「「「「「「「かんぱぁーーーい!!!」」」」」」」

 神楽総合警備のオフィスに響く景気の良い乾杯の音頭。同時に幾つもの缶やグラスが打ち合わされる音が鳴る。

「しっかし今回の仕事は珍しくおいしかったですねぇ」

 缶ビールを一息に半分ほど減らし、神楽唯一の男性社員――それを羨む程の幸運と見るかは、内部と外部で百八十度評価が変わることだろう――田波洋一は隣に陣取っているロングヘアの女性に語りかけた。

「ホント。珍しく社長直々に取ってきた仕事だと思ったら、これまた珍しくね。毎回こういう依頼だと私の仕事も楽で良いんだけど」

 経理担当――その実は神楽総合警備の実権と懐をひとえに握る才媛――蘭東栄子は唇の端を軽く上げて言った。

「そんなこと言って、実際にそうなったら一番最初に『つまらないわね』とか言い出すのは、蘭東さんなんじゃないですか?」

 田波が笑いながら言うと、

「あら、私はそんなに物騒じゃないわよ。真紀じゃあるまいし」

 蘭東は苦笑交じりに、向かいでモーゼルの分解芸を披露している梅崎真紀に話を振った。ちなみに分解するのは十五秒だが組み立てるのには三時間かかる捨て身の宴会芸である。

「なにを人のこと過激派かテロリストみたいに・・・」

 もちろん抗議している本人に自分がその存在に極めて近いと言う自覚は無い。最もそれを言ったら、神楽の存在自体が紙一重だが。

「まあ、こうして楽しく打ち上げも出来るんですから平和で良いじゃないですかー」

 ひらひらと手を振って真紀を宥めたのは神楽唯一の良心と呼ばれる――しかしそのメガネの奥に秘めた深い趣味(笑)は、或る意味においては神楽で最も濃いとも言われる――桜木高見だった。

 高見は蘭東と自分、そして田波の傍らに控えている少女の三人で作り上げた料理の出来映えを気にするように、先程からちらちらと料理の方を見遣っている。

「今日の出来、どうですか?姫萩さん」

「んぐっむぐっ・・・んー、おいしーよ。高見ちゃんもまた腕上げたねえ」

 綾金名物の味噌カツを頬張りながらどこか間延びした調子で答えたのは姫萩夕。神楽の運転手を自認するが、運転してない時は大概渾名通りの眠り姫である。

「そうですか、良かった。今回のはちょっと自信あったんですよぉ」

 高見は嬉しそうに目を細めながら田波の隣の少女に小さくガッツポーズをして見せる。少女は蘭東を師匠とする、高見の料理における妹弟子だった。

「ん」

 少女も感化されたのか、隣でお喋りに興じている田波の目の前に自作の料理の皿を差し出す。

「ん、なんだ?これ、まやが作ったのか?」

「ん」

 少女―まやがこくりと頷く。無口な様だが期待の篭った視線は雄弁にその気持ちを物語っていた。

「おっし、有難く頂かせてもらおうかな」

 会話を中断して料理の方に向き直る。手を一度ぱちんと打ち鳴らすと、どこから手をつけたものかと迷うようにテーブルに並んだ皿を見回す。

 まやが作った料理と言うのは、大体一目でわかる。

 イタリア料理なのだ、何故か。

「ん」

 そしてまやが田波の前に差し出す料理もまた大概決まっている。

「い、いや、カルボナーラは後で、な?ほら楽しみは最後に取っておかないと」

 大皿一杯に盛られたソレに、田波は後で自分の首を締めるであろう言い訳を残し、とりあえず手近にあったグラタンに手を伸ばした。

ぢーっ。

 期待という無言の圧力を掛ける(無論、無自覚にして無悪意だがそれだけに性質が悪い)少女を前にがつがつとグラタンを貪る。

「う・・・」

ぢーっ。

「美味いっ!!!」

 ほっ。

 反応としてはかなりベタだが、まやは心底嬉しそうな、ほっとした表情を覗かせた。次いで飛び切りの笑顔で高見を真似て胸の前で小さくガッツポーズをして見せる。

「ホントに美味いなー。これほんとにまやが一人で作ったのか?」

 グラタンはそれほど美味かった。ホワイトソースの塩加減も、表面の香ばしい焼け具合も、具のシーフードのぷりぷりした食感や溶け合う旨みも、実際田波の過去の経験の中では最高の部類に位置した。

