KATAOMOI


ルヴァ&コレット



 小さなピンク色の優しい花びらのコスモスを秋風が揺らすそんな午後。
 ひとり聖地の図書館で分厚い辞書を目の前に立て、こそこそと栗色の髪の少女は
 何事かやっておりました。栗色の髪に柔らかな陽射しがあたり輝いて見えます。
 時々、「えっと〜これは、、、え〜ん、分かんない!」
 とかなんとかブツブツと呟き、本の上から顔を覗かせてこちらに照れたように微笑みかけると
 また本の中に顔を埋めて、「う〜ん、、、。」と呟きます。
 私はその様子がおかしくてつい声を立てずに「ふふふ。」と笑ってしまいました。
 
 少女は、私が笑ったことに気が付いたようでした。彼女の動きがピタリと止まりゴソゴソと何かを
 バッグに詰め込む音が聞こえてきます。私は後悔しました。少女に悪いことをした、とすぐに
 後悔しました。
 「ルヴァ様、失礼します。」
そう言うと 少女は席を立ち、図書館を出ようとします。

 「あ、あの、、、。アンジェリーク!」

 私の呼び止める声が少し大きかったのかもしれません。アンジェは足早に出ようとしていたのを
 止めると私を少し驚いた顔で振り返りました。
 大きな青いバッグからは毛糸のついた編み棒がのぞいています。その毛糸の色は、「彼」を
 連想させる落ち着いた紫色の毛糸です。

 「その、、、お気を悪くさせてすいません。私は、そのう、あなたが、、、あなたの仕草が
 あまりにも可愛らしく思えたものですから、つい。」

 私がそう言うと、アンジェの頬がぱあーーっと赤く染まり大きな蒼い瞳を見開いて私を見つめます。
 私もそんなアンジェに見つめられて、どうしたらよいのか分からないほど胸がどきどきしてしまい
 ましたが、視線はアンジェからそらすことができませんでした。
 私は顔が熱くなるのを感じました。咄嗟のこととはいえ、私は何を言ってるんでしょう!!
 
 「あっ、あの、いえ、その、本当にあなたは可愛らしいですから、その、私はあなたから目が
 離せなかったというか、、、あっ、私は何を言っているのでしょうねえ。ははは。」
 どんどんと勝手に口が動いてしまって思っていることを全部言ってしまいそうです。
 
 「ルヴァ様、、、。」アンジェの顔が一瞬困ったように曇ります。
 
 「、、、すいません、笑ったり、変なこと言ったりして。」
 
 「いいえ。私こそ図書館でこんな編物なんかして、ごめんなさい。お部屋には突然、レイチェルが
 訪ねてきたりするもんですから、、、。ここしか思いつかなくて。」
 
 アンジェはそう言うとぺこりと頭を下げました。
 
 「いいえ、いいんですよー。私は全然構いません。ここには、あまり他の方はいらっしゃいませんし
 特に、午後は私ひとり、ということが多いからですねー。何も気兼ねなんかいらないのですよー。」
 
 私は勇気をだして、少女のつややかな栗色の頭に手を置いて撫でました。
 少し少女の細い肩が「ぴくん」とあがり、そっと私の顔を見上げます。
 
 「ルヴァ様、、、。」
 
 アンジェは私の手を握り自分の頬に手をあてました。
 突然の事に私は飛び上がりそうな足をなんとか冷たい床の上に落ち着かせました。
 とても柔らかな少女の頬の体温が私の掌に伝わってきます。
 他に誰もいないふたりだけの図書館の中、外の花壇ではコスモスが揺れています。
 窓辺に枯葉でもあたったのでしょうか?
 「カサッ」という小さな音が 静まり返った図書館に中に響きました。
 いつまでもこうしていたい、、、私はアンジェリークを見つめながらそう強く想います。
 
 「アンジェリーク?」少女の長いまつげにみるみるうちに透明なしずくがあふれて
 くるのを見て、私は少女に問いました。
 
 「ルヴァ様、ルヴァ様の手ってあったかいですね。大きくて、細い指、、、。
 私、幸せです!こんな素敵なルヴァ様に出会えて、、、。」
 
 アンジェリークはそう言いながら私の手を下ろし、涙を拭いて
 「失礼しましたっ!」
 と笑って見せると図書館から出て行きました。
 
 私は自分の手を見つめました。
 手を誉めてもらうなんて初めてでした。なんだかくすぐったいような気持ちになって
 また「ふふふ。」と笑いがもれました。
 
 
 1ヶ月後、木枯らしの吹くある冬の日にアンジェリークは私に手編みの手袋をくださいました。
 
 
 
end.


             
             



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