Suicide Magic 目次









Suicide Magic

第9話 「There spread a barren plain before me.」


 いつも独りだった。両親は世界的な音楽家で海外での仕事が多く、家には誰もいない。小さい頃はいつも泣いていた。誰もいないそんな気がする。

私の前には荒涼とした原野が広がっていた。


 だから、小・中学校と私は人に合わせることにした。そうすればあの輪の中にいられる。独りじゃない。たとえそれが、友達と呼べない間柄でも・・・・。
 高校生になっても相変わらず私はみんなに合わせることに集中した。そうして、私は私を”友達”と読んでくれる人達の輪の中に入ることができた。

 その日の昼休みも私は”友達”の頼みごとを聞き、売店へと急いだ。みんなの昼食を買いに行くために。
「ええっと、美咲ちゃんはたしかサンドウィッチで・・・・まなみちゃんは・・・」
 買い物を終え、頼まれたものを確認しながら急いで戻っている最中、曲がり角で急に人が出てきた。私は避けきれずにその人とぶつかり、倒れこんだ。

 「大丈夫か?武内さん」
ぶつかった男子が私の名前を呼んだ。でも、私はその男子が誰だか分からず何もいえない。
「あれ・・・・もしかして僕のこと分からない?僕、同じクラスの土屋祐介」
「土屋・・・・くん・・・・」
 彼は私の手をとって立たせてくれた。私は思い出した。たしか土屋くんは”友達”たちの話の中でよく出てくる男子の名前だ。
「あー、せっかく買ってきたものが台無しになっちゃったな・・・・」
散乱した食べ物を見て私はようやく事態が飲み込めた。全身の血の気が引くのを感じた。とりあえず、パンのほうは大丈夫そうだが弁当のほうはどうにもならなかった。
「私・・・・私・・・・私・・・・」
私は、おろおろするばかりで何もできない。そんな私を見て土屋くんは 「武内さんちょっと待ってて」と言い残すと走っていった。


 残された私は必死に”友達”たちへの言い訳を考えていた。

これでまた私は独りになるのかなぁ・・・・。


そうしてるうちに土屋くんが走って戻ってきた。
「おまたせ!武内さん。これ・・・・」
戻ってきた土屋くんがくれたものはさっき駄目になった弁当の代わりだった。
戸惑う私に言ってくれた。
「ぶつかった僕が悪いんだ。だから、受け取ってよ」
私は初めての男子からの親切にどうしていいか分からなかった。
「・・・・で、でも・・・」
「もらってよ、せっかく買ったんだし」
「・・・・・」
遠慮がちな私は次に土屋くんが言った言葉に胸が痛んだ。
「これ持っていかないと、輪の中から追い出されるんだろ?・・・・独りって誰でも嫌だもんな


 私は心が見透かされているような気がした。それは怖くもあり嬉しくもあった。私は今までの緊張が解けたのか涙ぐんでしまった。おもわずうつむく。
「おっ、おい!どうしたの?オレなんか気に障ることでも言った?・・・・」
土屋くんは慌てていた。私も慌てた。涙がドンドンあふれてきそうになる。それは解ってもらえた喜びなのか、よく分からない。
 それが土屋くんとの出会いだった。







 白い天井をみながら私はそんな思い出に浸っていた。
『一応、検査のため3日間の入院』ということで病室で寝ている。
 私は昨日、自殺未遂を冒した。ナゼだか知らないけど広野くんが私の家に来て病院へ運んだ。
 病院に運ばれる間、取りとめもないことを考えていた様に思う。


土屋くん・・・・やっぱり来てくれなかった・・・・


「アナタが武内亜也なんでしょ?返事ぐらいしなさい!」
そう呼ぶ声で私は我に帰った。ベッドの横にはウチの学校の制服を着た女子が立っていた。
 スレンダーで背が高く、ツヤのある長い黒髪。目はどちらかというとキリッとしている。鼻も口もバランスが良く、キレイな顔立ちの女子だった。


「・・・・はい・・・・私が武内ですけど・・・・」
するとその女子は私の全身を見渡すと
「ふーん。自殺騒ぎを起こしたわりには元気そうじゃないの、残念だわ」
いきなり知らない人に『残念だわ』なんて言われてもよく分からない。
「・・・・何か・・・・御用・・・・でしたか?」
私は恐る恐る聞いた。
「そうね、用といえば用かも。アナタ」
そう言うと私を睨むように見てきた。
「広野貴明とはどういう関係なの?」


