Suicide Magic
第15話 「侵攻」
オレは広野貴明を待っていった。それはもちろんヤツをボコるためだ。ヤツは体を張った坂本亜由美の告白を断った。オレはその一部始終を隠れて見ていた。一歩間違えれば坂本の命は危なかった。オレと坂本はダチだ。結構大切なダチだ、こんなことは面と向かっていえないが。
オレは周りから避けられていた。いわゆる「悪いヤツ」ということで、周りのヤツらはうわべだけ取り繕って機嫌をとった。だからオレも「悪いヤツ」を演じた。だが坂本は違った。オレに対してもまっすぐな態度で接してくれる。ケリも入れてくれば、暴言も吐く。そう言うアイツが好きなのかもしれない。
ということで広野貴明を待っていた。
しかし、2日たってもヤツはオレから逃げるように学校を休んだ。聞いたところによると、なんでも武内亜也の見舞いに行った帰り、車にはねられたらしい。
オレはめちゃめちゃ喜んだ。天罰だ!いい気味だ!唯一つ残念なことは、車のスピードが遅かったのか、打ち所のよさか、打撲程度ですんだらしい。だから最近坂本は広野のところへ通い詰めだ。
昼休み。オレは坂本に呼び出された。久し振りに話をするような感じだ。屋上に行くと、すでに坂本はいた。オレを見つけた坂本はこっちへ歩いてきた。
「なんだよ?用って」
すると坂本はポケットから何か取り出した。
「門脇、これを処分してほしいの」
差し出されたものそれはCD−Rだった。オレは不思議に思った。
「何で?自分ですればいいじゃん。ボキッて」
すると坂本は汚いものでも扱うかのごとくCD−Rをつまんだ。
「なんか気持ち悪いのよ。罰が当たりそうで怖いの」
「へー、気の強いお前がねぇー。とすると相当やばいモンなんだな」
坂本が気になるCD−R。興味ある。少し考えたが面白そうなんで、
「よしまかせとけ」
と了承した。そう言うオレに坂本は忠告した。
「これは音楽CDじゃないから、パソコン持ってないアンタには無用なものなの。いい?間違ってもCD−Rの映像は見ないこと」
「そんなものをオレに預けるのかよ!」
「だって、門脇は私の”危険物処理班”なんだもの」
「・・・・・」
完全にパシリ扱いだ。でもいいか、坂本の頼みだし。
そう言うと坂本は「任せた」といって屋上を去った。
坂本がいなくなって、早速CD−Rを割ろうとした。しかし、坂本の「CD−Rの映像は見ないこと」が気になった。
「よし見てやろう」
オレはパソコンを持っていない。近頃、パソコンが使えて、インターネットなどをやっているのが普通みたいだがオレには関係なかった。街に行けばもっと面白いことがある。万引き、強盗、かつあげ、喧嘩、ナンパ、楽しいことが一杯だ。だが「CD−Rを見たい」という衝動には逆らえず、誰かの家のパソコンで見ることにした。とりあえず、いつもいるパシリ2人に聞いてみる。だが、どっちも、いつもオレと行動を共にしているのにパソコンなんか持っているわけがなかった。だが、いいことを教えてくれた。
「門脇さん、確か土屋がパソコン持ってたような気がします」
土屋か・・・・。あいつは誰にでも優しいし、絶対、貸してくれるだろう。ということで土屋に頼んでみた。
しかし・・・・・。
「このCD−Rなんだけどさぁ・・・・」
CD−Rを土屋に見せる。一瞬、怪訝な顔をした。が、すぐいつもの笑顔に戻った。
「ごめん。今、僕のパソコン故障中で」
明らかなウソだった。もしそれが本当なら、CD−Rを見せる前から言うはずだ。
「いーじゃねーか。ちょこっとでいいからさ、ちょこっとで」
完全にオレの”好奇心”に火をつけた。
「それともあれか?お前のパソコン、エロ画像が一杯あんのか?エロ画像」
「・・・・ごめん悪いけど・・・・CD−Rなら学校のパソコン使えばいいと思うよ」
この言葉で決定した。土屋の家に忍び込む。ガサ入れだ。オレの興味はCD−Rから土屋のパソコンのエロ画像にシフトした。考えてみれば土屋の言うと通り、CD−Rは学校のパソコンを使えばいいだけの話だ。
情報を集め、土屋は今日、塾があることがわかった。決行時間は土屋が塾に行っている時だ。とりあえず、土屋が塾に行くまでの間に例のCD−Rを見ることにした。
CD−Rの題名は『Suicide Magic』。意味はわからんかった。とりあえず起動してみる。・・・・・なんだこりゃ?真っ黒なエッチシーンの後、泣いている女?我慢して5分ぐらい見ていたが、あまりのつまらなさに見るのをやめた。こんなよく分からん家の中を見せられても困る。坂本が「処分して」というわけだ。
