戻る途中、おずおずとオレの前に立つ男が一人。
    「あの……川上くん……そろそろお金……返して欲しいんだ」
    「…………あれ?オレ、佐藤に金借りてたっけ?」
    「…………」
     太ってガタイが大きいくせに気のの弱い所がある佐藤は黙り込んだ。オレが睨んでコイツが俯くといった状態が続く。しばらくするとようやく返事をした。
    「……3万円……か……貸してる……」
    「えーーーっ!?そうだっけ?」
     ただ黙って頷く佐藤。
    「悪いな。今、手持ちが無いんだよ!!今度バイト代が入るからその時な!!」
     何度も佐藤の背中を叩きながら、オレは大袈裟なリアクションを取った。 「う、うん……分かった……」
     すごすごと立ち去る佐藤。まだ覚えてやがったのか……ちなみに借りたのは半年前。全然親しくもないがアイツの気弱な性格を考えて金を借りたのだ。ちなみにオレはバイトなんかしていない。



     楽しければそれで良い。
     そのためだったらセコイ計算もどんどんするし、他人だって陥れる。こんなオレを非難する人間は少なくない。だが、そいつらは大抵、羨ましいんだ。自分が出来ない事をやれるオレに嫉妬してるだけ。そんに羨ましいのだったらお前達もやれば良い。
     今日も出来ないやつの遠吠えが聞こえてきそうだ。





    『じゃあ……このコーナーのMVPは……P.N.(ペンネーム)宝条リンに決定!!』
    「やったね!!初MVPだよ!!これも佳代ちゃんのお陰ですっ!!」
    「いやいや、結構時間掛かったけど何とか取れたわ」
    「お前のネタならいつか取れるとは思ってたよ」
     三人、ラジオを聴きながら波乗の部屋で時間を過ごす。もちろんネタを書くために集まっているのだ。
    「すべて多記君が佳代ちゃんと説得してくれたからだね」
     波乗は僕を覗き込むように満面の笑みを浮かべた。僕はそれを直視できずに横を向く。
     宝条リンは着々と常連達の間に割って入る存在になりつつあった。今月に入ってすでに三十枚は読まれた。



    「この調子だと中間発表期待できるね!」
    「いや、まだ喜ぶのは早い。半年のうちのまだ二ヶ月しか経ってないんだぞ」
     すると波乗は口を尖らせ、うー、うー、唸りだした。
     喜ぶのはホントに早い。相変らずペンシル祭は一枚の採用で各コーナーのMVPをとっていくことが多い。波乗が担当している普おた(普通のお便り)だってクックルドゥーのネタに苦戦している。僕だって自分のネタを書くのに精一杯。ただ、工藤佳代が加入した事でお笑いはほぼ目処が付いた。これは喜ばしい事だと思う。
     しかし、「ラジオデイズ」には他にもコーナーがある。さし当たっての問題は、あるコーナーに関して宝条リンは圧倒的に弱いことだった。



     案の定、3ヶ月目にはいる頃に恐れていた事が起こる。読まれるハガキが頭打ちになった。要するに一週間に読まれる枚数が限られてきたのだ。
    「このままじゃあまずい……」
    「枚数増やしてもなぁ……ネタのレベルが上がるわけやないから……採用枚数は変わらんし……」
    「どーしよう、どーしよう。多記君!多記大先生!私達どうしたらいい?」
     波乗は目を潤ませている。その目で見られると辛い。実はこうなった原因は分かっている。元々、波乗達では限界があった。
     それは……
    「波乗……オレ達には致命的な欠点がある」
    「えぇ!なに?ナニ?何?教えてーっ!」
     僕は二人を交互に見る。二人も目をそらさない。
    「お前達は下ネタが書けない!!」
    「やっぱりなぁ……」
    「ガーン」
     ちなみに今のガーンは波乗が自分で言ったものだ。彼女は顔を真っ赤にして、喋りだす。
    「そ、そんな……○×○×や△△×なんて私書けないよーっ」
    「いちいち口に出して言うなっ!僕だって恥ずかしい!」



     「ラジオデイズ」のネタハガキのコーナーの中で軽いのを入れると下ネタのコーナーは三つある。この三つのコーナーなしで今まで善戦していたのが不思議なくらいだった。
     僕等は沈黙した。やはり女の子のハガキ職人では限界があるのか……
    「それやったら多記、アンタが書いたらええやん」
    「待てよ!!僕だって他のネタも書いてるんだから無理だ」
    「下ネタなんて男の想像力使えばチョチョイと書けるやろ?」
    「工藤……お前、男の想像力をどう捉えてるんだ……」
     突然、波乗が僕の目の前に顔を近づけた。
    「ねぇ、ねぇ、多記君も……そんな事……考えるんですか?」
    「考えてるやんなぁ、男やし」
    「くだらない事を聞くな!!……とにかく僕も手が回らないし……第一、下ネタは苦手なんだよ」
    「なんだ……」
    「ガッカリやな……」
    「お前等、何考えてるんだ?」



     これ以上はどうしようもなく黙る。そんな矢先、波乗は呟いた。
    「私……ヨゴレになる」
    「え?澄音、何言っとるの?」
    「……本気か?つらいぞヨゴレは」
    「でも、それをしないとNO.1になれないんでしょ?私……綺麗なままではいられない!ヨゴレる!エロ姉さんになる!!」
     波乗は握りこぶしを握って力説した。
    「姉さんかどうかは知らんが、僕に任せろ!なるべく最小限のヨゴレにするっ!」
    「うん!!」
     なんかやたら「ヨゴレ」を連発する変な会話をする僕達。






     とはいえ下ネタ苦手同士が協力し合ったところでなんの成果があるのだろうか?
     答えは次の週にアッサリ出た。一枚もハガキが読まれない。
    「ゴメン……私、エロ姉さんになれなかったよ……」
    「いや、僕もたいしたアイデアが浮かばなくて悪かった」
    「私は……なんもせんかったけど」
    「やっぱりエロ姉さんじゃ駄目だったんだね。エロエロ姉さんじゃないと……」
    「波乗、そこに何の意味もないぞ」
     やはり、ここは誰かを新しく加入させるしかない。そして、すでに目星をつけている人物は一人居る。ただ……なるべく関わりたくは無かった。
    「実は……もう一人、宝条リンに加入させようと思うんだ……」
    「本当!?」
    「誰や?」
    「……川上直人っていうんだけど」





    第8話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第9話 「そうかぁ!!そら、しょうがないなぁ!!」



     僕と波乗、工藤は廊下を歩いている。二つ隣のクラスへ行くためだ。
    「なぁ、ホンマに川上へ頼みに行くの?」
    「ああ、そのつもりだけど」
     工藤の冴えない表情をみると、彼女は川上の評判を多少なりとも知ってるらしい。
    「ねぇ、どんな人?どんなヒト?」
     波乗は川上の事は全然知らないみたいだ。
    「……うーんと一言で言うなら……」
    「ムカつく奴。女を騙して何股もかけたり、気の弱い奴見つけて金せびったり、その場しのぎの口は冴えてて、せこい計算は超一流っていう噂や」
     口ごもる僕をよそに工藤は川上の悪口を言えるだけ言った。
    「……まぁ、世間の評判はもっぱらそんなところだな。でも、アイツはそんなに酷い奴じゃないよ」
    「ふーん……多記君が言うんだからホントは良い人なんだよね」
    「…………」
    「?」
     工藤は黙って何も言わなくなった。僕は上手く答えられない。波乗は僕と工藤の顔を交互に見ていた。



     教室へ入る。川上が机にうつぶせになり眠っていた。僕達が机を囲むように立つと、気配を感じたのか川上が起きる。
    「……よぉ、久しぶり」
     初め寝ぼけ眼だった川上は僕の顔を見ると、あからさまに嫌な顔をした。
    「今さら何の用だよ」
     僕は手短に説明をする。川上は爪をいじったりして真面目に聞かない。
    「オレはお前が嫌いだって知ってるよな」
    「……知ってる……それを承知で頼んでる」
    「だったら帰れ。お前の顔なんて見たくない」
    「あの……」
    「?」
     波乗が川上に話しかける。
    「あの……お願いします。情けないですが……私一人じゃあどうしようもないんです」
     波乗は深々と頭を下げた。しかし、それをシカトするように川上は再び机へうつぶせになる。それ以上何を言っても反応がないので、僕等は退散する事にした。






