旅立ちの朝に


オリヴィエ&栗アン




「アンジェリーク、お誕生日おめでとう.」
今日はアンジェリークの誕生日.
食事を済ませ、静かな夜の一時、二人の居間でグラスを傾ける.

夢の守護聖の妻となり早半年、今のアンジェリークは見違えるように綺麗だ.
夫であるオリヴィエが、手を変え品を変え、妻を磨きたてるからであり、
また彼女が心から幸せな境遇にいるからでもあろう.
ただ、夫は逆である.
以前、「極楽鳥」とまで言われた面影はもはやない.聖殿にずらりとおわす、
眉目秀麗な守護聖の面々の中に入れば、どちらかと言えば地味な部類に入るほどであろう.
聖地に来たばかりの頃・いつか来るかもしれない別れの予感に心を震わせながらの交際期間・
プロポーズされた日・試験を辞退した後の婚約期間.どの日、どの時期をとっても、華やかだった夫の姿.
結婚式当日だって、
「どっちが花嫁だ?」
と、列席者を苦笑させるほどのきらびやかな衣装・メーク・それらをより引き立てる
アクセサリーの数々で、でも、誰もそれが華やかなオリヴィエの見納めだとは思わなかった.
どういう訳だか、翌日からのオリヴィエは非常にシンプルな身なりしかしなくなった.
新妻のアンジェリークに対しては、あれこれ世話を焼き衣装のチェックも怠らないが、
自分の事はとんと構わなくなったのだ.
驚く周囲を余所に、オリヴィエは淡々と毎日を過ごす.アンジェリークが
その理由を尋ねた事もあるにはあったが、
「うーん.いいんだよ、もう.あんたが綺麗であってくれれば、それでいい.」
はぐらかすように言って、微笑むだけ.その後は決まって新婚時代特有の
飽く事ない欲望を身体中にぶつけられ、いつもうやむやのまま、今まで時を過ごしてきた.

だけど、今の彼も悪くない…、アンジェリークは内心そう思う.
きらびやかだった以前の夫も素敵だったけれど、今のラフな造りも悪くない.
『かまわなくなった』とはいえ、その質素な身だしなみのなかにも、彼の美的センスは充分に生かされていたし、
それに何よりメイクなどしなくったって、充分に美しいのだから、わが夫は.