時間が過ぎ、土屋の家へ忍び込む時間が来た。情報では父親は夜、仕事でいない。母親は死んだらしい。だから土屋が塾へ行けば、家は無人になる。オレは玄関のカギをピッキングで開ける。これは普段鍛えてる(?)お陰ですぐに開いた。さっそく家に入る。
入った第一印象は「変な家」だった。どこか見覚えのある感じの変な家。まあ、何処にでもあるような、普通の家といえばそうなのだが・・・・・。初めてなのに家の間取りも大体わかった。オレは土屋の部屋らしき所へたどり着いた。几帳面に片付けられた部屋は、オレの部屋とは大違いだった。
部屋の片隅にあるパソコンを見つけた。早速起動。すでにオレの頭の中は「エロ画像」以外ない。しかし、パソコンをあまりやっていないオレにはエロ画像を探すだけで一苦労で、必死に色々なものをクリックした。その中で「映像」とだけ書かれたアイコンを見つけた。オレはとうとう見つけた。間違いなくこれはエロ画像だ。早速、クリック。すると画面が切り替わりフルスクリーンで映像が始まった。
「・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「なんでだ?なぜ土屋が持ってるんだ?」
「!!!!」
今、オレはとんでもない事に気が付いた。
「変な家」と感じた正体がわかった!!
なんと!!!
あのCD−Rと、このパソコンの映像の家は、こともあろうに、この土屋の家の映像だったのだ!!!
オレはやばい雰囲気を感じ、この部屋を出ようと立ち上がった。
しかし、オレはそのまま動けない。なぜなら・・・・・。
「なんだ。・・・・・見たの?」
その声は聞き覚えがあり、しかも、確実にオレに近づいてきた。
第15話 終わり
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Suicide Magic
第16話 「幸せについて」
僕らは突然、遊びに行くことになった。それは武内亜也が発案した。坂本亜由美の友達である門脇健児が謎の失踪をとげ、彼女が、酷く落ち込んでいるからというものだった。僕は毎日のように坂本と会うが、別にそんなことは感じなかった。
しかし、武内がやたら主張するので、しょうがなく了承した。さすがに坂本と2人きりになるのは気が引けたので(また、詰め寄られるような告白をされても困るので)、武内も行くことを条件にした。正直、武内の方を僕は心配していた。あの日(ホウキでの飛行)以来、彼女は目に見えて明るくなった。でも、それが悲しさの裏返しなのでは?と心配している。
そんな僕をよそに、武内は次々と遊びに行く場所や日時を決めていく。実
際、坂本を誘ったのも武内だ。何か今までになく積極的だ。
「2人とも遅い!」
武内はやたら張り切って、僕らをせかす。
「そんな急がなくても、遊園地は逃げないぞ」
「何、言ってるの!!時間は逃げちゃうもん!!」
武内はどんどん歩いていく。
「彼女、なんかキャラ、変わってない?それとも、今までがウソだったの?」
坂本も武内に戸惑っている。坂本が僕のほうを向く。僕達は思わず目が合った。
「でも、広野君と、こうして休日にまで会えるなんて嬉しいな。」
「・・・・・・」
こういう彼女の真っ直ぐな気持ちに、僕は応えることができない。
「早くぅー!!」
武内、はしゃぎ過ぎ。
遊園地に到着しても、僕達は武内にかき回された。坂本の手を引っ張って、次々とアトラクションに乗る。僕は主に荷物持ちだ。さんざん乗った後、
「あー、つかれた。広野っち、ジュース買ってきて」
と言って武内はベンチに座る。坂本もベンチへ座り込んだ。
「誰が『広野っち』だ!それにオレはパシリか!!」
「似たようなもんじゃない。早く買って来て!のど、乾いたー!」
僕はしぶしぶジュースを買いに行った。
ジュースを買って急いで戻ると、2人が何か話し込んでいた。こうして武内と坂本が面と向かって話をするなんて、面白・・・いや、いい機会なので、そっとしておこうと思い、隠れて盗み聞きをすることにした(結局、これがしたかった)。
「どう?少しは気が晴れた?」
武内が話しかけている。
「というよりは、疲れた。本当、アナタの幼児的発想には困るのよ」
「幼児的発想?」
「それよ。そういう無知を披露するのが、かわいいと思ってるわけ?」
なんか、僕には一触即発の会話に聞こえる。
「・・・・・でも、ありがとう。一応、お礼はいっておく」