     夜、波乗の家。僕等はラジオを聴いていた。今日も宝条リンは下ネタ以外のコーナーで順調にハガキが読まれる。
    「やっぱり、川上は嫌な奴やったなぁ」
    「…………」
     波乗はともかく工藤には反対されると思っていた。川上の評判が悪い事は僕も知っているし、それは仕方の無い事だ。今の状態を解決する方法は別の人を探すか工藤を説得するかの二つしかない。とりあえず、現時点では別の人を探す方向で考えよう。
     そんな事を考えていたら番組はあっという間に終り、ハガキもあまり書けないままに波乗の家から帰ることになった。
     工藤と僕が玄関を出ると目の前には突然、華富玲子さんが立っていた。
    「元気だった? 多記君」
    「玲子さん……」
     波乗家に毎日来ているが、玲子さんはADの仕事をしているため、話す機会はほとんどないに等しい。それが、向こうから話しかけてきた。



    「でも今はこう呼ぶべきかしら……宝条リンさん」
    「!!」
    「考えたものね……一人じゃあ対抗できないから集団で一つの名義を使うなんて」
     宝条リンのハガキには……本名ではなく仮名で送っている。住所も波乗の家ではない。なのに何故分かったのだろう?不思議そうに僕の表情を察してなのか、玲子さんは疑問に答えてくれた。
    「私が多記君の筆跡を忘れると思ったの?昔は貴方のハガキを嫌というほど見てきたのに」
    「……そうでしたね」
    「え?なになに?私には全然わからへん」
    「僕は昔、玲子さんがパーソナリティーを勤めるラジオ番組の常連だったんだ」
    「そうなんや……でも、そのパーソナリティーがなんで今ココにおるの?」
    「それはオレが聞きたいよ」
     この疑問は僕が波乗に協力している理由の一つでもあった。しかし、今はその問いに答えてくれる様子は無い。挑戦的な眼差しで僕らを見ている。



    「そんなことより……貴方達、ハガキ職人GPを制したらどうするつもり?」
    「……玲子さんがそんな事を言うって事は宝条リンも上位へ食い込んできた証拠かな」
    「貴方達は黙って質問に答えれば良いの」
    「多記、なんかこの人ムカつくなぁ」
    「……波乗を父親に合わせるためだ」
     僕の答えを聞いた瞬間、玲子さんは目を見開き、はっきりした口調でこう言った。
    「だったら貴方達は敵ね」
    「!!」
    「貴方達を……いえ、澄音ちゃんを丈さんに会わせるわけにはいかない」
    「どういうことだ」
    「さあね。少なくとも今の澄音ちゃんを丈さんに会わせたくない人達が居るって事かしら。それに……貴方達がペンシル祭さん達、常連に勝てるの?」



     その口調はあくまでも上から見下した感じだった。少なくとも僕の知ってる華富玲子とは違う。僕がラジオを通して感じた彼女の人柄は人の痛みが良く分かる優しくて強い意志を持った人だった。
    「勝てるさ。そのために僕らは集まったんだ。まぁ、内部で作為的な操作が無い限りという条件付だけど」
    「私が故意に貴方達のハガキを弾くとでも?ふざけないで!!ハガキはすべて丈さんに渡しています!! それに、常連を甘く見ないで!!」
    「そっちこそ」
     僕はこんな話がしたいわけではないけれど、玲子さんの売り言葉に買い言葉でどんどん深みにはまって行く。
     結局、玲子さんとは何一つ核心を突いた話が出来ないまま喧嘩別れになってしまった。僕の心に残ったのは後悔と焦りだけ。






     次の日、やっぱり僕はもう一度川上に頼みに行く事にする。昔の事もあったので一対一の話し合いが良いような気がして、他の二人を説得に誘うのは止めた。
     昼休み。教室を出て川上を探そうとしたら工藤が僕を呼び止める。
    「なんだよ」
    「……どうせ、多記のことやから川上の所へまた行くんやろ?」
    「行かないよ」
    「ウソつかんでもええ。澄音なら今、先生に呼ばれて職員室行っとる。安心し」
    「別に安心する必要はないさ。何処へも行かないし」
    「ふーん。じゃあ、ずっと多記について行ってええよな」
    「…………」
     根負けした僕は工藤を連れて行くことにした。



     並んで廊下を歩きながらふと隣を見ると、工藤はなんだか楽しそうに大きく手を振って歩いていた。僕の視線に気付いた工藤と目が合う。すると彼女は急にしおらしくなり、俯いた。
    「……なぁ、行く前に教えてくれへん?川上とはどんな関係なん?」
    「……昔、川上と僕は友達だった」
    「!? 意外やなぁ……ん?……『だった』って事は今は違うん?」
    「……僕がアイツが好きだった女の子と付き合ってからは……疎遠になった」
    「えぇぇっ!!!!」
    「もちろん、アイツの気持ちは知らなかったのだが……川上にその子との仲を取持つように頼んだ……今思えば酷い事をしたと思ってるよ……」



    「そうなんや……あのさぁ……一つ聴いてええ?」
     工藤は凄く不安そうに僕に質問する。
    「ん?」
    「多記は今も……その女の子と付き合っとるん?」
    「いや、別れた……つーか、振られた」
    「そうかぁ!!そら、しょうがないなぁ!!」
     僕の返事を聞くと急に表情がにこやかになり、何回も僕の背中を叩いた。
    「工藤、何か急にテンション上がってないか?」



     屋上に行くと川上が一人で昼食をとっているのが見える。近づくと、川上は僕らと反対方向を向いた。
    「川上、頼む。ハガキを一緒に書いてくれ」
     長期戦は覚悟している。今日は多分駄目だろう。でも、何日でも頼むしかない。そうじゃなきゃあ……宝条リン勝てない。波乗が父親に会えないだけじゃなくて、僕だって玲子さんに近づけない。
     しかし、結論はアッサリ出た。
    「……協力してやっても良いぞ」
    「マジでか?」
    「ああ。その代わり……」
    「?」
    「この前もう一人居たろ……波乗って言ったけ?あの子とオレの仲を取持て」





    第9話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第10話 「こころ confusion」



     昼休み。始まってすぐオレの元に一人の女の子が来た。
    「……もう一度お願いに来ました」
    「今日は一人で来たんだ」
    「多記君達には内緒です」
    「……ふぅん」
     目の前に立っていたのは昨日、多記と一緒に来た波乗澄音だった。彼女はオレの顔を見たまま何も言わない。しかたなくオレが話しかける。
    「で? 何の用?」
    「ハガキを一緒に書いてください」
    「……嫌だ」
    「…………」
     オレの返事に波乗澄音は黙ってしまう。変な間がオレと彼女を包む。オレはその場に居るのが嫌になり立ち上がろうとする。



    「あっ……」
     波乗澄音は小さく呟いてオレではなく横を向く。横を見ると大柄の男が立っている。金を借りている佐藤だった。
    「……昨日の話し……なんだけど……バイト代って……いつ……でるの?」
    「あぁ!? 来月だよ、来月!! お前はそんな事気にしなくても良いんだよ!! 返すって言ったら返すって言ってるだろうがっ!!」
     佐藤にはいつも図々しく下手に出るやり方で接していたのだが、波乗澄音の事もありオレはついつい口調を強めてしまう。
    「ちっ、ちゃんと返すからあっち行けよ」
    「…………」
     腕力じゃあアイツに敵わないし、これで来月は返すことになるな……



