原案:NERGAL様
文責:仁塩ぴよこ
ネルガル重工月面研究所の所長であるエリナ・キンジョウ・ウォンは、ネルガル月面ドックで、一隻の戦艦の入港を見守っていた。
その戦艦の名前はユーチャリス。ネルガルがIFS強化体質のオペレータによる、ワンマンオペレーションシステムの実験艦として建造したものであるが、現在は、実験目的とはまったく異なる事に使用されていた。
そのユーチャリスは、ヒサゴプランのターミナルコロニー『シラヒメ』の攻撃から帰還した所だった。
「お帰りなさい」
エリナがユーチャリスから降りてきたテンカワアキトに声を掛けた。
「ユーチャリスとブラックサレナの整備を頼む」
アキトはエリナに向かってそっけなく返事をする。
「判ってるわ。いつでも出港できるようにしておくわよ」
「アカツキからの情報は?」
「何も入ってないわ」
「そうか」
アキトはそのままドックを離れて行こうとする。
「テンカワ君、ちょっと待って」
「何だ」
「会長からの情報を待っているという事は・・・」
「ああ、今回も駄目だった」
「そうなの・・・」
エリナは、それ以上アキトを見ている事が出来ずに、視線をそらしてしまう。
「報告書は、何時も通りに後で提出する。それでいいな」
「ええ、構わないわ」
エリナの返事を聞いたアキトは、そのままドックを後にした。
「アキト君、あなたは今度も重荷を背負ってしまったのね」
エリナは、彼女の知っている昔の姿から、日一日と変わっていくアキトの後姿を見送りながら、小さな声で呟いた。
「会長、発見したというのは本当なの?」
ネルガル重工の会長室に、エリナが顔色を変えて駆け込んでくる。
「おいおいエリナ君、少しは落ち着きたまえ」
「そんな事を言っても・・・」
「君の言う通り、彼等をやっと発見できたよ。テンカワ君に艦長、それにうちのラボから連れ去られたラピスラズリも一緒に居たよ」
ネルガルの会長であるアカツキが、肩をすくめるいつものポーズを取りながら話をする。
「一体どこに居たのよ?」
「これこそ『灯台元暗し』ってトコで、ヨーロッパにある奴等の研究所に居たよ」
「それで、これからどうするの?」
「既にゴート君に指示を出しておいたさ。彼等を救出する様にね」
「そう・・・」
アカツキの返事を聞いて、エリナはほっと胸を撫で下ろした。
そんなエリナの表情を見ながら、アカツキはからかう様に言葉を続けた。
「おや、エリナ君、君はまだテンカワ君を諦めてなかったのかなあ?」
「ちょ、ちょっと、何言ってるのよ」
強い口調で言い返そうとするエリナだが、彼女の顔は赤く染まっている。
「ともかく、これで僕等は奴等に喧嘩を売った事になる。これからの事、よろしく頼むよ」
赤くなったエリナの顔をにこやかに見ていたアカツキだが、急に真面目な顔つきになると、確認する様にエリナに言葉を投げかけた。
それから2週間後、ネルガルシークレットサービスによる、アキト達三人の救出作戦が決行された。
だが、作戦の結果は、アカツキやエリナが願っていたものとは幾分異なった物になってしまった。
「どうするの、会長?」
「まさか、艦長だけ他の施設に移されているとは・・・。奴等の目的は一体何なんだ」
エリナの問い掛けに、答えにならない答えを吐き捨てる様に言うアカツキ。
彼の視線は、ずっと会長室の天井を見上げている。
「で、テンカワ君とラピスは?」
アカツキは、一瞬自分の中に出来た空白を振り払うと、視線をエリナに移して報告を求めた。
「はい。二人は瀬戸内にある特殊技術研究所に収容。現在、イネス・フレサンジュによる検査が行われています」
「そうか、ドクターが居てくれたか。それで、検査結果がでるのはどれ位なんだい?」
「きちんとした形の報告には一週間ほど掛かる様子ですが、第一次報告という形では、明後日にも出て来ると思われます」
エリナは極めて事務的に答える。
だが、彼女の瞳の奥にある一抹の不安を、アカツキは見逃していなかった。
「それじゃ、詳しい検査結果が出たら、二人でお見舞いにでも行くとするか」
彼は努めて軽い口調で言うと、椅子から立ち上がった。
二人が待ち望んでいた検査の結果は、報告書という形ではなく、イネスの口から直接伝えられた。
「ドクター、今言った事に間違いはないんだね」
アカツキがイネスに再度確認する。
「ええ間違いないわ。アキト君は五感を著しく損傷しているの。
