ラジオデイズ-リテイク-
目次



  • 第1話〜第15話まで


  • 第16話「忘れないよ、この名前」


  • 第17話「ただの1リスナー」


  • 第18話「パーソナリティーとして」


  • 第19話「鳴かないカナリア」


  • 第20話「深呼吸で行く」


  • 第21話「心情waver」


  • 第22話「遠い浜辺」


  • 第23話「逃亡者」


  • 第24話「不協和音」


  • 第25話「多記透」


  • 第26話「It's a heavry spear.」


  • 第27話「手を繋ごう」


  • 第28話「ドリームキャッチャー」


  • 第29話「sunlit」


  • いまがき


  • 第30話以降












  • ラジオデイズ-リテイク-


    第16話 「忘れないよ、この名前」



     七月。中間発表を終え、僕らは今日も波乗家に集まっている。今日の目的はラジオではなく試験勉強なのだが……
    「おい、これだけ面子揃ってて誰もこの問題分からんのか」
    「私、学校休みがちだったし……」
     申し訳なさそう答える波乗に、すかさず川上がフォローを入れる。
    「いや、澄音ちゃんは悪くないっ!!悪いのは質問をする多記とこの問題だ!!」
    「そやけど……皆アホやなぁ……で、単位ベクトルって何なん?」
    「…………」
    「なに? ナニ? リンちゃんにも教えて!!」
     僕らが何も出来ずに固まっていると横からリンが僕等を覗く。こいつは学校が別なので一緒に勉強しても無駄なのだ。



    「うるさい。今、お前に関わってる暇は……」
    「それの答え、±3ベクトルeだよ!!」
    「…………えっ!?」
     全員がリンに注目する中、リンはどんどん説明を加えていった。
    「んーとね、単位ベクトルっていうのは大きさが1の……でね、ベクトルaに……この時のtは実数だよ。それで……ってなるの」
    「…………」
    「琴和さん、すごーい!!」
     波乗が感嘆の声を上げ、工藤は口を開けたまま固まっている。
    「そういえばお前、有名私立通ってるんだもんな。出来るよなこんな問題」
    「関係ないよぉ〜!!アホな子はアホだし」
    「あぁ……どうせ僕達はアホだよ……じゃあ、ついでにこの問題を教えてくれ」
    「お断リン!!」
    「……ケチ」
     こんな風に時間は過ぎていった。結局はほとんど喋っていただけの様な気がしたけど……
     中間発表以来、すっかり僕らは和やかムード。いい雰囲気といえばいい雰囲気なのだが、緊張感が少し足りない気もする。



     区切りのいいところで勉強会は終わり、帰ることにした。玄関のドアを開け、少し歩くと誰かが僕等に背を向けて立っているのが見える。見覚えのある後姿は……玲子さんだった。僕だけじゃなくて川上も気付いたらしい。
    「多記、あれ華富玲子じゃないのか?」
    「あぁ、そうみたいだな」
     中間発表以来、というか以前から玲子さんとの仲は悪くなる一方だ。本当は話したいことがたくさんあるのに……
     僕が声を掛けようか迷っていると、玲子さんは振り返り僕等と目が合った。
    「!!」
    「あっ……」
     玲子さんの顔を見て僕はかける言葉を失った。彼女もそのまま何も言わずに走り去る。他の連中にも見えたようで、工藤が皆に尋ねる。
    「なぁ、あの人、泣いてなかった?」
    「……泣いてたよな」
    「リンちゃん、かけっこなら負けないよ〜」
    「リン、あれはかけっこでも何でもないぞ。付いていくな!!」
     僕はリンの襟首をつかむ。リンはそれでも走ろうとしたが、少しして諦めたようだ。
    『その気持ちだけで十分』
     そう言った3年前のあの日も玲子さんは泣いてた。






     玲子さんとの出会いの前に僕がラジオを聞き始めた訳から話さなくちゃならない。
     僕の一番古い記憶は十年前。家族で山へドライブに行ったときのことだ。遅くまで山頂で過ごした僕ら家族は夜道を急いでいた。運転席には父親。助手席には母親……と膝の上に僕。車内はラジオが流れている。どこも渋滞だと伝えていた。しかし、ここは山道。あまり関係の無いこと。僕は遊びすぎたこともあり、ウトウトしていた。
     だから、その瞬間はあまり記憶が無い。父親の叫び声と母親の悲鳴が聞こえた後、もの凄い衝撃と共に僕は意識を失った。
     意識を取り戻した僕は自分が横になっていることに気付いた。最初は分からなかったけど、車が横転していたからだと理解する。何がどうなったか分からず、僕は両親を呼んだ。



    「お母さん!!お父さん!!どこなの!?」
     呼びかけに反して声は聞こえない。僕はとりあえずここから出ようと思い、体を動かそうとした。しかし、何かが僕の体の自由を奪っている。暗くてよく分からなかったけど、手探りで確かめるとそれは母の腕だった。僕は母親に包み込まれる様に抱かれていたのだ。僕は少し安心して母親を呼んだ。だが、母親は答えない。
     結論を言えば転落事故を起こし、すでに両親は死んでいた。すでに死んでしまった母親に抱かれて救助までの時間を過ごすことになる。
     僕は泣いた。両親が死んでしまった事も悲しかったが、この夜空一人きりだということが怖かったのだ。泣いて、泣いて、泣き疲れた頃……僕の耳に何かが聞こえてきた。それはラジオ。カーラジオは事故の衝撃を耐えて放送を流し続けていた。どんな放送がやっていたかなんて覚えていない。でも、消え入りそうな気持ちをラジオが繋ぎとめてくれた。
     無事救助されて、僕だけが助かった。母親は僕をかばって死んだ。即死だったらしい。



     その後、親戚の家を転々とした。遊びに行く時の親戚の家とは違い、僕は歓迎されていない。疎外感に耐えられながら、ラジオだけは常に手元に置いた。辛かった時、一人に怯えた時、そこにいてくれる。今の家で暮らすようになっても変わらない。ラジオは僕にとってそういう存在だ。
     でも、ラジオの方は何も答えてはくれない。話し相手になるわけでもない。あの放送を聴くまでは……



     三年前の夏。何気なく聴いていた地方局の深夜のラジオ番組。
     この回が第一回の放送だったらしく、番組の勝手が分からないパーソナリティーはあまり流暢とはいえない喋りを展開していた。
     番組も最後になり、パーソナリティーがハガキの告知なんかを終えると締めの挨拶をする。
    『ラジオを聞いている場所はそれぞれ。車で、仕事場で、友達の家で、もしかしたら恋人の家でこの放送を聞いてる人がいるかも知れません……』
    「…………」
     舌打ちしたくなるような感覚。独りで聞いてる僕はないがしろかよ……
    『でも、私は自分の部屋で独り居る人のために送ります』
    「!!」
    『それが私のやり方……私も独りだよ。ブースの中だけど』
     この一言が僕を変えた。自分に話しかけてくれるパーソナリティー。来週もこの放送を聴こうと思った。



     そして、次の週。
    『ふぇーん、誰か助けてくださーい!ハガキが、ハガキが一枚も来ないのです!』
    『安いよ!安いよ!今なら採用率100%!』
     何が安いのか良くわからないが、このパーソナリティーが必死なのは良く分かった。
     よくよく考えてみれば『独りいる人のために送る』なんてリスナーの反感を買うようなコメントを残してるんだからハガキが来ないのも納得できる。
     だからというわけじゃないが、僕は生まれて初めてハガキを書いてみた。このパーソナリティーなら何かが届きそうな気がした。いざ書いてみるとなかなか面白く、我ながら良い出来だったので、そのままポストに投函。



     さらに次の週。本当にハガキが読まれた。
    『呼びかけたかいがあったよ!ペンネーム、マッチョ石松君からなんと20通もハガキが届きました!』
     僕はコーヒーを口から噴出した。確かに20通送った。調子に乗って書いていたらそれぐらいになってしまったのだ。しかし、何で書いた枚数まで言うんだ?……恥ずかしい……もう二度と送るまいと心に誓う。
    『へへっ……実はあんなに呼びかけたのに、この子しかハガキ来なかったのよね……。マッチョ石松、マッチョ石松、マッチョ石松。よし、もう忘れないよ、この名前。もうこうなったらマッチョ君のためだけに放送しちゃう!!』
     何だか半分やけになって喋っているこのパーソナリティーに好感を持ち、僕はこのパーソナリティーの名前を憶えておく事にした。
     パーソナリティーの名前は華富玲子。





    第16話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第17話 「ただの1リスナー」



     僕は独りだった。皆にとって忘れられてもいい存在。本当に頼れる人は居ないし、世話になってる井端のオバサン(本人にいうと凄く怒られる)にも迷惑を掛けられない。
     でも、華富玲子というパーソナリティーは僕の名前を『忘れない』と言ってくれた。その一言が嬉しい。自分を肯定してくれているのだと思った。初めてハガキを読まれた次の週、僕はハガキを40通書いてしまう。
     だけど現実は甘くない。先週の放送を聞きつけた他のリスナーもハガキをたくさん書いてきたのだ。その週、僕のハガキは読まれずじまい。それも当たり前、ハガキを書くテクニックというものを持っていないのだから。それから僕は学校の勉強そっちのけでハガキ職人の勉強をした。
     そして半年後、僕は番組の常連になっていた。さらに番組自体も軌道に乗り、一気に人気番組の仲間入りをする。当時の僕は完全に番組の虜になっていた。



     そんな時、突然、番組の終了が告げられた。
     終わると放送で告げられたときは、現実が受け止められず、ただラジオの前で呆然としてたのを覚えてる。心にぽっかり穴が開く感覚。僕はそれを埋める手段が見つからず、本人に会って確かめたくなり、生まれて初めて出待ちをする。手紙で出待ちをする事を書いて送った。
     季節は冬。待っている間、体は冷えたが心は熱かった。会えば何かが解決するはずだと思えた。そして番組が終了し、玲子さんがラジオ局から出て来る。僕は玲子さんに近づいた。
    「あっ……あの……」
     僕はコレだけ言うのが精一杯だった。幸い、玲子さんは僕に気付いて近寄ってきた。
    「アナタがマッチョ君? ……へぇ……マッチョって言うわりには華奢だね」
    「マッチョは止めてください。僕の本名は多記透って言います」
    「……そう、じゃあ多記君。今まで私の番組聞いてくれてありがとう。君だけは最後に会っておかなくちゃと思ってたんだ。初めてハガキをくれた人だからね」



     僕はそれだけで胸がいっぱいになった。
    「あの……ありがとうございました!!僕、絶対この番組の事忘れませんから」
     もういい、これだけ伝えればそれでいい。始まりがあれば必ず終わりがある、簡単な事だ。僕はお辞儀をして帰ろうとした。
    「……マッチョ……じゃなくて多記君。君だから言うけど実は私、オールナイトブレイクから新番組の誘いがあるの」
    「あの人気番組のオールナイトブレイク!?凄いじゃないですか!!大出世です!!おめでとうございます!!」
    「ありがとう!!今から楽しみでしょうかないよ!!」
    「また、楽しい番組作りましょう!僕もハガキ書きますから!」
    「うん、よろしくね!!」
     この時の玲子さんの生き生きとした顔が忘れらない。僕は自分の事のように喜んだ。



     玲子さんの言葉通り、翌月から「オールナイトブレイク」を担当することになった。僕は少しでも力になろうとハガキを出し続ける。全国放送なのでさすがにレベルも高く僕は自分の腕を磨いた。
     そして番組も順調に人気が出て華富玲子の名は一気に全国区となった。さまざまな雑誌にもたびたび顔を出し、テレビにも少しずつ出演するようになった。もう、地方ラジオ局の深夜放送でたどたどしく喋る、華富玲子ではない。どこか遠い存在になった。
     今にして思えば華富玲子がもっとも輝いていた時期……だと傍目からは伺えた。
     あの日の放送を迎えるまでは……



     いつものように僕は「オールナイトブレイク」の時間を待っていた。深夜一時の時報を合図に番組は始まる。
    『華富玲子のオールナイトブレイク』
     いつもの声にいつもの音楽が流れる。後はいつものように音楽が小さくなり彼女のフリートークが始まる。
    「…………」
     一向に彼女の声は聴こえない。最初はマイクのスイッチであるカフをオンにするのを忘れたのかなと思った。しかし、何分経っても始まらない。もう誰かが気付いていいはずだ。
     そして、ようやく音楽が小さくなり声が聞こえる。だが、聴こえてきたのは局アナの男性の声だった。
    『華富玲子さんが急病のため今回は私がお送りいたします』
     変だ。絶対おかしい。最初からいないんだったら、むやみに音楽を流す必要が無い。アナウンサーの声も落ち着きが無いし……何かあったのか?



     そう思うと居ても立ってもいられなくなった。何が出来るわけではないでも……行かなきゃ。僕は自分の部屋を出て徹夜で仕事をしているオバサンの部屋へ向かう。
    「直美さん(オバサンの名前)、何も言わずに僕に二万円貸してくれ!!」
    「はぁ……何言ってんの?……ここアミカケして」
     直美さんは僕に構わず、アシスタントの子に指示を出す。
    「頼む!!本気なんだ!!必ず返すから!!」
    「…………」
    「お願いします!!」
     頭を下げてお願いすると直美さんが僕へ顔を向けた。
    「…………返す当てはあるのかい?」
    「……出世払いで」
    「却下」
    「そこを何とか!!」
     僕と直美さんはにらみ合う。しばらくして直美さんはため息をつき、僕に四万円を渡してくれた。
    「倍持って行けば困ることはないさ」
    「ありがとうっ!!」
     僕は家を飛び出した。この時間じゃあ電車も無いのでタクシーを捕まえて放送局に向かう。一時間ぐらいして放送局に到着。すでに多くのリスナーが集まっていた。改めて華富玲子の凄さを目の当たりにした。



     リスナー達の話している声が聞こえてくる。「病院に運ばれた」だとか「ディレクターと喧嘩した」とか情報が錯綜していた。僕は良くないと思いながらも局の裏側へ回り、局内へ侵入を試みる。外から入れる隙を探していると局内の声が聞こえてきた。
    「おい、外じゃあ華富玲子のリスナーで一杯だぞ。どう説明するんだよ」
    「んなこと言っても本人は今何処かへ行っちまったんだからどうしようもないよ」
     これ以上放送局に居ても無駄だと判断した僕は玲子さんが行きそうなところを探した。とはいえ彼女が放送で言っていた場所しか当ては無いけど……
     タクシーに乗り込み有り金を全て渡し、あちこち運んでもらう。僕は思い出せる限りの彼女の言動を思い出した。
     そこで思い出した一つの場所。
     地元の川岸。



    「玲子さん!!」
     振り返った玲子さんの目は赤くはれていた。
    「!! 君は……マッチョ……じゃなくて多記君!?……なんでここが分かったの?」
    「だって……放送で辛いことがあるとここへ来るって言ってたじゃないですか」
    「……よく憶えてたね。放送でも一回しか言ったこと無いのに」
    「これでも華富玲子の成長を見てきましたから」
    「……そうだね。君は初めてハガキをくれた人だもんね」
     玲子さんは僕の肩にしがみついた。僕は突然のことに動揺する。
    「い、い、いきなりどうしたんですか!?」
     息がかかるぐらいの近くに玲子さんの顔が迫っていた。僕はまともに見ることが出来ない。玲子さんは僕の首に腕を回して耳元で囁く。
    「ねぇ……今から私の部屋に来ない?」



    「?……何言ってるんですか!?」
     僕の理性は吹っ飛びそうだった。だが、ラジオの玲子さんとは違う雰囲気にギリギリで気持ちが止まる。
    「……戻りましょう」
    「……」
     玲子さんは回していた腕を離し、僕から少し離れた。
     寂しかった夜、今まで彼女に救われたことが何度もあった。だからリスナーとして自分が出来ることは何でもしたい。素直にそう思える。
    「僕でよかったらなんでも協力しますから」
    「……ありがとう」
    「それじゃあ……」
    「……その気持ちだけで十分だから」
    「え?」
     玲子さんは僕に笑いかける。その笑顔はあの時のものとはかけ離れた作り物の笑顔だった。
     何が十分なのだろう?その時の僕は意味が分からなかった。ただ去っていく玲子さんを見送るだけ。
     結局、いつまで経っても玲子さんのオールナイトブレイクは再び放送されることはなく、僕もラジオから離れていった。