「ねえ.こんな日になんだけどさ.昔話してあげよっか.」
「昔話……?」
「そう.…もう、ほんとに昔々になっちゃったねえ….」
「……」
「私の生まれた惑星ってね、毎日雪が降るんだ.外に出れば、一面真っ白で….
 ほんと、な〜んにも無い所だったねえ.そして……人々はみな、一様に貧しいんだ.」
「貧しい?」
「そう.気候のせいもあったけど.1番悪いのは統治者だろうね.
 …ま、これこそあんたに話したって仕方ないね.ただ…、私の家族の事、
 少しだけ聞いて欲しいなって思ってね.」
吸い込まれそうにミステリアスな瞳で、けだるそうに言葉を止める.
こくん、とひとつ頷く妻を見て、満足そうに微笑みながら、
「ご多聞に漏れず、家も貧しかった.…働いても働いても、暮らしは楽にはならない.
 大人ばかりじゃない.子供たちだって、親を助けるために働いてた.
 学校に行けない子もたくさんいてね.でも、家の親は、絶対に学校だけは行かせてくれたな….
 その分、余所よりもっと貧乏だったけどね.」
「いいご両親だったのね….」
目尻をぐーっと下げて、オリヴィエが微笑む.それは、少し寂しそうではあったけど.
「そうだね.ほんとに、そう思うよ.」
「オリヴィエ様….」
「ほら、アンジェ、ここにおいで.」
そういいながら、自分の膝をぽんぽんと叩く.素直にオリヴィエに抱かれるアンジェの頭を
軽く両手で包みながら、小さな声で話し出す.
「私にサクリアが芽生えたのは、とっくに大人になった後だった.これはラッキーだったね.
 …ここにいる連中は、まだまだ親が必要な時期に連れてこられた人達ばかりだからね.
 ただ、ラッキーではあったけれど、その分私は清らかな守護聖の座にふさわしい人間とは言えないほど、
 いろんな経験をしてもいたんだ.」
「……どんな……?」
「ふふふ、あんたには言えないよ.な・い・し・ょ.」
オリヴィエの胸に抱かれ、髪を撫でられながら耳元で低く囁かれる話を聞いていると、
それだけでアンジェは夢見心地になって、頬が紅潮している.その表情に目を細めながら、
オリヴィエは彼女の胸元のボタンをはずし出した.ひとつ、また一つ.
ゆっくりと、話し続けながら.
「でもね、そんなのはみんな後から気付いた事.聖地からの迎えが来た時…、
 私は嬉しかったんだよ、正直に言っちゃうとね.……だって、これで両親は楽になる.
 息子を守護聖に取られる親には、多額の一時金と年金がつくからね….
 でも、それは間違ってたのかな.」
「なぜ?」
「うん.彼等はねえ、ちっとも喜びゃしなかったのさ.お金なんかより、
 息子がそばにいる貧しい生活の方が、ずっと幸せだ…って、泣かれちゃったよ….」
「…….分かるような気がするわ.」
「そうだろ?でも、そんな当たり前の事も、あの時の私にはわかんなかったんだよ.
 彼らの涙を見るまではね….私はね、貧しい暮らしがいやだった.
 うっそりとした灰色の空ばかり続く、あの惑星だって大嫌いだった.飛び出したかったんだ.
 あの星から、あの暮しから.……ささやかな幸せの意味も、分かってなかったんだね.」
大きく開いたドレスの胸元に、そっと手を滑り込ませながら、尚も話しつづける.
「哀しむ両親の背中が、やけに小さく見ちゃってねえ.無碍に捨ててくるのも辛かったからさ、
 ここに来る日を延ばし延ばし…、結局ギリギリのとこまで引き伸ばしてさ….
 もう、これ以上待つ訳にはいかないって、聖地からの最後通告が来るまで.
 でもね、あの背中を見ても、まだ私には分かってなかったんだよ、アンジェ.
 あの哀しみの本当の訳が.…子供なんて、いつか旅立つものじゃないか.
 まして、貧しい暮らしとさよならできるんだ.
 ……もっと、割り切って見送って欲しかったんだよ、本音を言えばね.
 ……あの小さな背中の意味がわかったのは、こっそりと家を出てきた朝かな….
 誰にも気づかれないように神経を使って、その事に集中しているから、
 なんの感慨も無かったんだけど、粉雪の中で1度だけ振り向いた時…、
 なんだか、わかった気がしたよ….ああ、この家とも、家族とも、
 もう一生会えないんだって.声すら聞けないんだって….」
「オリヴィエ様….」
「そして……聖地に着いた時、また気付いた.『ああ、私は一人ぼっちになっちゃったんだ』ってね.
 捨ててきた物の大きさが、その時になってまた胸を抉るんだ….」
「……….」