「・・・・え?」いきなり広野くんの名前をだされた私は戸惑った。
「恋人?友達?ただの他人?」
ドンドン迫ってくる言葉に私はただあたふたした。広野くんとの仲なんてあまり考えたことはなかったからだ。
「・・・・ク、クラスメートです・・・・」とりあえずそう答えた。
するとその女子は見下げるように私を見て(ベッドから見てるからそう見えるのかもしれないけど)
「ふーん。どうとでもとれる言い回しね。そうやって物事をあやふやにするのが好きなのかしら?まぁいいわ、あなたがどう思ってようが、私は広野貴明の気持ちさえこっちへ向いてくれたらいいんだから」
そう言うと彼女は一歩私に近づいた。
「私の名前は坂本亜由美。」


「!!」
私は坂本亜由美という名前を知っていた。それは土屋くんが別れるときに”好きになった”といっていた人の名前だからだ。
そんな私に関係なく彼女は喋り続ける。
「アナタにその気がなくても言わせてもらうわ。広野貴明は返してもらう」


私は正直それどころではなかった。土屋くんとの日々がフラッシュバックした。


第9話 終わり


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第10話 「grasp at the air」


 私は何かをつかもうと、もがいてた。しかし、そう思えば思うほど指の間と間をすり抜けるように逃げていく。

誰かにしがみつきたかった。


 助けてもらって以来、土屋くんとよく話すようになった。それは大抵”友達”の頼まれごとしているときに、土屋くんが手伝ってくれているときだけ、だけど・・・・。教室までのおしゃべりはすごく楽しかった。土屋くんの話題は豊富で政治、経済、科学技術といった難しいものからお笑いやマンガ、小説の話まである。どの話も分かりやすく、私の思いつかない視点からのものだった。私といえば賢くもないし、かといって熱中してるものも「なにもない」ので、せいぜい”友達”たちの会話についていくために見ているドラマの話ぐらいしかできなかった。
「ねぇ、土屋くん。昨日のドラマ見た?」
そんなことを言っても土屋くんは少しもいやな顔ひとつせずに答えてくれる。
「うん見たよ。最後のほうで主題歌が流れてきたときなんか泣きそうになったよ」

 土屋くんは顔もいいし、頭もいい。それに加えてすごく優しい、女子の人気もある。私はなんで「こんな私」のために親切にしてくれているのかが分からなかった。土屋くんの気持ちは分からないけど、私の中で確実に土屋くんの存在は大きくなっていた。

 でも、それは私だけではなかった。

「ちょっと亜也。アンタ最近、土屋くんと仲いいんじゃない?」
この言葉は”友達”の中の一人、美咲から言われたものだった。美咲はリーダー的存在でいつも”友達”たちを仕切っている。
「・・・・え?」
いつも以上に攻撃的な口ぶりに私は少し怖くなった。
「『え?』じゃないでしょ。アンタちょっと調子に乗ってんじゃないの」
「・・・・そ、そんなこと・・・・」
「パシリのクセに偉っそー」
今までハッキリ言われたことがなかった言葉だった。分かっていたことだが、いざ言われてみるとショックを隠せない。
「・・・・・」
この日以来、私は土屋くんと口をきかなくなった。独りになるのが怖かったから、”友達”をとった。つらい日が続いた。



 その日もいつものように頼まれごとをこなしていた。すると、目の前に土屋くんが現れた。
「武内さん。なんで何も話してくれないの?」
私は土屋くんを見ないように走り出した。顔を見たら泣きそうになるに違いなかった。もう、土屋くんとは話すことができない。

 しかし、私が走ったところで男子の足にはかなわない。私は肩をつかまれた。
「どうしたの?何があったの?話してくれないか」
土屋くんは私を肩越しに覗き込む。私は目をそらす。
「どうして・・・・?僕じゃあ何もできない?」
土屋くんの声は震えていた。
「私・・・・私・・・・私・・・・」
すると突然土屋くんは私を引き寄せた。一気に2人の距離が縮まった。
「僕と武内さんは『友達』じゃないのか?少なくとも僕はそう思ってた。・・・・武内さんのために何かしてあげたいんだ」
私はもう、泣くことを止められなかった。