     佐藤が居なくなって、またオレ達に変な間が出来た。
    「…………あの……」
    「なんだよっ!!お前のせいだからな!!お前のせいで来月返す事になったじゃねえかっ!!」
     明らかに八つ当たりだが、そんな事はどうでも良い。
    「……ごめんなさい」
    「…………チッ……なんで謝んだよ……」
    「でも、大丈夫なんですか?」
    「は?」
    「お金」
     波乗澄音の顔を見る……表情からして本気で心配しているようだ。オレは呆れた。
    「……オレの心配してどうするんだよ。アンタとは全然関係ねえし」
    「え?」
    「それに今の事で分かっただろ?オレは無責任でなんでも先送りにしちまう様な奴なんだよ。だからそんなに期待されても困るし、してほしくない」
     自分で自分の事を無責任だの何だのなんて言うのは恥ずかしい。でも、波乗澄音の真剣な顔を見ていたら何だか調子が狂った。いつものようなその場しのぎの軽口がなかなか出てこない。



    「多記君が言ってました」
    「?」
    「川上さんは酷い人じゃないって……信じてます。だからもう一度お願いに来ました」
    「だから……オレは……」
    「多記君が川上は必要だって言ってます」
    「…………多記のことよっぽど信用してるんだな」
     彼女は顔を真っ赤にして俯く。しかし、多記の名前が出てきたことがオレを冷静にさせてくれた。
    「だがソレとコレとは話は別だ。ハガキを書くのはお断り」
    「……あんまりしつこくしてもいけないし……でも……明日、また来ます」
    「勝手にしてくれ」
     波乗澄音は肩を落として帰って行く。その数分後、今度は多記達が来たのだった。







    「この前もう一人居たろ……波乗って言ったけ?あの子とオレの仲を取持て」
     突然、川上の口から波乗の話が出てきたので僕は少し動揺した。
    「だってお前、二人付き合ってる子が……」
    「関係ねぇよ。昔、オレがお前とアイツとの仲を取り持ってやったじゃねえか。この条件が飲めなきゃあ協力する事は……」
    「…………」
     迷ってる僕の腕を工藤は掴んで引っ張る。
    「多記、こんな奴おらんでも大丈夫やって!!下ネタ抜きでも枚数は稼げる!!」
    「どうするんだ?オレはどっちでも良いぞ」
    「…………」
    「なぁ、帰ろ」
     相変らず余裕ぶった表情を向ける川上。なんだか昨日の玲子さんと被った。
    「……わかった条件を飲む。ただし、ハガキ職人GPが終ってからにしてくれ」
    「あぁ、いいさ」
    「多記っ!!」
    「じゃあ早速、今日から波乗家でネタを書いてもらうから。夜、僕がお前を迎えに行く」
    「わかった」



     僕は伝えることを伝えるとさっさと廊下へ出た。工藤も後から付いてくる。僕は少しの間黙っていた。僕が黙っているのは玲子さんのことがあって自分を見失い、波乗の事を彼女不在のまま決めてしまった事からくる後悔からだと思う。そんな僕を見て工藤は話しかけてきた。
    「なぁ、玲子さんとのことでムキになって自分を見失ってるんちゃう?」
    「!!」
     工藤の核心を突いた言葉に僕は言葉を詰まらせた。
    「……そんなことない」
    「それに……ホンマにええの?」
    「何が?」
    「…………澄音の事」
    「はぁ?川上が波乗と付き合う事に関しては波乗とアイツの問題であって僕はきっかけを作るだけだから関係ない」
    「ふーん……まぁ……私はその方が都合ええけどな」
    「え?」
    「ううん、なんにもあらへん。こっちの話」
     とにかく、川上が手伝ってくれる事になった。それで良いじゃないか。宝条リンは死角がほぼ無くなった。後はハガキを書くのみだ。






     夜。僕が迎えに行くと川上は素直に付いて来る。もしかしたら、昼の事はその場しのぎのウソかもしれないと心配していた僕は安心した。
     玄関先まで来ると玲子さんが僕達の前を通り過ぎる。昨日の事もあり、無視された。川上は玲子さんを見て驚く。
    「おい、アレって……華富玲子だよな」
    「あぁ」
    「何でココに?」
    「そんなの僕が知りたいよ」
    「……なるほどな……お前が波乗家にこだわるわけだ。ハマってたもんな、あの人のラジオ」
    「…………」
     川上は僕が玲子さんの番組へハガキを送っていたのを知っている。昔からの付き合いだからしょうがないけど……



     波乗の部屋に入るとすでに工藤は居て、波乗と話をしている。川上の姿を見た工藤は横を向き、波乗は微笑んだ。
    「来てくれたんですね。ありがとうございます」
     波乗は深々とお辞儀をした。川上は途端に表情を崩し波乗の隣に座る。
    「いやー、多記にどうしてもって頼まれたから来たわけ。澄音ちゃんヨロシクね♪」
    「……調子のええ奴やなぁ」
    「はい!! おねがいしますっ!!」
     次の週から宝条リンの下ネタのハガキが次々と読まれ始める。
     これで全てが上手く行く……そう思った。





    第10話 終わり



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    第11話 「相談天国」



     夜。波乗家。今日も僕達は集まり、ラジオを聞きながらネタを書いていた。皆一様に真剣な表情でハガキに集中する。室内で聞こえるのはラジオから流れる波乗丈の声だけ。
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………あーーーーっ!!! もう駄目だ、我慢できねぇ!! お前らなんか喋れよ!!」
     いきなり川上がわめき出した。
    「なんだよ川上、集中力ねえな」
    「はぁ?多記、お前はバカか? こんな雰囲気でネタが書けるかっ!!」
     川上は立ち上がると僕を部屋の隅に引っ張った。



    「多記、よく考ろ……オレは女の部屋で下ネタ書いている……それに加え、手の届く所に女の子が居るんだぞ!! ……そういう状況で下ネタを書かなくてはいけない……こういうのへビの生殺しって言うんじゃないのか!! ……こんなに静かだと余計に意識するだろうが!! 騒いでないとやってられん!!」
    「……まぁ……気持ちは判らんでもないが……」
     目を血走らせて訴えかける川上に少し同情した。そんな僕達の背後にはいつの間にか工藤が立っていた。
    「川上、アンタが書いてるの……下ネタやんか。そんなデリケートなもんでもないやん」
    「おい、佳代。何で下ネタの前に『……』が付くんだ。バカにしてんのか!!」
    「ちょっと、気安く名前で呼ばんといて!! たかが下ネタ書く位でガタガタ言うなや!!」
    「何だと!! 下ネタは奥が深いんだ!! 良く聞け!! 下ネタを知らん奴はただエッチな言葉を直接使えばウケると思っている節がある。しかし、真の下ネタはそれにあらず!! あくまでも直接的な方法は使わない、例えばバイブ!!」



     川上の言葉を聴いて工藤は赤面した。
    「アホッ!! 直接的過ぎるわっ!!」
    「だから素人は困るんだ!! 携帯のバイブかもしれんだろうが」
    「はっ!!」
     驚いた工藤の表情を見て川上は満足そうに腰に手を当て胸を張って話始める。
    「わかったろ?下ネタで重要なのはダブルミーニングだ!一つの言葉で二つの意味を持たせる。十代青少年の妄想を直撃だっ!!」
    「悔しーーーーーーいっ!!」
    「だから、オレは考えなければいけない!! 単純に芸人のネタをパクってハガキ書いてるお前とは訳が違うのだ!!」
    「何やて!! お前に何が分かんのや!!」
    「やるのかっ!!」
     ケンカ腰の二人に慌てて割って入る。
    「落ち着け二人とも!!」
    「うるさーーーーーーーーーーーーーーーい!!」
    「え?」
    「なんや?」



     一気に室内が静かになる。僕等は「うるさい」と叫んだ本人……波乗を見た。
    「うーっ…… ハガキに集中できないでしょっ!!」
    「……すまん、波乗」
    「ごめんな……コイツがうるさいから……」
     川上はダッシュで波乗の横へつけると、土下座して謝った。
    「ゴメン、澄音ちゃん!! いや〜、そうだよねハガキに集中できないもんね。今すぐうるさい多記と佳代を排除するから!!」
    「アホ!! お前が一番うるさいんやろっ!!」
    「何だと!! オレはなぁ……」
    「うーっ…………」
     波乗はこれでもかというほど頬を膨らませ僕らを睨む。
    「……さっ、ハガキ書こうか」
    「うん……」
    「そうだな……」
     各人所定の位置についてハガキをかき始める。こうして室内はまた静かになった。



