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『俺の出番だろう?』
「まだだ……」
 男は苦痛にうめきながらつぶやいた。
「何言ってんの。もうだめよ」
 男と背中を合わせるように立つ女は、銃を構えつつ周りを見渡した。
 ビルの谷間の暗い路地裏。四角く切り取られたスモッグ混じりの夜の空。
 遠くに街のネオン。人のざわめき。
 だが周りには誰もいない。
 人が恐れ、遠くに追いやった闇しかない。
 闇が蠢く。もうすでに二人は取り囲まれている。
 逃げ場などない。逃げてきた場所がここなのだから。
 ここが行き止まりの逃げ場。もはや為す術もない袋小路。助けてくれる人もいない。
「来る……」
 女は銃を構える。しかし銃が効かないことなどとうに知っている。
 だがただ黙って死を待つことなんてできやしない。
 効かないとわかっていても、それでもなお何かをやらずにはいられなかった。
「これでもうお別れね」
「まだだ……」
 闇が身をもたげる。男は歯を食いしばり何かに耐えながら闇を睨み続ける。
「そう、ね。まだ終わりじゃないもんね。そうだ。明日ディナーおごってよ」
「ああ……」
「約束だからね」
 女は莞爾と微笑んだ。
 刹那闇が動く。二人に向かって襲いかかる。
 二人は必死で戦うが防戦一方。闇はしだいに数を増し、二人をさいなみ続ける。
 二人は傷つき血を流し、切り刻まれ膝をつく。
『出番だ』
「まだ、だ……」
 頭の奥底から聞こえる声は決然と言い放ち、頭痛は最高潮に達する。
 男は頭を押さえて悶え苦しみ、口からはうめき声がもれる。
 女は崩れ倒れる男を見てもどうすることもできない。
 闇に囲まれ助けに行くこともできない。むしろ自分の方が助けてもらいたかった。
「ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!」
 男の咆哮がこだまする。
 男はゆっくりと起き上がる。全身から力が抜けて両腕はだらりと下げられている。
 闇が襲いかかる。
 だが、ぺしりと闇はいとも簡単に叩き落とされる。
「くっくっくっ」
 男は笑っていた。
 頬まで吊り上がった歪んだ笑み。
 快楽をむさぼり食らう破滅的な笑み。
 とめどなく溢れ、終わることの知らぬ笑み。
「ショータイムの始まりだ」
 男の手に光がともり、それは光の剣となる。
 その体からは先程までと打って変わり、圧倒的な力が放出されている。
 闇はたじろいた。女も何が起こったのか理解できなかった。
 闇が簡単に切り結ばれる。
 血潮が飛び散る。
 破片がぶちまけられる。
 断末魔の叫びが耳をつんざく。
 一瞬にして終わった。
 闇はすべて斬り払われ、路地は惨憺たるあり様を呈していた。
 その中で女は返り血を浴びて呆然と立ち尽くしていた。
 目の前で笑っている男は一滴の返り血も浴びてはいない。
 まるですべての血を女に浴びせたように。
 男は笑みを浮かべて女を見つめた。
 女は思わず一歩後ずさった。
 男の目に宿るのは、狂気。
 女の目に宿るのは、恐怖。
 男は笑っていた。心底楽しそうな笑みを浮かべていた。

「約束を守れなくて、すまない」
 男は体を引きずるようにして、その場を後にした。

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