 田波が頭をぐしぐしと掻き混ぜながら瞳を覗き込むと、まやは真剣な表情で「ん」と頷いた。

「そっかそっか。やるなー、まや」

 田波の笑顔と誉め言葉に頬を染めるまや。

「良かったわね。もうそれはまやちゃん頑張ったんですよ?」

 すると何時の間にか隣に来ていた高見がまやの肩をぽんと叩くと田波に笑顔を向け、

「それで、そのう、私の料理もいかがですか?」

 後ろ手に持っていた皿を差し出した。

 

 しかし、その光景を恨めしそうに見る女性がここに一人。

 言わずと知れた謎が謎呼ぶ神楽総合警備社長、もしかしたら謎の数が多いことが良い女の条件と勘違いしてるんじゃないかと思われる外見○学生(あ、中身もか・笑)の致命的料理音痴、菊島雄佳である。

「こ、このままじゃ私の立場が」

 こと料理において、そんなものは『幻の鯵サンド』の一件以来存在しないような気もするが、しかしそこは美少女ヒロイン(自称)の名に賭けても引けを取るわけには行かないのだ。

「し・か・し!!んっふっふ、今日は秘策があるんだからっ」

 妖しげな含み笑いと共に料理をぱくつきながら談笑する三人に近づいていく。

「はぁーい、飲んでる田波くん?」

 そして笑顔と共に差し出したのは一升瓶。

「社長はあんまり飲まないでくださいね」

 いつかの温泉で社長の悪酔いを目撃している高見がすかさず返す。

「ビールぐらいへーきへーき。それよりどう?実はちょっと変わった逸品を入手してきたんだけど」

 高見の苦笑交じりの注意をさらりとかわし、雄佳はチェシャ猫の笑みを口元に浮かべ手にした一升瓶をつつっと撫でた。草書体で何やら銘柄が書いてあるが、字体が崩れすぎてちょっと読めない。

「へぇ、日本酒?」

 栄子が興味津々と言った様子で覗きこんでくる。

「メチルアルコールとかいう落ちじゃないだろうな?」

「うっ、田波くんってば酷いっ。私の事をそう言う女だと思ってるのね?」

 普段余程酷い目に会っているのか疑いの眼差しを向ける田波に嘘泣きで反撃する。

「いやそう言うわけじゃないけど・・・」

「でも、てんで下戸の社長がお酒持ってくるなんて珍しいじゃん」

 笑みを引きつらせる田波の頭の上に腕組みして夕も覗きこんできた。口の端から海老フライの尻尾がのぞいているのはご愛嬌だろう。

「ちっちっち。夕、馬鹿言っちゃいけないわ。これでも神楽総合警備社長として日夜社の繁栄と社員の幸せの為に働いてんだから」

 雄佳、ちょっとだけ鼻高々。

「うそだな」

「性質の悪い冗談ですね」

「にぃ」

 しかし、真紀と高見は顔を見合わせて一言で切って捨てた。まやが同意したのかどうかは謎だが。

「あ、あんたら、私のことをなんだと思ってんのよ?」

「○学生」

「何も考えてないようでいて深い考えを持っている・・・ようで実は本当に行き当たりばったり」

「にぃ」

 即答である。

 全く身も蓋もあったもんじゃない。これでグレずに社長業をやっているんだから、雄佳も実は意外と忍耐強かったりするのかもしれない。・・・いや、あくまでかもしれないだが。

「おいおい、幾らなんでも言い過ぎだろ」

 流石に哀れに思ったのか、田波が苦笑交じりで制止する。

「ああっ、やっぱり田波くんは私の味方なのねーっ」

 ドサクサに紛れて田波に抱き着こうとする雄佳を高見が必死に食い止める。

 

「・・・どっちかっていうと、優柔不断なだけなんじゃないの?」

「そうねぇ。裏でハウンドの女と繋がってるくらいだから、むしろ見境なしってところかしら?」

 今度は夕と栄子が田波を切り捨てた。

「うっ。だ、だからあれはそんなんじゃないんですってば」

 実際ハウンドの女こと成沢については田波は名前すら知らないわけだから、その評価は酷と言うものだろう。まぁ、そんなに必死に言い訳するから、酒の肴にもされるんだろうけれども。