 私は目を赤く腫らしたまま教室へと戻った。そんな私を見て”友達”たちは笑った。
「なに?その変な顔。私たちを笑わせたいの?そんなことよりちゃんと買ってきたの?」
”その人達”は私が両腕に抱えた食料を奪っていった。
「私・・・・」
私は生まれて初めての勇気を振り絞った。
「私って・・・・一体・・・・あなたたちの何なの・・・・」
ついに、私は言ってしまった。”その人達”は一斉に私を見た。
「はぁ?何言ってんの?友達じゃん、と・も・だ・ち」
そういって”その人達”は笑った。
「・・・・もう嫌なの・・・・あなたたちの・・・・使い走りは・・・・」
笑いは一斉に静まり、私を睨みつける。
「アンタそれマジで言ってんの?」
美咲が言う。私は恐怖で今にも逃げ出したかった。
「・・・・私はこんな”友達”いらない。・・・・”本当の友達”がほしいの・・・・」
一瞬、間があって”その人達”は再び笑い出した。
「なにマジモードになってんの?恥ずくないの?寒い!寒っ!」

私はみんなに合わせるために自分を殺してきた。もともと「なにもない」からその時はよかった。でも今は違う。

「私は本気なの!もうあなたたちとは付き合えない!」
”その人達”は相変わらず笑っている。
「あっそ、別にアンタなんかどうでもいいから。勝手にすれば」

私の中で何かが動き出した瞬間だった。







「坂本・・・・亜由美さん・・・・」
私は自分でも分かるぐらい顔の表情が変わっていた。それを察した彼女が言った。
「どうしたのかしら?急に顔つきが変わったけど。敵意丸出しって感じ。でも、全然怖くないけど」
私には直接的に関係ないことは分かっていた。でも・・・・私の心の奥底では納得できていない。
「とりあえず今日はアンタに宣戦布告したくてココへ来ただけだから。病人をどうこうするほど私は”卑怯者”じゃないもの」
そう言うと坂本さんは帰ろうとした。私は発作的に呼び止めた。
「待ってください。まだ、私の話は終わっていません!」
もう後には引けない。



第10話 終わり


第10話突破!特別企画「いまがき」(音楽付き)

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第11話 「Honeymoon」


「僕と武内さんは『友達』じゃないのか?少なくとも僕はそう思ってた。・・・・武内さんのために何かしてあげたいんだ」
 その日以来私の高校生活は変わった。土屋くん一色に染まった。今まで生きていた中で一番楽しかった時期だった。
 この頃からクラス内では私と土屋くんの関係に関してよくない噂が流れていた。でも私は気にしなかった。周りがどうであれ私は幸せなのだから。


 土屋くんは限りなく優しかった。
 最初はそれだけで満足だった。でも、そんな私にも「欲」が出てきた。土屋くんは私を友達として扱ってくれた。だけど、私はそれ以上のものが欲しくなった。でも、私からは言えなかった。


 ある日、土屋くんの学校の用事で一緒に帰れない日があった。土屋くんは私に「待たなくていい」と言ったので、しかたなく、私は一人で帰ることにした。一人で帰る道は土屋くんの存在が私の中でどれだけ大きいか思い知らされた。

 その時だった、いきなり私を数人が囲む。よく見ると私の元”友達”たちだった。私は間接的なイジメにはよくあったりした。しかし、この日初めて直接的なイジメにあった。殴られたり、蹴られたり、たしかに痛みはあった。でも、それよりも「こんなことをされる自分」が情けなくて、かわいそうで痛かった。

その日から一週間、私は学校を休んだ。


 休み始めてから5日間、土屋くんは見舞いにも来なかった。私の心はどん底だった。どこまでも深く底のない沼に沈んでいるような感覚に襲われた。
 6日目、やっと土屋くんが来てくれた。私はすごく喜んだが、土屋くんはいつもの土屋くんではなかった。どこか、よそよそしかった。話をしても上手くかみ合わない。私は堪らず、土屋くんに訊ねた。
「土屋くん・・・・どうしたの?具合でも悪い?」
「・・・・・」
土屋くんはうつむいて黙ってしまった。