そういうと照れたのか、坂本は下を向いた。
「門脇くん、見つかるといいね」
武内も空を見上げる。
「・・・・・うん。・・・・なんか、いつもと反対で嫌だな。まさかアンタなんかに慰められるとはね。私も焼きが回ったかも・・・・・・。でも、アンタも自分にないキャラに無い事をして疲れたでしょう?」
「ううん。そんなことないよ。私も楽しんだし」
武内の言ってたことは当たってた。僕は自分の鈍感さにあきれ、彼女の他人を思いやる目に感心した。
「ところで前から聞きたかったことがあるんだけど、聞いていい?」
武内は急に話題を変えた。
「別にいいけど、何?」
「どうして、広野くんのこと好きなの?」
坂本は目を丸くした。僕も目を丸くした。
「私のひいき目から見ても、たいして、他の男の子と変わんないんだけど」
武内・・・・そんな目で見てたのか・・・・・。そんな僕をよそに、坂本は少し考えて答えた。
「こんなこと言っても、信じてくれないと思うけど・・・・。彼は魔法が使えるの」
「うん、知ってる」
武内は速攻で答えた。
「ウソ?」
坂本はどうやら、自分だけが知っている秘密だと思っていたらしい。
「本当だよ。だって、私が飛び降り自殺しようと思ったのに、広野くんに”無理やり”魔法で助けられたもん」
”無理やり”は余計だ!”無理やり”は!
「・・・・そうだったんだ・・・。私は中学生のとき通り魔に襲われたの。その時、広野くんと彼のお父さんが魔法で助けてくれて・・・・それ以来、好きかな」
僕は思い出していた。中学の頃、父親がまだ生きていて楽しかった時代・・・・。僕ら2人は所かまわず『正義の味方ごっこ』をしていた。魔法を使って、困った人を「密かに」助けるというものだった。その後当然、二人は不幸な目にあった。でも、父親と2人なら不幸は不幸でなかった。楽しい記憶。
武内は突然ベンチから立ち上がり、坂本を見ていった。
「なーんだ。じゃあ、2人ともあの男の被害者なんだ!」
僕は犯罪者か?
「私は別に被害者じゃないけど」
坂本はあっさり否定。
「違う、違う!つまり・・・・うーん・・・・あっ・・・そう!2人ともアイツのせいで人生変わっちゃった、ってこと!」
「なるほど・・・・」
坂本、納得しなくていいぞ。
武内は再びベンチに座った。
「私・・・・土屋くんにお別れを言おうと思って・・・・」
僕は驚いた。あんなに土屋、土屋、って執着してたのに・・・・。
「それってまさか・・・・じさ・・・」
「しない、しない。自殺するとかじゃないから・・・・・私の区切りとして・・・・って、土屋くんの方からしたら、もう終わった話かもしれないけど」
武内は僕の知らないところで、成長していた。それは嬉しくもあり、悲しくもあった。
「そうなんだ・・・・・。あっ、でも広野くんは渡さないから」
「要らない、要らない。あんなヤツ」
武内・・・・何も言うまい・・・・・。
今度は坂本がベンチから立ち上がった。坂本は武内のほうを向くと武内に手を差し出す。
「私達、いい友達になれそうね」
その手を見て武内は戸惑った感じだった。
「友達?・・・・・私なんかでいいの?・・・・・クラスでも広野くん以外、話す人がいない様な人間だよ?」
坂本はさらに武内に手を出す。
「悪いけど、私は周りの評判や噂なんかに振り回されるほどバカな人間じゃないわ。私は、自己判断でアナタを友達と決めたの。同じ被害者仲間として」
「被害者仲間?」
武内は困った顔をした。
「だって、アナタさっき言ったでしょ?『2人とも被害者ね』って」
武内は少し考えた後、
「・・・・ありがとう!」
と坂本の手を両手で握った。僕はその光景に、少しやきもちを焼いた。
「それにしても遅いね、広野くん」
僕は慌てて、2人のところへ戻った。
その後、僕らは写真を撮った。その写真はきっと三人にとってかけがえのない写真になるに違いない。
すべてが上手く行っている気がした。そう、武内が土屋へさよならを言うまでは・・・・・・・。
第16話 終わり
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第17話 「自殺魔法」
僕は魔法使いだ。今まで、何人もの人間を操ってきた。僕の使える魔法、それは「自殺魔法」。
人を自殺に追い込む。
この前も僕のために女の子が自殺してくれた。
父は今日も知らない女を連れこんでいる。家の一室ではリズミカルなベッドの軋みと、息遣いが聞こえる。僕はその部屋を通り過ぎる。そういう興味はもう失せた。僕の興味は別のことに移っていた。それは奥の部屋にいる母。いつも泣いてばかりいる。
