奥様劇場 「真冬のランナー」 第5話〜疑い〜




     
        「それで?どうして無断外泊なんかしたんですか?何があったんですか?」
    ルヴァは熱いコーヒーをアンジェ美に入れてやると、目の前にカップを置いた。
    「ごめんなさい。お友達と久しぶりに会って、お食事をして、お酒を飲んでる
    うちにその子が吐いちゃって、意識なくなるほど飲んでその介抱してたら朝に
    なってたんです。」アンジェ美は、「嘘つくなっ!男と一緒じゃなかったのか?!」
    と、いっそのこと怒鳴ってくれれば、「はい。」と答え、苦しまなくてすむのに、、、
    などと勝手に想像していたが、ルヴァはしばらく考え込んでいた。うっすらとあごに
    ひげが生えており、目も赤い。きっと私のことを心配してずっと待っていてくれ
    たのだろうとアンジェ美は思うと、胸が痛かったが、不思議と「後悔」という気持ち
    にはなれなかった、、、。まるでルヴァが傷つかない為に嘘をついている気にさえ
    なっている。
    

         「、、、わかりました。でも、泊まるようなことがあったら電話して下さいね?
    とても心配しますから。いいですね?」ルヴァはいつものように穏やかな
    笑顔で言い放つと、
    「さ、わたしはこれから仕事へ行ってきますね!今夜は早く帰れそうですから。」
    と続けて、自分の書斎へと入って行った。
    アンジェ美は、涙をこらえるので精一杯だった。なんとか笑顔をキープして
    ルヴァが、玄関を出て行くまで頑張った。ルヴァが出て行った後、その場に
    泣き崩れてしまった。

    「私は何が悲しいのかしら?ルヴァに対して?それともヴィクトールに対する
    気持ちがそうさせるのかしら?」アンジェ美はしばらく泣きつづけた。

    ルヴァは、階段を降りてふたりの住む部屋のドアを振り返り見て、
    悲しげに俯いて再び、ドアを振り返り何かを振り切るように前を見て歩き出した。


    それからのふたりは、なんだかよそよそしくなった。どこかでアンジェ美は
    自分がついた嘘を信じ込むようにして、いつもと変わらぬようふるまうルヴァ
    に申し訳ないような、苛々するような奇妙な感情をもちながらも、やはり、
    毎日のようにアンジェ美は公園へと足を運んだ。だが、あれから2週間も経つのに
    ヴィクトールには会えない。もしかして、身体が結ばれそれで満足して
    私を忘れたのでは、、、?!悶々とした日々を過ごしていたが、うろ覚えで
    あるがヴィクトールの住むマンションを捜し始めた。3時間ほど迷った末に
    なんとなく見覚えのある通りにでて、マンションのある一室の呼鈴を押すが
    応答はなく、再度押そうとしたら、
    「そこの部屋の人、交通事故に遭って入院してますよ!」と、軍服を着た
    若い男が声をかけてきた。
    「入院?!」アンジェ美は驚いて聞き返す。
    「ええ。部隊が自分は違うのですがそこの人と同じ部隊の友人が言ってました。
     ○×病院にケガして入院した、て。確かもう2週間ぐらいになるかな、、、。」
    アンジェ美はショックで倒れそうになりながらも、マンション前でタクシーをつかまえ
    すぐに、ヴィクトールの入院先に向かった、、、。



    「すいません、2週間前に交通事故に遭って運ばれてきたヴィクトールという
    方の病室はどこですか?」アンジェ美は、ナースセンターの窓口にくってかか
    るようにして聞いた。
    「2週間前?、、、ああ、ヴィクトールさんですね?101号室ですよ。」
    看護婦に頭を軽く下げると、アンジェ美は走り出した。
    101号室の病室前には「VICUTOR」と名札が掛かってるのを見つけ、
    アンジェ美はドアを開けた。

    「アンジェ美?!」病室に入ってきたアンジェ美にヴィクトールは驚いた。
    首に包帯を巻いたベットに座る痛々しいヴィクトールの姿が
    アンジェ美の瞳に飛び込んだ。その時!
    「アンジェ美?アンジェ美じゃないか?なぜ、ここに来たのかい?!」
    、、、と言う声にアンジェ美が振り返ると、そこには夫のルヴァが居た!
    ルヴァの姿を見てアンジェ美は、持っていたコートを落としそうになった。

    
    「そうだったんですかあ、アンジェ美の帽子を先輩が、、、アンジェ美は何も
    言わないから!全然知りませんでしたよ!」ルヴァがアンジェ美の隣に並んで
    笑っている。アンジェ美は、一度もヴィクトールの方を見ようとしなかった。
    「まさか、、、お前の奥さんだとはな、知らなかった。ちょうど、お前が結婚する
    日には俺は、この惑星に居なかったからなあ。すまなかったな、結婚式に
    出席できなくて、、、。」ヴィクトールは乾いた笑いで、動揺する気持ちを抑えて
    いるらしかった。
    「いや、お仕事だったんですから!仕方ないですよ。でもこうして、わたしの
    妻を紹介できたし、、、あ、すいません。先輩は大変な目にあったのに、、、。」
    ルヴァは、勤務先にアンジェ美が電話してきて、自分の居場所を教えてもらい
    ここへ来たのだろうと勝手に想像していた。こうして自分を追いかけて?
    来てくれたアンジェ美が嬉しくてついつい顔がほころんでしまうのだ。
    アンジェ美の顔は真っ青で、早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱい
    だった。それを察してか、ヴィクトールが、「奥さんはなんだか顔色が悪いようだ、
    大丈夫ですか?」と声かけるとアンジェ美は、こくんと頷いた。
    頷くのが精一杯だ。
    「ルヴァ、病院の匂いは独特だから気分が奥さんは悪くなったのかもしれない
     ぞ?今日はわざわざ見舞いに来てくれてありがとう。、、、奥さんも。」
    「それじゃあ、先輩、失礼します!」とルヴァは言って頭を下げた。
    その瞬間、ヴィクトールの口が声を出さずに「さ、よ、う、な、ら。」と動いた。
    アンジェ美に向かってそう言ったのだ、、、。

    
    

    病室を出たところで、ルヴァはアンジェ美に聞いた。
    「ところでわたしに何の用だったんだい?わたしの外出先まで来るなんて?」
    アンジェ美は、ルヴァにしがみつき泣き出した。
    「あ、アンジェ美?!どうしたんですか?」
    アンジェ美は、ヴィクトールの唇の動きを思い出しながら泣きつづけた、、、。
    泣き続けるアンジェ美の頭を優しく撫でながら、ルヴァの心にひとつの疑問
    が浮かびあがった。

    なぜ ヴィクトール先輩は アンジェ美のことを 呼び捨てにしたのだろう?
    わたしが 一度も 引き合わせたこともないのに  わたしの妻だと
    知らなかった? アンジェ美はなぜ 先輩に言わなかったのか?
  
    わたしの妻であることを、、、。




   

    次週へつづく

   



   
         
     
    


     

     
     
     
         
     
    

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