     僕が知っている玲子さんはここまで。何がどうなって波乗家にいるのか知らないけどそれが彼女の出した結論なんだろう。
    「多記、追いかけなくていいのか?」
     僕は川上の声で我に返った。
    「……行かないよ。僕に出来ることなんてもう無いはずだから」
     すかさず工藤が突っ込みを入れる。
    「『もう無い』? 前から訊こうと思ってたんやけど、玲子さんとどんな関係があるの?」
    「ラジオのパーソナリティーとリスナーの関係。それ以上でもそれ以下でもない」
     きっとこれからも変わらないはずだ……そう思ってた。





    第17話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第18話 「パーソナリティーとして」



     私はある人に憧れてラジオのパーソナリティーを目指した。その人の名は波乗丈、通称ジョニー。
    『OK!ジョニーのラジオデイズ!!』
     深夜の若者向け番組は丈さんのタイトルコールから番組が始まる。
    『さぁ、今からの時間はみんな手を止めろ!!そんなに考え込んで落ち込んでても意味が無いぞ!今からの3時間は全てを忘れて“だらだら”するんだ!』
     このお決まりのセリフを丈さんは10年以上続けている。学生時代から何度も聞いた。私にとっての魔法の言葉。
    「玲子さん、一曲目の準備は大丈夫か?」
     ディレクターの伝之助さんの声で私は我に返る。
    「だっ、大丈夫です!!」
    「まったく……いつもここで丈に見とれて仕事を忘れる……」
    「す、すいません!!」
    「いいじゃありませんか。玲子さんは丈の話芸を盗もうと必死なんですよ」
     琴音さんのフォローで私も落ち着きを取り戻す。
    「1曲目いきまーす」
     丈さんと百合音さんにトークバックを使って話しかける。こうすれば放送に私の声は入らずに丈さんに届く。すると丈さんは上手い具合に話をまとめてくれる。
     私はCDの再生のボタンを押した。






    『波乗丈が何処かで海賊放送をしている』
     そんな噂を耳にしたのは私がオールナイトブレイクを始めて一ヶ月後のことだった。話を聞くと誰かが送ってきたカセットテープが情報源らしい。丈さんは目標だったが、私がこの業界で仕事をするようになった時にはすでに第一線を退いていて、丈さんの話を聞くことも無かった。
     実際、この噂を聞くまで忘れていのだ。とりあえず噂のテープだけ家に持ち帰った。コンポにカセットを入れたきり聴かなかったけど。
     この頃の私は目の前の番組に精一杯でそれどころじゃない状態。初めての全国放送ということもあり力も入った。地元ラジオからの大抜擢。これもすべて地元ラジオ局のディレクターのお陰。彼がオールナイトブレイクのディレクターと大学時代の友人で私を推薦してくれたのだ。



     番組当初の反響は薄かった。最初の聴取率は全パーソナリティー中最後から二番目。
     オールナイトブレイクは各曜日、パーソナリティーが違っていて私の曜日以外は皆、俳優さんだったり歌手だったり今が旬の人たちばかり。そこへ無名の私が割り込んだところで太刀打ちできるわけが無い。
     でも、そんなことは前の番組で慣れていた。前の番組なんかは三週目まで一通もハガキが来なかったのだ。今回は前の番組のリスナーが応援してくれるだけ状況も良くなってる。地道にやっていくしかない。他のパーソナリティーの様にドラマや歌でアピール出来るわけじゃない。私が勝負できるのはラジオ。他のパーソナリティーには出来ないリスナーのためだけに送る番組作りを丁寧にやるだけ。
     それが実を結んだなんて大袈裟なものじゃないけど、番組の回数を重ねる度にハガキも増えていった。少しずつ認められていく。聴取率も少しずつ順位を上げていった。
     順位が上がるに応じてラジオ以外の仕事も増えて来る。雑誌の取材やテレビ出演など。私はあくまでもラジオの宣伝のために応じていた。



     気付かない間に自分を取り巻く環境は大きくなっていく。スケジュール管理は自分でやっていたのに私では処理しきれなくなってマネージャーを付けた。局への移動は自分で車を運転していたのにいつの間にか後部座席乗ってる私が居る。お化粧だってメイクさんが付き、チョイ役だけどドラマなんかにも出た。局を歩くのにも何人かで行動する。
     確実に歯車は狂って行った。ラジオ以外の仕事がメインになって、ラジオの喋りも徐々に内輪ネタが増えていく。番組来るハガキにも『最近トークが面白くないです』という意見が書いてあった。忙しすぎて考える暇が無いのだ……って言うのは言い訳だと分かっている……でも……自分ではどうしようも出来なくなっていた。
     だから私はそういうハガキを無視した。最低の行為だ。ネタハガキは放送作家さんに任せっきりにして、私は選ばれたハガキだけを読むようになった。
     だって……努力しなくても聴取率はベスト3に入るから……



     でも、ツケはいつか回って来る。さまざまなメディアに出る私。自分の中で才能の支出ばかりが増えて得るものが少ない生活サイクル。確実に私を蝕んでいった。大勢の人の前に立たされる。皆、私のリアクションを待っていた。
     期待ばかりを感じる。それに答えなきゃ……答えなきゃ……答えないと私は……私は……あれ?
     理解したときはすでに遅かった。自分ではもうどうすることも出来ない。周りに振り回されるだけの私。
     ミンナ……ナニヲ期待シテルノ?
    「じゃあ、今日もいつもの玲子さんでお願いします」
    「え?」
     いつもの私? ……どんな私?
     よくわからないままラジオブースに入る。ふと時間を見ると0時59分。後、1分で番組が始まる……そして、時報は1時を告げた。
     いつものように音楽が聴こえ私はタイミングを見計らってカフをオンにしてマイク越しに喋りだす。
    「…………」



    「玲子さん!!カフが下がってる!!早く上げて!!」
     プロデューサー声がトークバックから聞こえる。私はあわててカフを見る。しかし、カフはすでにオンになっていた。慌てて私も何か埋めようと話そうとするけど……
     声が出ない!!
     口が開くだけで声にならない。私は焦った。どんどん時間が過ぎる。このままじゃあ……私……私……
     私の中で何かが終わった。イスから立ち上がるとラジオブースを飛び出す。スタッフが私を止めようとするけど振り切り走り去る。
     ……何でそんな目で見るの?……期待しないで……私には何も無いの……もう……嫌だ……何もかも……



     逃げ出して行き着いたところ……ラジオ番組を初めて担当した街……ここなら私を癒す何かがあるかもしれない。
    「玲子さん!!」
     私は怯えながら後ろを振り向く。するとそこには私に初めてハガキをくれた少年が立っていた。
    「マッチョ……じゃなくて多記君!?……なんでここが分かったの?」
    「だって……放送で辛いことがあるとここへ来るって言ってたじゃないですか」
    「……よく憶えてたね。放送でも一回しか言ったこと無いのに」
    「これでも華富玲子の成長を見てきましたから」
    「……そうだね」
     私は彼の肩にしがみついた。あの時から私を見てくれたこの子なら私の気持ちをわかってくれるかもしれない。
    「い、い、いきなりどうしたんですか!?」
    「ねぇ……今から私の部屋に来ない?」
     どうかしている……こんな少年を部屋に誘うなんて。でも……しがみ付けるものには何にでもしがみ付きたい衝動に駆られていた。



    「?……何言ってるんですか!?」
    「!!」
    「……戻りましょう」
    「……」
     自然に彼から手が離れ、距離をとった。彼はリスナーなのだ。私をラジオパーソナリティーとしか見ていない。私がラジオをやっているから彼はここまで来てくれたのだ。
    「僕でよかったらなんでも協力しますから」
    「……ありがとう」
     純粋な気持ちが私を締め上げた。居た堪れない気持ちになる。
    「それじゃあ……」
    「……その気持ちだけで十分だから」
     ……もういいから。期待しないでいいから……私を追い詰めないで。そう言いたくて……私は言葉を呑んだ。彼はそんな言葉を待ってないに決まってる。
    「え?」
     彼の疑問に答えることなく、私は精一杯、ラジオパーソナリティーとしての笑顔を見せる。原点にきても自分を責める結果にしかならない。足早にその場を去った。



     そのまま家に帰り、自分の部屋に鍵をかけ、閉じこもる。部屋の中で私はただ蹲っていた。どれぐらいの時間が経ったのだろう? 暗くなった部屋で、これからに対する不安が私を震わせた。恐怖がこみ上げる。
     私の取り巻く全ての世界。その世界が壊れた時、私の中で「死」という文字が浮かんできた。手ごろな紐を捜し、柱にくくりつける。踏み台を用意し、足を踏み出す。と同時に何かを踏んづけてしまった。
     その時突然、私のコンポの電源が入る。
    『OK!ラジオデイズ!!』
     丈さんの声が聞こえてきた。コンポに入れたままの海賊放送が流れる。
    『さぁ、今からの時間はみんな手を止めろ!!そんなに考え込んで落ち込んでても意味が無いぞ!今からの3時間は全てを忘れて“だらだら”するんだ!』
    「あぁ…………」
     涙がこぼれた。我慢しても我慢しても涙は止まらない。私は感情を解放し、大声で泣いた。
     このセリフは私のためだけに言ってくれたものではない、そんな事は良く知ってる。でも、この人だけだった。私にだらだらしろと言ってくれるのは……






    「はい、後30秒で曲終わります」
     あの時間の感動は忘れない、失いたくない。だから今、私はここに居る。丈さんの近くに居れば安らげる。彼は私にとってのラジオパーソナリティーで居てくれるから。
    「5秒前 4、3、2、1」
     いつもの様に番組は滞りなく終了を迎えた。その後、反省会をするべくスタッフルームに集まる。今日の番組であった問題点を話し合う。私にとっては問題が無いと思われる箇所も丈さんにとっては気に入らないらしい。それだけ彼にはこだわりがあるし、責任もある。丈さんはいくつか父親である伝之助さんとやり取りした後、最後に私にとっては驚くべきことを話し出した。
    「2週間後から金曜日担当を玲子さんにやってもらおうと思うんだけど」
    「えっ!!」
    「コーナーはそのままだし、他のスタッフには話を通してあるから、あとは君しだい」
    「そんな……私が担当するなんて荷が重……」
     私がお断りしようとすると百合音さんが遮るように話す。
    「いつまでもADって訳にも行かないでしょ? 私がアシスタントするから頑張りましょう」
     百合音さんは丈さんの奥さんで元声優をやっていた。自分で担当した番組もあるし、アシスタントとしても業界で活躍していた。彼女が居てくれると確かに心強い……でも、そういう問題じゃない。
    「あの……私は……マイクの前に座ると……声が……」
    「知ってるよ……しかし……もう2年だ。そろそろ変わらないと」
    「……」
     丈さんが何を考えているか良くわからない。



    「この前の中間発表憶えてる?」
    「はい」
    「今まで聞いたこと無い新人が1位を取った……個人じゃなくて、仲間で勝ち取った1位だ。とうとうここにも新しい波が来たんだ。色々と変化する時期なんじゃないかな」
    「それじゃあ、丈さんは宝条リンのせいで私に金曜日を譲ろうとしているんですか!?」
    「”せい”じゃないよ。影響を受けたんだ。私だけが喋るんじゃなくて他の人が担当してもいいじゃないか」
    「そんなの他のリスナーが納得しません!!」
    「……君は『オールナイトブレイク』を担当したパーソナリティーじゃないか。君しだいで状況も変わる」
    「私は……」
     このままがいい……と言いかけて止めた。皆の目が私に注がれる。私は外へ飛び出した。
     結果は見えていた。喋れない私。落胆する皆。また私は居場所を無くすのだろうか? 涙が流れる。



     丁度、運悪く私の近くに多記君達が通りかかった。彼と目が合う。彼は2年前と変わらない純粋な目を向ける。この子はどこまで私を追い詰めれば気がすむのだろう。私はただ『このままがいい』と望んでいるだけなのに……
    「…………」
     ……戦わなくてはいけない。自分を守るため。多記君……宝条リンをどうにかすればいいのだ。宝条リンが負けたその時は、変わることなど出来ないと告げて、また元のADに戻してもらおう。
     私は踵を返してラジオブースへと戻る。欲しいものを手に入れるために……




    第18話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第19話 「鳴かないカナリア」



     期末試験を終え(結果は聞くな)後は夏休みを待つのみとなった。そんな僕らに驚きのニュースが舞い込む。玲子さんが「ラジオデイズ」金曜日担当になるという話だった。今日、波乗丈から正式に発表された。
     波乗が僕のかを覗き込む。
    「何だか多記君、華富さんがパーソナリティーをするって聞いて嬉しそう……」
    「そ、そんなこと無いっ!!華富さんがパーソナリティーを勤めるって事は僕らのハガキが読まれにくくなるってことだからな」
    「でも、口元緩んでるで」
    「…………」
     工藤はジト目で僕を見る。
    「まぁな。憧れの華富玲子がパーソナリティー復活となれば嬉しいよなぁ……マッチョ石松さん」
    「!!……なんでそのペンネームを知ってる……まさか……波乗っ!!」
    「わ、私じゃないよぉ〜」
    「オレだ」



     川上がやたら胸を張って僕に答える。
    「たかが、華富玲子のためにハガキ書く勉強したり、出待ちしたぐらい別に隠すことでもないだろ?」
    「お前の言動には何かしらの意図を感じる」
    「そうか?」
     そこへすかさず琴和が口を挟む。
    「タッくんは玲子さんの声聞いてハァハァ言ってるだけだもんね〜」
    「同意を求めるなっ!!黙れっ、この直下型迷走娘!!」
    「お断わリン!! リンちゃん、黙らないもん!! わ〜わ〜わ〜!!」
    「小学生か!!」
     こんなくだらない会話をしている間に時間は過ぎていく。






     放送日、僕は少し早く波乗家へ来た。もちろん玲子さんの様子を伺うためだ。波乗家の玄関にあるラジオブースはガラス張りで覗くことができる。ブース内では波乗の母親、百合音さんと玲子さんがハガキの整理をしていた。しばらくその姿に見入っていると玲子さんが気付いてこっちを見て僕と目が合う。彼女は百合音さんに何か話しかけ席を立つとラジオブースから出てきた。
    「何?敵情視察ってわけ?」
     僕の目の前に立った玲子さんは敵意むき出しで話しかけてきた。
    「……そんなつもりじゃあないです」
    「言っておくけど……貴方達のハガキを読む予定はないけど」
    「でしょうね」
    「……余裕ぶってるつもり?」



     今までは波乗家で会うとすぐに喧嘩口調になって、まともな話が出来なかった。でも、今は違う。落ち着こう。いいチャンスだ。
    「違いますよ……こんなこと言ったら他のメンバーに怒られますけど……ハガキが読まれるかどうかなんて二の次です」
    「!?」
    「僕……楽しみにしてました……『オールナイトブレイク』が終わってからずっと」
    「…………」
     この時の僕はただ、華富玲子がラジオに復帰するという事柄に浮かれていた。ただ、この気持ちを伝えることだけが一番の方法だと……疑いもなく思っていた。
    「もともと波乗を手伝うようになったのは玲子さんのことが知りたかったからだし」
    「…………」
    「あっ、今でもラジオを録音したMDを持ってるんですよ!!最近、また聴いてます」
    「………て」
    「初めての放送の時憶えてますか?あの時、玲子さんは」
    「……めて」
     ようやく玲子さんが何か言っていることに気が付いた。
    「えっ?」
    「……やめて」
    「何を?」
     玲子さんは僕を睨みつけ、叫ぶ。



    「もうそんな話はやめてって言ってるの!!」
    「!?」
    「私のことが知りたいからココへ来た? やめて、どんな幻想もっているか知らないけど……そんなのに答えられるわけない!!」
    「そんなつもりは……ただ僕は……玲子さんの放送を楽しみにしてるって……」
    「……私の気持ちを無視して……何を期待してたの?」
     玲子さんの潤んだ瞳を見るとそれ以上何もいえなくなった。
    「……私を追い詰めて楽しい?」
    「…………」
     玲子さんは再びブースへ戻っていく。何も出来ずにただ見送るしかなかった。確かに過度な期待をしすぎたかもしれない。僕がしてきたことが彼女にとっては追い詰める結果になっていたなんて気付かなかった。