今日もこのドアの向こうで泣いている。僕は少しドアを開け、ビデオカメラを向ける。父は母に暴力を振るう、浮気もする。それで、母は追い詰められている。日に日に、やつれていっている。それでも母は家を出て行かない。むしろ、家にしがみついている。それを一部始終、ビデオに納める。
いつしか僕は、ファインダー越しに見える母に興奮を覚えた。
誰も母を助けない。無論、僕も助けない。母は一人で耐えている。僕を最後のよりどころとして・・・・・・・・。
「祐介。あの男のようになっちゃ駄目」
「祐介。アナタだけは女の子には優しくしてね」
「祐介。アナタだけが頼りなの」
「祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介。祐介・・・・・・・」
だから、今日は言ってあげることにした。
「ねぇ・・・・母さん・・・・・死んでよ。僕のために死んでよ。母さんが死ねば、お父さんも帰ってくるかもしれない。・・・・・・ねえ、お願い死んでよ」
母は自殺した。
その夜、僕は母を撮り続けた。自殺をためらう母は美しかった。生と死の一線を越えようとする姿は、あれほど蔑んでいた女でも美しかった。何度も何度も手首を切りつけながら必死に手首を切っている。僕は『そんなことしても動脈は筋の下にあるから、なかなか切れないよ』と教えたい衝動に駆られた。暫くして、ようやく動脈に達し血が噴出した。
出血により母の意識がなくなると、僕は部屋の中に入った。血まみれの室内は月光に照らされて儚くもさえある。しかも、部屋の奥では父が死んでいる。背中に刺さった包丁は今朝まで僕たちの朝食の材料を切っていた。でも今は、父の背中を刺している。
あぁ、これが母の出した答えか。
母は口では僕の事を頼りだといっておいて、結局は父を拠りどころにしていたのだ。僕は2人を重ねるように寝かせた。クズ同士、お似合いだ。
僕はこの過程を『Suicide Magic』として映像をまとめた。中学生の時の話。
僕はそれ以来、人の死というものに囚われている。あの時の僕を差し置いて逝った、母の安心しきった顔が忘れられない。だから、試すことにした、他の女で。「恋愛」という感情は、それを引き出すのには十分な道具だ。
僕が追い詰めた中でも一番よかったのが武内亜也という女だった。彼女は僕の母と同じで、何かにすがらなければ生きていけないような人間だった。都合のいいことにパシリをやっている。簡単に引っかかりそうだ。
第一に、僕は母の言うとおり、彼女に優しくしてやることにした。彼女はすごく喜んだ。こうして僕は彼女の信頼を得た。
第二に、外堀を埋めることにした。彼女が言う“友達”と仲良くして、彼女の孤立を図った。そうすることによって、彼女は僕しかいなくなる。この作戦は思いどおりの成果を上げ、彼女は僕のものとなった。
第三に彼女をさらに追い詰めるために『Suicide Magic』を郵送した。これは、いわゆる伏線だ。彼女なら確実にわかるはずだ。自殺がいかに美しいか。そして今度こそ僕は死ねる、いや、逝かされる。
最後に、僕は彼女を振ることにした。ちょうど、“友達”たちが上手い具合に嫉妬してくれた。それに乗ることにした。難しかったことは、どれだけ彼女が僕に未練を残したまま別れられるかであったが、それも上手くいった。
だが、彼女は僕の期待を裏切った。自分だけ死のうとしたのだ。しかも、僕の目の前で。しかし、他の女と違って彼女は僕が原因で自殺するにもかかわらず、恨んでいるような感じではなく幸せそうだった。
殺すには惜しい女だ。
僕は救急車を呼んだ。僕のこの行為は思わぬ効果を生んだ。彼女は自殺を繰り返す常習者になったのだ。
また、彼女の自殺が見たくて、僕はクラスの男たちを彼女と仲良くできるように配慮した。僕の誘いと見せかけて他の男を行かせたりした。当然、その男とは上手くいかず再び自殺する。当たり前だ。
彼女は僕だけが頼りなのだ。僕しかいないのだ。
しかし、最近の彼女はどうもおかしい。退院してきて以来、広野という男にべったりなのだ。あくまでも僕のカンだが、今までの男たちとは違う「何か」があるような気がした。しかも、暇つぶしで付き合った坂本亜由美までもが広野にまとわり付いている。僕は嫉妬した。
そこで、僕は武内亜也を呼び出すことにした。きっと、また見せてくれるだろう、彼女の自殺する姿を思い浮かべて僕は興奮した。
