月夜のダンス
アンジェ&クラヴィス
クラヴィスさまへ
お元気ですか?
、、、なんて 届かないと分っていてもついつい
こう書きだしてしまいます。
今日、新しい生命体が生まれました。
初めての新しい命、、、レイチェルと朝までお祝いして
しまいました。
少し眠いけど 早くクラヴィス様に伝えたくて。
聖地を離れてから もう どれくらいの月日が流れたのでしょうね?
聖地で過ごす最後の夜に 開かれたパーティのことを
思い出すと くすぐったいような 恥ずかしいような気持ちに
なります。
静かなしらべにのせて 私の手をとって
踊ってくださったのには とても驚きました!
意外にも クラヴィス様が踊りがお上手だなんて
知らなくて!
足を何度も私が踏んでしまったとき クラヴィス様は
優しく微笑んで リードしてくださいましたね。
テラスで月の光を浴びながら、、、とても楽しかったです。
「、、、クラヴィス様?」
リュミエールはベットに横たわるクラヴィスの瞳が
閉じられ健やかな寝息をかすかにたてていることに気がついた。
枕もとのぼんやりと優しい色のスタンドの灯りをそっとリュミエールは
音をたてないように消した。
「おやすみなさいませ、クラヴィス様。良い夢を、、、。」
暗がりで見るクラヴィスの寝顔は白く光って浮いて見えた。
生気のないやつれた顔。リュミエールはそっとクラヴィスの頬に
自分の手の甲をあててみる。リュミエールの細い指先からクラヴィスの
体温が感じられてゆく。
「心配するな、、、わたしは生きている。今夜も、、、すまないな。」
クラヴィスの低くささやく声が実際には聞こえないのだが、そう言っている
ようにリュミエールは感じた。
「おいたわしや、、、クラヴィス様、、、。」
リュミエールは、堪えきれなくなって足早にクラヴィスの部屋から立ち去った。
月の光がクラヴィスの横顔を照らし、静かに彼を見守っている、、、。
「リュミエール様?」
灯りを持ったクラヴィス邸に使える召使が、彼の方へ近づいてきた。
「ああ、これから帰ります。馬車を表にまわしておいてくださいませんか?」
リュミエールは泣きそうな顔を無理矢理唇を引き上げて、微笑んでみせる。
「はい。そのう、、、クラヴィス様はどうでしたか?何か反応は、、、。」
心配そうに眉をひそめながら召使は聞いた。
「いえ、何も。アンジェリークのお手紙を読んで差し上げてみたのですが、
眠ってしまわれたようです。」
リュミエールは、首を左右に振ってそう言った。
「お仕事の方はなんとかやっていらっしゃるようなのですが、、、
ほとんどお食事もなさいませんし、前にも増して、、、いえ、全然
お話にならないし。どこかうわの空というか全く私たちもここに居ないかの
ように眼中にないようで、、、。私たちの言葉を聞いてくださってるのか
全く反応がないんですよ。」
召使の言葉がリュミエールの胸に痛いほど響いてくる。
「大変でしょうけど、、、今のあの方には休養が必要なのです。
どうかそっとしておいてあげて下さいね。」
「はい、それはもう!!分っていますです!あ、馬車がきたようですよ。」
庭園の方から馬が馬車をひく音が聞こえてきた。
リュミエールは、クラヴィス邸の玄関まで行くと後ろを振り返り
また、馬車の方へと歩きだした。
馬車の揺れに身を任せながら、新しい宇宙へと去って行った新女王
たちのことを思い出していた。
「頑張れよ!」「またな、元気で!」
守護聖達に囲まれながらアンジェリークとレイチェルは聖地の門に
立っていた。
「さようならは言いませんわ。なんだかまたみなさんと会えるような気がして
ならないんですもの!また、お会いしましようね!?」
勤めて明るく言うアンジェリークの蒼く大きな瞳には涙が今にもこぼれそうに
浮かんでいた。皆、それに気がつかないフリをしてアンジェリークを囲む。
その中に、、、アンジェリークを愛し愛されたクラヴィスも、優しく微笑みながら
ふたりを見つめていた。
それに気がついたリュミエールが、
「さあ、出発までまだ間があるようですね!みなさんで最後のお茶会をしませんか?