     波乗の部屋へ行き、いつものように皆とハガキを書く。でも、皆の話は上の空。気持ちをまとめられないまま放送が始まる。
    『百合音・玲子のラジオデイズ!!』
     掛け声と共に音楽が流れ出す。ある程度流れると音楽はフェードアウトしていった。
    『皆さんこんばんは〜、今日から金曜日のこの時間はジョニーに代わって私達が担当することになりました〜』
     問題はココからだ。隣にいた工藤が波乗に話しかける。
    「この声って波乗のお母さんの声やんなぁ。ええ声してるなぁ」
    「うん、お母さん昔、声優やってたから」
    「二人とも悪い、少し黙っててくれないか?」
    「何や、多記。えらい緊張しとるやんか。愛しの玲子さんの声がそんなに聞きたいんか?」
    「…………」
     今は工藤の挑発に乗っている余裕はない。僕はラジオに耳を傾ける。
    『私は波乗百合音です。いつもジョニーさんのアシスタントやってたから皆知ってるよね? とか図々しい事言ってみたり。では、私と共に番組を進めてくれるもう一人の女の子を紹介しま〜す。じゃあ自己紹介どうぞ!!』
    『…………』



     玲子さんに振られたはずなのに彼女は何も答えない。僕の中でどんどん不安が広がっていく。波乗は「故障かな?」とかいってコンポを叩いている。
    『あらあら、玲子さんちょっと恥ずかしがってるみたですね〜、か〜わ〜い〜い〜ってことで私が代わりに紹介しますね……』
     百合音さんは玲子さんの声が出ないのを分かるや否やフォローを入れた。
    「……やっぱりあの噂は本当だったのか」
     川上の呟きが僕の耳に入る。
    「何の話だ!?」
    「なんだお前知らないの? ホントに華富玲子のファンか? 彼女が業界からいなくなった当時、週刊誌に載ってたんだけど……ストレスでマイクの前に立つと声が出なくなるらしいぜ」
    「!!」
     僕は立ち上がる。波乗が僕に話しかけてきた。
    「多記君、どこ行くの?」
    「……ちょっと……」
    「?」
    「トイレに行ってくる」



     波乗の部屋を出た僕はブースへ向かう。
     しかし、途中で立ち止まる。ふと考えてしまったのだ。
    『僕が行ったところで何が出来る?』
     おそらく彼女を追い詰めるだけだろう。どうしたらいい?何かしなきゃという気持ちを何も出来ないじゃないかという気持ちが交錯する。
     僕はその場から動けなくなった。




    第19話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第20話 「深呼吸で行く」



    「まず、聞かせてくれないか? 君はどうしてラジオのDJになりたかったんだい?」
    「……まるで犯罪者と接するネゴシエーターみたいですね」
    「君は犯罪者だろ?DJとしてやってはならない罪を犯した」
    「……そうかもしれません」
     とりあえず番組は音楽を流しているので私が話しても問題無い。イヤホンからは丈さんの声が聞こえる。
    「君には伝えたいことがあるかい?」
    「……わかりません」
     本当に分からない。前はあったような気がする。
    「私にはある。いつも自分の思いを完全に伝えたいと思っている」
    「…………」
    「それとは反対に本当に伝えたいことは言葉に出したくは無いって気持ちもある」
    「…………」



    「でも……私はDJだ。それをあえて言葉にする仕事」
    「私は……」
    「そして、君も……DJなんだろ?」
    「…………」
    「話さなければ何も始まらない」
     言葉を繋ぐことができないパーソナリティーは存在する価値が無い。そう言われた気がした。そうだよね……私は席を立った。
     しかし、百合音さんが私の腕をつかむ。
    「……ここを出たら、貴方はここから居なくなるんでしょ?」
    「…………」
    「行かせないし……逃がさない……」
    「…………」
     私は動けなくなってしまった。
     そんな時、ドアが開く音がして振り向くと丈さんがブースに入ってきた。とうとう追い出されるのかと覚悟した。私の前に立った丈さんは一枚の紙を差し出す。
    「今日はFAXを募集して無いのだが、何故か送られてきてね……」
     私は紙を受取る。紙には書かれた文字は見覚えがあり、確実に私の隙間に入り込んだ



    『僕も独りです。貴方だけじゃない。だから声をください』



    「!!」
     私の中で何かがはじける。
     初めてメインで番組を任されたあの日。そりゃ、ちっぽけな地方のラジオ局だったけど……毎週が楽しくて仕方なかった。
    『私は自分の部屋で独り居る人のために送ります』
     見つけた……私の伝えたいこと……
     今にも泣き出しそうな私に丈さんは声をかけた。
    「差出人は誰か知らないが……君のことを本当に好きなようだね」
    「……はい。分かります……こんな事するのは一人しかいませんから……」
     再び席に戻る。百合音さんと向き合い、言葉を搾り出す。
    「百合音さん……曲終わったら私に喋らせてください」
    「……わかった、好きなことを話なさい」



     曲が終わりに近づく。私は大きく息を吸い込んだ。自分に欠けていたものは幾つもあった。それに対して焦りも感じていた。
     丈さんから曲が終わる合図があり、私は吸い込んだ空気をゆっくり吐く。
     目の前にマイクもあるし、手元には番組進行表やハガキがある。
     何をどうしたって今現在、私はラジオパーソナリティーなんだ。焦ってもしょうがない。
     ……だから私は深呼吸で行く。
    『ラジオを聞いている場所はそれぞれ。車で、仕事場で、友達の家で、もしかしたら恋人の家でこの放送を聞いてる人がいるかも知れません……』





     ファクスを送り、コンビニを出るとその場にしゃがみこんだ。これが華富さんをさらに追い詰めるかもしれない。でも……考えて、考えて、出た結論が結局これだった。
     玲子さんに一番伝えたかったこと……『私は自分の部屋で独り居る人のために送ります』と言ってくれた、あの時の答え。自分勝手だよな。わかってるそんな事。
     しばらく、興奮と後悔でしゃがんでいた。不意に僕の視界へ影がかかる。
    「やっぱり貴方は危険な存在ですね」
    「? ……アンタは…………ペンシル祭」
     彼女は長い髪をかきあげ僕を見下ろしている。その目からは何の感情も読み取れない。
    「玲子さんにまで影響を及ぼすなんて」
    「それじゃあ……玲子さんは……」
     彼女は表情を変えず、僕の質問には答えない。
    「……私……今まで投稿数をわざと制限してました」
    「でしょうね。ペンシル祭さんのネタを聞けば分かります。あきらかにMVP狙いのネタだってね」
    「……さすがと言えばいいのでしょうか? 貴方は考えてた以上の人です。だったら話は早い。これからは読まれることを前提としてハガキを書きます」
    「なりふり構わず僕達を倒しに来ると?」
    「ええ。もともと私が力を制限してきたのは、前に本気を出したら1コーナーすべてが自分のハガキになった事があったからです」
    「!!」



     普通の番組ではあり得ない。ただ、波乗丈はハガキを選ぶ時に名前を隠し、ネタ本位で選別するという噂なのであり得ない話ではない。
    「そんなことはもうどうでもいい。私は少なくとも……人生において負けたと感じたことは一度もなかった」
    「…………」
    「私は勝ち続けなければいけないんです」
     僕を見る眼差しはあくまでも上から見下ろすものだった。自分の勝利を疑わない余裕を感じる。こういうのを王者の風格というのだろうか?
    「僕だって負けませんよ……勝たせたい人がいるんでね」
    「…………現実は今日みたいに上手くいくとは限りませんよ」
     彼女はそれ以上何もいわず、僕の横を通り過ぎる。口元がうっすら笑っていたように思えた。
     今は悩んでる暇は無い。ハガキ職人GPで優勝するという目標に向かっていくしかない
     気合十分で波乗家へ向かった僕だったけど、川上の一言で肩透かしを食らった。
    「皆で旅行に行こう!!」
    「賛成っ!!」
     どうしてお前等、勝手に決めてんだよ。





    「玲子さん、お疲れ様でした」
    「アナタは……」
    「我々も新番組は認めることにしましたよ」
    「……そうですか。ありがとうございます」
    「ジョニーが決めたことですから。私達はそれに従うのみです」
    「…………」
    「ですが……幾つかの変化に対しては許容範囲を超えています」
    「え?」
    「……宝条リンです」
    「!!」




    第20話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第21話 「心情waver」



     心地よい揺れでウトウトしていた僕は誰かの声で目が覚める。
    「多記君、食べる?」
     目を開け正面を見ると、波乗がお菓子を差し出している。僕がぼんやりしながら受け取ろうとすると横から手が伸びた。
    「あっ、川上」
    「澄音ちゃん、ありがと〜」
    「それは僕がもらったお菓……」
    「そんなに澄音のお菓子が欲しいんか?」
     僕の抗議へ横に座っている工藤からツッコミが入る。
    「え……いや……そういうわけじゃあ……」
     僕は誤魔化すように窓を見る。景色がどんどん流れていく。
    「外はいい眺めだなぁ〜」
    「何誤魔化してるん?…………まぁ、ええわ。これでも食べて」
     工藤の差し出したサンドイッチを口にした。僕達は今、電車に乗っている。
     川上の提案で中間発表1位記念、一泊二日の旅行へ行くことになったのだ。



    「残念だね、琴和さん来れなくて……」
    「しょうがないさ、直子さんの手伝いなんだから」
     リンはこの旅行には参加していない。直子さんの仕事がお盆休み進行のため、手伝う約束をしていたのだ。
    「でも、琴和がこういう計画に参加せえへんなんておかしいなぁ」
    「直子さんはリンにとって神様みたいなものだからな。絶対服従」
    「やっぱり、漫画家になりたいんかなぁ」
     波乗が僕の服の袖を引っ張り、もじもじしながら僕に尋ねる。
    「あの……琴和さんはよく多記君の家へ手伝いに来るの?」
    「そうだな……前は入り浸りの時期があった」
    「そうか……その時二人は色々と……あったんやな」
     工藤は何度も頷き、波乗は下を向いた。
    「……お前達、リンに何を聞いた」
    「さぁ、なんやろな?」
    「波乗答えろ」
     波乗は顔を真っ赤にしてボソボソと何かいっている。僕は聞き耳を立てた。
    「えっ!? ……言えないよぉ…………そんなこと……恥ずかしい」
    「なるほど。多記はリンとそんなことをしてたわけか……」
    「川上、それ以上口を開くな!!」
     電車は揺れながら僕達を運んでくれる。



     目的地に到着した僕達はさっそく宿泊場所へ向かった。
    「この旅館が俺達の宿泊場所で〜す。もちろん男女別々に部屋は予約してあるから」
     電車の切符から旅館の手配まで全て川上が用意した。こういうことに関しては気が利く男である。
    「じゃあ、とりあえずここで別れて海岸で会おう」
    「うん、それじゃあ」
     僕達はそれぞれの部屋に入った。
    「川上、ホントにこいうことは手回しがいいな」
    「当たり前だ!!これもすべて澄音ちゃんをゲットするため」
    「…………」
     なんで僕はこの言葉に何も返せないのだろうか? そんな僕の考えをよそに川上は真剣な面持ちで話し続ける。
    「多記……澄音ちゃんをお前に渡す気はないからな」
    「何言ってるんだよ……僕は別に……」
    「だったらいいんだ。お前はただ俺と澄音ちゃんとの仲を取り持てばいいんだから」
    「……そうだな」



     海水浴場で待っていると波乗と工藤が水着姿で現れた。
    「多記、変なとこ見るなや!!」
    「見てねぇよ!!」
    「澄音ちゃんは何着ても似合う!!最高!!」
     波乗は川上に褒められ、恥ずかしいのか少しうつむく。
    「……ありがとう、川上さん……あの……多記君は……どう?」
     波乗は小花柄のスカート付きワンピースだった。まぁ、なんとも波乗らしくて無難な感じだ。
    「似合ってるぞ」
    「……ありがと」
     後で誰かが僕の腕を引っ張る。僕が振り向くと工藤が恥ずかしそうにしていた。
    「なんだよ」
    「私のはどうや?」
    「え?」
    「その……み……水着」
     工藤を改めてみる。デニムパンツに青と白のストライプのセパレート水着。活発そうで悪くない。
    「いいんじゃないの?」
    「それだけ?」
    「は? ……うん。それだけだが……」
    「…………」
     なんだか工藤ががっくりしたように思えたけど気のせいか?
    「澄音ちゃん、泳ぎに行こ!!」
     大きな声に振り向くと、波乗は川上に手を引かれ海へ入っていった。僕はとりあえずその場に座る。工藤も僕に合わせて隣に座った。
    「荷物は僕が見てるから工藤は遊びに行っていいぞ」
    「ええわ。多記がおるんやったらここにおる」
    「なんだそりゃ?」
    「日焼けするぞ」
    「……ええよ」
    「…………」



     しばらく、楽しそうに遊ぶ川上と波乗を見ていると工藤がポツリと言った。
    「楽しそうやな」
    「そうだな」
    「……あの二人は何やかんや言っても両親がすぐそばにおる。頼りになる人がそばにおるんや……だからあんなに楽しそうに出来るのかもしれへんな……私達とあの二人は違う」
    「……どうしたんだ急に」
    「でも、一番偉いのはアンタやな。両親死んだのにこんなにも元気に生きとる」
    「……別に僕はもうそんな事気にして無い。家に帰れば直子さんが居るし、学校へ行けば波乗や工藤、川上がいるじゃないか」
     僕は工藤を励まそうとしたのだが、彼女は寂しそうな笑顔を僕に向けた。なんだか気まずい雰囲気だ。
    「やっぱり澄音の名前が一番初めに出るんや……」
    「順番なんてどうでもいいと思うけど……」
    「女の子は……ううん、違うな……私はすごい気になる……その順番……」
    「…………」
    「さぁ、私達も泳ごか」
    「あぁ」
    「あっ、そや、そや。夜さぁ、女の子の部屋で遊ばへん? 川上も連れて来てな」
    「うん、そうしよう」
     その時、僕はこの気まずい雰囲気が少しでも良くなればと思い気安く返事をした。



     そして夜。
    「おい、川上行くぞ」
    「おお、先に行ってくれないか?色々と準備があるし」
     川上はカバンの中身をあさって何かを探してる。準備のいい川上のことだから遊び道具でも探しているんだろう。
    「じゃあ先に行ってるから」
    「そうそう、多記。一階の売店へ行ってジュースを買っていってくれ頼む」
    「わかった」
     僕は部屋を出て一階へ降りた。(僕達が泊まっているのは三階)売店でジュースを買うと波乗たちの部屋へ向かった。
     ノックする。するとドア越しに返事がしたのでドアを開けて部屋へ入る。
    「あっ、いらっしゃい」
     すると室内には工藤の姿しか見えない。
    「あれ、波乗は?」
    「家の人へ電話かけに行ってる」
    「ったくしょうがないなぁ。たった一泊二日だろ」
     僕はとりあえず座ることにした。
    「…………」
    「…………」
     しかし、何時までたっても波乗は帰ってこない。



     昼間のこともあって工藤と二人きりの部屋はどうも落ち着かない。僕がそわそわしていると工藤が話しかけてきた。
    「どうしたん? 何か落ち着き無いけど」
    「えっ!? ……いや……二人とも遅いなぁ〜とか思っちゃって……」
    「……そう」
    「……………」
     会話が続かない。こんなこと学校でも波乗の家でもなかった。珍しく僕は緊張している。沈黙を破るように工藤が呟く。
    「あのな……本当はな……澄音……今、あんた達の部屋に行ってる」
    「何!?」
    「多分、川上と二人きりやと思う」
    「!!!!!」
     波乗が危ない、直感的にそう思う。僕は立ち上がった。合わせて工藤も立ち上がる。
    「……なぁ、そんなに澄音が気になる?」
    「気になるだろ、相手はあの川上だぞ!!」
     工藤は僕をにらみつけた。
    「川上に澄音の事、とられたくないんや? いつから澄音は多記のモノになったん?」
    「……波乗は波乗だ。僕のものじゃない」
    「それやったらええやん。澄音だって子供やないんやから嫌やったら戻ってくるやろ」
    「そうだけど……」



