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散りぬるを 

 闇。
 ――すべてを覆い隠し、すべてを呑み込む。
 桜。
 ――すべてを覆い隠し、すべてを抱え込む。
 巫。
 ――すべてをさらけ出させ、すべてを清める。

 闇の中で咲き誇る桜の下で、巫女が舞っている。
 桜の根に抱えられ、幹に吸われ、華と散る荒ぶる魂を祓う。

 荒魂≪あらみたま≫。
 ――『タタル』ことしか知らぬそれを鎮めるが、巫女の役目。

 鎮魂≪たましずめ≫。
 ――荒魂を和魂に昇華させ、天空へと還す。元来た場所『カミ』へと還す。

 長き間閉じ込められ、鬱屈とした魂の重さに耐えきれず、散っていく桜。
 咲いた直後から散っていく桜。
 まるで散るために咲くかのような桜。
 救われぬ想いの重さで、儚く散っていく桜。
 散りゆく桜は、淡く輝きながら、天空を求め、舞い惑う。
 風になびき、翻弄され、それでもなお救いを求める。
 桜の花びらが、舞う巫女の周りを飛び回る。
 救いを求めて。
 その、求める想いが、闇を呼ぶ。
 魔を呼ぶ。
 時が歪む、あやかしの時を産む。
 風が淀み、魔が澱む。
 終わりのない時を刻む。

 巫女は、舞う。
 時の環を断ち斬るために。
 闇の中で、袴の緋色が艶やかに映える。
 桜の中で、漆黒の髪が華やかに乱れる。
 桜は咲き、散る。
 抱え込む想いが強ければ強いほど、桜はさらにその美しさを増す。
 妖しいまでの美しさ。
 狂おしいほどの、美。
 散るからこそ。
 暗き想いを秘めるからこそ。
 破滅に向かおうとするからこそ。
 壮絶なまでに美しいのだ。

 美しき桜の中で、巫女は幻のように舞う。
 夢幻の舞い。
 祭りの舞い。
 祓いの舞い。
 桜の下で、荒魂を祭る。
 祭り、天空へと誘う。
 天空へ昇る和魂を祝う。
 祝い、再生へと誘う。
 自然に、還す。
『カミ』に、還す。
 巫女が謡う。
 祝詞を謡う。
 言霊の風に乗り、花びらが天空へと翔昇る。
 淡くきらめきながら、舞い昇る。
 その舞いは、喜びさざめくように。
 解き放たれて、舞い昇る。

 花びらが集い、光を放つ。
 光は、闇を、魔を呑み込んでいく。
 消し去るのではなく、己の内に取り込んでいく。

 謡いは続く。
 謡いに応え、地が哭く。
 桜に抱え込まれた『死』が哭く。
 桜が哭き。
 闇が哭く。
 すべての存在に宿りし『カミ』が、哭く。
 巫女の舞いは続く。
『カミ』を祭るために。
 巫女の謡いは続く。
『カミ』を祝うために。

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