あ、最後じゃないですよね。新女王、補佐官誕生を祝って。」
と、皆、、、アンジェリークとクラヴィス以外の者達に目配せしながら去って行った。
ふたりの間を一陣の風が通り過ぎてゆく、、、。
「終わったな。」
「はい。」
リュミエールは悲しげなふたりの様子をふりかえって見つめた、、、。
アンジェリークとの別れからクラヴィスは「心ここにあらず」状態だった。
生ける屍といった様子だ。以前から無口ではあったが、全く口さえも
開くことはなかった。それでも守護聖としての任務ははたしていた、、、。
食事も、ごくたまにだが自分の屋敷の庭になる黄色い木の実しか口に
しない。外出もせず、屋内にいるのが常であった。
以前はたまに庭園を散策する姿が見られたのだが、、、。やせ衰え、
憔悴しきっているのは皆にも分っていた。
原因が、アンジェリークとの別れだということも、、、。
皆の心にもぽっかりと埋めようのない大きな風穴ができている。
どうしようもない悲しみに、みな必死に耐えているようでもある、、、。
クラヴィスは格別そうであろう。
クラヴィスとアンジェは結ばれるであろうと皆、そう思っていたのだから。
馬車がゆっくりとリュミエールの私邸前に止まる。
「ありがとう、ご苦労様でした。」
リュミエールは、そう御者に言うと馬車から降りた。黒い雲のとぎれた間から
金色の光が見えた。
「あの夜もこんな月夜でしたね、、、クラヴィス様とアンジェリークが、、、。」
月は黙ってこの惑星に金色の光を注いでいる。
「クラヴィス様?」アンジェリークは、ベットから上半身体を起すと真っ暗な自分の
部屋の中を見渡した。
「夢、、、だったのかな、、、。」アンジェは多少大人びた横顔を、曇らせてまた
自分の寝床の中へと入ってゆく。瞳を閉じて、枕に頭をのせると、、、
「!?」
アンジェリークははっきりと枕元に誰かが立っている気配を感じた。
その人影は、そっとためらいがちにアンジェの頭を撫でている、、、。
不思議と全然怖いとか、恐怖感は感じない、、、むしろ、懐かしいような安心できる
感覚。アンジェには覚えがあった。この細い指、大きな包みこんでくれるような大きな手。
アンジェはゆっくりとその手の主を振りかえった、、、。
枕元には、月の光に照らし出されたクラヴィスの姿があった。
「アンジェリーク、会いたかった。」
「私も!私もですっ!クラヴィスさま、、、。」
愛し合うふたりには、言葉はいらなかった。アンジェはクラヴィスの首にだきつくと
クラヴィスもきつく抱きしめる。
白檀の高貴な香りがアンジェの鼻をくすぐる。
クラヴィスはアンジェの小さな顔を両手で包み込むとそっと優しく口付けをした。
アンジェの頬を涙が伝う。
「手紙をありがとう、とても嬉しかった。」
「お手紙着いたんですね!?ああ、よかった!」
アンジェは思わずでてしまった涙を拭いながらクラヴィスに答える。
「ふふ、その笑顔、、、変わらぬな。その、、、可愛らしさも、、、。」
クラヴィスは優しく微笑むと、また、アンジェの頬にキスをする。
「クラヴィスさま、、、。」アンジェはこれは夢だと思っていた。夢だと分っているから
どうしてここに居るのか?などと聞けなかった。聞いたら、クラヴィスが居なくなり
夢から覚めてしまう気がしたからだ。
「、、、どうだ?踊らないか?」
クラヴィスはアンジェの手をとり、ベットから降りるよう促す。
突然の申し出であったが、アンジェは別に驚かなかった。
黒い髪が月光に映えて美しいクラヴィスは、そのままどこかへ消えてしまいそうだ。
アンジェはクラヴィスに片手をとられたままクラヴィスの胸に顔を埋める。
静かに小さく規則正しいクラヴィスの心音が聞こえる、、、。
「アンジェリーク、、、。こうして会える日がこようとは、思いもしなかった。」
ゆっくりとクラヴィスはアンジェを抱いたまま左右にスイングする。それに合わせて
アンジェもリズムをとりだした、、、。
暗い部屋の中に月光だけが注ぐ中、ふたりはただじっと見つめ合い優しく微笑み
合いながら踊った。あのパーティでの別れを思いだしながら、、、。
アンジェとクラヴィスの影が長く部屋の中に映し出される。
ゆつくりと静かな時間だけが彼らを支配してゆく、、、。
だが、ふたりの胸の内は熱く切なく燃えていた。自然と抱き合う腕に力が入る。
「離れたくない。」
クラヴィスはそっとアンジェを抱き上げると、ベットの上へと運んだ。
指先でアンジェの顎をなぞる。愛おしそうに栗色の髪を撫でると
もう一度、優しくアンジェの唇を奪う。
ゆっくりとアンジェのネグリジェに手をかけ胸元のリボンをほどく。
「アンジェリーク、愛している。」
クラヴィスはそう呟くとアンジェの胸に顔を埋めた、、、。
時折、心配そうにアンジェを覗きこみ反応をひとつひとつ確かめるように
してアンジェの体を優しく愛撫してゆくクラヴィスのそんな愛し方にアンジェは
痛みも忘れて、彼とひとつになりたいっ!と強く感じた。
身も心もひとつに、、、。
体に痛みが走り、薄れゆく意識の中でアンジェはクラヴィスの歓喜の声を
聞いて幸せな気持ちになり、そのまま、、、眠りについた。
「お目覚めですか?」
召使が紫色の瞳を開けた主人に声かける。召使は主人が答えることなど
全く期待してはいなかったのだが、、、。
「ああ、、、着替えをしたい。手伝ってくれるか?」
「!?」
久しぶり聞くクラヴィスの声に召使は今にも泣き出しそうな顔をしながら、
「はいっ!今すぐお支度を整えて参りますっ!」とあたふたしながら
部屋を出て行った。
「アンジェリークにこうして会える手段があったとは、、、オリヴィエに感謝
しないといかんな。」
昨夜の残骸と心地良い疲労感に包まれながら、クラヴィスは着ていたものを
脱ぎ捨てる。
「アンジェリーク、、、。」
クラヴィスは朝日を全身に浴びながら、愛する少女の名前を呟いてみた。
「ちょーっと!いつまで寝てるつもりっ!?」
女王補佐官のレイチェルの怒鳴り声をシーツにくるまって、アンジェリークは
聞いていた。
「どういうことなんだろう?夢じゃなかったのかな?」
下腹部の痛みが残っていて、起きあがれず頭がこんがらがって戸惑うアンジェの
姿を水晶で眺め、ほくそ笑むクラヴィスであった、、、。
=おしまい=
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