視力は、目の前10cmの所にある自分の手を辛うじて認識できる程度。
聴覚は、耳元でラッパを吹いてなんとか聞こえる程度。
嗅覚は、臭いがするっていう事が一応判る程度。
触覚は、物に触っている事が把握できる程度。
そして味覚は、その機能の全てを失っているわ」
「何とか、何とかならないの?」
エリナは、イネスの言葉に衝撃を受けながらも辛うじて踏みとどまっていた。
「まず無理ね。奴等がアキト君に埋め込んだナノマシンの位置を特定出来ない限り、つまり、新たに形成された補助脳を取り除かない限りは、彼が五感を取り戻す事は不可能だわ」
「ドクター、それじゃあテンカワ君はどうやって物事を感じているんだい?」
「ラピスよ」
「「ラピス?」」
イネスの唐突な答えに、二人は何の事だか解らなかった。
「どうも、奴等の実験の内容は、アキト君にはナノマシンの存在がA級ジャンパーにどれだけの影響を与えるかという事の研究。そしてラピスには、IFSを強化する事で、A級ジャンパーのコントロールができるかどうかの研究だったみたいね。ラピスは、アキト君と水面下の意識で繋がっているのよ」
「じゃ、じゃあ、ラピスが居なければ、テンカワ君は生きていけないって事なの?」
エリナは口調は怒りに震えている。
「そういう事になるわね」
「その事は本人には伝えたの?」
「伝えたわ」
「何で伝えたのよ。テンカワ君にとって味覚が無いって事がどんな事だか解るでしょ!それを・・・」
「伝えるしかないじゃない!」
イネスがエリナの言葉を遮るように、語気を荒くして言い切る。
「あなたに何が判るの!私がどんな気持ちでアキト君にこの事を伝えたのか・・・。伝えるしかないじゃない。彼の感覚なのよ。黙っていてもいつかは気が付くわ」
「だけど・・・」
「黙っている事がアキト君の為だとでも言うの?
笑わせないでよ。もし黙っていたとして、後で彼がこの事に気付いた時、アキト君は他人を二度と信用しなくなるわよ。それでもいいの?」
「・・・・・・」
イネスの言葉にエリナは言うべき言葉を見つけられないでいた。
「何て事だ・・・」
アカツキは天井を見上げると、そう呟く事しかできなかった。
アキト救出の一ヶ月後、エリナは突然アカツキに呼び出された。
「エリナ君、君に配置転換を命じるよ」
「配置転換?」
唐突に言われた言葉に、エリナは一瞬何の事だか判らなかった。
「そう、君に月に行ってもらいたい」
「月って、私に秘書を辞めろという事ですか?」
そう聞き返すエリナの言葉には、多少の怒りが込められている。
「おいおい、別に左遷って訳じゃないよ。これからネルガルが月をベースにやろうとしている事は、かなり信用できる人間じゃないと任せられないからね」
アカツキは、エリナの怒りを逸らすように、努めて普通の口調で話す。
「一体何をやろうと言うの?」
「表向きは戦艦のワンマンオペレーションの実験。そして、その裏では、テンカワ君の復讐の手助けさ」
「復讐?」
「そうさ。彼はね、艦長を自分の手で取り戻したいそうだ。そんな彼に僕等の出来る事は、陰ながら彼をサポートする事さ」
「それで私を月に・・・」
「そう言う事。君以外に適任者はいないからね」
そう言うと、アカツキはエリナに辞令を手渡した。
「でも、サポートって言っても、一体何をすればいいのか・・・」
その辞令を受け取りながら、エリナはふと呟く様に言う。
「僕が君にやって欲しいのは、単純な物質面でのサポートだけじゃないんだ。どちらかと言うと、精神面でのサポートをやってもらいたい」
「精神面って・・・」
エリナは、アカツキの彼らしくない言葉に戸惑いを覚える。
「そう、精神面。今の彼に必要なのは、人との接点を維持する事だよ。一応、ラピスにオペレータとして彼と一緒に居てもらうけど、彼女は昔のテンカワ君を知らない。今の彼は復讐しか見えなくなっている。だけど、彼は本質的には何も変っていないよ。艦長を助けられなかった事、それを自分の責任だと思い込んでいる。そんな彼の事だ、必ず精神的に苦しむ事がある。その時に力になってやって欲しい」
アカツキはそこで言葉を一旦区切ると、今迄の真面目な表情を一変させて言葉を続けた。
「それに、テンカワ君と一緒に居られるのは、君にとっても嬉しい事じゃないのかな」
「な、何馬鹿な事言ってるのよ。私は別にテンカワ君の事なんて、何とも思っていないんですからね」