「そ、そうだ、折角ですから社長が持ってきた酒、飲んでみましょうよ」

「そうね、珍しく社長の差し入れだし」

  話を逸らそうとしていることがみえみえな強引な話題転換だがひとまず矛先は収ま・・・

「後は飲みながらじっくり聴かせてもらいましょう」

 らなかった。

 どうやらそんなに甘くはなかったようだ。

 ご愁傷様。

 

 しかし、その酒がこれからもたらす大騒ぎを、この時誰も予想していなかった。

 

 

 

ジオブリーダーズ

またたび☆パニック

 

 

 

「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほいっと・・・んでもってはい、田波くん」

 雄佳が鼻歌交じりにグラスに透明な液体を注いでいく。

「あれ?一つ多くないか?」

 グラスは全部で七つあった。

「え?ああ、じ・つ・は、今回のコレはその仔の為にゲットしてきたお酒なのよねー♪」

 言ってまやを指差す。

 そう、それが今回の作戦、その名もずばり『将を射んとすれば先ずは猫から(笑)』作戦だった。

 まやはそんなこととは露知らず、自分を指差しきょとんとした表情をしている。

「あのなぁ・・・化け猫とはいえ、まやが成人(?)してるように見えるか?」

 田波が呆れ顔でまやの頭をぽんぽんと叩く。確かに困った顔で田波の方を伺うその容姿はとても成人(猫)には見えない。

「アルコールなんてまだ早いんじゃないの?」

「まあ、まあ、無礼講じゃない。大丈夫よ、そんなに強くないと思うし・・・」

「思うしってなんだ思うしって(^^;;」

 蘭東達からも戸惑いの声が上がるが、押しの強さでは雄佳も引けを取らない。

「いいじゃなーい。細かいことは気にしない気にしない。だってその仔のために調達してきたのよ?一口くらい問題ないわよ。口に合わないようならやめれば良いし。ね?ね?」

「はぁ、どうする?まや、嫌なら遠慮なく断っとけよ・・・ってうわぁっ!!?」

 最終判断を本人に任せようとまやのほうを注目した田波達が目にしたのは・・・

 

ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ・・・

「・・・ぷはぁ」

 既にグラスの中身を一気に呑み干したまやの姿だった。しかも腰に手。

「お、おい、大丈夫なのか?」

「まやちゃん、ジュースじゃないんだから・・・」

「を、実はイケる口だったのか?」

「あら意外。やるわねぇ」

「おー。ぱちぱちぱち」

「どう?美味しいでしょ?」 

 田波達の心配を余所に(と言うか、むしろ大半の人間は面白がっているのだが)、余程自信があるのか雄佳は余裕しゃくしゃくの表情だ。

「・・・・・・けぷっ。・・・・・・美味しい、れす」

「「「「「「をーーーっ!!」」」」」」

 まやの一言に拍手と歓声が起こる。少し呂律が回っていないような顔が真っ赤になっているような目が渦を巻いているような気もしないでもないが、倒れずに立っているだけでも快挙だろう。

「これであんたも一歩大人に近づいたわねー」

 バンバンとまやの肩を叩きながら雄佳が考えていたことは『高見ちゃんにばっかりこの仔を手懐けさせないわよー』というやけに偏ったものだったが、まやはまやで「おいしーおいしー」と高潮した顔でご満悦だった。

「へぇ、そんなに美味いのか。んじゃ俺もいってみるかな」

「私も私もー」

「あの仔にそこまで言わせる日本酒なんて興味あるわね」

 口々に言ってグラスを手に取る神楽の面々。既に未成年(?)の飲酒を心配していたのととても同一人物とは思えない(特に田波、良いのかそれで)。

 

ごくっごくっごくっ・・・

 

 しかし。

 

「「「「「「う・・・」」」」」」

 

 結果は。

 

「「「「「「げぇぇぇ」」」」」」

 

 お約束の如く最悪なものだった(笑)。

 

「な、なんなんだ?これ」

 蒼ざめる田波。

「ちょっと、本当にこれが美味しいって思ってるの?あんた」

 頭を抱える蘭東。

「ふにゅう」

 逃避モードに入りかける高見。

「ふっ、流れ星には日本酒は似合わない・・・」

 遠い目をする真紀。

「社長、どっから拾ってきたの、これ」

 そして夕が当然の疑問を投げかけると・・・。

 

