今日も今日とて、穏やかなお天気の聖地。本日は、クラヴィスが
珍しく積極的にアンジェのお部屋を訪ね、森の湖の奥にあるお花畑
で楽しいデートをした。花たちの間を通り過ぎる風が、お花のなん
とも言えぬ甘い香りを運び、少女の栗色の髪を揺らして行く。
アンジェは、穏やかな微笑みを唇にたたえながら自分だけを見つめる
クラヴィスの眼差しに頬を赤らめつつ、優しく彼を見つめかえす。
ふたりは花たちの間を指先だけをお互いにつないでいたが、やがてクラヴィス
はアンジェの細い肩を包み込むように抱き締め、離さなかった、、、。
「楽しい」と思うことは、本当に早く時が過ぎてしまうもので、あっと
いう間に日が暮れ、辺りは夕闇に包まれた。アンジェは、クラヴィス
と離れたくない気持ちに胸を押し潰されつつ、彼女はお部屋の前まで
送ってもらい、アンジェはなかなか部屋に戻ろうとはせず、他あいもな
いことをしゃべり続ける。しかし、さすがに話もつきてふたりの間に
しばし沈黙が流れると、クラヴィスの方から、
「それでは、また明日な。よい夢を、、、。」
「はい。クラヴィス様、おやすみなさい。」アンジェは瞳を潤ませて
か細い声で答えると、パタン、と部屋のドアを閉めた。
クラヴィスはしばらく部屋の前に立っていたが、やがて美しい眉間
にシワが寄り、黒いロープの裾を大きくひるがえすと、アンジェの
部屋を背にして立ち去り、庭園の方へと歩きだした、、、。
静かに黒い空に金色の光が輪をつくり、聖地を照らしている。
「おや?もしかしてクラヴィス様ではありませんか?月光浴、、、
ですか?」暗闇から、ぬうっと、背丈のでかい男が現れた。
「、、、ヴィクトールか、、、。」クラヴィスは抑揚のない声で
答える。ヴィクトールは少々、このクラヴィスが苦手だ。年下と
はいえ、この落ち着きはらった冷静な態度。何を考えているのか
解らない、いつも冷めた黒紫の不思議な瞳、、、。
「ふっ。そんなに私の側を離れたいか?」クラヴィスは薄い唇の
端を歪ませて皮肉っぽく笑って言った。
「もう、お前の瞳が私の後ろに浮かぶ月しか写していないようだ。」
そう言うクラヴィスの瞳が、一瞬悲しげに見えたのは気のせいだった
のだろうか?ヴィクトールは心の中で、「まさかな、、、。」と、
自戒した。
「ご一緒してもいですか?」ヴィクトールの口から自然と、言葉が
出た。クラヴィスは、「くるり」とヴィクトールに背を向け、スタスタ
と歩きだした。「ま、待って下さい!クラヴィス様?!」
「心にもないことを言うな私は帰る。」ヴィクトールに背を向けたまま
クラヴィスは、彼から離れて行く。
「待って下さい!」ヴィクトールの無骨で大きい手が、ついつい力あ
まってクラヴィスの左肩をぐいっと後ろへ引いた。と同時にクラヴィス
の身体が後ろへと倒れてゆく、、、。「あっ。」ふたりは同時に声を
あげ、クラヴィスはそのままヴィクトールの胸の中へ倒れ込んだ。
「す、すいません。俺、その、、、大丈夫ですか?」ヴィクトールは
後ろ向きのまま倒れこんだクラヴィスの腰を片腕で支え、もう片方で
彼の流れ落ちる漆黒の美しい髪の頭を支えながら聞く。
クラヴィスの瞳にヴィクトールの顔のアップがうつり、、、「ふっ。」
「はっはっはっは!」ふたりはしばらくそのままの姿勢で笑い合った。
だが、ふっとクラヴィスは笑うのを止め、ヴィクトールの胡狛色の瞳
を見上げて、スッとかすかに唇をかすめ身体を起こした。
「馬鹿なことを、、、。」クラヴィスは少し乱れた衣服を、直しながら
独り言のように呟く。
ヴィクトールは、「さっきのは、偶然だったのか?クラヴィス様が
俺を切なげに、、、愛おしそうに見上げて唇に、、、。」
という考えを必死に払いのけようとしていた。
「どうした?来ないのか?」クラヴィスにしては珍しく、大きな声
でヴィクトールに呼びかけた。ヴィクトールは大股でクラヴィスの
方へ近づいて行った、、、。
森の湖の水面には、ゆらゆらと金色の月が揺れている。辺りには湖へ
と流れこむ水音だけが響く。ヴィクトールは、先ほどのことや、
クラヴィスの美しい横顔に胸がなぜか、早打ちして顔がほてって仕方
がなかった。