アカツキにからかわれている事に気が付いたエリナだったが、言葉とは裏腹に、その顔は真っ赤に染め上げられていた。
「ユーチャリスが無事に帰還しました」
ユーチャリスの係船作業を見届けたエリナは、アカツキに作戦結果の報告をする。
『で、お姫様はどうだったんだい』
「居なかった様子です」
『そうか・・・。で、テンカワ君は?』
「先程、自室へ戻っていきました。報告書はいつも通り後で提出するそうです」
『判った。こっちでも再度情報を収集してみるから、テンカワ君の事、よろしく頼むよ』
アカツキはそう言うと、通信を切った。
エリナはアカツキとの通信を終えると、自室の椅子に深々と座り天井を見つめていた。
(私は何をしているんだろう・・・)
辞令を受けた時のアカツキの言葉に反論はしたものの、実際にはアキトと同じ時間を過ごせる事を期待していた。
彼女の記憶の中に居るアキトは、常に前を向いて生きていた。
自分の未来に夢を持ち続けていた。
そして、自分の周りに居る人々に、出来る限りの優しさを分け与えていた。
そして、そんなアキトに自然と勇気付けられ、いつのまに彼に惹かれている自分がいた。
エリナは月に来る前に、イネスやアカツキから話は聞いていた。
アキトが以前とは違ってしまっている事を・・・。
だが、アキトが地球にいた頃には、自分が忙しかった為に見舞いに行く暇が無く、実際にそのアキトを見ていなかった。
そして月で再会したアキトの中に、彼女の知っているアキトの姿はどこにも無かった。
その姿は、彼女が惹かれていたアキトとはあまりにもかけ離れた姿だった。
月に赴任したエリナは、職員への挨拶もそこそこにアキトの部屋を尋ねた。
(ここにアキト君が居るのね)
アキトがどんな風に変ってしまっているのか、期待と不安を持ちながらドアを開けた。
「久しぶりね、テンカワ君」
出来るだけ明るい声で、部屋の奥に座っているアキトに声を掛ける。
「何をしに来た」
「今度、私がここの責任者になったから、その挨拶にね」
「誰が責任者であろうと、俺には関係無い」
アキトはそう言うと、席を立ち部屋を出て行こうとする。
「テンカワ君、何処に行くの?」
「訓練の時間だ。人を殺す為のな」
「な、何を・・・」
あまりのアキトの言葉に、エリナは一瞬言葉を失う。
「不幸になりたくないないなら、俺には近付かない事だ」
アキトは擦違いざまにそう言うと、後ろを振り返る事無く歩いていった。
「アキト君・・・」
エリナは、アキトが残した言葉を信じる事が出来なかった。
『訓練の時間だ。人を殺す為のな』
『不幸になりたくないないなら、俺には近付かない事だ』
その言葉は、エリナの知るアキトからは絶対に出てこない言葉だった。
(アキト君、何でそんな言葉を・・・)
彼女がそう思った時、机の上にある物にふと気が付いた。
それは一つのフォトフレーム。
その中には、以前のままの笑顔をたたえたアキトと、彼がいつも大事に思っていたユリカの笑顔と、ルリの恥ずかしそうな笑顔があった。
そして、そのフォトフレームの前にある一つの指輪。
その指輪にエリカは見覚えがあった。
あの日、ユリカの隣で照れ臭そうにその指輪をはめるアキトの姿があった。
その姿を思い出した時、彼女は自分がやらなければいけない事に気が付いていた。
(私が昔のアキト君を取り戻さなきゃ)
エリナにとって今出来る事、それはたった一つしか無い事に気が付いていた。
その時以来、エリナは事ある毎にアキトに話し掛ける様にしていた。
そんなエリナに対するアキトの態度は、常にそっけないものであったが、一度だけ感情を表した時があった。
「アキト君、ユーチャリスのオペレータが決まったわ」
「そうか」
「誰だか聞きたくないの」
「誰がオペレータであれ、俺には関係が無い。ユーチャリスのオペレートをきっちりやってくれればそれで問題はない」
アキトは取り付く島も与えずに部屋へと歩いて行こうとする。
「そのオペレータが、貴方の知っている子だとしても?」
「何?」
「ラピスがオペレータに決まったわ」
「何だと!」
エリナの言葉にアキトは踵を返すと、彼女に掴み掛からんばかりの勢いで問い詰める。
「何故だ。何故彼女を戦いの場に引き込もうとするんだ」
「ユーチャリスは、IFS強化体質の人間によるワンマンオペレートの実験艦でもあるのよ。その艦のオペレートを、IFSを強化してあるラピスがしても何もおかしくはないでしょう。それとも、ホシノルリでも呼ぶ?」