「・・・ほげぇーーー」

 雄佳は部屋の隅っこのほうで戻していた(笑)。

「「「「「持ってきたアンタがそれかーーーーっ!!!!!」」」」」

 その場に居合せたまや以外の全員から突っ込みが入る。

「だ、だって、だっ・・・・・・ぉうぇっ・・・・・・」

「だぁっ、吐きそうならこっち向くなっ!」

「・・・一体何なのあのお酒?」

 口元を押さえたまま頭を振る雄佳。

「ま、まさか市販してないようなアングラなモノじゃないですよね?」

 今度は首を傾げる。

「ちょっとちょっと、そんな自分でも良く解んないものを持ってきたわけ?」

「・・・・・・と言うか・・・その・・・実は本当にちょっとした訳があって裏ルートから手に入れたモノだったから」

 意気込む社員達に雄佳は何とか弁解する。勿論、まやを手懐ける為などとは言えるわけがない。

「一体何のお酒なんですか?」

「それは・・・その・・・えーと」

 問い詰める高見に口篭もる雄佳。

 

「そ、そうだ、まや、気持ち悪くないか?吐きたくなったら遠慮なく言え・・・よ?」

 ふと気が付き振り向いた田波が見たものは、自ら手酌で一升瓶の中身をぐびぐび飲んでいるまやの姿だった。

「ま、まや?」

 

 田波が絶句するのと同時だった。

 

「・・・ま、またたび」

 

 観念した雄佳の口からネタが暴露されたのは・・・。

 そう、雄佳が持ってきた一升瓶の正体は黒猫印のまたたび酒、その名も銘酒『猫殺し』だったのだ。

 

「なんだってーーー!!!!????」

 再び雄佳の方に勢い良く向き直る田波。

 それも当然だろう。犬にほねっこ猫にまたたびは正にキラーパス、ゴールは頂いたも同然なのだ。

「いやぁ、そのぅ、悪意は無いのよ、ウン」

 襟を掴んでがくがくと揺さぶる田波に苦しい言い訳をする雄佳。勿論善意も無いことは言うまでも無い。

「さけらぁっ、さけもってこぅーーーーい」

  しかも、あっという間にこの体たらく。

「・・・あっちも凄いことになってるわね・・・」

「色々とフラストレーションが溜まってたんじゃないの?」

「きっと田波が普段酷いコトしてるんだよ」

「そこーっ、勝手なこと・・・!!」

「よーいちぃっ」

 そして、勝手な論評を始める野次馬社員に入れようとした田波の突っ込みは、舌足らずの大声に遮られた。

「はいっ!?」

 条件反射で直立不動になる田波。恐る恐る振り向いた先には招き猫・・・もとい手招きするまやがいた。

「こっちこっち。座っら座っら」

 そう言うまやの目が既に十二分に据わっている。

「ああ」

 飲み屋でくだまく性質の悪い酔っ払いそのものと化した少女が相手では、田波も素直に従うしかなかった。

 

 

「???」

 まやの隣に腰掛けた田波は一瞬微かな違和感を感じたが、その小さな違和感の正体に気付く前に、あの液体がなみなみと注がれたグラスが差し出された。

「まぁのみぇ、よぉいち」

 まやは笑い上戸なのか、眼の下を真っ赤に染めながらも田波でさえ初めて見る程にこやかにしていた。日頃の姿からは全く想像もつかないような態度だ。

 田波が大人しくグラスを受け取ると自分もまたたび酒をぐいぐいと呑みはじめる。

「・・・んく・・・んく・・・ぷはぁ、やっぱり飲み物はこれに限るにゃー、にゃぁよぅいちぃ」

 その肩をバンバン叩きながら上機嫌に寄りかかったまやの髪が、田波の頬に触れた。

「・・・・・・頬・・・・・・?」

 その、人間には何とも言い難い液体の入ったグラスをどうしようかと思い悩んでいた田波の脳裏にふと何かがよぎる。

「た、た、た、田波さん・・・」

「まや、あんた・・・・」

 同時に、先程まで興味深そうに見守り、或いは囃し立てていた神楽のメンバーも異変に気付きざわめき始める。

「らににゃに?ろぉかしらのぉー?」

 どうかしたのも何もない。

 