     実は少し前までこんな状態ではなかった。もっと和気藹々していたと記憶している。今の原因を作ったのは他でもない波乗なのだ。
     波乗は他のネタもちょくちょく書いているが、主にフツおた(普通のお便り)を書いている。他のネタがなかなか読まれないのは分かっていた。(最初に読まれたのはまぐれだとして)実は肝心なフツおたの採用率がかなり悪いのだ。
     フツおたの性質上、読まれにくいのは分かっている。だが、波乗は一人で自分の責任だと気負っているのだ。自然に口数も少なくなってくる。それを見て周りの人間が気を使ってあまり話さなくなる。という悪循環にはまっていた。






     次の日、学校で僕等は波乗に内緒で集まって相談する。
    「どうする? ……澄音ちゃんはもう限界だぜ……」
    「クラスでも表情暗いしなぁ……」
    「うーん……」
     皆一様に歯切れが悪い。自分達はかなり順調に読まれているから、余計気になるのだろう。このままでは他の二人の士気にも影響しかねない。三人揃えばなんとやらという諺も空しく良いアイデアが浮かばない。
    「オレがフツおた書こうか?」
    「駄目だ」
    「なんだよ、多記。お前、オレが澄音ちゃんと仲良くするのが嫌なんだろう」
    「バ……バカ言うな」
    「澄音の事なんとも思ってないんやろ? それやったら、言葉詰まらさんでもええやん」
    「うっ……」
     なんだかこの二人の風当たりが強いと思うのは僕だけだろうか?



    「違う。あれでもアイツはプライドが高い。せめて自分が受け持ったコーナーは自分でやり遂げたいと思ってるはずだ。中途半端な同情はいらない」
    「確かに言えてるなぁ……」
    「じゃあ、どうするんだよ」
    「……とにかくオレ達がハガキ書くのを手伝うのは無理だ。ネタ自体はアイツが自力で書くことができて、さらに波乗をサポートできる方法はないものだろうか?」
    「そんな方法あるやったら、とっくにやっとるわ」
     僕も自分で無理な事を言ったのは分かっている。だから、工藤の反応ももっともだ。川上だって腕を組んで考え込んだままだし。
    「ネタ以外でのサポートか……オレ達が文字を書かずにできること……」
     簡単に結論は出ない。今でも十分ハガキは読まれているんだから何とかなるはずだ。波乗には悪いが……と僕は諦めの結論を出そうとした。



    「そうかっ!!」
    「何だ!?」
    「どうしたん?」
     突然、川上が大声を上げた。
    「オレに考えがある……多記、ちょっとこっちへ来い」
    「え? 何だよ」
    「なんや、私はのけもん?」
    「これはプライベートな話だから、佳代は残れ」
    「は? それと澄音とどう関係があるん?」
     僕は川上に少し離れた所へ連れて行かれた。そこで、川上から耳打ちされる。
    「澄音ちゃんを救うにはこれしかない…………を……と思うんだ」
    「!!!!」
    「佳代や澄音ちゃんは同じ……だし、問題ねえはずだ。あとはお前だけ」
    「…………」
     それは僕にとって青天の霹靂といっていいような事であった。
    「澄音ちゃんを救いたいだろ?」
    「あぁ……」
    「じゃあ問題ねぇよな」
    「……わ、分かった……」
    「んじゃあ決まり。早速、今夜から来てもらうからな」
     僕は……どうしたらいいのだろう……少し憂鬱になった。





    第11話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第12話 「元カノ」



     夜になり、僕等は波乗家に集まる。しかし、今日はいつもとは違う空気が漂っている。タイミングを伺っているのだ。
     川上は突如立ち上がり咳払いをする。僕と工藤はハガキを書いている手を休め、川上を見上げた。少しして、皆なの異変に気付いた波乗も顔を上げる。全員の視線が集まったところで川上は話を始めた。
    「いきなりだけど今日、宝条リンに新しい人を入れようと思う」
    「川上、お前が勝手に決める事とちゃうやろ」
     すかさず、工藤が口を挟む……っていうか、彼女には昼休みに新しい人が加入する事を伝えてある。要するに演技だ。
    「まぁ、待て。オレの話を聞け。これは多記も既に知っていることだ」
    「しょうが無いなぁ、認めるわ」
     工藤、早く了承し過ぎだ……。波乗は僕の顔をじっと見ている。
    「オレはこの宝条リンに重要な欠陥を発見した」
    「わー、ホンマにか?なにや、なにや」
     工藤……もう喋るな……
    「それは……ヴィジュアルだ」
    「は?」
    「オレ達文字ばっかり書いてるだろ?それじゃあ目立たないし、同じ様なネタがあった場合、最後にモノを言うのは付加価値だと思うんだ」



    「付加価値……」
     波乗が呟く。よし、話に入り込んできた。そこで僕は川上と交代する。川上は携帯で連絡を取る役目だ。
    「アイキャッチをハガキにつけようと思う。お笑いネタ系のラジオ番組では有効ではないが、アイドル・声優系統のラジオ番組では有効だといわれている。ネタとは関係ないが選者の目に留まるようなイラストを入れる方法のこと。ネタを読んだあと『かわいいイラスト付きでぇ〜す』といわれるようなハガキだ」
    「それやったら、私は関係ないなぁ。お笑いネタ系のコーナー担当やし」
     工藤は普通に答える。彼女には新しい人が入ってその人はイラストを描くとしか伝えてなかった。
    「そうだな、もちろん川上も下ネタ担当だし関係ない……恐らく……主にフツおたに関係あることだろ」
    「!!」
     『フツおた』と聞いて反応する波乗。僕の顔をじっと見てる。



    「ちげーよ!!そこじゃないって!!道なりに来れば良いって言ってるだろ!! ……あぁ、もう、しょうかねぇなぁ。今から迎えに行くからそこ動くなよ!!」
     川上は携帯に向かって大声でわめいている。
    「駄目だ。多記、オレ迎えに行ってくる」
    「……やっぱりか……頼んだ」
     川上は携帯で話をしながら部屋を出て行く。
    「何や、何があったん?」
    「いつものことだ気にするな。……って言っても最近は会ってないから何とも言えないけど……」
    「多記、アンタとその子どういう関係なんや?」
    「……それは……」
     僕が答えに困っていると、今まで黙っていた波乗が喋りだした。
    「……多記君、もしかして……私のせいで新しい人を入れなきゃならないの?」
     『私のせい』という言葉使いからも波乗は肯定的には受け止めていないらしい。波乗の言葉に工藤は慌てて僕をフォーローする。
    「澄音、アンタのハガキな……ネタは悪くない無いと思うんやんか。ただ、選者のめに止まらんだけっちゅーかな」
    「私のハガキはお父さんの目には止まらないの……」
     工藤はさらに慌てて声を上ずらせて喋り続ける。
    「ち、違うって……ほ、ほら、フツおた書くの上手いクックルドゥーとかいう奴がよくイラスト付ですとか『ラジオデイズ』で紹介されてるの聴くやん。だから……」
    「もういいよ……皆と違って才能の無い私は絵を書かないと読まれないようなハガキしか書けないんです……」
    「…………」
     波乗は俯いてそれ以上何も話さない。工藤も掛ける言葉が無くなって俯いてしまう。かなり重症だ。こうなったら下手な慰めは必要ない。僕は言う事にした。
    「おい、波乗。良く聞け……」



