マルセルは、早朝から、そわそわとして、落ち着かない。
何度も、執務室を出ていっては、また、戻ってくる、と
いうことを、繰り返している。どうも、庭園の方へと、
通っているらしいが、、、。
「よう、マルセル。何処行くんだよ?さっきから、そわそわ
しやがって。」丁度、廊下にでたところで、マルセルは、
ゼフェルに、呼び止められた。
「うふ、あのね、今日、10年に一度咲くといわれてる、
蘭のお花が咲くの。前の緑の守護聖様に、特に、その花は、
大切にしなさい、て、いわれてて、僕、一生懸命に、世話
したんだ。その蘭のお花が、咲く時、何か不思議なことが、
起きるらしいんだけど、、、。」
「へ〜、不思議なことねえ。で、何が起きるんだ?」
「さあ、それは解らないけど、、、。だから、咲く瞬間を、
見逃さないように、さっきから、お花を、見にいってるんだ。」
「なーんだ、わかんねえのか?つまんねえのっ!」ゼフェルは、
口笛をふきながら、ルヴァの執務室へと、向かった。
「もうっ!ゼフェルったらっ!」マルセルは、頬を、ぷぅーっと
ふくらませ、ゼフェルの背中にあっかんべーを、した。
マルセルは、やわらかい日射しに包まれた、庭園の、片隅に、
植えてある蘭のお花を、見にやって来た。真緑の葉先が、尖り、
マルセルの腰位まで丈のある、その蘭は、薄い緑の線が走る、
固いつぼみの先から、少しだけ、白い花びらが、のぞいている。
「早く咲かないかなあ、うふふ、早くみたいなっ!」
と、マルセルが、しゃがんで、花に顔を近付けると、、、、
その瞬間、スーッと、マルセルは、蘭のお花に、吸い込まれた。
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「なんだか、体が、窮屈だなあ。足なんか、土の中に埋まって
いるみたいだし、両手なんか、んんっ!?う、動かないよっ!?
どうしたんだろうっ!?僕、なんだか、変だ。」
その時、向こうから、誰かがやって来るのが、見えた。マルセルの
目の前で、立ち止まる。「ク、クラヴィス様っ!助けて下さい!
僕、体が、、、ええっ!?な、何をするの?クラヴィス様っ?」
クラヴィスは、御自分の、衣装の裾をめくると、マルセルに、
向かって、用を足そうとした。「クラヴィス様?どちらに
いらっしゃるのですか?」この、優しい声は、リュミエール
様だ。リュミエールの、声がすると、クラヴィスは、ささっと、
裾を、おろした。
「私は、ここに居る。何事だ?」いつもの、クラヴィスに、
戻って、マルセルの側から、離れていった。
「ああ、びっくりしたっ!まったく、何考えてんだろう?でも、
おかしいなあ?なぜ、僕の声が、聞こえないんだろう?僕、
一体どうしちゃったんだろう、、、。あ、今度は、ルヴァ様が、
来るっ!おーい おーい!ルヴァ様、助けてくださーいっ!」
ルヴァは、ゆっくりと、マルセルに、近づいて来た。
「は〜、これが、マルセルが咲くのを楽しみに、待っている
蘭ですね?確かに、美しい葉ぶりをしていますね〜。」
「、、、ルヴァ様?」ルヴァは、マルセルの顔を、にこにこ
笑いながら、じっと見つめる。
「ルヴァ様ったら!」
「、、、、、、。」なおも、見つめたままの、ルヴァ。
「こうして、あなたが咲くのを、待っていたいのですが、
書物の整理をしなくてはいけませんので、これで、、、。
そういえば、マルセルは、何処へ行ったんでしょうねえ?」
ルヴァも、しずしずと、マルセルの側を離れて行った。
「ぼ、、、僕、もしかして、蘭の花になっちゃたの?」
マルセルは、愕然として、たたずんだ、、、。
「え〜ん え〜ん、僕、どうしたらいいんだろう?
あ、チュピ!僕だよ、わかるかい?君には、、、。」
青い小鳥は、マルセルの周りを、くるりと回って、まるで、
返事をするように、さえずった。
「チュピ、君には、わかるんだね?嬉しいよっ!だけど、、、。」
今度は、いかつい音を、立てて、ヴィクトールが、近づいて来た。
「ほう、、、これが、マルセル様が仰っていた、蘭の花か。
んっ?もうすぐ、咲きそうだな。こんなに、つぼみが、
ふくらんでいる。」ヴィクトールは、マルセルの、顎に、
やさしく触れた。「へえ、意外だな。ヴィクトール様も、
植物に関心が、あるんだ?」と、マルセルは、思った。
ヴィクトールは、マルセルの、足元に寝転がり、大きく息を、
吸い込んだ。「聖地は、美しいなあ。マルセル様は、まだ若い
のに、こんなに、心休まる緑の力を、司っていらっしゃるんだな。
俺も、この緑に、何度心が、救われたか、、、。自分の星も、
こんな、美しい自然があれば、どんなに民たちも、心洗われて、
元気がでるだろう?」ヴィクトールは、目をつむると、また、
大きく息を、吸い込んだ。、、、彼の、何気ない一言に、
マルセルは、涙がでてきた。「僕、自分だけが、楽しんで、
植物さんたちの、世話をしてきたような気がする、、、。
漠然として、宇宙の為に、力を使ってる気がしてたけど、僕の
力で育てた、緑たちが、こうして人の、心を元気にしたり、
癒しになったりしてるんだ。そして、植物さんや、
動物さんたちは、言葉を話すことは、できない、、、。」
「、、、?!マルセル様?いつの間に?いつから、そこに、
居たんですか?」ヴィクトールは、驚いて、とび起きた。
彼が、目を開けると、マルセルが、膝まづいて、彼の顔を、
のぞきこむような形で、首を垂れていた。マルセルは、
はっとして、自分の足や、手を、動かしてみた。「う、動くっ!
やったーっ!元に戻ったんだあーっ!?わーいっ!
ヴィクトール様、ありがとうっ!」マルセルは、ヴィクトール
の太い首に、抱きついた。ヴィクトールは、何がなんだか、
解らなかったが、はしゃぐマルセルに、微笑んだ。
その時、運命の蘭の花が、静かにゆっくりと、高貴な
香りを、漂わせて、ひらき始めた、、、。
fin.
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