「「「「「「あんた、おっきくなってる」」」」」」

 

 まやは何時の間にやらすっかり大人の女性の姿になっていたのだ。顔つきからも子供っぽさが消え、なかなか端正な美人に成長している。

「「・・・・・・し、しかもないすばでー」」

 雄佳と高見が呆然とした様子でうめく。

 ついで二人とも自分の胸元をしっかり押さえていた。

 もしかして何かとてもショックなことでもあったのかもしれない。

「んんー?にゃんだぁこりぇはぁ」

 一方自分の体の変化が良く解らないのか、まやはきょとんとした表情で自分の胸を両手で持ち上げている。

 ぱっと見でもかなりのボリュームだ。

 

ずきゅーーーん!!

「ふにゅううぅ」

 桜木高見、この時点で現実逃避により戦線離脱(笑)。 

「し、しっかり高見ちゃん!!傷は浅いわっ!!!」

 さっきまでのライバル意識はどこへやら。神楽総合警備においては○乳仲間である社長がとっさのフォロウに入る。

「しゃ、しゃちょ〜もう私は駄目ですぅ。まやちゃんにも劣るなんて〜、私は、私は〜・・・・・・ふにゅうぅぅ」

 富乳じゃ無いのが可愛そうなぐらいである。

「くっ・・・高見ちゃん。あなたのことは忘れないわっ!!!」

 完全にグロッキー状態になってしまった高見の様子に共闘を諦めたのか、雄佳は高見を床に横たえると、そっと瞼を閉じてやる(高見「まだ死んでませんよぅ」)。

「ま、負けないわよ私は!!世の中何でも大きけりゃ良いってモンじゃないのよっ!!」

 そして、無邪気に自分の胸を田波に押し付けうろたえる田波の様子にきゃらきゃらと笑っているまやをキッと睨み、雄佳は敢然と立ち上がった。

「ちょっとあんた、そこから退きなさいっ!!」

 肩を怒らせてずんずんと二人に近付いていき、田波の首筋に腕を回して慌てさせているまやの鼻先にずいっと人差し指を突きつける。

 しかし。

・・・・・・

ぺろっ

「わきゃーーー!!!」

 文字通り舐められてしまった。

「ううううううっ・・・田波君っ!!?神楽総合警備社則第十七条二項っ!!!」

「”社内における恋愛及びそれに類するものはこれを厳禁する。但し社長はこの限りに非ず”って、この状況で俺にどうしろって言うんだ」

「そ、それもそうね・・・じゃ、まや!!あんた、そう言う訳だから離れなさい」

「わらし、神楽のしゃいんじゃにゃいもん。にゃははははは」

 ごもっとも。

「きぃーーっ、ああ言えばこう言うぅーー!!・・・ふ、封印したろかっ!?」

「わぁあっ、やめろって。酔っ払い相手に何本気になってんだよ!?」

 しかもアンタが呑ませたんだろうが。

 

「よぉいちー、あにょ人はにゃにを怒ってンの?」

むぎゅ。

 その時まやが田波の側頭部を抱え込むように抱きついた。

「わぁっ」

 ちょうど胸に田波の頭が挟まれる形になる。

 ・・・また神経を逆撫でするようなことを・・・。

ぶち。

 ほら切れた。

「は・は・は・離れなさいっこの泥棒猫!は・な・れ・な・さ・い・よぉーーーっ」 

「にゃんで?よーいちはあなたのモノじゃ全然ないれしょ?」

「それは、アンタもでしょうがっ!」  

「いーーえぇー、ご心配なくー。よーいちは立派にわらしのもにょで、その証拠にほら、においつけにおいつけ」

 言うと同時にまやが田波の体に自分の体を摺り付け始めた。菊島の方にこれ見よがしなチェシャ猫笑いを送る。

「うわっ、ま、まやっ!!だめだって」

 押し付けられる大人の姿態に田波も目を白黒させてうろたえる。実力行使で止めようとしないところを見ると、それも口先だけなのかもしれないが。

「うううう・・・おっきけりゃ良いってもんじゃ、おっきけりゃ良いってもんじゃーー(;;)」

 そして、菊島雄佳はMPに50のダメージを受けた(笑)。

 