     僕が続きを話そうとしたとき、ドアの向こうから大きな足音が聞こえてきた。室内にいる三人の視線が自然にドアに集まる。この部屋のドアは引いて開けるのだが、何とも押して入ろうとした後、少し静になり、ドアが勢い良く開いた。
    「あっ、タッくん……もーっ!!ドコだかわかんなかったぁぁぁぁ!!」
    「リンっ!!」
    「はぁ?」
    「えっ?」
     入ってきたのはツインテールの女の子。もの凄い勢いで僕に走りよってくると抱きつくようにぶつかった。
    「リンちゃんねー、リンちゃんねー、歩いてここまで来たのぉ、リンちゃんねぇー、道なりに来いって言われねー、リンちゃん迷子だったのぉ〜」
    「矢継ぎ早に言うな、とりあえず落ち着け」
    「矢継ぎ早って何?リンちゃん、わかんない」
    「……分かったから、とりあえず離れろ」
     僕は後ろからの刺すような二人の視線を感じてリンに言う。リンはそれでも離さない。
    「嫌!! そんなのお断リン!! だって、リンちゃん怖かったんだもん!!」



    「べ……別にええよ。そ、そのままで……何か二人共仲がええみたいやし」
     工藤がメチャメチャ歯を食いしばりながら話すのが後ろから聞こえた。僕がどうして良いか分からないで居ると、ようやく川上が部屋に入ってきた。僕はリンが抱きついたまま川上の方へ移動する。
    「何だ?この状況は……まぁ、いいか」
    「よくない!!川上、何とかしてくれ」
    「そうだな……えーっと、お二人さんに紹介するよ。多記の”元彼女”の琴和リンです」
    「なんやてっ!!」
    「!!」
     川上の言葉を聞いた工藤は大声を上げ、俯いてる波乗は肩が反応した。
    「おい、川上!!」
    「いいじゃねえか、いずれはバレる事だし。最初に言っておけば」
    「リンちゃんだよ!!」
    「…………」






     昨日に負けず……いや、昨日以上に重苦しい雰囲気が室内を包む。とりわけ工藤からは圧倒的に攻撃的な視線を感じる。
    「別に気にする事じゃねぇよなぁ、なんせ前の”彼女”だしな、今は”彼女”じゃないし」
    「川上、ことさら彼女を強調するのは止めろ」
    「え?何?”彼女”を強調するな?わかったよ、”彼女”って言わなかった良いんだろ?”彼女”って」
    ボキッ
    「あれ?おかしいなぁ。今日はシャーペンの芯がよく折れるなぁ……って思ったらシャーペンごと折れとったわ……」
    「…………」
    「わーっ!!すごい!!すごい!!リンちゃんに見せて!!」
     リンは大声を上げ、工藤に抱きついた。
    「なんや、なんや。纏わりついてくるなっ!!」
    「お断わリン!!カッちんに抱きつく〜」
    「誰がカッちんや!! 多記、アンタの元カノやろ。何とかしてや」
    「無駄だ。リンは気に入った人なら誰にでも抱きつく」
    「わー、なんかカッちん良い匂いがする〜」
    「こ、コラ……やめ……重い……」
     何となく仲良くなりつつある二人だった。リンのお陰か室内が騒がしくなる。



     工藤はこれでいいとして(?)僕は波乗の様子を伺う。さっきから黙々とハガキを書いている。リンの騒ぎにも一向に動じない。なんとか、リンと仲良くしてもらわなくてはアイツを呼んだ意味が無い。僕は波乗の隣に言った。波乗は僕が来ると少し離れた所へ移動する。さらに近づくと移動した。
     仕方が無いので離れたまま話しかける。
    「とりあえず……アイツ……あんな奴だけど、絵は上手いから。アイキャッチには十分だと思う……だから今日から早速、ハガキに絵を……」
    「……いらない」
    「そう言うなよ。これでも皆、お前を心配してわざわざ……」
     と言いかけて慌てて口を閉じる。しかし、時既に遅し。波乗にはしっかり聞こえていた。
    「多記君に私の気持ちなんか分からない!!」
    「…………」
     騒がしかった室内が一気に静まる。



    「私はどうせ……才能のある皆に心配されるような……足手まといだよ……」
    「……波乗、聞いてくれ、僕は……」
    「うるさいっ!! 皆に才能の無い人の気持ちなんて分かるわけが無いよっ!!」
    「!!」
     後になっていつも気付くのだが僕は意外に短気なのかもしれない。波乗の一言で僕も頭に血が上ってしまったから。
    「あぁ、分からないね」
    「…………」
    「さっきから才能、才能ってウザいんだよっ!! 才能を言い訳にして泣き言を言う奴の気持ちなんか分かりたくもねぇなっ!!」
    「!!」
     波乗は瞳は潤んでいた。歯を食いしばり僕を睨んでいる。拳は握られ震えていた。
    「…………」
    「…………」
     彼女は何も言わず室内を出て行った。僕は追いかけない。
    「何? かけっこ? よーし、負けないぞー!!」
     走り去った波乗をみてリンは面白がって追いかけて行った。





    第12話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第13話 「好き!好き!!大好き!!!」



     波乗とリンがいなくなると室内は静かになる。僕は追いかけるタイミングを失っていた。立ち尽くしている僕に後ろから声が掛かる。
    「行った方がええんちゃう?」
    「えっ?」
     振り向くと工藤だった。
    「澄音はともかく……リンちゃんはここへ来るの初めてやし、迷わへんの?澄音の家の敷地って結構広いし……」
    「あ……そうだな……じゃあ……リンを探してくる」
     工藤の言葉に背中を押され僕は部屋を出た。





    「川上、これワザとか?」
    「何がだよ」
    「澄音と多記がああなるって計算してリンちゃんを呼んだんか?」
    「別に計算なんかしてないぜ。絵が書ける奴を入れたほうが良いって言うのは本当に思ったことだし……あれは計算外だ」
    「アンタって……卑怯な奴やな」
    「……そうか?」
    「?」
    「お前も知ってるだろうけどオレは澄音ちゃんを狙ってる。だったらなるべく不安要素は排除しておいた方が良いだろ?だいたい恋愛に卑怯も何も無い。モノにしたら勝ち、振られたら負け、それだけだ」
    「……最低」
    「卑怯、最低で結構。それより……お前こそどうなんだよ」
    「何が?」





     私はいつの間にか走りだしていました。感情的になって……皆を困らせて……あんなこと言ってしまって……部屋を飛び出して……情けないです……
     敷地内は大きな森に囲まれています。私は森の中へ入りました。一人になりたい……この一心です。しばらくして息切れがしたので私は走るのを緩めました。ここまでくればもう誰も追ってこないはずです。そろそろ立ち止まろうとした時、私の背後に何かが迫って来る気配がしました。
    「いっちばーーーーーーーーーんっっっ!!」
    「!!」
     琴和さんでした。彼女は私を通り過ぎると少し先の木にぶつかるようにして止まりましす。
    「この木がゴールだからねっ!!だからリンちゃんがいちばーん!!」
    「…………」
    「でも、リンちゃん……疲れたのぉ……」
     彼女はその場に倒れこんでしまいました。





    「誤魔化すな……多記が好きなんだろ?」
    「……アンタには関係ないわ」
    「だったら何で素直に澄音ちゃんを追いかけろって言えなかったんだよ。よく人の事を卑怯だの最低だの言えるな」
    「!!」
    「お前だって澄音ちゃんが多記とケンカして少し安心してるはずだ……」
    「黙れ!!私は……」
    「なぁ、オレ達目指すモノははっきりしてるだろ?だったら、協力しようじゃねえか」
    「えっ!?」
    「お互いが上手く行くようにサポートするんだ」
    「…………」
    「考えてみな……好きな人の隣に自分以外の誰かがいる光景を」
    「…………」
    「嫌だろ?悲しいだろ?このままだと多記はお前じゃなく……」
    「……分かった……お互い、どっちが上手く行っても恨みっこ無しや……」
    「あぁ、分かった。交渉成立な」