「なんか・・・・反対になっちゃったね」
土屋くんは私を見た。
「・・・・え?」
「だって、初めて会ったときは私・・・・黙ってばっかりだったでしょ?」
変な感じだった。見舞いに来たはずの土屋くんを私が慰めてるような気がした。
土屋くんは再びうつむいた。少し間をおいて言い始めた。
「僕・・・・君の足手まといになってないか?僕さえいなかったら、今ごろ女子の輪の中でそれなりに楽しくやってたんじゃないのか?」
どうやら土屋くんは、何処からか私がイジメにあった話を聞いたらく、さらにそれを自分のせいと思っているらしかった。

「そんなことない!!」
私は声を上げた。
「!!!」
「私・・・・私・・・・私は土屋くんといるときが一番幸せなの!!もっと、もっと話がしたい、一緒にいたい!!・・・・・私・・・・土屋くんが好き」
とうとう自分から言ってしまった。
私は土屋くんを抱きしめた。
「武内・・・・・」
 その日、私と土屋くんは初めての夜を過ごし、次の日も私の家で一日中、一緒にいた。

私の手はもう空をきることはない。土屋くんにしっかりとしがみついたのだから・・・・・。







「待ってください!私の話は終わっていません!」
それを聞くと、坂本さんは振り向かずに立ち止まった。
「土屋くんとはどうなったんですか?」
私は思い切って聞いてみた。
「?・・・・土屋?」
坂本さんは本当に土屋くんのことを忘れているみたいだった。私は無性に腹が立った。
「そんな程度の気持ちで土屋くんとお付き合いしてたんですか!!」
坂本さんは振り向いた。
「悪いけど、私は広野貴明以外の男には興味ないの!土屋だかなんだか知らないけど、どうでもいいわ!!」
  「土屋くんをバカにしないで!!」
私は怒鳴っていた。

「あっ・・・・」
その時ちょうど誰かが病室へ入ってきていた。
「もしかして・・・・邪魔だったか?」
それは広野くんだった。



第11話 終わり


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第12話 「pass through・・・・」


 私は本当に強くなったと思う。少なくとも土屋くんがいればどんなつらい学校生活も苦にならなかった。それは気持ちだけじゃなくて体のつながりもできたせいかもしれない。



 そんなある日、家に差出人不明の小包が送られてきた。恐る恐る包装紙を開けてみる、箱には「恋愛に悩むアナタへ」と書いてあった。箱の中はCD−Rが入っていた。ラベルには『Suicide Magic』と印字してあった。直訳すれば「自殺魔法」となる・・・・。私はなんだか薄気味悪くなり、CD−Rを見ることはなかった。



 今日もイジメにたえ、家に帰る。もう暴力には慣れた。家に帰る途中で携帯にメールが入ってきた。それは土屋くんからだった。『時子町公園で待ってる』とだけ打ってあった。私はとりあえず行くことにした。


 公園は静まり返っていた。日も暮れかかって薄暗い。私は辺りを見渡した。だけど人の気配はない。
「土屋くーん」


 その時突然、数人の人間が私を囲んだ。身構える暇もなく、囲んだ中の一人が後ろから私の口をふさいだ。そのまま倒される。誰かが馬乗りになった。私はようやく犯されそうになってることに気付く。

 その手は必死に守ろうとする腕を払いのけ胸を触る。いつの間にか両腕も誰かに捕まれていた。私は精一杯暴れた。しかし、人数も力も相手にはかなわず、私は次第に力尽きる様に静かになっていった。涙がこぼれた。


「やめろ!武内に手を出すな!」
誰かがこっちへ走ってきた。いや、その声で誰かは分かっていた。
「僕の携帯が勝手にいじられていると思えば、門脇!!これはどういうことだ!!」
よく見ると馬乗りになっているのは同じクラスの門脇くんだった。
「・・・・ちっ、頼まれたんだよ」
門脇くんは舌打ちをした。
「誰にだっ!!」
「・・・・美咲にだよ・・・・だ、だからオレ達は悪くないぜ!!ぜ、全部、お前らが付き合ってるのが悪いんだからな!!」
そう言うと門脇くん達は走り去った。
「土屋くん・・・・」
私は土屋くんにしがみついた。
「大丈夫か?なんともないか?」
土屋くんは私の髪をなでてくれた。
「うん・・・・」
「よかった・・・・ホントによかった・・・・」
私は土屋くんに抱きしめられて、守られている実感が湧いた。