エリナは自分の気持ちを殺し、わざと冷たい言い方をする。
「あんたは、あんたって人は・・・」
「仕方が無いでしょう。IFSを強化した人間なんて数が少ないんだから。それに、今の貴方はラピスのオペレートが無くては何も出来ないのよ」
「・・・・・・」
エリナの言葉にアキトは何も言い返す事が出来ず、ただ俯いて拳を固く握り締めていた。
だが、冷たい言葉を発するエリナの顔が、苦痛に歪んでいる事にアキトは気が付いていなかった。
「誰が・・・、誰がこんな姿にしたんだ・・・」
アキトはうめく様に言葉を発する。
「何?」
「俺は好きでこんな姿になった訳じゃない。好きで味覚を失った訳じゃない。こんな俺にしたのは、あんたらネルガルじゃないか」
「テンカワ君・・・」
「あんたらネルガルが、ボソンジャンプなんてものを手に入れようとしなければ、俺はただのコックでいる事が出来たんだ。大事な人間を失う事も無かったんだ」
「・・・・・・」
突然のアキトの言葉に、エリナは黙ってアキトを見つめる。
「所詮俺は、いつになってもモルモットなんだろ」
アキトはそう言うと、その場を立ち去って行った。
アキトが『シラヒメ』攻撃から帰還してから一週間後、アカツキからエリナ宛てに通信が入った。
『エリナ君、最新情報が入ったよ』
「ユリカさんについてですか?」
『そうだよ。艦長の居場所がやっと判ったよ』
「どこに居たんですか」
『ターミナルコロニーアマテラス。そこの非公開区画に遺跡とともに居るそうだ』
「非公開区画?」
アカツキの言葉に、エリナは首をひねる。
『ヒサゴプラン、調べれば調べるほど謎だらけの計画だよ。ネルガルにとってこの計画、このまま遂行させる訳にはいかないね』
「じゃあ次は・・・」
『そう、目標はアマテラスだ。多分今回は、彼も艦長に会える可能性が高いと思うよ』
「判りました。テンカワ君にその事を伝えます」
『よろしく頼むよ。それともう一つ伝えて欲しい事がある』
「何でしょう」
『シラヒメ事件後、宇宙軍が密かに動き始めている。アマテラスの査察にナデシコが出発する事が決まったそうだ』
「ナデシコって、ナデシコBが出てくるんですか?」
『そう言う事。あの艦の艦長は知ってるよね』
「確か、ホシノルリ・・・」
その名前を口にした瞬間、エリナは背筋に悪寒が走るのを感じた。
「じゃ、じゃあ、テンカワ君はホシノルリと・・・」
『その可能性もあるという事だよ。くれぐれも自重するように伝えてくれ』
アカツキはそれだけを伝えると、一方的に通信を切った。
アカツキとの通信を終えたエリナは、その内容を伝える為にアキトの部屋を尋ねた。
「アキト君、入るわよ」
「・・・・・・」
だが、部屋の中からアキトの返事がない。
エリナは一瞬嫌な予感を覚えたが、その予感を振り払うように二・三度首を振ると、アキトの部屋のドアを思い切って開けた。
「ア、アキト君・・・」
部屋に入った瞬間、彼女はその凄惨な状況に息を呑んだ。
彼女の目の前に広がっていたのは、部屋の壁一面に広がる殴り付けた拳の跡。
その全てが血の色をしている拳の跡だった。
そして、部屋の中央に座り込んでいるアキトの姿だった。
「アキト君、あなた一体・・・」
「エリナか・・・」
慌てて側に駆け寄ったエリナに、アキトは力無い視線を向けた。
「どうしたのよ」
「血の、血の汚れが消えないんだ・・・」
「血の汚れ?」
「ターミナルコロニーを一つ落とす毎に、俺はどんどん血塗られていく。それでユリカを助け出せているならまだ救われるけど、いまだに助け出せていないんだ。俺はどんどん変っていってしまっている。もう、こんな血塗られた体じゃあいつを抱きしめる事はできない・・・」
アキトはそう言うと、自分の拳を力無く床に叩き付ける。
その時、エリナが血だらけになっているアキトの拳を両手で包み込んだ。
「エリナ・・・」
「大丈夫よ。貴方は何も変っていないわ。ナデシコに居た時と何も変っていない。
だから、自分を責めないで。
貴方は一人じゃないわ。
貴方には私がいるし、ラピスもいるし、会長がいるのよ。
貴方の苦しみは私達の苦しみでもあるわ。だから一人で背負い込まないで」
エリナはそう言いながら、アキトの拳を優しく摩っていた。
その彼女の頬には、涙が伝っていた。