    「大丈夫ですか? 琴和さん」
     何故だか私は倒れている琴和さんを介抱しています。
    「うーん……ここどこ?」
    「あっ、良かった……気が付いて……」
     琴和さんは立ち上がりました。そして何かを考えているようです。
    「リンちゃん……走って……リンちゃん…………リンちゃん……」
    「私について来ましたよ」
    「そうそう!!リンちゃん、一番になったんだ!!あー、面白かった。さっ、帰ろ」
     しゃがんでいる私に琴和さんは手を差し出します。私は俯きました。
    「はーちゃん、帰んないの?」
    「…………私は帰れません」
    「何で?」
     俯いている私を覗き込むように琴和さんが話しかけます。彼女は屈託の無い笑顔で『何で?』と私に尋ねました。そんな素直さが少し羨ましいです。
    「すいません……帰りたくないんです……琴和さんだけ帰ってください」
    「うーん、リンちゃん意味がわかんない……でも、いいや。先に帰るね!!」
     琴和さんはあっさり踵を返して歩いて行きました。足音がどんどん遠ざかっていきます。
    「…………」
    「…………」
     しかし、またすぐに足音が近づいてきました。
    「?」
    「ここ、何処だかわかんないのぉぉぉ!!」





     僕は名目上、リンを探しに外へ出た。売り言葉に買い言葉とはいえ、言ってしまった事を後悔している。森の中へ入って少し歩くと、誰かが踏み倒した草を見つけた。しかもその後はすっと先に続いている。非常に分かりやすい跡だった。
     波乗が頑張っている事は皆知ってる。だからこそアイツにも結果を出して欲しいと思った。
     でも、会いたくもなかったリンまで呼んだのにこのざまだ。僕は手伝わなかった方が良かったのだろうか?余計な事をしたのだろうか?一人で考えたって答えなんかでない。もう一度波乗に会ってキチンと話をしよう。
     草を辿っていくと人影が見えた。その数二つ。きっと波乗とリンなのだろう。二人ともツインテールなので良く分かる。髪の結び目が肩に近く下についるのが波乗で、上のほうについているのがリンだ。僕は早足で近づこうとした……が止める。それは二人が会話をしていたからだった。





     結局、琴和さんは私の隣に座っています。さっきまで帰れないと半べそをかいていたのに今はもう御機嫌で、鼻歌混じりに木の枝で地面に絵なんか描いています。地面に描いた絵なのに凄く上手いのが分かりました。
    「琴和さんは良いですね……絵を描く才能があって」
    「リンちゃんねー、才能ってよく分かんないのぉ」
    「……そうですか」
    「…………」
    「…………」
    「はーちゃんは何でハガキを書くの?」
    「え?」
    「リンちゃんねー、好きだから絵を描くのぉー」
     私は何でハガキを書いてるんだろ? ハガキ職人GPで一番になりたいから? 本当にそうでしょうか?……いえ、違います。
     私は……私は……家族を取り戻したい……皆でご飯を食べたいんです……
     これは、しばらく考えて無かった事です。ただハガキを読まれたいと思う一心で何かを忘れていました。



    「私は……お父さんに会いたいんです。『ご飯を食べましょ?』って言いたいんです」
    「はーちゃん、お父さん好きなんだねっ!!」
    「はい!!お父さんもお母さんもお兄ちゃんもおじいちゃんもおばあちゃんも皆、皆、大好きです!!」
    「リンちゃんも!! ダディもマミィも姉上様もグランパもグランマもだーい好き!!」
     そうです。私には才能なんて無くても良いんです。私に大切なのは……皆が好きという気持ちだと思います。
     もしかして、琴和さんはこの事を分からせるためにワザと私についてきたのでしょうか?
    「琴和さんもしかして……私のこと」
    「リンちゃんオナカすいたぁ〜。リンちゃん帰りたい〜。リンちゃん、リン界点寸前〜」
    「…………」
     ……気のせいだったみたいです。私は立ち上がりました。
    「琴和さん、帰りましょうか?」
    「うん!!」
     でも、琴和さんは立ち上がりません。
    「どうしたんですか?」
    「はーちゃん、おんぶ〜」



     琴和さんをおんぶして少し歩くと目の前に多記君が現れました。さっきの事もあり、いざ多記君を目の前にすると何も話すことが出来ません。
    「…………」
    「…………」
     先に話しかけたのは多記君でした。
    「色々考えたけど……やっぱり波乗にはハガキを書く才能なんて無い」
    「…………」
    「でも、お前は……家族を取り戻したいって気持ちを持ち続けている」
    「え?」
    「お前の気持ちが皆を引き逢わせたんじゃないのか?少なくとも僕はそうだぜ」
    「多記君……」
    「人を引き寄せるのも立派な才能だと思うんだが……どうだろうか?」
    「……ありがとう」
     涙ぐむ私を見て多記君はどうして良いか分からずオロオロしています。私も溢れるものが止められ無くてどうしようもないです。
    「ハガキのネタの事はオレ達に任せろ。そういうセコセコした事は得意なんだ」
    「……うん」
     頷くことしか出来ませんでした。



     私が泣き止んだ頃。多記君が話しかけます。
    「重いだろ? よし、僕が背負ってやるよ。リン、こっち来い」
    「お断わリン!!」
    「お前が断るなっ!!」
    「リンちゃん重くないもん、はーちゃんの背中が良いもん」
    「……お前なぁ」
    「いいですよ」
    「波乗……」
    「今はこの重みが心地良いんです」
    「……良く分からんが……まっ、いいか」
     私達は歩き始めました。もう立ち止まりません。森を出ると家の前で佳代ちゃんと川上君が手を振っています。
     今、私の気持ちはハッキリしました。皆……皆……大好き!!





    第13話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第14話 「はい……リーダーです」



     時間は確実に流れている。気が付けばもう六月末。四月から始まったハガキ職人GP前半戦が終る。波乗の話によればもうすぐ中間発表があるらしい。これで宝条リンの実力がはっきりするわけだ。
     今日もラジオからジョニーこと波乗丈が勢いのある喋りで放送をしている。
    『さぁ!! 今日から中間発表までの一週間は特別企画と題してFAXネタを大募集だ!!ポイントを稼ぐチャンスだぞ!! お題はもちろん一発ネタで行こう!!』
    「何っ!!……お前ら、チャンスだ!! さっそくネタを……」
     僕がラジオから振り向くと机には川上しかいなかった。室内を見渡すと何故か隅のほうで波乗、工藤、リンが固まってなにやらヒソヒソ話をしている。
    「えっ!? ホンマに? ……で? ……うんうん……」
    「……なのぉ〜、それでリンちゃん……」
    「…………(波乗黙って物凄く頷いています)」



    「アイツ等、何やってんだ?」
    「知らんほうが良いぞ」
     僕の呟きに川上が口を挟む。川上はあの三人には関わらず、黙々とハガキを書いている。
    「何で?」
    「ああやって女が集まってる時はろくな話をしていない。変な男の話だとか元彼の悪口だとか……とにかく露骨に言う。男が耐えられる内容ではない。一言で言えば『えげつない』だ!!」
    「川上……実感こもってんな」
    「あぁ……経験済みだ」
     なんだか川上が顔を引きつらせて笑っている……相当辛い過去があるのだろうか……
    「でもさぁ、元彼の悪口なんて付き合ってた自分を貶める行為じゃないのか?」
    「そんなのどうでもいいんだよ。アイツ等は話をしたいだけなんだから」
    「ふーん……」
    「…………」



     冷静に考えてみる……アイツ等が集まって男の話といえば……よく見るとリンが主に喋っているみたいだし……
    「待て……元彼の悪口って……」
    「多記、気を落とすなよ」
    「わあぁぁぁぁぁっ!!!! お前ら、その辺で話を止めろっ!!」
     声を聞いて三人は同時に僕を見た。リンはいつもどうりだが、工藤はニヤついてて、波乗は顔を真っ赤にしている。
    「さぁ〜、ハガキ書こか〜(工藤、メチャメチャニヤついてます)」
    「リンちゃん、絵を描く〜!!(いつもと変わりなし)」
    「…………(波乗顔を真っ赤にして俯く)」
     誰か教えてくれ……何を話していたんだ……いや、やっぱり言わなくていい……