 しかし、その日を境に土屋くんは急に冷たくなった。何日もろくに話さない日が続く。私が話しかけてもすぐどこかへ逃げてしまう。

 私はこの前の事件が原因だと思い、土屋くんに聞いてみる。
「あの・・・・土屋くん・・・・やっぱりこの前のこと・・・・気にしてるの?・・・・・」
私自身はこの前のことはもう気にしていなかった。結局は土屋くんが助けてくれたし・・・・。
「・・・・・」
土屋くんは何も言わない。
「お願い・・・・何か言ってよ・・・・」
土屋くんは下を向いたままだ。
「・・・・らいんだ」
小さな声でよく聞こえなかった。
「え?」
「つらいんだ」


 私は何が言いたいのかよく分からなかった。
「・・・・どういう・・・・こと?」
「門脇がこの前、言ってたじゃないか『お前らが付き合ってるのが悪いんだ』って・・・・このまま付き合ったとしても、また同じようなことが起こるかもしれない。・・・・もうこれ以上一緒にいても・・・・」
私は思わす口を挟んだ。
「私ならかまわない!土屋くんがいるならいくらでも耐えられるし、どんなことでもできる!!」
私の精一杯の引き止めの言葉だった。でも、土屋くんの表情は変わらない。
「いや・・・・僕が耐えられないんだ・・・・それに好きな人ができた」
「誰?」
「5組の坂本亜由美さん・・・・・あのさ、武内・・・」

言わないでほしい。土屋くんは私の最後のよりどころなんだから!!

「別れよう」


つかんだと思った土屋くんは私の手をすり抜けていった。










 変な間が三人を包む。一番初めに反応したのは、坂本さんだった。
「広野君、私諦めないから」
そう言うと病室から出て行った。私と広野くんは2人っきりになった。


「大変だね」
私は笑いながら広野くんに言った。
「なんで?」
「だって、坂本さん、あなたのこと好きなんだって」
私は土屋くんをバカにされた事を、誰かに八つ当たりがしたくて広野くんをからかった。
「うーん・・・・あれで懲りたと思ったんだけどなぁ・・・・・」
広野くんは困った顔をした。

「でも、武内ほどじゃないけどな」
「え?」
「好きなんだろ・・・・土屋のこと」
私は頷くしかなかった。



第12話 終わり


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第13話 「odds and end」



 私は本当に独りになった。それ以前よりも、もっと独りになった。前に土屋くんの言った通り、付き合わなければ、それなりに独りにも耐えられたはずだった。私は昔よりも確実に弱くなっていた。土屋くんと別れて一週間になる。部屋に閉じこもったまま、私の気持ちは爆発寸前だった。そんな時あのCD−Rを思い出した。

「恋愛に悩むあなたへ」


 私はCD−Rをパソコンを起動し再生した。ここに答えがあるかもしれない。その時の私はしがみつけるものなら何にでもしがみつきたかった。


 ディスプレイ上には映像が映し出された。映りはホームビデオでとったみたいな感じだった。ドアの隙間から隠し撮りをしているのか、画面の左右は明かりが差し込んでいる。しばらく黒い映像のままだったが、時間がたつにつれて何かか動いているのが分かった。さらに時間がたつと音声もハッキリ聞こえてきた。そこでようやく私は画面上で何が行われているか判った。
 それは男女が「している」場面だった。突然のことに私は驚いた。

 私はひどくがっかりした。結局ただのイタズラCD−Rだったのか。私は停止ボタンをクリックしようとしたその時、突然カメラの映像はドアから遠のいた。そのまま家の廊下を進む映像になった(ここではじめて家の中の映像だとわかった)。もう一つのドアが少し開けられ、また覗くような映像が続く。
 そこにはひどくやつれた女性が居た。女性は声を殺して肩を震わせ泣いている。私はその人に少し、自分の姿を重ねた。

 そうしているうちにいきなり場面が変わった。今度は全体の薄暗さから夜だとわかった。明かりの付いた一室をカメラは覗き込む。そこではさっき泣いていた女性が男性に暴力を受けていた。何度も殴られ、蹴られても女性は抵抗せずに、男性にすがり付いていった。振り払われてもすがりつくその姿はまさしく私そのものだった。数分の暴力映像は終わり、次の場面が現れた。