     確かに工藤の言う通りだけど……でも……
    「……それとも……私とここにおるの嫌?」
    「えっ!?」
    「もし……川上のところへ行ったのが澄音やなくて私でも同じこと言ってくれた?」
    「何言ってるんだ!?」
    「何言ってるかわからへんの? ……それやったら分かるように言おか?」
    「…………」
     工藤は僕に近づいてきた。よく分からずに僕は後ずさりする。
    「なぁ……逃げやんといて……悲しくなるやん……」
    「…………」
     僕はいつの間にか壁際に追い詰められていた。そっと工藤の手が僕の肩に触れる。そのまま彼女は僕に身を寄せた。
    「私……アンタのこと好きや」
    「!!」




    第21話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第22話 「遠い浜辺」



     オレはタイミングを計っていた。それは波乗澄音をいつ押し倒すか。
    「佳代ちゃんと多記君遅いね」
    「そうだね……」
     彼女は足を横にして座っている。前から押せば軽く倒れそうだ。
     いつもならもうとっくに押し倒しているところだけど……彼女は調子が狂う。何故か慎重になってるオレがいた。
     そんな気持ちを払拭すべく本題を切り出した。
    「実はさ……今、多記は佳代の部屋へ行ってる」
    「え?何で?」
    「分かるだろ?」
    「…………」
     それからしばらく無言の状態が続いた。明らかに彼女は落ち着きがなくなっている。
     オレは少々強引と思えるぐらいに彼女へ近づいた。彼女は怯えるように後へ下がる。



    「止めて!! 私そんなつもりじゃないから!!」
    「止めない。だったら何ですぐに帰らなかったの?」
    「…………」
    「……部屋に帰るのが怖かったんだろ?」
    「…………」
     澄音の瞳は潤んでいた。これ以上言うことは彼女にとって酷な事に違いない。でも、そこを突いてこそオレにもチャンスが巡って来る。
    「今頃、多記は佳代とやることやってるさ」
    「!!」
     一瞬の隙を突いてオレは彼女を押し倒した。両手を押さえる。彼女は目を瞑り、横を向いて必死に抵抗した。オレは唇を重ねようと顔を近づける。
     その時、オレは見てしまった。彼女の口がかすかに動き、その動きは確かに『多記君』と言っていた。
    「……何でだ?」
     何で多記なんだよ。アイツとオレはどう違うっていうんだ?
     そこでようやく理解した。調子が狂ってるのも慎重になったのもすべて多記のせいだった。アイツが絡むとオレはいつも必要以上に意識する。



     あの時……
    『なぁ、頼むよ。紹介してくれるだけでいいからさ』
     多記からこう言われた時、オレは動揺した。
    『だって、お前と彼女は友達なんだろ?』
     「友達なんだろ?」って念を押してくる。オレは頷くしかなかった。今思えば何であの時言わなかったんだろう……『オレは彼女のことを好きだ』って……
     彼女のことはもうなんとも思ってない。
     ただ……心に残っているのは……言わなかったことに対する後悔だけ。多記を見るごとに臆病になってた自分を思い出す。今ならこうして押し倒してどうにかできるって言うのに……
    ドンッ
    「!!」
     彼女はオレを押し退けて逃れた。そのまま部屋を走り去る。
    「…………」
     また多記に邪魔をされた。オレは倒れたまま動けない。





     突然のことに驚いた僕は工藤の体を支えきれずに倒れてしまった。彼女が上になる格好で間近に向かい合う。
     彼女の息を感じる。それだけじゃない、工藤からお風呂上りの良い匂いがして僕の判断力を鈍らせた。
    「ぼ、僕は……」
    「今夜だけでええから……私と一緒に居てくれへん?」
    「…………」
     今、心の中で『うん』と言ってしまった。心のたがが緩む。自制出来ない。
    「……僕も男だからこんな状況になった以上、後には引かないぞ」
    「えっ!?…………う……うん」
     工藤を寝かせて今度は僕が上になる。上から見る彼女は艶っぽい。工藤を初めて女性と認識した瞬間だった。彼女は目を瞑り、事の始まりを期待して待っているようだ。
     僕は彼女に顔を近づけた。



    プルルルルッ
    「!?」
     突然、部屋に備え付けてあった電話が鳴った。我に帰り、電話のほうを見ると工藤は目を開けて僕に言った。
    「……放っておいたらええ」
    「…………そういうわけにもいかないだろ?」
     上にいる分、僕のほうがすぐに電話に出ることが出来た。受話器をとると男性の声が聞こえた。
    「多記透様でごさいますか?」
    「えっ!? ……はい、僕ですが……」
     どうしてこの部屋へ僕宛の電話がかかってくるんだ?
    「先ほどお連れ様から電話するように言われたものですから」
    「お連れ様?」
    「はい。女性の方でしたが……お心当たりはありませんか?」
    「…………」
     頭に浮かんだのは……小柄でツインテール。僕に対して妙に丁寧な言葉使ったり、すぐに顔を真っ赤にする女の子……波乗だった。
    「……ありがとうございます。電話するように言ってあったんですよ。わざわざありがとうございます」
     僕はフロントにというか波乗に礼を言った。



     受話器を置き振り返った僕に工藤が不安そうな視線を向ける。
    「誰?」
    「フロントからだった」
    「そう……」
    「僕、もう行くよ」
    「!! 待って!!」
    「待てない」
     立ち上がり、帰ろうとした僕に工藤が大声で言う。
    「やっぱり、多記は澄音のことが好きなんやろ!!」
    「……今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
    「…………」
    「それじゃあ、おやすみ」
     僕はドアを開け部屋を出た。
    「私は本気やのに……」



     僕は部屋に戻ろうかと思ったけど止めた。何となく川上に悪い気がしたのだ。結局、こうやって外に出て海岸をブラブラしている。
     あのまま電話がかかってこなかったらどうなっていたのだろう?勢いって怖いなぁ……と思ったりした。まぁ、勢いのせいにしてる僕も僕だけど……
     しばらく歩いていると前方に小さな人影が砂浜に座っているのを見つけた。期待してたわけじゃないといえば嘘になるが、急いで人影に近づく。影形がハッキリすると……やはり波乗だった。
    「おい、波乗」
    「近づかないで!!」
    「ん?」
    「……今は男の人には近づいて欲しくないんです」
    「どうした? ……まさか!? ……川上に何かされたのか!!」
     波乗は首を横に振る。
    「大丈夫……何とか逃げたから」
    「そうか……良かった……」
    「良くないよ!!」
    「え?」



     立ち上がった波乗はこっちを睨む。その瞳は少し赤く腫れていた。
    「何で部屋に戻って来てくれなかったの……」
    「……それは」
     説明するには工藤とのことを話さなきゃいけないのだが、余計な誤解を与えるような気がした。僕が答えられないでいると波乗は話を続けた。
    「多記君の名前……呼んだのに来てくれなかった……」
    「そんな無茶言うなよ。僕は正義の味方でもなんでもないんだから」
    「……わかってる。わかってるけど……怖かったよ……」
     波乗が近づいてくる。その進度にあわせて僕は後退した。
    「……どうしたんですか?」
    「だってお前『近づくな』って言っただろ?」
    「…………」
    「それに……僕も今は近づいて欲しくないんだ」
    「佳代ちゃんと何かあった?」
     痛いところを突かれた僕は口ごもる。
    「べ……別に……な、何も無いけど」



     明らかに何かあったような感じの受け応えに波乗は黙ってしまった。僕は何か言葉を探そうと必死になった。
     そして思いついた言葉は……
    「電話ありがとな」
     すると波乗は俯いた。言葉の選択を誤ったらしい。
    「止めてください……今、そのことで自分を責めてました……」
    「…………」
    「佳代ちゃんと多記君がどうなっても、関係ないことなのに……邪魔しちゃって……」
    「邪魔じゃない!!お陰で助かった」
     僕の言葉を聞いた波乗は俯いていた顔をすごい勢いで上げ、僕を見た。
    「やっぱり、佳代ちゃんと何かあったんだ!!」
    「うっ……でも、あれだぞ、あんな状況になったら大抵の男はだなぁ……」
    「言い訳ですっ!!」
    「だって、向こうから迫って……」
    「責任転嫁だよっ!!」
    「……ごめん」
     ……何で僕が波乗に謝らなくちゃいけないんだよ……しかし、自然に謝ってしまった。謝った僕を見て波乗は顔をそらし、横を向いた。



    「って……何で私……多記君を責めてるんだろ……」
    「……波乗」
    「皆と仲良くしたいだけなのに……」
    「…………」
    「ハガキ書いて騒いで……楽しく過ごしたい……どうしてこうなったの?」
    「……それは違うぞ」
    「え?」
     自分でも良く分からないうちに波乗へ反論していた。すごく波乗の言葉が奇麗事に思えたからだ。
    「いつまでも同じままというわけにはいかない。だから、波乗だって家族を取り戻すべく頑張ってるんだろ?」
    「…………」
    「アイツ等だって抱えてる気持ちをそのままにしておけなかったんだろ? ……人はいつか決断しなくちゃいけない。」
     反論した僕の言葉も十分奇麗事だ。自分でも嫌になる。
    「……だから明日からまたハガキを頑張ろう。最終発表がある日まで」
    「……うん」
     僕は何だかんだ言って結論を先送りにしただけなのかもしれない。その後、僕達はそれぞれの部屋へと帰った。部屋に帰ると川上はすでに寝てた。



     次の日。帰りの電車の中ではもちろん無言だった。傍目からは旅行帰りの疲れた4人組にしか見えないけど、実情はそんな理由で話さないわけじゃない。  気まずさだけが残った旅行だった。
     さらに翌日、波乗の家に川上と工藤は来なかった。




    第22話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第23話 「逃亡者」



    「ふぅ、何とか撒いたみたいだな……それにしてもしつこい奴だ」
     僕は波乗家の玄関前で一息つく。さっきまである人物に追われていたのだが、何度も迂回いして逃げおおせたわけだ。
     玄関を開け、ラジオブース前を通る。相変わらず波乗丈ことジョニーはせわしなく動き、夜の番組に向けて準備をしていた。それを横目に波乗の部屋へ行く。ドアを開けると室内には波乗とリンがいた。
     二人は一瞬、こっちを見たけど入ってきたのが僕だと分かるとため息をつく。
    「今日も来てないのか……」



    「……うん。多記君も遅かったね」
    「あぁ、ちょっとした奴に追われてな……」
    「誰? 怪しい人?」
     波乗が不安そうな表情を見せる。基本的に独りでいることが多い彼女にとっては不安に違いない。だから、少し説明してやることにした。
    「……いや……親戚だ」
    「親戚?」
    「正確に言うと『直子さんの親戚』だ」
    「もし、この家へノートパソコンを持った変な奴が現れても絶対に中に入れるな」
    「うん」
     僕らの話に得意げな顔をしてリンが口を挟む。
    「直子先生の親戚って……リンちゃん知ってる!! えっとね……うーんと……た……」
    「言うなっ!! 名前も聞きたくない」
    「お断りリンっ!! って……ングゥ………」
     リンがあんまりうるさいので口を塞いでやった。リンが落ち着くと僕達はハガキを書き始める。



     二人がいなくなって2週間が経つ。これだけ時間が経てば、アイツ等が書いたハガキのストックはとっくに無くなっている。で、宝条リンの状態はといえば……以前の水準をかろうじて保っていた。
     それは僕が二人の分のカバーをしているからだ。この数ヶ月間、ただ過ごしてきたわけじゃない。自分に無いものを二人のネタハガキを読んで探していたのだ。だから、二人の書くネタの傾向はすでに把握している。あとはそれを真似て書けばいい。場当たり的な方法だが今は仕方ない。しかし、長期的に見ればいずれかは破綻するだろう。
     それに加えペンシル祭の読まれる量が爆発的に上がってきた。今や各コーナーで読まれるハガキは宝条リンとペンシル祭の二強に、気まぐれサーファーがかろうじてついてくるといった展開になっている。



    「リンちゃん、つまんなーい!!」
    「うるさいぞ!! リン」
     こうやってリンが言い出すのは毎度のことなので僕はとりあえず突っ込んだ。だが、今日のリンは一味違い、不満を爆発させた。
    「つまんない!! つまんない!! つまんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!!」
    「なんなんだよ、お前は!!」
     さすがに慣れているとはいえ僕は腹を立てた。すると、リンは急に静かになり俯いた。
    「……リンちゃん……皆がいないとつまんない……」
    「…………」
     僕と波乗は黙ったまま答えることが出来ない。
    「ねー、二人を迎えにいこうよ」
    「……それは……できない……」
    「…………」
    「何で?リンちゃん、わかんない」
    「…………」



     リンは僕に近づき顔をじっと見る。僕はまともに目を合わせることが出来ずに顔を逸らした。
    「あ〜あ……また、恋愛沙汰かぁ……リンちゃん、つまんない」
    「!!」
     何でバレた?こいつの直感は馬鹿に出来ない。明らかに失望した表情を見せてリンは立ち上がる。
    「おい、どこへ行くんだよ」
    「……リンちゃん、帰る」
    「待てよ、話を聞けよ」
     僕はリンの腕をつかもうと手を伸ばすが、あっさり彼女にかわされる。僕を見つめる瞳がもの凄く冷たい。何も受け付けないような印象を受けた。
    「お断リン!!久しぶりにタッくんが面白いことやってるなぁ〜って思ったけど、結局はこんなもんだよね〜♪」
     文字にしてみればいつも通りだが、声のトーンが明らかに違う。こんなリンを見たのは二度目だった。一度目は……いつだっけ?
    「…………」
    「くだらない恋愛したけりゃ勝手にやっててね、それじゃあ」
     捨てゼリフを残し、リンはドアを開け出て行く。誰も止められない。
     ……あっ……思い出した……一度目は……別れたときだ。
     こうしてリンもいなくなった。



     静かな部屋で僕と波乗は固まっていた。しばらくして、波乗が僕に話しかける。
    「琴和さん……なんだかいつもと性格が違うような……」
    「アイツはテンション高いときと低いときの差が激しいだけだ」
    「付き合ってたから良く知ってるんだね」
    「まぁな」
     僕が否定することなくアッサリ言ったのが原因なのか波乗は俯いてしまった。そのまま何も言えずに時間が過ぎる。
    「……前から聞きたかったんだけど、どうして二人は別れたの?」
    「…………」
    「あっ、ゴメン……聞いていいことと悪いことがあるよね」
    「いいさ別に……」
    「……玲子さんがラジオ界からいなくなってからもハガキは書いてた。いつアノ人が帰ってきてもいいように僕が頑張ろうって思ってた」
    「……そうなんだ」
    「でもアイツと……リンと付き合うようになってから全然ハガキを書かなくなったんだ」
    「…………」



    「アイツは絵を一生懸命書く。描いている間は何者も寄せ付けない。僕もハガキを書く。それが二人を結びつけるモノだった。オレだけ恋愛に夢中になってアイツはそれを冷めた目で見てた」
     波乗は僕の目をじっと見て話を聞いている。
    「断っておくけどバカなアイツも冷たいアイツもどっちも本当のアイツだ。あいつの家はしつけが厳しい。それに加え通っている学校も由緒正しい学校だ。あんなバカがやれるのは僕達の前だけなんだよ」
    「…………」
    「きっと……バカやれる場所が……大切だったんだ」
     今、考えてみれば付き合ってたなんて思っていたのは僕だけだったのかもしれない。そう思うとあいつのことを何も知らなかったのだと思う。
    「それなのに僕はまた恋愛沙汰でアイツを冷めさせてしまった……それだけじゃないあの二人が来ないのも僕のせいだ……変な意地張らないで迎えにいくべきなんだよな……駄目だな……リーダー失格だ」
    「それは違うよ……多記君は頑張ってると思う……」
    「…………」



    「だって、今もここにいてくれるでしょ?」
    「……………」
     瞳が潤んで見えるのは気のせいだろうか? 波乗は僕に微笑みかける。ただそれだけのことなのに少し救われた。
    「それに琴和さんが言うようなことは無いと思う……恋愛はくだらなくない」
    「波乗……」
    「ただ……バランスをとるのが難しいんだよね」
    「……そうだな」
    「……やっぱり言うね、私」
     胸に手を当て顔下へ傾ける。少しして決心したのか顔を上げた。
    「……佳代ちゃんと多記君が二人きりなんて……すごく嫌だった」
    「!?」
    「好き……ってハッキリとは言えないかもしれないけど……」
    「言わなくていいよ」
     僕は手を伸ばし波乗を引き寄せていた。波乗は何の抵抗もなく僕の中へ包まれる。
     しばらく抱き合ったまま時間が過ぎた。