     ものすごく話の内容が気になったが今はそんな事を言っていられない。
    「今日から一週間、FAXのコーナーが増えた。よって宝条リンもガンガンFAXを送る」
    「でもよぉ〜、放送中もハガキのネタとかジョニーの言動をメモしたり、やる事は一杯あるぜ」
    「確かに、でもFAXは放送中ずっと送らなくていい。ラジオデイズは三時間番組だから、ぜいぜい一時間チョットが限界だな。それ以降に送っても前半届いた分だけで読まれないだろう。前半勝負という事で」
    「なんでFAXだけなんやろ? メールとかの募集ないんかな」
    「……ごめんなさい、波乗家は貧乏です……」
    「別に澄音のせいと違うやん」
    「……違うの……家にFAXが無いの」
    「えっ!!」
     ラジオブースにはFAXあるのに家には無い……波乗家……大丈夫か?
    「だけど、折角のチャンスを無駄には出来ない……近くのコンビニに行こう。僕と川上が紙をコンビ二まで運ぶからネタ作りは頼んだ」
     こうして宝条リンFAX大作戦は始まった。
     波乗家から近くのコンビニまで500m弱。しかも波乗の敷地は大きく坂道だ。行きは楽だけど帰りがシンドイ。僕と川上は放送から1時間チョットの間、走ってコンビニと家を行き来していた。
     こうして四日が過ぎる。



     波乗家でハガキを受け取りコンビニへ走った。さすがに体がシンドイ。だが何とか気を取り直してコンビニへ到着すると川上が居た。
    「なんだよ、まだ送ってなかったのか?」
    「先客が居るんだよ……」
    「……あぁ……なるほど……」
     四日連続でコンビニへ行くと、その時間帯に居るバイトだとかお客だとかを覚えるもので、FAXコーナーには僕らが行くといつも先客が居た。黒髪で髪の長い女性。年は僕らより少し上ぐらいだろうか?切れ長の目に眼鏡をかけていて理知的なタイプに見えた。
     彼女も僕たちの顔を覚えたようで、すれ違いざまに会釈をしながらチラチラと見てくる。もしかして「ラジオデイズ」のリスナーかな?と思いながらも聞けずじまいのままだ。
    「やっとオレの番が来た!!よし、送るぞ」
     FAXの効果はあったようで宝条リンはかなりポイントを伸ばした。






     そして最終日。さすがにこのぐらいになると体の疲れがピークだ。ネタを送信すると波乗家に向かう。室内に入ると行き違いでネタを運ぶはずの川上が倒れていた。
    「何してんだ、川上」
    「もう駄目……ギブ……」
    「頑張れ、後もう少しだろ」
    「……後は頼んだ、リーダー……」
    「誰がリーダーだ!!」
     川上はネタが書かれた紙の束を僕に渡すと、動かなくなった。紙を渡され茫然としている僕に声が掛かる。
    「あっ、ついでにジュース買ってきな。炭酸のやつ。頼んだでリーダー」
    「工藤!!」
    「リンちゃんね〜、『新・稲川淳二のすご〜く怖い話・初版本』っ!!」
    「売ってねーよ!!」
    「リーダー!!」
    「何だよ波乗、お前まで……」
    「……ついて行って良い?」
    「え?」



     僕が考えていると工藤の声が聞こえた。
    「二人で行ったらアカン!!」
    「なんでお前が言うんだよ……でも、確かに僕一人で十分だ」
    「男の子だけ外に出てズルイ……」
    「…………」
     波乗は上目遣いで僕を見る。うぅ……こういうのに僕は弱い。
    「……しょうがねぇな」
    「じゃあ、私も行くわ」
    「リンちゃんも行く!!」
    「はぁ!?」
    「だって、もうすぐ一時間経つし、ネタは書かんでええやろ?」
    「……勝手にしろよ」
     多分、こうなったらもう止められないだろう。



     ということで川上を波乗家に残し、コンビニへ向かう。
     コンビニに着き、店内に入ると工藤は本の立ち読みを始め、リンは勝手に店内を物色し始めた。波乗は何故かオレの隣にいる。
     FAXにはいつもの女の人が立っていた。今日も紙を何枚か送信している。波乗が僕の腕を肘で突付く。
    「何だよ」
    「あの人もリスナーなのかな?」
    「さぁ? ……どうだろ?」
     ふと腕の間から紙が見える。一瞬だけだったが『カップラーメン症候群』と書かれてあった。意味分からん。シュールネタ好きか?しかし、ラーメンネタ好きの波乗丈の好みを的確に付いている。これで少なくとも彼女がリスナーだと判った。
     しばらくして送信し終わった彼女が振り返る。いつもならここで軽く会釈をして帰って行くはずなのだが……
    「今日はもう一人の方は居ないのね」
    「え?」
     突然話しかけてきた。



    「……はい。日頃の体力不足がたたっちゃって……」
    「貴方はどうなの?」
    「えっ、僕は……シンドイですけど責任ありますし」
     僕を詰問するかのように質問をしてきた。切れ長の目で眼鏡装着。余計に責められている気になる。答えを聞いて満足したのか、腕組みをして流し目で僕を見てくる。
    「そう……頑張るわね……宝条リンさん」
    「!! ……なぜその名前を!?」
    「だって、その紙に書いてあるじゃない」
    「あっ……」
     僕が持っている紙に大きく『宝条リン』と書いてあった。
    「確か宝条リンって何人かでネタを書いている人達よね」
    「良くご存知で。じゃあ、アナタも『ラジオデイズ』のリスナー?」
    「一応ね。まさかこんな所で会うとは思わなかったけど……貴方達、私の周りではかなり話題になってる」
    「……そうなんですか」
     彼女の口が少し開かれて笑っているように見えるが、目は全然笑ってない。観察されているみたいだ。



    「貴方がリーダー?」
    「いえ……僕は……」
     僕が否定をしようとすると波乗が僕の前に立った。
    「この人がリーダーです!!」
    「波乗!!」
     波乗に乗じて工藤が僕に何か渡してくる。
    「そうや、この人がリーダーや。そして、リーダーやからこの本も買ってくれる筈」
    「買わねーよ」
     さらにリンが買い物籠に大量のお菓子を持って現れる。
    「リンちゃんね〜、これ……」
    「買わねーっ!!」
    「リンちゃん、まだ何にも言ってないのに……」
     ……と、くだらねぇコントをしてる場合じゃない。この人は一体誰なのだろう?
    「……そういう貴方のPNは? ネタを送っているのだからPNあるんでしょ?」
    「私はただのリスナー。それじゃあね。また、会えたら会いましょう」
     結局、女性は自分の言いたい事を言って帰っていった。



     大量の荷物を抱え波乗家に帰った僕達はラジオを聴いていた。
    『じゃあFAXネタを。PNペンシル祭から!! あっ、多分これオレの事だね「カップラーメン症候群」!!』
    「はぁ!?」
    「どうしたん?変な声を上げて」
    「さっきのネタ……ペンシル祭だったよな……」
    「うん。そうやけど」
    「じゃあ……あの人がペンシル祭……」
     意外なところで最強の敵……ペンシル祭に会ってしまった。……という事はペンシル祭はこの辺りに住んでいるのか?
    『貴方達、私の周りではかなり話題になってる』
     彼女の言葉を真に受ければ、他のリスナーもこの辺にすんでいる事になる。考えてみれば波乗家からの電波はこの辺にしか届いていないのだから、近くに住んでないと聞けないわけか……案外、街中なんかですれ違っているのかもしれない。そう考えたら何だか迂闊に街中歩けねぇなとか思ったりする。(←自意識過剰)
    「なぁ、リーダー。そこのお菓子も開けてーな」
    「私もさっきから気になってた……リーダー、開けてください」
    「リンちゃんはね〜」
    「オレはリーダーじゃねぇ!!」
    「…………(川上復活せず)」
     こんなやり取りをしながら明日、ハガキ職人GPの中間発表を迎える。





    第14話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第15話 「第19回ハガキ職人グランプリ中間発表」