「負け惜しみね。はっきり言って」

 口直しのビールを呑みながら、栄子。

「大きくても肩が凝るだけなのにねぇ」

 綾金コーチンの手羽先をほうばりながら、夕。

「ふ、あの類の無いものねだりは時間の無駄なのだ」

 言ってることは結構クールな様だが指先は必死でモーゼルを組み立てているのでいまいち様にならない真紀。

 以上、その手の悩みには全く縁の無い神楽の残り三名の感想でした(w)。

 

「くっ・・・な、何か手立ては無いの・・・」

 じわじわと精神的に追い詰められてきた雄佳の目に飛び込んできたものがあった。

 テーブルの上に放置された幾つものグラス。

 中身は言わずと知れた銘酒『猫殺し』である。・・・しかし物騒な名前だな、これ。

『そうよ、これを使えば・・・』

 成る程、『猫殺し』を餌にすれば田波からまやを引き離すことも容易だろう。

 何せまたたび酒だし。

 だが。

『私の胸も大成長!!!?』

 ・・・雄佳が導き出した答えは、かなり飛躍したモノだった。

 やはりと言うか当然と言うか、かなり精神的に追い詰められていたようだ。

 そして、

ごきゅごきゅごきゅ・・・

「ぷはぁああああああっっ」

 見事な一気呑みを披露した後・・・

「こ、これで・・・わらしもぉ・・・ないしゅ、ばりぃ・・・」

ばたっ。

 雄佳はあっさりと大の字に倒れた。

 ――菊島雄佳、自らのアルコールへの耐性の無さを忘れて、戦線離脱(笑)――

「うーん、悩殺ばでぃ・・・」

 せめて良い夢をみてください。

 

「なぁんだ、もう終わり?」

 蘭東が詰まらなさそうに頬杖をつく。田波達を酒の肴にすっかりギャラリーを決め込んでいたのだ。

「蘭東さん、俺の事忘れてません?」

 疲れたような声で田波が助けを求める。

 一升瓶片手の酔いどれ天使は、いまだ田波から離れる様子を見せない。しかも田波が離れるように説得すると涙目で攻撃してくると言う性質の悪さ。

「解ってないわねぇ、田波」

 しかし蘭東は呆れ顔で呟いた。

「な、なにがですか?」

「そんなの簡単じゃない。ねぇ?」

「だね」

「流れ星の手に掛かれば、造作も無いのだ」

 蘭東の左右で同じく観戦していた夕と真紀に同意を求めると、二人とも至極あっさりと頷いた。口の中に食べ物が入ってたり、モーゼル相手に悪戦苦闘しながらと言うのが相変わらず様に成らないが。 

「どうすれば良いんです?もったいぶってないで教えてくださいよ」

 田波の心底情けない声に三人は顔を見合わせると、軽く頷き合って後ろに手を回した。

「な、なんなんです?」

 田波が固唾を飲んで見守る中、彼女達が取り出したものは。

 

さっ

さっ

さっ

 

 猫じゃらしだった(笑)。

 

「そ、そんな物で本当に・・・?」

 田波が疑問を口にし終るまもなく、田波の後ろから黒い影が飛び出す。

 

さっ

ひょい

がしゃっ

さっ

ひょい

ずしゃっ

さっ

ひょい

どしゃーーーん

 

「何でそんなに簡単に離れるんだぁーーー!!!」

 田波、ちょっとショック。

 自分の説得では全く効果が無かったのに、ねこじゃらしが出た途端にこれである。確かに人としてショックかもしれない。

『俺の言葉っていったい・・・(;;)』

 恐るべし猫の本能。

 しかし、田波が一人で落ちこんでいる間にも、『さっ、ひょい、がしゃっ』の破壊活動三連鎖は続いている。新しいおもちゃを手に入れた三人は、今度はまやを肴に宴を楽しんでいたのだ。

「あの、蘭東さん?」

ずしゃっ

「なによ」

がらがらがら

「いえ、もう目的は達成したし、そろそろ止めたほうが・・・」

どんがらがっしゃーん

「何よ・・・折角助けてあげたのに・・・よっ、と・・・文句言うワケ?」

ぐしゃっ

「だぁーーーーーっ、折角後ちょっとで完成だったのにーーー」

 どうやら組み立て途中のモーゼルがばらばらにされたらしい。

「い、いえ、そう言うわけじゃないですけど。このままじゃオフィスがヤバイんじゃないですか?」

 確かに、乱痴気騒ぎの結果としては当然だが、後で片付けることを考えると、そうも言っていられない感じだ。

がっしゃーん

「ふーーん。じゃ、田波がその言葉の責任とってね?」

 蘭東が唇の端を上げた。

 神楽の人間がそう言う顔をする時は碌な事を考えていたためしが無い。

 田波の脳裏を嫌な予感がかすめた。

 大概嫌な予感と言うのは当たるものである。

 その間に、蘭東は他の二人とアイコンタクトを取る。

 そして。

 

「せぇーーーーーのっ!!!」

 

ひょいっ!!!