     やがて僕は波乗から少し離れ、向き合った。波乗は目を瞑り、呟く様に言った。
    「……多記君は私のこと……」
     僕はそれに答えることなく彼女と唇を重ねた。
     また一つ、僕は答えから逃げた。




    第23話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第24話 「不協和音」



    「ったく……いつまでいるつもりだ? この場所が見付かるのも時間の問題かもな」
     今日も僕は波乗家の玄関へ人目を気にしながら入る。別にやましい事してるわけじゃないから気にすることないのだが、直子さんの親戚はこういう波乗家の事情を知ったら面白がって色々やるに違いない。それだけは阻止しなければ……



     舗装された坂道を登る。いつも思うのだが、波乗の家は変だ。まず、僕の身長より大きな門。次に門から家に着くまで10分かかるし、周りは木に囲まれている。これだけ前フリがあるにもかかわらず、波乗の家はこじんまりとした木造二階建て。
     放送電波もそう遠くへ飛んでいない。せいぜい半径500メートル。(波乗家近くのコンビニへ行ったときにラジオを聞くことが出来なかった)
     波乗丈が自己満足で放送しているなら問題ないが、リスナーがいる。放送中、一切CMは入らないし……どうやって運営してるんだ? 何なんだろう。
     ……って言うか僕は今、現実逃避をしてるのだろうか?
     だって、とっくに波乗家の玄関にたどり着いてるのに入ろうともしないで考え事をしている。



     正直、入りづらい。あんなことがあって、どんな顔をして入れば良いのだろうか? 普通が一番だということは分かっているが、上手くやれるだろうか?
     変に意識したりしないかな?
     ……僕がじゃなくて波乗が。
    「……るの?」
    「…………」
     何か後ろから声がする。とりあえず無視。
    「……ってるの?」
    「……うるさい、今考え事を……」
    「多記君、何やってるの?」
    「!! ……波乗っ」
     慌てて振り向くとそこには波乗が立っていた。笑顔で僕を見てる。
    「今日は少し遅いね」
    「えっ……あぁ……ちょっと……尾行を撒いてた」
    「そうなんだ。じゃあ、中へ入ろ」
    「……ああ」
     あれ? 普通だ。昨日の事、気にしてない?……なんだ、僕の考え過ぎか。アホらし。



     部屋に入り、いつものようにラジオの放送を聞きながらメモを取ったりネタハガキを書いたりする。特に何も変わらない。僕は次第にいつものベースに戻ってきた。工藤と川上がいなくなった今、ハガキを稼げるのは僕しかしない。ペンの乗りも良くなってハガキ量産体制になった、その時、波乗が僕に話しかけてきた。
    「多記君、あのさ……」
    「何だよ」
    「あの……」
    「だから、何だよ。ネタに困ったか?」
    「ううん、そうじゃなくて……」
     波乗は何だか僕のほうをチラチラと伺いながらタイミングを計っている。
    「じゃあ、何だよ」
    「…………あのさ……多記君のこと……名前で読んでいい?」
    「えっ!?」
    「……駄目かな」
    「いや……別に構わんが……」
    「多記……じゃなくて……と……透君、ありがとう!!」
     ……って言うか、そんな事言われて、駄目と言えるはずがない。
     すごく嬉しそうな彼女の顔の前では多少の事は気にしないことにした。いいよな、名前ぐらい。まったく知らない他人でもないし。



     しかし、この事がきっかけで波乗は変わっていった。
     次の日波乗家へ行くと波乗が玄関先で僕を待っていた。手を振り近寄ってくる彼女に僕は違和感を覚えた。
    「透君、待ってたよ」
    「……」
    「どうしたの?」
    「……いや……いつもと雰囲気違うなぁって思ったから……」
    「分かる? 分かる? 今日は軽くお化粧したの」
    「何で急に……今まではしてなかっただろ?」
    「えっ!? ……だって、私も女の子だし……」
    「…………」



     さらに次の日。
    「せっかくの夏休みなんだから明日、何処か行かない?」
    「何言ってるんだよ。明日はネタハガキの傾向を考える日だろ?」
    「いいじゃない。たまには」
    「こういうネタの傾向を修正することを怠っては駄目だ」
    「……どうせ私は読まれないし」
    「だから努力するんだろ?」
    「いい。だって、透君が居てくれるじゃない? それで十分」
    「…………」
     こんなことがもう何日も続いている。



     明らかに波乗のモチベーションが下がってる。
     最初のようなハガキ職人への情熱がなくなった気がする。放送中、それ以外でもネタ帳に書き込みする回数が減ったし、放送を聞いているときより僕と話をしている時間のほうが多い。今や波乗が宝条リンなのか僕がそうなのか分からない。読まれるハガキの9割がたは僕のものだ。このままではペンシル祭だけじゃなく、気まぐれサーファーにも追いつかれてしまう。
     正直、僕のネタが読まれる採用率は高い。しかし、書ける枚数は限られている。ペンシル祭は僕より書くスピードが明らかに速い。だから、じりじり追い詰められていく。波乗は僕が何とかしてくれると思って安心しきっている。


     だから今日も僕がハガキ書く隣で、くっつく様に座り離れない。何をやってるんだ波乗は……って何もしてないし……ただくっついてるだけ……
     僕は我慢し切れなくなった。
    「おい、ハガキ書けよ」
    「でも、ネタ浮かばないし」
     僕の言うことを聞くという雰囲気じゃない。それどころか余計にもたれかかってきた。彼女の髪からいい感じの香りが……って言ってる場合じゃない。
    「お前、家族を取り戻したいんじゃないのか?」
    「……うん、そうだけど……今は……こうしてるほうが……」
    「おい、どうしたんだ? 波乗らしくない」
    「……変?」
    「明らかに変だ」
     すると波乗は僕から離れ一定の距離を置き、こちらを真剣に見つめる。



    「……好きです」
    「…………」
     この前とは違いハッキリと言った。嫌な展開だ。
    「……透君は?」
    「…………ゴメン」
    「…………」
     波乗の表情がどんどん曇っていく。だが、僕を見つめる目だけが力を失っていない。
    「……その……なんと言うか……ハッキリ自分の気持ちが分からないというかだな……」
     正直、波乗はカワイイと思うし、向こうが好きだって言うんだから付き合えば良いのだが……工藤の事もあるし、リンが言った『くだらない恋愛したけりゃ勝手にやっててね』という言葉も僕の中でストップをかける。
     皆いなくなって……二人だけになった部屋で……二人になったから僕はやってしまったのだろうか? ……そこに波乗がいたから……
     波乗の瞳が……涙が……唇が……言葉が……さらに僕を追い詰める。
    「……好きじゃないのに……したの?」
    「…………えっと……あの……勢い……」
    「!!」
     不覚にも僕は波乗の顔を見て失言したことに気が付いた。慌ててフォローしようにもすでに遅く、波乗はしゃがみこんで泣いてしまった。



    「……っ……うっ…………うっ……」
    「…………」
     大声で非難するわけでもなく……声を殺して必死に悲しみに耐えている。この前のようにわめき散らかされた方がまだましだ。
     そして僕は彼女に近づくことも出来ずに立ち尽くしている。情けない。
     でも……近づいて……慰めて……どうなるんだよ……余計に傷つけるだけじゃないか……
     色々なことが頭を巡り、不意にバランスを崩した僕は足を1歩だけ後ろに下げてしまう。それは本当に意識したことじゃない、たまたまだ。でも、彼女は敏感に反応した。
     俯いて泣きながら言う。
    「……どこいくの?」
    「えっ!?」
     波乗は僕が帰ろうとしていると勘違いしている。
    「…………」
    「…………」
    「……明日」
    「?」
    「……明日も……来て……くれる?」
    「あ……当たり前だろ……明日も来る。じゃ……じゃあ今日はこの辺で帰るから」
     僕は卑怯者だ。勘違いをキッカケにこの場を逃げ出した。
     じゃがんだままの波乗を残して、独りの波乗のを残して……早足に波乗家を後にする。



     玄関を開け庭へ出ると、誰かが僕の行く手を阻んだ。
    「多記君、話があるの」
    「……すいませんが……今日は勘弁してもらえませんか?」
     玲子さんは真剣な面持ちで僕の前に立っている。
    「……重要な話なの」
    「…………」
    「内容は『ラジオデイズ』の事……それでも駄目?」
    「今じゃなきゃあ駄目な話なんですか?」
    「ええ。お願い」
    「……分かりました。手短にお願いします」
    「ここだと澄音ちゃんに聞こえるかもしれないからこっちにきて」
     僕は玲子さんの先導で歩き出した。



     歩き始めてすぐ、玲子さんは僕がいつも通って来る山道とは違う道へ入った。
    「玲子さん、何処へ行くつもりなんですか?」
    「…………」
     僕の言葉を無視して歩き続ける彼女に少しイライラしてきた。
     この状態が10分ほど続き、完全に波乗家内にある森の中へ入ってしまう。辺りは暗く、月明かりだけが頼りである。
    「玲子さん、一体どういう……」
    「多記君は何で澄音ちゃんを手伝ってるの?」
     玲子さんは僕の言葉に被せる様に言う。しかも、質問内容が僕の心を逆撫でした。
    「……僕に何を言わせたいんですか!? わざと人を苛立たせたりして」
     すると玲子さんは立ち止まり、首を振った。
    「違う、そんなつもりない……」
    「じゃあ、なんで……」
    「苛立っているのは多分、私……」
     僕へと振り返り、じっと伏せ目がちに見つめる玲子さんの視線に耐えられない。思いつめた表情が波乗の表情と被る。思わず、少し目を逸らしてしまう。


    「こんなことしても時間の無駄。単刀直入に言うね。澄音ちゃんから手を引いて。このままじゃあ彼女……宝条リンが1位をとってしまう」
    「…………」
    「お願い!!もし彼女が一位をとってラジオブースに入ったら、丈さんはきっと家庭を顧みてしまう!!」
     玲子さんは僕の両腕を掴み訴えかけた。僕はただ揺さぶられながら答える。
    「それはしょうがないでしょう。だいたい今迄が異常だったんだ」
    「私は本気でお願いしてるの!!」
    「波乗の気持ちだって本気でしょう!!」
     思わず僕も声を上げる。
     そうだ。僕は波乗の『家族を取り戻す』という夢を叶えるために頑張ってるんだ。このことだけはハッキリしてる。どんなにギクシャクしても波乗を応援することには変わりない。
    「お願い……私達の世界を壊さないで……」
     玲子さんの肩が震えている、瞳からは涙が零れ落ちた。
    「玲子さん?」
     僕が玲子さんの異変に気付きを覗きこんだ瞬間だった。背後から鈍い音とともに体中に痛みが走る。
     その後立て続けに痛みが走り、僕はひざから崩れ落ちた。
    「……悪く思わないでね……私達はもう負けられないの……」
     薄れゆく意識の中、視界に入った人は……鉄パイプを持った……ペンシル祭?……




    第24話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第25話 「多記透」



     息を弾ませて階段を駆け上がる。今は少しでも一緒にいたい気分なので急いで帰りたい。アパートの一室へとたどり着くと急いでドアを開けた。
    「お父さん。お昼、買ってきた〜」
    「おぉ。佳代、ありがとうな。そこ置いといて」
    「うん」
     父を見た。私にプレゼントすると言ってパズルを一生懸命に取り組んでいる。
     8月も中旬。父がお盆休みだと言うので、一緒に過すため私はこっちへ来た……というのが建前。本当は皆との旅行以来、あの街に居るのがいやだったと言うのが本音。
     でも、来て良かったと思う。何気なく父の隣に座った。安心感が私を包む。
    「変な奴やなぁ、座るところならいっぱいあるやん。そんなにこの部屋狭いか?」
    「そんなことあらへんよ。でも、ここに居たいの」
     父はしばらく私の顔を見た後、再びパズルへ集中し始めた。
    「お前みたいな年頃の子は皆、オッサンとか嫌いやと思ってたけど……」
    「そら、その辺に歩いてるオッサンは私だって嫌やけど、今隣におるのって私のお父さんやん」
    「……そやな。でも、同僚の娘さんなんか話もしてくれへんって言ってたで」
    「その子はいつも近くにおるから気付かへんだけやと思う」
    「……すまんな」
    「ええよ、別に。もう慣れたし」



     私が欲しかったのは安らぎ。欠けたモノが埋まる感覚。彼がそれを埋めてくれると思ってた。でも……現実は上手くいかない。
    「でも、良かった。佳代が元気になって」
    「えっ?」
    「3日前に玄関で会った時は今にも泣きそうな顔してたで」
    「…………」
     あの時が一番落ち込んでたときだ。どうしても心に開いた穴を埋める事が出来なくて私はここへ来た。そして、父はすっぽりとその穴へ埋まり、少しずつ私はバランスが取れるようになった。やっぱり「私の何か」を埋めるのは父以外にいないのだと思う。
     父はパズルをしながら話を続けた。
    「あのさ……佳代」
    「なに?」
    「このパズルできたら……聞いて欲しいことあるんやけど。ええかな?」
    「ええけど……とりあえずお昼にしよ」



     昼食をとり、一休みすると再び父はパズルに向かう。私はその横顔を見ていると、少しだけ……ハガキを一生懸命書いている彼とタブらせていた。
     西日がアパートの室内を染める頃、父はパズルを完成させた。
    「やったやん!! 完成や!!」
    「……そうやな」
     折角のパズルが完成したのに父の顔はいまいち冴えない。
    「そういえばパズル出来たら聞いて欲しいことがあるって言ってやんなぁ。何のこと?」
    「……ん? ……あのな」
    「?」
    「……お父さん……再婚しようと思うんやけど……」
    「!?」
     




    「え!? 予定が詰まってる?」
    『だって、直人、夏休み前にオレの予定は詰まってるって言ってたでしょ? そのつもりで私も予定立てたから』
     受話器の向こうから楽しそうな話声が聞こえる。
    「……んだよ……予定が急に変更になってさ……聞いてんのか?……おい!! って切りやがった……」
     ベッドに寝転びながら携帯の電話帳を眺めながら次に誰へ電話しようか思案している。
    しばらく考えて、電話するのが面倒になった。とりあえず手当たり次第にメールすることにする。いつもなら事前連絡なんてせずに色んな場所へ行くのに……オレらしくもない。
     あの旅行の以来、こんな調子だ。他の奴らには予定があってオレには……もうない。全部、アイツのせいだ。アイツがハガキを書こうなんていわなかったら、こんなことにならなかった。
     バカみたいな事を何度も考えながら過す夏休みなんて最悪だ。



     考えが巡って元に戻った頃、部屋のドアがノックされた。
    「直人、お客さん」
    「誰?」
    「長谷川さんって女の子だけど知らない?」
    「え?」
     誰か分からなかった。かといって自分を訪ねてくれた貴重な人間をそのままにして置けるはずも無く、とりあえず部屋を出る。
     玄関へ向かうと一人の女の子が所在無さげに立っていた。まっすぐに伸びた長い黒髪。露出の少ない地味な服装。メガネをかけ、俯き加減で女の子は俺を見ていた。
     っていうか未だに誰か分からない。オレは彼女を眺めて何も言わないでいると、彼女は焦りだし、あくせくしながら持ってきたカバンから何かを取り出した。
    「あっ、あの……これ……」
     彼女が取り出したのは携帯電話だった。液晶の画面からはオレが手当りしだい送ったメールが表示されている。



    「あっ、来てくれたんだ!!うれしいなぁ……まぁ、ここじゃなんだから上がって上がって」
     オレは携帯を見ると反射的に受け応えしていた。我ながらわざとらしい。
     しかし、彼女は分かってるのか分かってないのか恥ずかしがりながらも靴を脱いだ。とりあえず今は気を紛らわせる相手は誰でもいい。
     部屋まで案内するとオレは小型冷蔵庫から飲み物を取り出し、隣においてあったお菓子を広げる。色々な物をとりに部屋を空けると女は室内を物色するので必要なものは大抵ここにおいてあのだ。
    「さぁ、遠慮しないで飲んで」
    「あ……はい」
     彼女は警戒してるのかまったく出されたものを口にしようとしない。
    「大丈夫、変な薬なんて入ってないから」
    「は……はい」
    「…………」
    「…………」