     今日は特別の日です。待ちに待ったハガキ職人GPの中間発表の日。皆もいつもより早く集まる事に決定です。私が部屋で待っていると最初に多記君が来ました。
    「あれ?オレが一番乗りか」
    「うん」
     多記君は私より少し離れて座りました。座ってしばらく、腕組みをして下を向いたかと思えば、今度は座り直したりして、何だか落ち着きが無いです。
    「多記君、緊張してますか?」
    「し、してねぇよ……そういう波乗はどうなんだ?」
    「私は……感謝してます」
    「はぁ?」
    「前はこんなんじゃなかったから」
    「…………」
    「いつも発表の前には諦めていました……これも皆のお陰……特に多記君には感謝してます」
    「止めろよ照れくさい」
     多記君は顔を赤くしてそっぽを向いてしました。でも、本当に感謝してます。神様、仏様、多記様って感じ。でも、仏様は死んだ人のことなので仲間に入れません。



    「ちーーーーーーーすっ!!」
     気合の入った大声とともに川上さんがドアを開けます。川上さんの服装に私と多記君は呆然としてしまいました。
    「川上、何でタキシードを着て来るんだよ」
    「バカ野郎!!今日は大切な日なんだぞ正装してくるに決まってるだろ」
    「別にテレビに映るわけじゃないし、中間発表だろ?」
    「そ、それはそうだが……駄目なのか?」
    「いや……意味無いだろ」
    「そうか……」
    「えーーーーーーっ、意味あらへんの!?」
     川上さんの後ろにはスパンコールとビーズを散りばめた紫のパーティードレスを着た佳代ちゃんが立っていました。二人を見た多記君はため息をつくと一言言います。
    「……とりあえずお前ら座れ」



     今、室内には普段着を着た私と多記君。タキシードを着た川上君。パーティードレスを着た佳代ちゃんが座っています。確かにいつもとは違う雰囲気。
    「あーっ!! こんなんやったら来る前に多記か澄音に電話して確かめればよかったわ!!」
    「お前らその格好で町を歩いてきたのか?」
    「……そうや」
    「……そうだけど」
    「プッ」
    「笑うなっ!!」
     でも、二人の気持ちは分かります。それだけ大切な日なんです。
     しばらくして、大きな足音が外からしました。琴和さんが来たみたいです。
    「おまたせ〜!! リンちゃん登場!!」
    「!!」
     私達の目の前には純白のウエディングドレスを着た琴和さんが立っています。これで三対二になってしまいました。



    「何でお前らそんな服を持ってるんだよ……」
     普段着組の私達の方がおかしいみたいです。多記君は呆れていました。この光景を見た私の気持ちを多記君へ正直に伝える事にしました。
    「多記君……」
    「なんだよ」
    「私もドレス着ていい?」
    「…………勝手にしろ」
     私も急いでカクテルドレスに着替えます。
     ということで「ラジオデイズ」が始まる頃には多記君以外皆、正装になりました。こういう状況になると私の部屋に居るのが勿体無くなります。そう思っていたのはどうやら私だけではなかったみたいで……佳代ちゃんが皆に提案しました。
    「なぁ、折角の中間発表やし、玄関にあるラジオブースから聴かへん?」
    「佳代、珍しく良い事言った」
     川上さんも賛成しました。琴和さんはもう立ち上がっています。多記君はもう何も言いません。



    『さぁ、みんなおの待ちかね、第19回ハガキ職人グランプリの中間発表だ!心して聞けよ!』
     私達はラジオブースの前で発表を聴いています。さっき華富さんが顔を引きつらせながら私達を見ていきました。やっぱりラジオブース前にドレスの集団が居たら変でしょうか?でも、お父さんはこっちを見ずに淡々と番組を進めています。
    「私達頑張ったよね?」
    「あぁ……」
     何か言葉数が少ない感じをみると、多記君も緊張しているみたいです。そんな皆の緊張をよそにお父さんの話は続きました。
     この中間発表では上位10人を発表します。ドキドキします。
     10位、9位、8位、7位、6位発表されますが、宝条リンの名前がありませんでした。不安です。



    「宝条リン……ランク外なのかなぁ……」
    「いや、大丈夫だ。6位の読まれた枚数が76ポイントだ。俺たちは少なくともそれよりは上のはず」
     不安になった私を多記君はフォローしてくれます。少し勇気がわきました。いよいよベスト5の発表。私達は息を飲みます。

    『注目のベスト5の発表だ!まずは第5位!PN、クックルドゥーで84ポイント!!』

    「はぁ〜〜〜〜〜っ」
     私達は同時に息を吐きました。放送はクックルドゥーさんの簡単な紹介があった後、続けて第4位の発表されます。

    『第4位!!……PN、100g98円で88ポイント!!』

    「多記君!じゃあ私達ベスト3に入ってるんだ!」
    「ああ!信じられないが、そうみたいだな!」
     私はこんなにワクワクするのは初めてです。思わず手に汗握りました。きっと、多記君も同じ気持ちです。私は皆にハンカチを渡しました。皆はそれを黙って受け取り、手を拭いています。
    『とうとうベスト3の発表だ!!今回は初登場のハガキ職人がいるぞ!!』
     初登場はきっと私達です。心臓の音がドキドキからバクバクに変わりました。横目で多記君を見ると、目を瞑り、口をへの字に曲げて下をむいていました。私も同じ格好をします。

    『第3位はペンネーム、気まぐれサーファーで94ポイント!!』

    「気まぐれサーファーって誰?」
     川上君は知らないみたいです。多記君が質問に答えました。
    「お前は途中から入ったから分からないかもしれないな。MVPこそ取らないが、どのジャンルにもまんべんなく採用されているハガキ職人だ」
    「ふーん、中途半端ってことか。まるでお前みたいだな」
    「……うるさい」
    『さぁ!!第二位の発表だ!!』
    「!!」
     少し目を開け多記君を盗み見すると、への字の口がさらにへの字になっていました。さらに私も負けじとへの字にします。なんか口の筋肉が痛いです。泣いても笑っても後、二人。本当に入っているのでしょうか?第2位の発表です。

    『第2位はPN……ペンシル祭で100ポイント!!』

    「!!」
    「あーいいなぁ100だって!」
    「波乗、感心してる場合か!……なんか不安になってきた。ホントに入ってるのか?」
     そんな心配をしているうちに、第1位の発表です。ドラムロールが鳴り出しました。
     多記君は拝みながら「自分を信じろ」とブツブツ言っています。他のメンバーも目を瞑っています。
     そして、長いドラムロールの後、お父さんの声が聞こえました。



    『なんと今回はルーキーが1位を奪取だ!第1位!ペンネーム、宝条リンで113ポイント!!』



    「やったーっ!!」
    「よしっ!!」
    「やりっ!!」
    「よかったなぁ!!」
    「リンちゃんがいちばーーーーーーん!!」
     私は嬉しくて飛び跳ねました。多記君は何度もガッツポーズをします。
    「ありがとう!これも皆のおかげ!!」
    「何を言ってる!!お前だって頑張ったじゃないか、これは皆の……宝条リンの勝利だ!!」
     私達は良く分からない間に抱き合っていました。
     皆が一つになります。これが一体感なのでしょうか?



    「悪いけど通してくれる?」
     いつの間にか私達の後ろには玲子さんがいました。
     多記君は玲子さんを見ると私達を突き放すように離れました。ひどいです。
    「まずはおめでとうといった所かしら? でもこのまま首位を守れるの? まだ、前半戦じゃない。この番組の常連を侮らないで。2位のペンシル祭さんは元プロの番組作家さんだし、3位の気まぐれサーファーさんだって、1位こそなった事は無いけど、いつもペンシル祭さんとトップを争っているの。別名『無冠の帝王』。いつまで1位を維持できるかしら」
    「……中間発表とはいえ、こんな新人に負けているようじゃあ、たかが知れてるけどね」
    「皆をバカにしないで!!貴方たちみたいに5人がかりで1位をとろうとする人間とは違うの!!」
     何だか二人とも口が悪いです。でも、確かにあの人達のすごさは私が良く知っています。無駄に何年もこの放送を聞いていたのではありません。1位は嬉しいです。これから維持しなくてはなりません。少し不安になりました。
     と、同時に多記君と玲子さんの関係も気になります。
     でも、今は素直に一番を喜びたい。





    第15話 終わり



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