暖かい日の光が降り注ぐ昼下がり、二人の少年と一人の少女がなだらかな丘を上っていた。

 少年の内赤毛の一人は今にも駆け出しそうな程威勢良く手を振り、もう一人はレースのついた豪奢な感じの日傘を少女に向かって差し掛けている。そして少女は、それを全く気に掛ける様子も見せず、輝くばかりのプラチナブロンドを風にそよがせながら、その少々特異な黒マントの姿を丘の頂上に向けて進めていた。

「あ、あの、マリアベルさん」

 少女―マリアベルに向けて日傘を差し掛けていた少年が、おずおずと言った感じで口を開いた。

「ん、なんじゃ?」

 一方の少女は容姿に似合わぬ大業な言葉を返す。見た目はどう考えても隣を歩く少年達とそう変わるようには見えない―行って14〜5才と言ったところか―が、どこか老成した雰囲気を漂わせていた。

「あ・・・いえ、その・・・」

「??どうした、スコット。小用か?ならば、わらわに遠慮なく行って来るが良い。心配せんでも日傘ぐらい自分で持てるわ」

 少女達の関係が疑問に思われる言葉遣い。特異なのはどうやらその衣装だけではないようだ。しかし、真紅の瞳を訝しげに少年に向ける少女の容姿はどう低く見積もっても極上。案の定(?)視線を送られた少年はいきなりドモリはじめた。

「あの、その、そうじゃなくて、その、こ、こ、こここここ・・・」

「何だよ、スコット。鶏の真似かー?」

 赤毛の少年がその激しい緊張を茶化すように軽口を叩く。古くからの友人なのだろう。少年がスコットに掛けた言葉は、面白がってこそいても悪意は微塵も感じられない。

「ト、トニーっ!!そうじゃありません」

「「じゃ、なんなんだよ」じゃ」

 興味深そうに見守っていたマリアベルの声が図らずも赤毛の少年―トニーのそれと重なった。

「う・・・その、それは・・・」

「それは?」

 面白そうに自分の瞳を覗き込むマリアベルのそれに覚悟を決めたのか、スコットは体をピンと強張らせ、ついに言葉を口にした。

「こ、恋をしたことってありますか!!!!!?????」

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

「・・・ぷっ」

「スコット、お前ってヤツは・・・」

「「面白いやつだなー」だのう」

 弾けたように笑い出す二人。一方スコットは笑われて憮然とするでもなく、真っ赤になりながらも神妙にマリアベルの答えを待っていた。

「・・・・・・そうじゃのう。たまには昔語りも悪くあるまい」

 少しだけ遠い目をしながら、マリアベルも応じることにしたようだ。

「では、丘の上に立っておる巨木の下で、休憩でもしながらゆるりと語ろうかのう。何せ太陽の光はお肌の大敵じゃからな」

「あ、ありがとうございます」

「おっ、やたっ!ベル姉の話は面白いからなー」

 スコットはどう押さえても浮かんでくる歓喜の表情を隠そうとぺこりと頭を下げ、トニーも即座に指を鳴らして歓声を上げる。

 スコットは兎も角、トニーの喜びようは?

 それも然り。

 マリアベルの『昔語り』は文字通りの意味を持つ。

 人の身で体験すること叶わぬ遥けき彼方、遠い歴史の記憶。彼女の深い真紅の瞳が見、先端の尖った耳が聴き、透き通るような白い肌が感じてきた、この世界ファルガイアの歴史そのものだから・・・。

 そう、彼女はマリアベル。

 ファルガイアの生態系の頂点に立つイモータル(不死者)、ノーブルレッド最後の一人。

 世界の危機と二度に渡りて戦いし、唯一の存在だった。

 

 

 

 

WILDARMS 2ndIGNITION より

気貴き真紅の物語

前編

 

 

 

 わらわの目の前に、一輪の小さな白い花が咲いていた。

 周辺一帯を見渡せる小高い丘の上、乾いた風が頬を叩いていく。

 強い風に揺られながらも、花は静かに力強く息づいていた。

 花は散るからこそ美しい。

 ふと、人間の世界で時折言われる言葉が脳裏に浮かぶ。

 無邪気なセンチメンタリストの生み出した言葉なのだろう。それとも、自らも定められた短い寿命を生きるより他無い人と言う種が、より命短き種を前に自らを慰めるために生み出した言葉なのか。

 しかし、眼前に広がる途方も無い荒野を前にしてその言葉は余りにも虚しい。

 花は散るから美しいのではない。

 次代に命を繋ごうと必死に咲くからこそ美しいのだ。

 その世代のみの命では、美しいと言うには余りにも儚く淋しい。

 そして、花は、花を見て美しいと思う存在があるから美しいのだ。

 人無き荒野にただ一輪咲くこの花は、わらわが見たからこそ美しいと認識されたに過ぎない。

 

 これから始まる闘いを過ぎても、この花は生き残るだろうか?