     気まずい。何だこの沈黙は。
    「もしかして、緊張してる?」
     オレの言葉に彼女は反応して、慌てだした。意味無く何度もメガネをあげる仕草をしたりする。
    「あの……ご、ごめんなさい!! ……その……男の部屋に来るの……初めてだから」 「マジで?」
     何度も首を縦に振る彼女。確かに……男がいそうな感じではない。それ以前にメールしてすぐにこの家に来れるところからして友達も少ないのだろう。
     まぁ、いいや。何も知らないほうが下手な駆け引きをしなくても良いからな。自分のペースに巻き込める。
    「そんな緊張しなくていいよ……とって食うわけじゃないんだから」
     とか言いながらオレは彼女へ近づき、肩へ手をまわす。ちょうど良い時に来てくれたもんだ……





     私には心配事があります。それは妹……リンの事。ドアをノックし、向こう側から返事があると私は室内へ入りました。
     物憂げにお庭の噴水を窓から眺めているリンの可愛さに私は卒倒しそうになりました。何とか気を取り直しリンに話しかけます。
    「今日は出かけないのですか?」
    「……お姉様……もういいんです。終わったことですから……」
    「心配しなくともお父様とお母様には私が上手く言っておきます」
    「……いいえ、もう行きません。いままで疎かにしていたお稽古事に精を出しますから」
     久しく見ていなかった沈痛な面持ちに私の胸は張り裂けそう。
     我が琴和家の跡取りは私達姉妹のみ。長女の私はともかく、せめてリンには思う通りに生きて欲しいと願って止まないのです。だから、戯画にいそしむのも、ラジヲ番組への投稿もお父様とお母様には内密に進めてまいりました。



     しばらく黙り込んでいたリンは思いつめた顔をして私に話しかけます。
    「何故に人は恋愛するのでしょう?」
    「どうしたのですか?」
    「お姉さまには何度も申し上げた通り、私は漫画家になりたいという夢があるのです」
    「幼き頃からの夢でしたね。世界中の子供達に感動を与えるのだと」
    「はい。ですが……周りの者は違います。夢や希望を語るのにその一方で恋愛に現を抜かし、夢を平気で忘れるのです」
     少し前も同じことを言ってリンは悩んでおりました。原因となった殿方と別れた事で解消されたとばかり思っていましたのに……
    「…………」
    「夢は恋愛に勝てないのでしょうか?」



     瞳を潤ませて、語るリンを私は思わず抱きしめてしまいました。するとリンも私へ体をあずけます。
    「自分達で勝手にしてくれれば良いのに……私まで巻き込もうとする……」
    「もう、悩むことはありませんよ……今は私に思いをぶつけなさい……」
     一体、何がこの子の身に起きたのでしょう。今すぐその障害を取り除いてあげたい。でも……もう少しこのままリンを抱きしめていたい……
     しかし、リンの一言で状況は一変しました。
    「私が多記透という男を買いかぶり過ぎていたようです」
    「!! ……今何と言いました?」
    「……お姉様、ごめんなさい。実は……今まで夜出かけて居たのは……多記透と会っていました」
    「何ですって!!」
     その名前を忘れるはずがありません。多記透、一時期リンを惑わせた憎き相手。
    「多記透……この忌まわしき名を再び聞くことになるとは……」
     私はいても立っても居られなくなりました。
    「お姉様、どこへ行かれるのですか?」
    「決まってます!! 今度こそ多記透の息の根を止めてみせます!! 坂田、車の準備をしなさいっ!! それと、長刀の準備もです!!」
    「おやめください、お姉様!!」





     私は今日も玄関に座り、彼の来るのを待っています。彼とはもちろん多記君のこと。もう、5日になります。やっぱり嫌われたのでしょうか?
     多記君には私が重荷だったのでしょうか?
    「澄音ちゃん、どうしたの?」
     話しかけてきたのは玲子さんでした。
    「そういえば最近、皆を見かけないわね」
    「……はい。皆、色々あって……」
    「でも……澄音ちゃんは……皆の中でも……多記君が気になるわけだ」
    「…………」
     何も答えない私に玲子さんは微笑みながら言います。
    「……彼のことが好き?」
    「……はい」
     好きだということを素直に認めました。そんな私に玲子さんは腕組みをして横を向き、言いました。
    「……多記君も酷い奴ね。澄音ちゃんを見捨てるなんて……」
    「見捨てる?」
    「だって、今まで毎日のように来てたのに、もう5日も来ないんでしょ?」
    「ち、違います!!きっと何か用事があるんです。ご親戚の方にご不幸があったとか」
    「だったら連絡の一つもくれてもいいのにね」
    「…………」
     考えないでいようと思っていた『見捨てられた』という、どうしようもない現実を突きつけられた気がしました。私が呆然としている間に玲子さんはブースの方へ行ってしまいました。
     その後の私は頭の中はごちゃごちゃで、ラジオの放送も耳に入ってきません。何だか色々な事を考えてしまい、ハガキを書けなくなってしまいました。



     多記君が来なくなって5日経ち、6日経ち、7日が経ちました。ラジオからはペンシル祭さんや気まぐれサーファーさんのハガキが次々読まれます。でも私はそんな事もう、どうでもいいです。
     多記君、多記君、多記君、何で来てくれないの?……淋しい……
     ……とうとう一週間が過ぎました。もう放送を聞くこともないです。私は玄関の外で座りながら多記君をここで待っていることにしました。
     多記君の家は知っています。何度も行こうと思いました。でも、玲子さんの言葉が耳から離れません。
    『澄音ちゃんを見捨てるなんて……』
     私には待つことしかできません。
     玄関に座りながら、今日も多記君のことを考えています。存在が大きいです、とても。
     あの日もこうやって、プリントもって来てくれた多記君を待っていました。ハガキが全然読まれなくて落ち込んでいる私は、とにかく誰かに頼りたくて多記君に抱きつきました。
     でも、今は違います。多記君だから触れたい。



     そんな思いに駆られていると、前方に人影らしきものが見えました。私は思わず立ち上がります。影はだんだん近づき、大きくなります。そして輪郭が整ってきました。私はいつも間にか走り出していました。
    「多記君っ!! ……あっ……」
     しかし、途中で走るのを止めました。多記君じゃなかったからです。
     その人は多記君よりももっと小柄でスカートをはいていました。見るからに女の子です。なぜかノートパソコンを首から提げて、何かを打ち込んでいます。私と彼女の距離がかなり近づいたところでようやく目があいました。
    「多記透を出したまえ」
    「え!?」
    「とぼけても無駄だ。調べは付いてる」
     突然の詰問に私は戸惑ってしまいました。でも、この人も多記君を探しているのだと思うとはっきり言った方がいい気がします。
    「……本当です。私だって……多記君に会いたい……」
     すると彼女は私をじっと見つめてきました。
    「どうやら嘘はついてないみたいだな……」
    「あの……アナタは一体誰なんですか?」
    「……私の名は井端環。多記透の親戚とでも言っておこう」




    第25話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第26話 「It's a heavry spear.」



     井端環と名乗った女の子は再びノートパソコンに向かいだしました。
    「おかしいなぁ……発信機が途絶えたのはここだから何か分かると思ったのだが……」
    「あっ……あの……」
    「…………」
     ノートパソコン夢中で私の言葉が聞こえないみたいです。
    「あの〜、すいません」
    「…………」
     無視ですか? 無視なんですか? ……でも、今はこの人にすがるしかありません。
    「私の話を聞いてくださいっ!!」
    「………………ん?」
     ようやく私の声が聞こえたみたいです。井端さんはこっちを向いて私を見つめて一言言いました。
    「そういえば……お前はここで何をしているのだ?」
    「あの……それ私が聞きたいんですけど……多記君は家にいるんじゃないんですか?」



     私の言葉を聞くと井端さんは眉間にしわを寄せました。
    「……ここ一週間ばかり連絡もよこさず無断外泊だ……そこで、直子さんに頼まれて調査しているのだが」
    「そうなんですか……」
    「……というかもともとあの男に興味があってな」
     といった後、井端さんの目が異様なほど光りました。少し怖いです。
    「えっ!?」
    「なに驚いている。ネタとして面白い男だからだ。くだらん邪推をするな」
    「…………」
    「そういうお前は多記透の何なんだ? 友達か? 女か? それとも奴隷か?」
    「奴隷?」
    「そうか……奴隷なのだな……」
    「ち、違います」
    「まぁ、恥ずかしがるな。どんな人間関係でもSとMの関係は付きまとうものだ」
    「だから違いますっ!!」
    「そもそもSというのはサド伯爵がだなぁ……(以下削除)」
     どんどん話を進めていく井端さんの変な誤解を解くのに少し時間を費やしてしまいました。





    「えっ!? ……今なんて言った?」
    「そやから……再婚……」
    「なんで?」
    「なんでって言われても……好きな人ができたんや」
     照れくさそうに腕組みをして父は答えました。少し嬉しそうな表情に私は腹が立ってしまいました。
    「……裏切りや」
    「は?」
    「そんなの私に対する裏切りやっ!!」
     すると父はさっきとは違い、すごく悲しそうな顔をした。
    「……すまん……としか言えへんわ」
    「許さへん、絶対に許さへんからなっ!!」
    「佳代……」



     怒りが頂点に達した時、玄関のチャイムがなった。父は玄関を気にしてるが、私は玄関を無視して父を睨んでる。
     しばらくこう着状態が続いた後、勝手に玄関のドアは開かれた。
    「おーっす!! オッサンに言われた通りの時間に来てやったぞ……ってあれ?」
     突然、中学生ぐらいの男の子が家に上がりこんできた。何のことか分からず呆然としていると父が説明した。
    「この子は再婚相手の息子さんで……」
    「…………」
    「新田輝(にったあきら)って言います!! よろしく。確か……オッサンの娘さんやんな」
     ニコニコ笑いながら手を差し出してきた。どうやら握手を求めているみたいだ……冗談じゃない。やたら明るい雰囲気に私は再び怒りがこみ上げてきて、私は彼を無視した。
    「あのな……ちょうどええ機会やから……顔見知りになってもらって、再婚した後も気軽に家に来れるようにって思ってな……」
     父のフォローも余計に苛立たせるだけで……いたたまれなくなった私はこの部屋を飛び出した。



     どうして、好きな人は私の周りからいなくなるんだろう……欠けたパーツは一生埋まらない。
     走る私の腕を誰かが掴む。振り向くとそこにはさっきの男の子がいた。私の腕を掴みながら肩で息をしている。私も肩で息をしていた。しばらく、お互いの乱れた呼吸しか聞こえない。
     やがて時間が経つとお互いの息も整って来て、今度は気まずい沈黙が二人を取り巻く。この状況を破ったのは新田輝とかいう男の子だった。
    「あーあ、オッサンかわいそうだな」
    「!!」
    「アンタがおるせいで一生、好きな人と結婚も出来へんのやなぁ」
     あからさまな非難の言葉に私はむかついた。
    「……どういう意味や。あの人は私の父親やろ!! 娘の幸せ考えるのが当然ちゃうの!?」
     勝手に離婚して、勝手に離れて行って、私に寂しい思いをさせてのは父だ。その責任を負うのは当然じゃないか。
    「……そんなに自分が可愛い?」
    「え……」
    「自分が満たされれば他の人はその犠牲になってもええんや」
    「……そこまで言うてへんけど……」



     明らかに年下の男の子に私は押されっぱなしだった。言うこと一つ一つが私よりも遥かに大人で……言い返せない。
    「とかいいながらホントは僕も結婚にはあんまり賛成できへんのやけどな」
    「えっ!?」
    「でもな……やっぱりオカンには幸せになって欲しいから」
     自嘲的に話す彼の横顔を見ていると何だか腹が立ってきた。
    「……アンタはそれでいいの?」
    「?」
    「自分の気持ちもぶつけないで、そうやって分かったフリしてるわけ!?」
    「…………」
    「私は嫌。自分の気持ちを伝える」
     だから私は多記に告白したし、父にもはっきり言った。
     男の子は私にきょとんとした顔を見せる。少し時間が過ぎて、彼はため息をつき、私に言った。



    「アンタ……『好き』ばっかり言うタイプやろ?」
    「!!」
    「……自分の幸せが必ずしも大切な人の幸せとは限らへん……一人で頑張ってるオカン見たら分かる」
    「…………」
     私が返答できないでいると彼は頭を下げた。
    「……お父さんを許してやってくれへん?」
    「!!」
     何故この子が頭を下げるのだろう? 再婚相手の子供だから?
    「……やっぱり僕が言うのも変やった?」
    「………………ごめん今はなんとも言えへんわ」
     彼から離れ、街中を歩きながら考えた。
    『「好き」ばっかり言うタイプやろ?』って言葉が胸に刺さる。



     辺りを一回りして、アパートの近くに来た。階段を上がりドアノブに手をかける。ドアが開くと同時に父が私を見た。部屋を見渡すとすでに父しかいない。
    「おかえり……あのなお父さん考えたんやけど……」
    「再婚したらええよ」
    「……は?」
    「再婚相手の息子、何かええ奴みたいやし……さっきはカッとなったけど冷静に考えてみたら私がお父さんの幸せを妨害する権利はないしな……」
    「……佳代」
    「…………もうこの話し終わりな」
    「……ありがとう」
     私は返答できずに手を振って気にするなと伝えた。



     父になら彼のことを話してもいい気がする。
    「あのな……ここに来たのは理由があってな……実は好きな人がおって……」
    「えっ!? 好きな人!!」
     父は私の言葉を聞くと一瞬のうちに体の動きがストップした。
    「好きな人おったらあかんの?」
    「えっ……いや……そうちゃうけど……やっぱり父親やから……どんな奴や?」
    「もうええの」
    「は?」
    「……ふられたから」
     父の止まっていた動きが再び動き出した。何だか脱力したように天井をみあげる。
    「え……あ〜……ふられた……はぁ〜そうか〜そら残念やったなぁ〜」
    「何か顔がにやついてるで」
    「うっ……」



     私としては誰かにこのことを話して自分なりの決着を付けたかった。そして、父は優しい笑みを浮かべながら私に尋ねた。
    「で? どうなんや。スッパリ諦めるんか?」
    「……そうしようかな」
    「そうか……でもな、お父さん今度の再婚相手の人にプロポーズ三回断られてん。『もう結婚なんてこりごりや』ってな」
    「それであきらめずにまたプロポーズした?」
     すると、父はやたら自信ありげな様子で話してくれた。
    「違うなぁ。最後に『結婚しよ』って言ったのはあっちやもん」
    「え!? どうやってそうなったん?」
    「フフフ、そこが駆け引きってやつやなぁ……」
    「ふ〜ん、一回離婚してんのやから駆け引き上手いとは思えへんけど」
    「うっ……お前、痛いとこ突くなぁ」



     話にオチも付いて二人で笑う。
    「でも、何となく分かる……ただ『好き』って言うだけの恋愛はもうしやへんから」
    「……なんやようわからんけど大人な意見やなぁ」
    「へへへ……そしたら、私もう帰るわ」
    「早っ!! もうちょっとおってもええんちゃうん?」
    「そういうわけにはいかへん。助けやなあかん友達がおるから」
    「……そうか……じゃあ、これもってけ」
     父が私に渡したものはさっきまで作っていたパズル。しっかりノリ付けされて額に入れてある……綺麗な綺麗な色とりどりのチューリップの絵。
     何となく思い出した事……確かチューリップの花言葉は……「思いやり」。




    第26話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第27話 「手を繋ごう」



    「なるほど。お前が多記の奴隷でないことは分かった。では、何なのだ?」
    「…………友達です」
    「『友達です』の前に付いている『…………』について説明してもらおうか」
     なんだかこの人鋭いです。私も一人で抱えるのが辛くなってきたところでした。
    「それは……多記君が……」
     と私が説明をしようとすると彼女から携帯電話のメロディーが聞こえてきました。しかし、彼女は一向に反応しません。
    「あの……電話にでないのですか?」
    「でない」
    「なんで?」
    「……うるさい奴だなぁ、出ればいいんだろ出れば」
    「別にそこまで強く言ってないですが……」
     どうやら電話に出るキッカケが欲しかったようです。彼女が電話に出ると、近くにいる私にも分かるような大声で向こうの声が聞こえてきました。やたら『タマちゃ〜ん』を連呼しています。



    「うるさい!! そんなこと自分で解決しろ!! お前達自身のことだろ!!」
     と一言怒鳴ると電話を切ってしまいました。
    「…………」
    「あの……大丈夫なんですか?」
    「大丈夫だ。アイツはあんなことではくじけない」
    「はぁ……良く分かりませんが……」
     何のことだか分からないですが、自信たっぷりに言うところを見ると電話の相手とは信頼関係が出来ているみたいです。
    「で? お前の話の続きを聞こう」
    「はい……あの……多記君が……」
    「すまん……その前に聞いていいか?」
    「はい?」
    「あんな電話の切り方して、怒ってないかなぁ?」
    「…………気になるんなら電話したらどうですか?」
    「……選択に迷うところだが……とりあえず電話してみるか」
     この人は一体、何をしに来たのでしょうか?