第17話 終わり
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第18話 「I am happy.」
僕は高揚している。なんと、武内自身から僕にコンタクトを取ってきた。だから今、屋上で待っている。今度はどんな死をくれるのか・・・・・。
早く僕のために死んでくれ
屋上出入り口のドアが開き、亜也が入ってきた。亜也は黙ったまま僕に近づいてくる。僕は“いつもの僕”を装った。
「なに?武内さん。用って」
早く言ってくれ、僕に対する愛情の言葉を
「・・・・・・・・・・」
それでも彼女は黙っている。僕は彼女を見る。真剣なまなざしが僕を見ている。
少しして覚悟ができたのか、彼女は口を開く。
「・・・・・この前、来てくれなかったから・・・・・・今日も駄目かと思った」
この前は・・・・坂本亜由美にCD−Rを渡すかどうか考えていた時だ。あれは失敗だった。あのせいで門脇が家へ侵入してきたのだから。
「・・・・・ゴメン。君に会うのがつらくて・・・・」
この言葉は確実に彼女に効いてるはずだ。実際、彼女はうつむいた。その顔が見たい。もっとよく見せておくれ、その顔が僕にやる気を出させるんだ。
しかし、僕の期待とは裏腹に彼女の言ったセリフはこうだった。
「土屋くん・・・・・・今まで付きまとって・・・・・ゴメンね」
「え?」
そんなバカな。なぜ謝る。まさか・・・・・
「私・・・・・土屋くんを諦める・・・・・っていっても、もう土屋くんは、私のことなんてなんとも思ってないもんね・・・・」
僕を・・・・・諦める?バカな!!ありえない!!亜也は僕のことが“まだ”好きなはずじゃないか!!そんな僕の気持ちをよそに
「・・・・・・本当にゴメン・・・・・それだけだから・・・・」
そう言うと亜也は帰ろうとした。
ウソだ!ウソだ!ウソだ!ウソだ!ウソだ!ウソだ!ウソだ!ウソだ!ウソだ!
その時、とっさに頭に浮かんだのは同じクラスの広野貴明だった。
「広野のこと好きなの?」
僕のこの問いかけに、彼女は歩みを止めた。少し間をおいて振り向くと、にっこり微笑み、答えた。
「そんなわけないよ」
明らかにウソだった。顔を作ってから言っている。これで、亜也の広野への気持ちは、わかった。僕は明らかに今、広野に嫉妬した。
他のヤツを好きになるなんて、そんなの、そんなの、僕が・・・・・・・・
「・・・・・・・・許さない」
僕は亜也に歩み寄っていき、肩をつかむ。
「え?」
彼女は明らかに動揺しているようだった。僕は彼女を引き寄せキスしようとした。
「い、嫌!!」
彼女は拒んだ。それどころか、僕から逃げようとした。
「待ってくれ!僕は、僕は、気付いたんだ!今でも君のことが好きなんだ!だから、だから、僕を拒まないでくれ!」
彼女はこの言葉に一瞬反応したが、すぐに目線をはずした。
「・・・・・ごめんなさい・・・・私、もう決めたから・・・・・一人でがんばるって・・・・」
僕の中で何かが壊れた。“コイツも僕を置いて死んでいったあの女と同じか・・・・”
ポケットにあった“アレ”を握る。
「一人で行かせはしないさ、君は僕無しじゃなきゃ生きられないくせに。」
言いながらアレを出す。そして、亜也にアレを突き刺す。亜也は少し驚いた顔を見せ、下を見る。胸に突き刺さったナイフを見た後、僕を見る。
「つ・・・・・・つち・・・や・・・くん・・・・これ・・・・」
「光栄に思うんだね。このナイフは母さんが自殺する時に使ったものなんだから」
ナイフを引き抜くと、一気に制服が血に染まっていった。すごく綺麗だった。傷口を舐めたい。顔をうずめたい。亜也の血に包まれたい。
亜也の口から血が漏れる。さらに、涙と口からの血が混じる。血を吐きながら、何かを言おうとする姿は魅力的だった。
「大丈夫だよ。すぐに僕も行くから。2人で新しい『Suicide Magic』を作ろう」
彼女は崩れるように倒れた。軽く痙攣している。床に血が広がる。僕は彼女が自殺した時の撮影用として持ってきていたビデオカメラをカバンから取り出し、撮影を始めた。
これは2人だけの時間だ。誰にも邪魔させない。
「そうだ、家に帰って準備をしよう」
僕は暗くなったのを見計らって、亜也と共に家へ帰った。
僕は幸せだ。
第18話 終わり
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