 さっきと場所は同じだった。夜というのも同じ。アングルまで同じだった。しかし部屋は暗く、月明かりで中がうっすらとうかがえる感じだった。よく見ると、そこにはさっきの女性が座り込んでいた。しばらく動かなかったが、ゆっくりと腕を振り上げた。月明かりで光ったものそれはナイフだった。女性は何度も何度も自らの手首を切りつけた。血がポタポタと落ち、床を赤に染める。傷がようやく動脈に達したのか、いきなり血が噴出し、床だけではなく壁までも血に染まった。

 映像は女性が絶命してからも続いた。覗き込んでいたカメラが血まみれの部屋に入る。今まで死角になっていた場所が映し出される。そこには先ほど暴力振るっていた男性が死んでいた。うつ伏せに倒れて背中には包丁が突き刺さっていた。男女の遺体が交互に写しだされた。その後カメラから手が伸び(カメラを映していた人の手)、2体は重なるように並べられた。月明かりに照らされ重なる死体は、あたかも抱き合ってるかのようだった。ここで映像は終了した。


 この時私は思ってはいけないことを思ってしまう。

「誰にも邪魔されず、私と土屋くんが結ばれるためにはこれしかない」



 私は土屋くんを呼び出し、二人で死ぬつもりだった。その時の私にはそれしかないと思ってた。しかし、いざ土屋くんを前にするとやはりできなかった。ぎりぎりのところで私はとどまった。そして、私は自分がこの世からいなくなることで解決しようとした。せめて土屋くんの前で死にたい。私は土屋くんの目の前で手首を切った。でも、一命を取りとめてしまう。そして、このことで完全に土屋くんは離れていった。



 それからの私はなりふりかまわず誰かにしがみついていった。しかし、みんな私の手を振りほどいてしまう。その度にあのCD−Rを見て、死ぬ準備をする。そして「私が死んだら振り返ってくれる」のか知りたくなる。そうしないと不安になる。自分が保てなくなる。あの日、2人で死ねなかったから・・・・・。こうしてみんな私から離れていった。

 今、目の前にいる広野くんを除いて・・・・。









 そう思うと広野くんに悪いなって思う。
「ごめんね、広野くん。私の・・・・・・・巻き込んじゃって」
広野くんは嫌な顔せずに答えてくれる。
「気にすんなよ。・・・・・・そんなことより退院してからすぐ学校には来るんだろ?」
私はその問いにはすぐに答えられなかった。
「・・・・・・」
「おい、黙んなよ」
「・・・・・だって・・・・私にはもう何もないもの・・・・」
「バカか?土屋が駄目でもこの世には星の数ほど男はいるんだぜ!!」
広野くんはわざとはしゃいで見せた。しかし、今の私にはそれに乗る元気もなかった。
「・・・・いないよ・・・・もう、あんなに好きになる人は・・・・いない・・・・」
「・・・・・・」
広野くんは黙ってしまった。ただ私をじっと見てる。
「よし、ついて来い」
そういうと急に私の腕をつかんで歩き出した。私はただ引かれるままに連れていかれた。


 連れていかれたことろそれは屋上だった。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと広野くんはどこかへ消えていった。その時ちゃんと「飛び降りるなよ」と言い残していった。

 しばらくして戻ってきた広野くんの手にはホウキがあった。
「これがないと気分でないだろ」
と言って彼はホウキにまたがった。
「?」
戸惑う私に彼は言う。
「魔法使いっていったらこれだろ?乗れよ」
「何をするつもり?」
彼は咳払いひとつして言った。

「空中散歩」


第13話 終わり


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第14話ver.1 「catch up with」



 私は「過去」にいた。1人でいるのは夢で、土屋くんと2人でいるのが実は現実なんだと思うことにしていた。だから「今」に進む気もなかった。
 でも、あの日・・・・屋上から飛び降りた日・・・・過去のまま死のうとした私を”魔法”という普通ではありえないもので「今」とつなぎとめてくれた人がいた。広野くんだ。


「今」に生きていいのかな?