    「あの……私のこと覚えてました?」
     オレの手が彼女の肩にかかろうとした時、話しかけられた。動きを止め、オレは言い訳を考えた……が、そんな簡単に思いつくわけもない。
    「えっ!? ……あ……当たり前やろ!! ……メチャメチャ覚えてるちゅーねん!!」
    「…………」
     へ……返事がない。やっぱりバレた? 彼女の表情を伺う。真剣な顔をしている。怒らせたか……
    「……プッ」
    「は?」
    「あははは……何で、関西弁なんですか? しかも、発音変だし」
     彼女は口に手を当て笑っている。バレてないんだ……少し安心。だが、問題は解決したわけではない。この部屋にいる以上、会話を続けなければいけない。とすれば何処かでボロが出るに違いない。そこで出した結論は……
    「外へ出ない?」



     何かと他の話題を振りやすい外に出て、少しずつこの子の事を思い出そう。ただ近所を歩いてもしょうがないので、街中を歩くことにする。今、金無えからウインドウショッピングでもしながら時間を過せばいい。
    「川上さん、これカワイイですね」
    「あぁ、そうだな」
     この子が物をねだるような子じゃなくて良かったと思ったりする。いつもいるのはあれ欲しいこれ欲しいとねだるうるさい奴ばかりだったもんなぁ……
    「いつも他の女の子とこんな風にして過してるんですか?」
    「まぁね」
     しまったっ!! ついつい答えてしまった。そう思ったところですでに遅く、彼女の表情は曇っていった。
    「……そうですか……女の子がよりどりみどりですか……」
    「そこまで言ってねぇよ」



     彼女は少し俯きメガネを上げると、顔を上げ、笑顔を見せながら言った。
    「なんか良いですね……自由で……」
    「自由?」
    「……私……こんなだから……周りに真面目だって思われてるし……自分でも……はみ出したことが出来ないし……その点、川上君ははみ出し過ぎって言うか……」
    「それは……ほめ言葉なのか?」
    「うん。だって行動に嘘はないでしょ?」
    「!?」
    「私は嘘だらけ……本当の自分は違うの。だらしないし、損得をすぐ考えるし、そそっかしいし……」
    「…………」
     何かこの子は勘違いをしているのではないだろうか?オレはいつもに思うままに行動してるわけじゃない。むしろ出来なかったことに後悔し、それが原因でこの前も失敗したばっかりだ……くそ……なんでこんなときに多記や澄音のことを思い出さなきゃいけないんだよ……
    「上辺だけだから……何でもいえる友達も居なくて、夏休みも特に予定も無いし……でも、メール来て……私を忘れてない人も居るんだなって……川上君良い人です」
     何だかペースが掴めない。いつもならこんな辛気臭い話は聞かない。早く話を打ち切って楽しいことしたい所だが、なぜか言いたいことが出てくる。
    「…………オレはそんな良い奴じゃない」
    「え?」
     オレが言葉を繋ごうとしたその時。



    「あれ? 直人じゃないの?」
     聞き覚えのある声に振り向くとそこにはさっき電話でオレの誘いを断った女とその知り合いらしき数人の男女がいた。ジロジロとオレではなくオレの隣を見ている。
    「ふ〜ん、直人って女の趣味変わったんだ」
    「はぁ?」
    「ちょっとはセンスあると思ってたんだけどなぁ〜残念」
     センスってなんだ? だったらお前はあるのか? お前の連れは何なんだよケバすぎなんだよ!! ……と言いたいところだが我慢した。
    「お前には関係ないだろさっさと行けよ」
    「結局、昔と何も変わってないんだ〜」
     とか、いくつか悪態をついて集団は去っていた。自分ひとりだったらとっくに喧嘩になってたかも……
    「私のせいでごめんなさい」
    「別にいいよ。あいつらの言ったことは本当だし」
    「女の趣味?」
    「なんでそこに喰らい付くかな……昔と変わらないって所だよ」
    「え?」
    「オレも昔は君と同じようなメガネかけてた」
    「本当ですか?」
    「あぁ。カッコ悪くてコンタクトに変えたけど」
    「そうですか……」
     髪も真っ黒で……性格も大人しく……真面目で引っ込み思案……自分の意見も上手くいえない奴……結局、言いたいことがハッキリ言える多記に琴和を奪われたわけだ。



    「……オレはひがみっぽくて、人一倍自分だけが得になるセコイ方法を考えてるし……自分失敗や後悔をすぐ多記って奴のせいにして棚上げにする………ホントはそういう奴なんだ」
    「それでも川上さんは良い人です」
    「……違う。今日もこうして誰も居ないから君の相手をしている。悪いが手当り次第にメールを送ったし、実は未だに君とどうやって知り合ったのか憶えてない」
    「…………」
     さすがにこの一言はショックのようだ。彼女は黙ったまま俯いてしまった。今頃になって何でこんなこと言ったんだろうと後悔する。
    「だとしても……」
    「?」
    「やっぱり……川上さんは良い人です」
     無理やり笑ってるのがみえみえ。オレは何となく自分のペースに乗れない理由が分かった気がした。
    「……君はオレの知ってる人に似てるな」
    「え!?」
    「最近、その人に振られたけど」
    「……川上さん、私のとっておきの場所へ案内します」
    「どうしたの突然?」
    「目を瞑ってください」
     いきなりの事でよく分からないけど彼女に従うことにした。目を瞑ると彼女はオレの腕を掴み引っ張る。連れて行かれる途中、何だか味気なかったのでオレの腕を掴んでる彼女の手を離し、オレの手を握らせた。少し、ためらいもあったようだけど彼女は手をつないだままオレを先導する。



     何処かの建物に入った気配がすると、すぐにエレベーターに乗った。何階まで行ったのかはしらないけど、ドアが開く音がして風がオレの顔に当たる。
     その直後、彼女の手がオレから離れた。
    「まだ、目を瞑ってください」
     彼女はそれだけ言い残すとオレから遠ざかったきがした。
    「良いですよ」
     遠くから聞こえる声に目を開けるとそこは何処かの屋上だった。見晴らしは確かに良い。オレはその景色をしばらく眺めていたが、視界の端に彼女が見えてのんきに眺めている場合ではないことを理解する。
     彼女は柵を飛び越えていた。
    「……おい、お前なにやってるんだ」
    「飛び降りです」
    「んな事は分かってるっ!!」
    「だって、私は今の自分が嫌いなんです」
    「バカ!! 待て!! 誰だって多少自分の嫌いな部分はあるもんだ!!」
    「……さようなら」
     その瞬間、オレの視界から彼女は消えた。
    「冗談だろ? おいっ!!」
     オレは今起きたことに対応できずに呆然としていた。いくら嫌なことがあっても死ぬことはないだろ……
     柵に駆け寄る。恐る恐る下を覗いた。



    「……はぁ〜怖かった」
    「…………」
     覗いたオレの顔と彼女の顔がもの凄く接近していた。
    「ここって自殺者が多いので防護ネットが張ってあるの知ってますから」
    「…………」
     やっと状況が飲み込めたオレは腹がってきた。
    「アホかっ!! そういう問題じゃねぇだろ!!」
     しかし、彼女は笑顔で答える。
    「これで私もはみ出した行動ができたでしょうか?」
    「……はみ出し過ぎだっ!!」
    「…………自分を変えようと思って」
    「!!」
    「私も変わりますから川上さんも変わりましょ?」
    「…………」



    「その、多記っていう人……誰だかわかりませんが、きっと川上さんが気にするような人でもないですよ」
    「え?」
    「少なくとも私はそう思います」
    「それが言いたくてこんな事したのか?」
    「はい」
     ……オレはいい加減、多記から離れなければいけない。そんな事言っても絶対無理だと思ってた。だが……彼女の言葉が……笑顔が……今までのことをどうでもいいことだと思わせてくれる。
    これからは失敗を後悔を一人で引き受けよう。「自立」なんて考えるのは恥ずかしいが、誰かにせいにしながら生きるよりましだ。
    「あの……そろそろ引き上げてくれませんか? ……すごく怖いんですけど」
    「じゃあ引き上げたら……君とオレがどこで知り合ったか教えてくれよ」
    「良いですよ。でも、結構長い話になると思いますよ」
    「お互い、時間なら有り余ってるだろ?」
     オレは彼女の手を掴んだ。




    第27話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第28話 「ドリームキャッチャー」



     多記君と出会ってから今までの色んなことを話してしまいました。誰かに今の思いをぶつけたかったのです。
     私の話を聞き終えた環さんは顎に手を当て考え込んでいました。
    「ふむ……だいたいのあらましは分かった。問題点はいくつかある」
    「まずは結局、多記がどこにいるのかさっぱりだということ」
    「はい」
    「次に多記及び他の連中はどうしようもなくバカだという事」
    「…………」
     環さんに話して本当に良かったなと思うと同時に何だかスッキリしました。そんな私を見て、彼女は咳払いを一つしました。



    「まだ続きがある……最後になぜお前はそんなことを私に話すのか?だ」
    「!! ……だって……アナタが話せって……」
    「違うな。誰かに話したかったのだろ?」
    「え?」
     すごく痛いところを突いてきます。私の心を見透かすように環さんは言いました。
    「お前の話を聞いてるとずっと誰かに頼ってばかりじゃないか」
    「…………」
    「助けられ癖が付いてるんじゃないのか? だから、たまたま来た私にさえ助けを求めてしまう」
    「そんな……」
    「多記以前にお前を何とかしないとな」





     もうあの男を捨て置くわけには行きません。二度とリンに近づけさせるわけには行かない!! 怒り心頭で扉を開け出て行こうとする私にリンがすがりつきます。
    「離しなさいっ!! あの男どこまでリンを侮辱すれば……」
    「おやめください、お姉様……」
    「……リン」
     あぁ、目を潤ませ懇願する姿も……何て愛らしいのでしょう……このまま私のお部屋へ連れて行きたい……と、耽ってる場合ではありませんでした。
     今度こそあの者の息の根を……
     長刀を持ち、リンを引きずったまま玄関ホールまで来てしまいました。私達の周りでは執事の坂田がオロオロしています……うっとうしい……



    「ラン、お止めなさい」
     そんな時、私の名前を呼んだのはお母様でした。
    「……お母様」
    「……マミィ」
     大広間から出てきたお母様は威厳を漂わせ、私達姉妹を交互に見ます。
    「ラン。妹のことで興奮するのは結構ですが、ご自分の将来についてもっと考えなさい。一体、いつになったら見合いをするのですか?」
    「…………」
    「それに、リン。何があったかは詳しく聞きませんが、野良犬にでも噛まれたと思って忘れなさい」
    「…………」
     反論が出来ず、その場は収まってしまいました。自室に戻り、考えをめぐらせます。
     ……私は断じて納得いきません。だいたいお母様は昔からのお嬢様で世間を知りません(私もそうですが……)いえ、あの人は知りたいとも思わないのです。
     私は違います。お母様は早く見合いをして婿養子をとり、このお屋敷で優雅に暮らすのが勤めだといいますが、私はもっと世の中を見たい。
     ですが……私は二人姉妹の長女なのです。長子としての責務というものを放棄できるほど無責任ではないし、この家を簡単に捨てて自由の身になるという身勝手さも持ち合わせていません。
     だからこそ……リンにはこの家なんかにいないで世間を見て欲しかった……でも、彼女はこれから家を出るが少なくなるでしょう。これでは何のために私がこの家にいるのか…………え? 
     ……これはチャンスなのかも。そう考えると思いを抑えることが出来なくなってきました。
     私は衣裳部屋へ忍び込み、トランクに洋服を詰め込みます。お金は次の日に朝一番で銀行へ行っておろせばいい。単調な屋敷の生活から抜けせるかもしれない。私の胸は躍りました。……後は暗くなるのを待つだけ。



     そして、夜。世間ではすでに深夜と呼ばれる時間帯。私はベッドのシーツをつなぎ合わせ、ロープを作りました。誰にも見付からないようにテラスからの脱出です。
     そっとテラスに出て、手すりにシーツを括り付けます。このアイデアは本を読んで思いつきました。
    「お姉様、何をしているのですか?」
    「あ……」
     ……忘れていました。テラスはリンの部屋と繋がっていたのでした。
    「リ……リン、いつからそこに?」
    「ずっといました……お姉様がお部屋から出てきたときから」
     私は赤面し、それ以上は何も言えなくなりました。妹を放っておいて自分だけ逃げようとするなんて……それにしても……月明かりに照らされるリンは……素敵です。
     ボーッとしてる場合ではないのでした。とっさに私はリンへ言い訳をします。
    「あ……アナタが外へ出られるように用意をしていたのです」
    「……え? ……ですが……私はもう……」
    「………そうですか」
    「申し訳ありません」
     リンの可愛さを必死に我慢して私は自分の気持ちを……今まで誰にも黙っていた気持ちを……言いました。



    「でしたら……アナタはもう世の中の表舞台から姿を消しなさい」
    「お姉様?」
     不思議そうな顔をしたリンをよそに私は決壊したダムのように一気に言葉が出てきます。目の奥が熱くなり、感情が高まってくるのが自分でも分かりました。
    「私は今から旅に出ます、行きたいところへ行くのです」
    「はい?」
    「アナタがこの家にいるというならば私がこの家を守る義理はありません」
    「何をおっしゃるのですか」
     普段、あまり意識していないようなことが口からでてきます。次に言った言葉は自分にとっては意外でした。
    「……私には夢がありません」
    「?」
    「だから夢を探しに行くのです」
    「そんな無茶苦茶な……」
    「無茶苦茶でいいのです。夢とはデタラメで途方も無く荒唐無稽なものではないのですか?」
    「!!」
     今まで私は夢などと言うものに関して考えもしませんでした。



    「多記透ごときで薄れる夢など捨ててしまいなさい。お稽古事をして、花嫁修業をして……この屋敷に婿を呼ぶのです」
    「…………」
    「主役……交代です」
     私は言いたいことを言い終わると肩で息をしていました。息継ぎを考えることなく話したせいでしょう。私の言葉を聞いたリンはしばらく黙っていました。
     やがて、決意したように私を見つめて口を開きました。
    「それは……嫌です」
     これに対する答えは決まっています。
    「でしたら……私と戦いなさい」
    「はい?」
     私は部屋へ戻り、木の長刀を二本持ってきました。一つをリンに渡すと私は一定の距離をとって離れました。
    「自由を賭けていざ勝負!!」
    「お待ちください、お姉様!!」
    「問答無用!!」



     長刀を床に対し45度、正中線に構えます。一方、リンは事情が読めないのかまったく構える様子がありません。
    「私は本気です」
    「……意味が分かりません」
     今までまったくした事がない姉妹喧嘩。戸惑うのはしょうがないでしょう。ですが、私は本気です。彼女にやる気を出してもらわなければなりません。
     私は揺さぶりをかけることにしました。
    「……怖いですか?」
    「え?」
    「自分の夢への思いが多記によってなくなっていくのが怖いのですか?」
    「断じてそんなことはありませんっ!! あの男のことなどもうどうでも良いっ!!」
     私の予想どうり多記という言葉にリンは敏感に反応します。ですがそれがいけなかった。やはり、多記がリンの心に住み着いてるのだと分かると、私もついつい興奮してしまったのです。



    「だったらなぜ私に対してもそのような話し方をするのです!!」
    「!!」
    「壁を作った話し方をして……怖いのでしょう!!」
    「怖くないです」
    「嘘」
    「怖くない!!」
    「嘘ですっ!!」
     ここまできたらただの子供の口げんかのようになって来ました。
    「リンちゃん、怖くないもんっ!!」
     とうとうリンはぎこちないながらも構えます。長刀の実力からいえば私のほうが圧倒的に上。それなのにリンは構えました。彼女なりの決心なのか……私の酔狂に構ってくれているだけなのか……でも、うれしい。何かを賭けて誰かと競えることがこれほど興奮できるとはっ!!
    「……そう、それでいいのです!! では、行きますよ!!」
    「よ〜しっ!! 来いっ!! リンちゃん、絶対勝つから!!」