「お帰りなさい」
「ああ」
「今回も駄目だったの?」
「あと少しで助けられそうだったんだけどな」
「そう・・・」
「とうとう、俺の手で助け出す事はできなかった」
「え?」
突然のアキトの言葉に、エリナはその意味を理解できなかった。
「これから先は、ルリちゃんの仕事だよ。俺はその手伝いをする事しか出来ない。違うか?」
「そんな・・・」
「その為のナデシコCの建造だろ」
「知ってたの?」
「俺だってここで暮らしているんだ。それくらいは判るさ」
「でも、決して貴方の仕事は彼女の手伝いだけじゃないわ。貴方にしか出来ない事だってあるわ。最後にユリカさんを助けられるのは、貴方だけなのよ」
エリナは励ますように言うが、その言葉にアキトは寂しげな笑顔を向ける。
「俺は地球に行ってくる」
「地球へ?」
「ああ、引継をしなきゃならないからな」
エリナはその言葉に含まれている意味を、一瞬にして悟った。
そして、苦しそうに言葉を吐き出すアキトの顔を見ると、何も言う事が出来なかった。
「ルリちゃんとナデシコCが合流したそうよ」
「そうか、勝ったな」
「そうね。あの娘とオモイカネのシステムが一緒になったら、ナデシコは無敵になるわね」
「俺達の実戦データが役立った訳だな」
「やっぱり行くの?」
「ああ、遣り残した事があるからな」
「復讐。昔の貴方には、一番似合わない言葉だったわね」
「昔は昔、今は今だ。補給ありがとう」
「いいえ、私は会長のお使いでしかないから・・・」
アキトはエリナの言葉を聞くと、黙って彼女の横を通り抜けていく。
が、二・三歩歩いた所でその足を止めると、彼女の方を振り返った。
「エリナ、君のお陰で随分助けられた。この事は忘れない」
そして踵を返すと、ドックのユーチャリスに向って歩き始めた。
「ア、アキト君」
アキトの言葉に戸惑いを覚えたエリナだが、自分が言わなければならない事がある事に気が付くと、叫ぶ様にアキトを呼び止める。
「何だ」
アキトは、エリナの言葉に振り返らず、背中を向けたまま返事をする。
「貴方、死ぬつもりね」
「・・・・・・」
「貴方は帰って来なくてはいけない人よ。だから必ず帰ってきて」
「・・・・・・」
「みんな貴方の帰りを待っているわ。これからも、みんな一緒よ」
「・・・・・・」
「そして、帰って来たら、あの笑顔をもう一度見せてね。私は、貴方の笑顔をもう一度見たいから」
「・・・・・・」
「帰って来るって約束して。もう一度、その姿を私に見せてくれるって約束して」
「考えておこう・・・」
「それじゃ、行ってらっしゃい」
アキトのその返事を聞いたエリカは、静かに笑顔でアキトを見送った。
Fin
皆さんこんにちは。仁塩ぴよこです。
D&D研究所の研究員としての2作目となる作品のお届けです。
今回は、NERGALさんの「劇場版のエリナとアキトの話を」というリクエストで、書いてみました。
私も今迄に何作かのSSを書いていますが、エリナをメインにした作品は2作目になります。しかも、
以前に書いた作品は、書いている内にエリナが勝手に動いてしまったためにメインになったもので、最
初からエリナを書こうと思って書いたのは初めてになります。
ネルガルの中での自分の立場と、個人としての気持ちの狭間で揺れ動くエリナの気持ちって、描くのが
ここまで難しいとは思いませんでした。
何とか自分なりに描きあげてみましたが、いかがな物でしょうか?
最後になりますが、素敵なリクエストをして下さったNERGALさんに、心より感謝いたします。
ご意見、ご感想などありましたら、ぴよこ宛にメールを送って頂ければと思います。
それでは。
仁塩ぴよこ研究員へのメールはこちらへ。
toru@net24.ne.jp
所長の感謝の言葉
惚れたろ?(T_T)
やっぱり闘う女性は美しいですね・・・。
個人の立場の葛藤や苦悩そんなものを乗り越えられる強さ、希望を感じました。
劇場版影の主人公テンカワアキトがあるのも、エリナさん達あってだということが改めて感じられました(^^)
前回のアイちゃんSS「心の奥に残る出来事」に引き続き
このような素晴らしいお話(しかも、私が密かに大好きなエリナさん(///))を届けてくださった仁塩ぴよこ研究員、本当にありがとうございましたm(_)m
HTML化の作業は今回も欅が行ったので、見難い等のご叱責は欅に・・・。