 今、私は広野くんに掴まって、空を飛んでいた。もう3月になろうとしている。一年前の私は果たして今の状況を予測できただろうか?
「なーんか、いい眺め」
私はわざと口に出して言った。言わないと落ち込みそうだったから。広野くんは何かモゾモゾしていた。
「あのさぁ・・・・武内」
広野くんは深呼吸をして何かのタイミングを計っているかのようだった。


「何?」
私は話を聞くことにした。気晴らしにはその方がちょうどいい。
「退院したら、が、学校に来いよ。オ、オレが迎えに行くからさ」
「・・・・・・」
私はその問いかけには答えられなかった。いまさら学校に行ったところで私にはもう何もない。だから私は話を逸らすことにした。
「え?いいよー。だって、坂本さんに悪いもん」
広野くんは慌てた。
「待て待て!オレは別に坂本と付き合ってないぞ!!」
私は面白くなって、さらにからかった。
「でも言ってたもん『私は広野貴明以外の男には興味ないの!』って」
「うっ・・・・・」
広野くんは黙ってしまった。なんだか、そんな広野くんがかわいかった。


 ふと、空を眺める。夕方なので夕日を浴びて私たちの体は赤く染まった。


 私達は駅のほうへ向かって飛んでいた。駅では大勢の人達が行き来している。広野くんは私のほうを振り向いて駅を指さした。
「すごくないか?」
正直言って私はその大勢の人達が怖かった。何かに飲み込まれそうだった。でも、広野くんが「すごい」といっている意味が気になった。
「何が?」
「・・・・あの人の流れだよ。オレああいうの見ると『すげー生きてるなー』って思うんだ」


 どうやら広野くんはあの流れを見て『生きている実感』を得ているみたいだった。『生きている実感』、それは私に今一番欠けているものかもしれない。
「ふーん」
とりあえず相槌を打ってみる。そうすると広野くんは私に何か意見を言ってほしかったのか、
「いい加減気付けよ。オレの言いたいことを」と言った。
「え?」
広野くんは咳払い一つした。

「自殺したら・・・・死んだら本当に独りになっちまう。でも、このまま・・・・・このまま生きるんだったら・・・・・オレがいる」

突然のことで私は反応できない。


「だから、がんばろうぜ。・・・・残りの人生も」


「残りの人生」なんてずいぶん大げさな言い方だった。
でも私は嬉しかった。土屋くん以外でこんな言葉をもらったことはなかった。  もし、土屋くんとの事がなくて、初めて言われた言葉だったとしたら私は泣いていたと思う。私は自然に広野くんの背中に体を預けた。背中越しに心臓の音が聞こえた。それは確かな広野くんの『生きている実感』だった。

 広野くんはいいやつだ。こんな私にあんな温かい言葉をかけてくれる。
 こんなことなら広野くんを好きになればよかった。
 もっと早く知り合いたかった。
 でも・・・・・。過去は消えないし、土屋くんのことは今でも好きだし、それに広野くんには坂本さんがいる・・・・・・。

 こんなことを考える私はよくない。考えちゃいけない。私はおどけてみせることで、その場を乗り切った。


 駅からの帰り道、ホウキに乗りながら私達は黙り込んでいた。広野くんの顔が夕日に照らされてか、赤くなっていた。そんな広野くんを見て私はもう少し学校に行ってみることにした。


『生きてる実感』はどこかにあるはずだ。それは見つかりにくいかもしれないけど、がんばって探すことにしよう。


学校へ戻ったら、土屋くんに「さよなら」を言おう。土屋くんにしたらもう終わったことかもしれないけど、私のケジメとして・・・・・。

この時、初めてわたしは「今」に追いついた気がした。



第14話ver.1 終わり


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第14話ver.2 「誰がいる?」



 話したいことが僕にはたくさんあった。真面目な事からくだらない事まで。でも、この時間はいつまで続くかわからない。

だから・・・・


 僕はちょっと前まで怒っていた。生まれて初めて告白された相手にだ。彼女は(たぶん)僕の気を引こうと、屋上から飛び降りようとした。死に対して酷く敏感になっていた僕にはカンにさわった。だから、彼女を脅したつもりだった。「死ぬなら死ねばいい」と。しかし、彼女はそれに怯まず、さらには自分の気持ちを貫いて飛び降りた。結局は僕の魔法で助けたけど(当然その後、階段を転げ落ちた)。

 彼女のやり方は最悪だ。でも、怖いくらいに彼女の気持ちは伝わった(それも今、後ろに座っている武内のせいだったりするけど)。残念ながら彼女の気持ちには応えられない。しかし、彼女のストレートな(?)気持ちの伝え方がうらやましかった。そして僕は考え方を改めた。僕の中の結界は少しずつ小さくなっていった。