「淋しくて、哀しくて….押し潰されそうになっちゃってね.
 でも、『これじゃいけない、こんな私を見たら、それこそ両親はどう思うだろう.』って.
 ……だからね.自分の目の前に敷かれたレールを、自分なりに解釈して、うんと働こうと思ったんだよ.」
「…ほんと?」
「ははは.信じられない?
 ……あのね、あの派手な衣装の数々.覚えてるでしょ?」
真面目な話をしながらも、胸に滑り込ませた指で、アンジェリークの乳房をまさぐる.
それももどかしくなってきたのか、下着を大きくずらし、真っ白い胸をドレスの外に剥き出しにする.
「ええ.どちらかと言うと、今の方が信じられないくらい.」
抵抗もせず、されるがままになりながら、それでも真剣な相槌をうつ.
声のトーンが少しだけ変わって来てはいたけれど.
「ふふ….そうかもしれないねえ.
 …あれはね、ああする事で自分が夢の守護聖なんだってことを、自分の心と身体に刻み付けてた…
 そう言えば、分かってもらえるかな?」
「淋しさを紛らわそうとしてたの?」
「うん、それもあるね.部屋にぽつんと一人でいたら、やりきれなかったんだ.
 だから、自分で衣装をデザインしたり、お針子まがいの事したり.
 ネイルもヘアーも肌のお手入れも、淋しさから逃れるためにも役に立ったと思うよ.」
「他にも理由があるの?」
「……全身ああいう風に飾り立てる事で、
 『自分は夢の守護聖なんだ、自分は聖地にいなきゃいけないんだ』って、自分を納得させてたんだね…….」
「………哀しい……….」
「……そう思ってくれる?」
「もちろんだわ.」
「ありがとう.…でも、あんたが家に来た夜…、あの朝、私は許された気がしたんだよ.」
「淋しくなくなったの…?」
「うん.」
悪戯するようにまさぐっていた乳房から手を話し、今度は顔を埋める.
埋めながら、甘えながら、じゃれながら、話は続く.
「……いつも、夢を見ていた.…悲しそうな両親の顔.
 すでに、この世にはいなくなっちゃってるんだろうけど….黙っていなくなっちゃった私を、責めるような目で見つめてさ….
 いなくなるならいなくなるで、私に言いたいことのひとつもあったかもしれないのにね.
 そんな形でいなくなった息子の代償に、多額のお金を貰ったって、後ろめたいだけだっただろうに….」
「……責めちゃ駄目、だって…、結局オリヴィエ様はここに来なくちゃいけない人だったんですもの.」
「しっ、黙って聞いてよ、アンジェ.」
ほんの少し顔を上げて、二人目と目を合わせる.
「あの夜…、やっぱり私は夢を見たんだ.……でも、いつもの悲しそうな両親じゃない.
 私とあんたの方を見つめて、嬉しそうに笑ってたよ….なんだか、とっても温かい感じがして…、
 手を伸ばそうとした私に、ママがこう言った.『おめでとう、幸せに.』ってね.
 パパも、うんうんって頷いて….その時、私はまた気付いたんだよ.
 『ああ、パパもママも、私を恨んでなんか無かったんだ….とっくに許してくれていたのに…、
 自分を許せなかったのは、自分自身だけだったんだ.』ってね.」
オリヴィエの手が、とうとうドレスの裾にかかる.
「…そうよ.お父様もお母様も、オリヴィエ様を失った哀しみは計り知れない物だったでしょうけど…、
 でも、決してオリヴィエ様を恨んだりはしなかったと思うわ.きっと、オリヴィエ様の幸せを、
 どこにいる時だって祈ってくださっていたはずよ….そう、今だってきっと天国で.」
「……アンジェ….…あんたと知り合えてよかったよ.私に、こんなに大きな癒しの力を与えてくれた.
 …この女王様を頂けなかった宇宙は気の毒だったかな?」
限りなく優しそうな瞳でそう言いながら、ドレスの奥から引き下ろした小さな布切れを
アンジェリークの目の前でひらひらさせる.
「…………やっぱりオリヴィエ様は意地悪だわ.」
「ありがと.あんたにそう言われるのが、一番嬉しいよ.」


happy end...



10月18日の私めの誕生日に、ぴーさんにおねだりしてプレゼントしてもらいましたっ!
ぴーさん、どうもありがとうっっ!!
オリヴィエ様のイメージがぴったんこでびっくり!!そこはかとなく、えっちテイストな
創作の仕上がりに脱帽です。ああ、この先を読みたいもんですなあ〜?ねっ、
みなさまっ?!(^0^)




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