 生き物の匂いを感じられぬこの硬い大地に、荒野に命を繋ぐだろうか?

 そして、この花を見て美しいと感じることの出来る人間は、この地に戻ってくることが出来るだろうか?

 わからぬ。

 イモータルであるノーブルレッドも、世界の法則を司るガーディアンでさえも、彼のディザスター(災厄)「ロードブレイザー」を前にして戦線を崩壊させつつある。か弱き人間達が立ち向かえる存在とは到底思えなかった。

 たかだか数千の齢を重ねたに過ぎぬわらわがそれを感じる程、戦況は酷く悪化していた。

 そう。まだ若輩たる(認めたくは無いが、同族にあってわらわはまだ未熟じゃ)わらわがこうして辺境とはいえ戦場に立たねばならぬ程に・・・。

 父上、母上もこことは別の戦場で戦っている。

 ノーブルレッド種の、もしかしたらこの時代最後の戦いの為に・・・。

 

 ノーブルレッドは、たとえ肉体を滅ぼされようとも、永い時を経ていつか蘇るとされている。このファルガイアが消滅しない限りは、いつか蘇るのだろう。そして、彼の災厄が如何に強大な力を持っていたとしても、デミガーディアンたる彼に『世界』を破壊し尽くすことは不可能。  

『・・・その驕りが、今回の体たらくを生んだのかも知れんがの・・・』

 永遠に近い時を生きるノーブルレッド。数百年に一度しか年をとらない存在であり、同時にゴーレム等を生み出すことが出来る高度な技術を持つ、エルゥ無き今では世界の法則の真の意味に精通している唯一の存在。ファルガイア生態系の頂点。

 現在は基本的に不干渉に徹しているとはいえ、その力に驕り人間種を奴隷の様に扱っている同族もまた皆無とは言えない。

『憎まれて当然かの』

 そして、人間が持ったその負の感情はファルガイアの守護たるガーディアンを弱体化させ、ロードブレイザーに力を与え続ける。滅ぼしてもなお甦る力を・・・。

 最も当のロードブレイザーにしてみれば、破壊するのにノーブルレッドも人間も関係無いのだが。

「ふむ、余計なことを考えている暇も無いか」

 広がる地平線を土煙が覆い始める。

 ロードブレイザーに従う数百の怪獣達が、津波のように押し寄せてくるのだ。

 その力はロードブレイザーには遥かに及ばないものの、かつてラギュ・オ・ラギュラ等を封じ込めた封印柱形成立体結界法陣を組める人材が既にない現在、例えノーブルレッドと言えども戦って食い止めるより他に怪獣を止める方法は無かった。

「また、馬鹿みたいに集まってきたようだのう」 

 怪獣の群れを呼び集めた大元である手にしたマイクをくるりと回し、誰にとも無くおどけて見せる。

 彼女の役割は、それらの怪獣を足止め撃破すること。

 もはや余剰戦力を持たないノーブルレッド族は、ロードブレイザー単体との戦闘に全力を傾ける為に、マリアベルのような幼い同族にロードブレイザー以外の全ての敵を任せようとしていたのだ。

 しかし、それはどちらがより絶望的な戦いと言えるだろうか?

 ファルガイアでも最強の力を誇る怪獣の群れを相手にするのと、幾ら傷つけても再生し続けるディザスター・ロードブレイザーに戦いを挑むのとでは・・・。

 どちらにせよ。

「ま、わらわの勝ちは動かんがの、のうアースガルズ」

 幾千の年月を生きてきた少女は自信たっぷりに言ってのけ、傍らのゴーレムの足をぽんぽんと叩く。

「アーミティッジの誇りに賭けても、ここから先には一匹たりとも通しはせん」

 それは、同朋のロードブレイザーに対する勝利への祈り。

「この小さき花、見事守って見せようぞ・・・」

 そして足下の花に視線を落として優しく呟くその言葉は、この幼い、しかし紛う事無く誇り高きノーブルレッドである少女の、勝利への誓いだった。

 

 

 

〜後編へ〜