 田波に向かって一斉にねこじゃらしが投げられた。

 

 勿論その後にやってくるのは・・・。

どどどどどっ・・・

「うわぁあああああっっ!!!!!」

 瞳を活き活きと輝かせた酔っ払い猫。

 

ずどーーーーーーーーんっ!!!!!

 

 避ける間も無く鳩尾に全速力のタックルをくらい、田波はまや共々後ろのソファーごと勢い良く床に倒れ込む。 

「「きゅうう」」

 結局二人とも目を回してしまった。

 

 しばらくして、ちっとも起き上がらない田波達のところへ原因を作った三人が惨状を覗き込むようにやって来る。

「あら、情けない。こんなことでノックアウトしてちゃ、神楽の社員は勤まらないわよ?」

「・・・栄子。目ぇ回してるから聞こえてないんじゃないの?」

「なかなか良いタックルだった」 

 二人を見下ろして勝手なことを言い合う三人。

 滅茶苦茶なマイペース振りだが、神楽総合警備の社員はこうでなければやっていけないのだろう。

 

「あら?」

 その時蘭東がちょっとした異変に気がついた。

「おっ。元に戻ってるじゃん」

 夕が口にした通り、まやは何時の間にか元の姿に戻っていた。

「ふーん・・・じゃ、やっぱり、社長のアレが原因だったってワケだ」

「妖しいもの持ってくるわねぇ、しかし・・・」

 三人が口々に勝手なことを言い合っていると、そのまやが上体を起こした。

「「「・・・・・・」」」

 固唾を飲んで見守る三人の視線の中心でまやはぼーっとした表情のまま左右を軽く見回すと、自分の体の下で眠っている(実際は気絶しているのだが)田波に気付き安心したのか、再び田波の体に自分の体を重ねすやすやと穏やかな寝息を立て始めた。

 

「あらら。安らかな顔で眠っちゃって・・・」

「どうやら後片付けはこっち任せみたいだな」 

「・・・私も寝よっかな・・・ふぁ」

 三人が顔を見合わせて小さく笑っていると、まやが小さな声で寝言をもらした。

 

「・・・もう・・・はなさないで・・・」

 

 そして、田波の腕にきつくしがみつく。

 

「「「・・・・・・おいおい」」」

 そのまやの言葉の真の理由と意味を知らない三人に、目覚めた後の田波が散々外道だの鬼畜だのロリコンだのと罵られた事は言うまでも無い。

 

 

 

〜おわり〜

 

P.S.

 その後、雄佳が銘酒『猫殺し』をオフィスに持って来ることは無かった・・・らしい。 


どうも、めっちゃお久しぶりの欅です(*^-^*)

 えっと、まず、パソコンがイっちゃって更新が出来ない間も、掲示板やメールで温かい励ましのお言葉を下さった皆さん、本当に有難うございました。

 あいも変わらず拙い作風かもしれませんが、これからも宜しければお付き合いください。

 しかし、復活第一弾のSS、ラピスものじゃなくてジオブリものになってしまいました(爆)

 ジオブリは、ハイテンションな所とか無茶でどきどきするアクションとか、もう大っ好きな作品のひとつです。

 本当は原作の新入社員柊さんも出したかったんですが、このSS自体結構古くから書きかけになっていた上に、欅が柊さんのキャラクターを今一つ掴みきれてなかったので、柊さんが来る前の場面設定になっちゃいました。

 久しぶりのSS執筆作業で結構悩んで書いてますが、原作の活き活きした雰囲気の欠片でも表現できていれば本望です。

 でわ、今度こそラピスSSの後書きで・・・

好きなのに猫アレルギーの欅でした。

 

〜今日の教訓〜

 酒は飲んでも呑まれるな。或いは、お酒は二十歳になってから。