 僕の気が変わらないうちに武内に伝えようと思う。


 ホウキというものは、やはり座り心地が悪かった。特に男はまたがって乗ってはいけない。後ろの武内は横座りして僕に掴まっていた。
「なーんか、いい眺め」
彼女は僕にそう言った。さっきまで塞ぎ込んでいたのが、どうやら気は晴れたみたいだ。僕は緊張をした。なんせ、これから言うセリフはひどくキザで恥ずかしいものだからだ。
「あのさ・・・・武内」
僕は深呼吸をした。落ち着け、落ち着け。


「何?」
「退院したら、が、学校に来いよ。オ、オレが迎えに行くからさ」
結構緊張して言った「学校へ行こう」だった。
「・・・・」
武内は少し黙ってから言った。
「え?いいよー。だって、坂本さんに悪いもん」
オレは慌てた。
「待て待て!オレは別に坂本と付き合ってないぞ!!」
「でも言ってたもん『私は広野貴明以外の男には興味ないの!』って」
「うっ・・・・・」
これ以上何も言えなくなってしまった。


 日は確実に落ちようとしている。僕達は日を受けて確実に赤く染まった。


「あれをみろよ」
僕は後ろを向き、駅のほうを指差した。駅周辺では大勢の人たちが家路を急いで、さながら川の流れのようになっていた。この大きな人のうねりを見て何かを感じてほしかった。
「すごくないか?」
僕は彼女を見て言った。よし、がんばって今度こそ・・・・。
「何が?」
わかっていない。
「・・・・あの人の流れだよ。オレああいうの見ると『すげー生きてるなー』って思うんだ」
「ふーん」
僕は我慢できなくなっていた。


「いい加減気付けよ。オレの言いたいことを」と言った。
「え?」
彼女はまだわからないみたいだった。僕は咳払い一つした。

「自殺したら・・・・死んだら本当に独りになっちまう。でも、このまま・・・・・このまま生きるんだったら・・・・・オレがいる」

彼女は何も言わない。僕は勇気を振り絞った。


「だから、がんばろうぜ。・・・・残りの人生も」


 僕は他人から見れば、かなり大げさで恥ずかしいことを言ったに違いなかった。でも、それでもよかった。この言葉は彼女に届きさえすればよかった。
「・・・・・広野くん」
彼女は僕の背中に体を密着させてきた。僕の緊張はピークに達した。
「ドキドキしてる・・・・・・」
その言葉で僕は彼女も緊張しているのかと思った。ということは僕の言葉は彼女に届いたのだろうか?
「・・・・・・広野くんの心臓」

「え?」
僕はあっけに取られた。
「さっきのセリフ緊張して言ったでしょう?こっちにも伝わるぐらい心臓がバクバクいってる」
「はぁ?」
撃沈。彼女に全然伝わっていなかった。
「悪かったな緊張してて。しかも、ありがちな言葉だったしな・・・・」
自分でもわかるぐらい顔は真っ赤になってた。顔が熱い。


 ホウキをUターンさせて病院に戻ることにした。
 帰り道はお互い黙っていた。僕はさっきのセリフの後悔で一杯だった。彼女はどうせ土屋のことでも考えているのだろうけど・・・・・。


「・・・・・そうだね」
彼女は急に話し始めた。
「何が?」
「退院したら・・・・学校・・・・行くから・・・・」
僕は驚いた。やっぱり、恥ずかしくても言ったかいがあった!!
「・・・・あっ、でも一人で行けるから。坂本さんに逆恨みされるのはごめんだもん」
どうやら彼女は僕と坂本をくっつけたいらしい。
「だからそれは・・・・・」
「ううん、いいの」
よくない。
「いつまでも待ってばかりはいられないから。泣いてるぐらいなら、がんばるほうがましだもん。それに・・・・・」

「それに?」
「広野くんがいるから。また自殺しても魔法で何とかしてくれるんでしょ?」
なんとなく『広野くんがいるから』で止めておいてほしかったような・・・・。
「私も坂本さんのようにハッキキリ言う。真っ直ぐにぶつかる。」
「いや、真っ直ぐじゃないぞ」と言おうとしたがやめた。

病院が見えてきた。また明日から僕達の戦いが始まろうとしていた。



第14話ver.2 終わり


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