「、、、覚えているか?お前とこの聖地で初めて、言葉を交わした日
のことを、、、。」クラヴィスは、視線を湖に向けたまま問う。
「はあ。」ヴィクトールは、自分の首の後ろに手をやり、思い出そう
としていた。クラヴィスは話を続ける。
「あれは私が朝、出廷する時だった。なぜかあの日は、馬車の馬が
暴れだして、、、車から私が放りだされた時、お前が私を抱き止め
てくれたのだ。覚えているか?」
「ああ。そういえば、、、思い出しましたよ!大丈夫ですか?と、
聞いたら、、、クラヴィス様は、降ろせ、と、、、。」
クラヴィスは小さく微笑むと、頷いてみせた。
「お前が助けてくれた。この私を、、、。」
「いやはや、あの時、俺以外に誰か居てもきっと同じことを、、、。」
「ジュリアスには、馬のことを知らぬくせに、馬を従わそうなどと
思うからだ。と、言われたぞ?」
「あのお方らしい。おっと、失礼しました。」ヴィクトールは謝る。
「私は嬉しかった。どちらかといえばあまり生きるということに対し
興味などなかったが、、、。しかしあの時は、死にたくないと思った
そして、こうしてお前のお蔭で無事だったことが嬉しい。
いや、お前が助けてくれたからかもしれん。こう思えたのは。
、、、もうすぐ、宇宙は臨界を迎える。そうなると、お前達は
元に居た次元へと帰されるだろう、、、。私にはそれが堪え難かった。
だから、アンジェリークの気持ちを知りながら、彼女に頼むつもりだ
ったのだ。どうか、もう少し育成を待ってくれと。お前に私の気持ち
を話す時間をくれと、、、。しかし、言えなかった。私のこの、お前
に対する気持ちは、、、いや、もういい。」
「クラヴィス様?」ヴィクトールとクラヴィスの姿を照らしていた
月が雲に隠れ、暗闇がふたりを包んだ。
「もう、誰かが彼女にサクリアを送ったようだ。明日、何かが起きる。
そしてこの女王試験は終わり、私の秘めた想いも、、、。」
”聖地”という特殊すぎる環境のせいか?それとも月の魔力のせいか?
クラヴィスの美しく長い漆黒の髪にヴィクトールは、触れる。
「どうか忘れてくれ。長居してしまったようだ、、、。」
クラヴィスの悲しみに満ちた声を、闇と共にヴィクトールが唇で
塞いだ。厚い胸板の中でクラヴィスは、しっかりと彼に抱きついて
いた。ヴィクトールの荒々しい愛撫に、クラヴィスは立って居られ
ないほど喜びと同時に「悔恨」も感じ、その自虐さを愉しんでいた。
ヴィクトールは、聖地での禁欲生活が長かったせいか、すでに理性
の「タガ」がぶっとび、獣?と化している。クラヴィスの衣服を
びりびりに破いて肌をむきだし、クラヴィスの呼吸に合わせて、
彼を握り締め、彼の中へとはいってゆく。
筋肉の引き締まった太い腕がクラヴィスの四つん這いになった腕の
上に重なり指と指をからませた。身体中傷だらけの男の背中を、
雲の合間から月光が照らし出す。
「もう会えなくなるのに、、、つらすぎるぞ、、、。」クラヴィス
は喘ぎ声をあげつつ、責めるヴィクトールに言う。
「離れたりしません、、、うっ。また、俺があなたを助けますよ。」
「ああ、本当に、、、?はああ、、、。」
クラヴィスの背が、弓なりにしなる。「うおおおお、、、、!」
ヴィクトールとクラヴィスの姿を雲からでてきた月が、再び照らし
だした、、、。
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「昨夜は、犬がよく吠えてたねえ。お蔭でよく眠れなかったわ。
満月だったからかしらね?」
「オリヴィエ、確かに犬の祖先は狼ですが、、、月に向かって
吠えるのは、、、。」
「あら、そうなの?でもさー、ルヴァ、どう思う?どうして今まで
順調に進んできた宇宙の育成が、昨夜ひと晩でぱ〜っとなくなった
わけ?アンジェなんか寝込んでるよ!かわいそうに!!」
「そういえば、朝礼にクラヴィス様とヴィクトールさんが来てませ
んでしたね?」
ふたりの夜はまだまだ続きそうです、、、。
end.
がーっはっはっはっは!!なんもオチない。ただ、大好きな
ふたりを書いてみたかっただけえ〜。後日、手直ししまふ!
お付き合いしてくださりありがとうでした!