「ごめんね、突然誘っちゃって!忙しかったんじゃないの?」 レイチェルは形が整った眉を寄せながら、ハンドルを握り前方を 向いたままアンジェ美に声かけた。アンジェ美は、首を左右に振ると 「ううん、別に忙しくなかったし、、、お散歩したいなあて気分だったから。」 と、運転席のレイチェルの横顔に答えた。 「お散歩?あはは。お散歩じゃあないんだけど、、、ま、アンジェ美は散歩で いいよ。一緒に歩いてくれれば私はいいからさっ!あのね、昨夜彼が久しぶりに 泊まっていったのね。で、お前少し太ったんじゃないか?ていうもんだから手始め に、ウォーキング始めようと思ってさ。ほら、ジム通う暇ないしお手ごろじゃない?」 レイチェルはカーブを左へと曲がった。 アンジェ美は、ぼんやりと昨夜の事を思い出していた、、、。 結婚して2年。まだまだ世間でいうところの「新婚さん」。 夫のルヴァはぼんやりとしているがとても優しく、自分によく気を使ってくれる夫だ。 現に今まで、夜の営みを彼の方から誘ったことはなく、何気なく照れくさそうに 自分が声をかけてやるとベットへ入ってくる。それ以外は決して自分からはベットに 入ってこようとしない。初めは、とても恥ずかしかったが段々と慣れてきて近頃では アンジェ美の方から誘うのも億劫になり始めている。 「ルヴァ様。」ベットの横にあるスタンドの灯りに照らされた夫にアンジェ美は呼びかけた。 「んっ?どうしましたか〜?アンジェ美?眠れないのですか?」夫のルヴァは読みかけの 本から顔を離すと、隣いるアンジェ美の方へ向けた。 「どんな本を読んでらっしゃるんですか?」アンジェ美の何気ないこの一言で、 ルヴァの瞳は輝いた。 「この本に興味があるのですか?これは人間が誕生する前の細胞レベルから ウィルスによってどのように生物ができてきたかというお話で、、、。」 妻が自分の趣味に興味を示してくれることは、こんなにも夫は嬉しいのか?? ああ、両目をつぶり自分の胸に片手をあてながら、恍惚とした表情で長々とまだ 本の内容、及び、それについての自分の感想を述べている。 こういうところも以前は、「無邪気でかわいい!」とか思っていたアンジェ美だった が、、、。眠くて重い瞼を必至に開けて、半目になりつつルヴァの声を遠くに聞き ながらアンジェ美は、眠った、、、。 「それとも私の方が変なのかしら?素直に抱いて!て言えない私の方が?」 「なあに?アンジェ美?何か言った?」レイチェルはサイドブレーキを引くと、 車のドアを開けた。アンジェ美は思わず顔を赤くして焦りながら車を降りる。 広くて大きな公園には、サッカー場やテニス、バスケットコートまで常備されて いた。起伏のある道をジョギングしている人や、歩いている人がいる。 道はぐるりと大きな池を囲んであった。 「やっぱまだ風が冷たいわね。今日は少し風が強いからアンジェ美、その 可愛い帽子を吹き飛ばされないようにね!それってもしかしてダンナのプレゼント?」 レイチェルは、足を伸ばしながら聞いた。 「うん、そうなの。結婚して初めて買ってもらったの!」アンジェ美は 白いストローハットを少し深く被ってみせた。 「はいはい。ごちそうさま!さ、行くわよ!」 「あ、レイチェル待ってー!そんなんじゃないわよ!」レイチェルは、さっさと アンジェ美の前方を歩き出した。 アンジェ美は急いでレイチェルの後を追いかけたつもりだったが、もう彼女の 姿はなかった。仕方なくアンジェ美は道を下って池の有る所へ出た。 「んもう!一緒に歩いてって言ったのは、レイチェルなのに。」 アンジェ美は周りのジョギングや競歩する人達を横目にゆっくりと歩き出した。 枯れた木々の足元にはたくさんの枯葉が積もっていて、その柔らかそうな山を ちょっと足先で崩したり、質素な冬枯れした中に、赤い南天の実を見つけ 「きれいだなあ。」と思ったりしてお散歩を楽しんでいた。 池の近くへ寄った時だった。強い北風が吹きつけて、アンジェ美の帽子が 風にさらわれ池へと落ちて行った! 「あっ!私の帽子が、、、!?」池の周りを囲ってある柵に身を乗り出して帽子を 追ったが、手が届かなかった。静かに池へと帽子は落ちて風に煽られた池の水 がさざめき、帽子をアンジェ美の居る場所から遠ざけてゆく。 通りすがりの人達は、見て見ぬふりをしてさっさと通りすぎて行く。 「私の、、、私の帽子が、、、。」アンジェ美は今にも泣き出しそうになっている。 「あの白い帽子は、あなたのものですか?」 その声にアンジェ美が振り返るとそこには、背が高い逞しい男の人が立っていた。 アンジェ美は、声を出すと涙がこぼれそうになるので、「こくん」と頷いて見せた。 「待っていなさい。」男はそう言うと、池の柵を飛び越えて池の中へと入って行った! ザブザブと太腿の中ほどまで入り、ずぶ濡れになったアンジェ美の帽子を 取って、アンジェ美の方へと戻ってきていたら、、、。 「こらあーっ!なんで池の中に入ってるんじゃあーっ!勝手に入るなーっ!」 という怒鳴り声が聞こえてきた。 「すいませーん!帽子が落ちたので、取りに入ってたんですーっ!」 男はそう叫ぶと、アンジェ美の方を向いて両肩を少しすくめていたずらっぽく 笑ってみせた、、、。その、大きな逞しい体の威圧感がすうっと、その笑顔で アンジェ美の気持ちの中から消えていった、、、。 男は公園の柵を超えて、アンジェ美の前で帽子をぎゅっとしぼった。 その時に見えた腕の筋肉の動き、、、。こんな筋肉のついた腕を見たのは アンジェ美は初めてだった。そして、胸がときめいてしまった事も、、、。 「ずぶ濡れだけど、、、はい、これ。」そう言って男は、まだ、ぽーっとしている アンジェ美に帽子を渡した。男の下半身もずぶ濡れである。 「あの、ありがとうございました!あなたもこんなに濡れてしまって、、、どうしまし ょう?本当にごめんなさい!」アンジェ美はどうしたらよいのかわからず、 おろおろとしていると、男はにっこりと笑って見せ、そのまま去って行った。 「ちょっと!何処にいたのよ、アンジェ美っ。探してたんだからね! 、、、それよりもさ、聞いてよ!さっき、変な大男に会ったのよ。下半身が びちょびちょに濡れててね〜。気持ち悪いの〜!」 「私の帽子が池に落ちて、それを取ってくれたのよ。その人。 気持ち悪いだなんてひどいわっ!」アンジェ美は、ムキになって怒った。 「あ、そうなんだ。知らなかったんだもの。そんなに怒鳴らなくても、、、ねえ、 ジュース飲まない?喉乾いちゃった!おごるからさ〜。」レイチェルは、 アンジェ美をその場に残し、自販機へと買いに行った。 あの腕に抱きしめられたら、、、。もう一度、逢えたら、、、ううん。 逢いたい、、、。 アンジェ美は、顔に傷のある男の顔を思い出し胸が熱くなるのを 感じた。 次週へつづく
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