     しかしというか予想どうりと言うか……リンは隙だらけでした。
     ですが……打ち込めません。良く考えてみれば……私がリンを打ち据えることが出来るはすないっっっ!!
     じっとリンを見つめます……それにしても……寝巻に長刀を構える彼女は可愛い。  いや、作法に則りきちんとした服装でさせたほうが……可愛さに……凛々しさが加わり……いいかも知れない……戦う女はすばらしい……
     ボカッ!!
    「え?」
     我に帰り、上方を見ると長刀が頭の上に乗っていました。遅れて、頭に少しだけ……じゃなくてかなりの激痛が走ります。
     そのまま私は倒れこんでしまいました。
    「リンちゃんの勝ちぃ〜〜〜〜〜〜っ!!!」



     気が付くと、私はベッドに寝ていました。額には濡れタオルがあり、右横へ目をやるとリンが心配そうに覗き込んでいます。
    「お姉様……ごめんなさい……リンちゃんのためにこんな芝居を打ってくれて……」
    「え? ……ええ……まぁ……これもあなたのためと思い……」
     ……とっさのことに嘘をついてしまいました。かなり自己嫌悪。
     覗き込むリンを見て、大人っぽい彼女も悪くないですが、やはりリンは無邪気でいて欲しい。昼間言おうと思っていたことを思い出し、私はリンの頭へ手を乗せました。
    「リン、アナタは『夢は恋愛に勝てないのでしょうか?』と言いましたね」
    「……うん」
    「夢のない私が言うのは変かもしれませんが……勝つ必要などないのです」
    「……夢とは自分に向ければ情熱になり、人に向ければ愛情になるものだと思います。元をたどれば同じ」
     リンは何度も頷くと私の胸へ顔をうずめます。



    「さっきは夢など無いと言いましたが……リン……アナタが私の夢そのものなのです」
    「……お姉様」
    「好きなことをおやりなさい。たまには殿方に現を抜かすのも良いでしょう。人生、真っ直ぐ一本道ではないのですから」
    「…………」
    「私もアナタが心配ですが……お見合いすることにします」
     リンは泣き顔を見られたくないのか、私にくっついて離れようとしません。そんな彼女の髪を何度も優しく撫でました。
     本気で私は自由になろうと思っていました。今でも少しそんな気持ちもあります。でも、結局リンに譲ってしまいました。自由になるにはあまりにも理由が無さ過ぎました。  やりたいことも無ければ……好きな殿方もいない……その全てをリンは持っていました。彼女には資格があると思います。
     やりたいことがない代わりに私はやらなければならないことがあります。それを一つ一つ解決していきましょう。
     ……この屋敷も悪くない。




    第28話 終わり



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    ラジオデイズ-リテイク-


    第29話 「sunlit」



    「だって私じゃあ……何も出来ないんだよ? 皆が来るまでハガキだって全然読まれないし……」
     何を言っても環さんの表情は変わりませんでした。ありったけの言い訳を言い終え、私が黙ってしまうと彼女はそれを待っていたかのように口を開きます。
    「お前の覚悟とはそんなものなのか?」
    「えっ?」
    「ここはお前にとっての戦場じゃないのか?」
    「……そうだけど」
    「お前の戦いだろ? だったらハガキを書け。動け!! 行動しろ!! 今、お前に必要なのは多記透でも誰かの助けでもない。自分自身で戦い抜く力だ!!」
    「!!」
     ハッキリ言われるとやっぱりショックです。
     多記君は以前、『ハガキのネタの事はオレ達に任せろ』と言ってくれました。私もそれを頼りに頑張ってきたのです。それなのに環さんは私に自分自身で戦えと言います。
     どちらが正しいのでしょう?
     ……と、考えることはないです。結局、今私は一人で……皆が帰ってくる保証も無くて……ふさぎ込んでいるだけなんだから……
     まとまらない気持ちがどんどん一つに集約されていきます。
     そして……言葉に出しました。
    「……私……やる」
    「おぉ!! その意気だ!!」



     環さんは私の肩をたたきながら言いました。
    「よし、今ここで宣言しろ『多記透なんて必要ない』と」
    「そんなこと出来ないよぉ……」
     彼女は少し困ったような表情を浮かべ、考え込みます。
    「嘘で構わん」
    「え?」
    「今は嘘でもいい。あとから本当に変われば問題なしだ」
    「それも困る……」
    「まぁ、生まれ変わる儀式だと思ってやってみろ……ってゆーか、言え!!」
    「うぅ……分かったよう……多記君なんて必要な〜い」
    「声が小さい。これぐらい声を出せ『立浪裕人なんて死んじまえ〜〜〜!!!!!』」
    「誰なんですかそれ?」
    「声を出す大きさの例なのだから気にするな」
    「…………多記君なんて必要な〜いっ!!」
    「『君』をとれ」
    「え〜〜〜〜〜っ、ヤダよ〜」
     大きな声を出して少し元気になりました。今はこの嘘にしがみついて頑張ろうと思います。



     夜、私は久しぶりにラジオを聴きました。
     数日聴いてないだけなのにかなり時間が流れている気がします。
    「何にもしないのに、なぜここに居るんですか?」
    「気にするな。暇つぶしだ……ふんっ、こんなレスで私が釣られるとでも? と言いつつ釣られてみるか……」
     環さんは机にノートパソコンを置き、ディスプレイと格闘しています。ブツブツ言いながらなので少し怖いです。
    「あの……いつもノートパソコン持ってるんですか?」
    「……んなこと言って暇があるなら、ハガキを書け!! 存在感を出すのだ!!」
    「え……う……うん」
    「そしてネタを示せ!! 読まれるように!!」
    「はい!!」
    「それがハガキ職人の誇りだ!! ……っと1さんも言っておられる」
    「お〜っ!!……って1さんって誰ですか?」
     彼女の言うことはたまに意味不明です。その原因はいつも眺めているノートパソコンにあるようですが、細かい突っ込みはしません。



     お父さんは今日もテンション高めの放送です。私も負けないようラジオを聴きます。
    『今日は夏休み企画としてFAXの一発ネタ募集だ!! 今からスタート!!』
     これはチャンスです。今ハガキを書いても読まれるのは何日か後ですが、FAXなら今すぐ読まれます。
    「早速、おあつらえ向きな企画じゃないか。とっととネタを考えろ」
    「うん」
     私がネタを書こうと紙に向かうと、環さんは立ち上がりました。
    「どこ行くの?」
    「……どこ行こうが私の勝手だ。お前はまだ誰かに助けて欲しいのか?」
     それだけ言い残すと部屋を出て行きました。静かになった部屋で黙々とハガキを書きます。この部屋に一人いるとやっぱり淋しいです。でも……
    『お前の戦いだろ?』
     と環さんは言いました。その通りです。これは私の戦い。
     私は周りを見渡し、誰もいないことを改めて確認すると白い紙へペンを走らせました。前に多記君がFAXは前半勝負だと言っていました。だとすると、ここである程度の数を書いてコンビニへ持っていく方法しかありません。
     とか考えていると机に置いてあった携帯電話が鳴ります。表示を見ると見たことない電話番号でした。恐る恐る電話に出ると、聞き覚えのある声が聞こえます。



    「よし、思いついたネタを言え」
    「環さん? なぜ電話を?」
    「さっき確かめたのだが、お前のうちはFAX無いだろ? だから、近くのコンビニへ行ってネタを送るしか方法がないと判断したのだ」
    「それは分かりますが……」
    「ネタはそこでお前が考えればいい。番組の流れとか考えてネタを携帯で伝えろ。そして私がFAXを送る。完璧な作戦ではないか」
     環さんの優しさに私は少し泣きそうになってしまいました。でも、ここで泣いたら彼女は怒るに違いありません。
    「環さん……」
    「何だ?」
    「あの……ありがとう……」
    「気にするな好きでやったこと。それに……お前は私の友人に似ているからついつい肩入れしてしまうのだ」
    「……わかったよ……じゃあネタ言うね」
    「おう!!」



     私は今思いついた、とっておきのネタを叫びました。
    「ジャガいもん!!」
    「…………」
     すると環さんは少しの間黙っていました。きっと用紙にネタを書いているに違いありません。
    「……あの……一つ聞いて言いか?」
    「うん!!」
    「それは……『ドラ○もん』と『じゃがいも』をかけているのだな?」
    「うん……そうだけど……面白いでしょ?」
    「……いや……まぁ……お笑いの基準は人それぞれだからな……」
     さっきと比べて話すトーンが下がった気がするのは気のせいでしょうか?とにかく私は一生懸命にネタを作るだけ。
     頑張ればきっとなんとかなるはずです。努力はきっと報われるはず……



     一時間後……まったく読まれません。多記君のFAXネタの法則から行けばもう時間がありません。でも、ネタが読まれない理由が良く分からないです……書き方が悪いのかなぁ……と考えていると環さんから電話がかかってきました。
    「なぁ、もう少し他の奴らの書き方を参考にしたら?」
    「え? ……うん」
     他の人と私の違いって何だろう?
     確か……佳代ちゃんは……芸人さん達のネタを上手く使ってたよね……そうだ!! 最初に教えてもらった前田なんとかさんのネタを書こう!! えぇっ〜〜〜〜〜と前田何さんだっけ……
     この芸人さんの名前を思い出すのに少し時間がかかってしまいました。でも、これで一つネタが書けました。そのネタを元にいくつか作って早速、電話して伝えます。
    「……なんでお前が前田五郎を知ってるんだ?」
    「えぇ!! 環さん知ってたの?」
    「基本だ」
     環さんは侮れません。



     次に川上君のネタを思い出します……下ネタですが一人でやっていくためには書かねばなりません。確か……『下ネタで重要なのはダブルミーニングだ!一つの言葉で二つの意味を持たせる』とか言っていたような……少し難しいですが考えます。
     なんと言うかエッチなネタを書いていると言うよりは、言葉遊びをしている気分です……こうしてその人たちのネタをやってみると、ただ外で見ているのと実情は違うのだと分かりました。いくつか書けたので電話します。少し恥ずかしいです。
    「……どう?」
    「お前……古い下ネタテクニック使ってるなぁ……直接書けばいいと思ってるバカよりはましだな……実際、私が紙に書くわけだし。よし、送ってみる」
     環さんにも良い印象を与えたみたいです。



     最後に多記君は確か……
    『まずはネタにさりげなく八十年代のネタを入れろ。お前の父さんに「懐かしい」とか「こんなの聞いて分かるヤツはいるのか?」とか言わせれば成功だ』
     と言っていた気がします。早速、前に買った80年代特集の雑誌を開きネタを考えます。
     こうして考えると皆に教えられたことは大きいです。自分でやると言っても結局は自分の力でない気がします。そのことを環さんに電話で、ネタを伝えるついでに話してしまいました。
    「……人は一人では何も出来ない。本やテレビ、周りの人間等から影響されたモノを自分の力に変え、大きくなる。これをなんと言うか知ってるか?」
    「え? 何だろう?」
    「それを人は成長と言うんだ」
    「……成長」
    「成長して独り立ちをしていく……振り向けば、いろいろな人を通り過ぎたことを実感する」
    「環さん……すごいです」
    「気にするな。ただの受け売りだ。これで一枚でも読まれれば成功と言えるだろう」
    「うん」



     その後も二時間半の間、ネタを書き続けました。
     しかし、読まれることはありませんでした。とうとうFAX受付が締め切られます。残りも後30分、お決まりのコーナーがあるだけ。電話でFAXが終了したことを伝えます。
    「……そうか……残念だったな……今からそっちに戻る」
    「うん」
    「諦めるな。この放送が最後の放送ではないのだから」
    「……ありがとう」
     電話を切ると私は脱力して、大の字に寝転びました。今でも、どんどん番組は進んでいます。それを耳にしながら、涙が出てきました。凄く悔しい……次はもっと良いネタ書いてやる……
     これまでは読まれなくて悲しいとか皆と比べて悔しいとかはありました。でも、今は素直に誰のせいでもなく、落ち込むことも無く……自分の中で何かがくすぶっています。  きっとこの悔しさがあればまた明日も書ける……いや、今からでも書ける……そう思うと居てもたってもいられなくなりました。再び起き上がり私は机に向かいます。
    「私はまだ負けないっ!!」
     番組はエンディングに差し掛かりました。しかし、私はハガキを書くことを止めません!!
     その時でした。
    『番組最後にお別れの一ネタを……ペンネームは……』





     私は突然訪ねた波乗澄音という子の家に戻ることにした。
     それにしても……何でこう私は人がいいのだろう? 放っておけばいいのにかまってしまう。きっと、藍子のせいだ。そうだ、アイツのせいにしておこう。
     ゆっくりと波乗家の坂道を登りきり、家の玄関に向かうと怪しい人影が三人うごめいていた。そんなことを恐れる必要もないので私はドンドン突き進む。すると奴らは私が近づいているにも関わらず、何かを喜んでいるみたいだった。
    「やったやん!! 最後の最後で読まれたしっ!!」
    「おおおおおおっ!! 澄音ちゃん、アンタすげえよ!!」
    「あ〜あ、リンちゃんも参加したかったぁ〜。二人ともリンちゃんが迎えに行って、ここまで来たのに、なんで玄関に入らなかったの?」
    「……それを言うなよ……ってお前も入らなかっただろ!!」
    「何にしても勇気が要るなぁ……」
     私はこいつらに一言言ってやることにした。
    「お前等、揃いも揃ってバカかっ!!」





     奇跡でした。最後の最後に宝条リンのネタが読まれたのです!!
     私は立ち上がり飛び跳ねて喜ぼうとしました…………でも、飛び跳ねるのは止め、静に拳を握り、ジッとそれを見て実感を噛み締めます。もう私は一人なのです。手放しでは喜びません。
     その時、ノックの後、部屋のドアが開けられます。入ってきたのは環さんでした。
    「あっ、環さん。ありがとうございました」
    「ふん、私は何もしていない。どうだ? 一人で成し遂げた気分は」
    「なんと言うか……嬉しいです……でも、まだこれからだって思うとワクワクします」
    「一人でやって行けそうか?」
    「はいっ!!」
     すると環さんは不敵な笑みを浮かべ、後ろを向きました。
    「おい、お前らはもう要らないってさ!!」
    「え!? 環さん、今なんて言ったんですか?」
     環さんは何も言わずにドアを開けました。
    「…………あっ!!」
     そこには佳代ちゃん、川上さん、琴和さんが立っていました。
    「あっ……あのな……澄音……」
    「わ〜〜〜〜〜んっ!! は〜〜ちゃん、ごめんね〜〜〜〜〜!!」
     佳代ちゃんが何か言う前に琴和さんが私に飛びついてきました。いきなりのことで私も何がなんだか分かりません。
     少なくとも確かなのは良いことが起こったのだということです。



     何と言うか……一人でもやれるぞと決心した途端、皆が戻ってきてくれました。私にとっては奇跡だと思いますが、環さんは必然だと言います。理由はわかりませんが、そういう事にしておこうと思いました。
     次の日からは再び琴和リンの開始です。佳代ちゃんが元気良く気合を入れます。
    「よしっ!! 夏休みも残り少ないけど頑張るで!!」
    「……で、何でこいつは居るんだよ。さっきからパソコンばかりやりやがって」
    「気にするな、空気だと思え」
     隣では川上さんと環さんが喧嘩をしています。
    「思えねぇよ、寝転びながらパソコンって、くつろぎすぎだっ!!」
    「だまれ!! この厨が!! 私がいなかったら一生この家に入れなかったくせに」
    「うっ……」
     私の後ろでは琴和さんが機嫌よく絵を描いてます。
     なんだか昔に戻った気もしますが、気にしません。皆それぞれ何かを掴んだかのようにすっきりした表情でハガキを書いているから。
     後は多記君だけです。彼が来るまで私達で頑張ることにしました。



     そして、今日も「ラジオデイズ」は放送されています。
    『よ〜し、じゃあ次のハガキだ。えーっとこれはペンネーム、マッチョ石松君からのネタ……』
    「え〜〜〜〜〜っ!!!!!」
     環さん以外の皆が『マッチョ石松』という言葉を聞いて驚きます。
     ど……どういうこと!? 多記君なの?




    第29話 終わり



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