完全オリジナル小説集
「血車の半次」
降りからの雨もあがり境内には、草の匂いが満ちていた。
戌の上刻ー午後八時。
山王権現御旅所と同居している薬師堂の境内である。
参道の両側には対になる石灯籠があり、そこにいる二人の男達を淡く照らし出していた。
武士のようである。二人ともがっしりとした体格だが、くたびれた袴と小袖を着ている。
「海老殿。・・・・奴は本当に来るのでしょうか?・・・・・・」
「・・・・・来てもらわぬとな。・・・・・積年の恨み晴らす為にも・・・・」
真島家家臣、海老飛之進と、呂霧二五六介であった。
「老中実吉様が、殺されて三年・・・・奴を追って這いずり回ったこの年月。・・・・見よ呂霧殿。喜びに手が震えておるわ。」
「気持ちは同じですよ。・・・・・ここで我らの旅に決着をつけましょう。」
「くくっ。・・・・蛭田斬鬼・・・・八つ裂きにしても足りぬ。」
「やっと、やっとみつけたのですから。・・・・今夜で終わりですよ。ふふふ、これで胸を張って国に帰れるんですよね。・・・早く帰りたいなあ。そうだ、海老殿。国に帰ったらそのまま色町に、直行ってのはどうですか?・・・ああっ、女抱きてえなあ。」
海老は、黙って呂霧の愚痴を聞いていたが・・・。
「・・・・・・・来たようだぞ。」
そう言って、正面の方を向いた。
呂霧もあわてて、その方を見た。
朱塗りの門をくぐって、一人の男が歩いてきた。
紫色の地、般若の柄が入った単衣の着流しに、黒い帯。腰には大小二刀を下げている。身の丈が六尺以上もあり、細身ながら軽快な身のこなしである。しかしその面相は、爬虫類を連想させるような冷たい顔をしていた。吊り上った目に、嘲笑を浮かべる口元。まるで人を嘲笑う為につけた仮面の様な顔であった。
「貴様らか?・・・わしを呼び出したのは。・・・・いい儲け話があるそうだな。」
その男の異様さに、圧倒されかけた海老と、呂霧だったが・・・。そろりと海老が口火をきった。
「蛭田斬鬼か?」
「・・・・・・・そうだ。」
「三年前、真島家老中、多田実吉殿を斬ったのはお前だな。・・・・我らは真島家のもの、海老飛之進と、呂霧二五六介と申す。貴様を探し出し殺す為に任命された・・・刺客だ。」
「・・・・・・・・・・。」
「どうした。なぜ黙っておる。」
「・・・・ふん。・・・そういえば、そんな奴を斬ったな。」
蛭田は、にやりと笑った。
「なぜ、殺した!」
「・・・・・・・・・・。」
「答えろ!蛭田斬鬼!」
「ふっ。はははは。・・・・・なぜだと?・・・理由などないわ。・・・・しいて言えば、よい大小を差しておったのでな・・・。」
「海老殿!こいつ、実吉殿の刀を差しておるぞ!」
呂霧は、蛭田の脇差しを見て叫んだ。
「貴様、刀欲しさに実吉殿を斬ったのか?」
「ふはは。年寄りが持っているには、もったいなかろう。わしならこいつに活きのいい血を、与えつづけられるしな。」
「くっ。・・・・き、貴様。」
「ふんっ。・・・・そんなこと、忘れておったわ。何人斬ったか覚えておらんしの。・・・・とにかく貴様らは、わしをだまして此所にに呼び出した訳だな。」
蛭田の顔の奥で、両眼が獣のように青光りした。
と、同時に呂霧の体が動いた。
「てやあああ!」
すでに鯉口を切っていた大刀を抜き放ち、呂霧は蛭田に跳びかかった。
「ふっ」
それを予測していたように蛭田は、とっさに右に跳んで、呂霧の抜打ちをかわした。
目標を失い呂霧の体は、右に流れる。そこに隙が生まれてしまう。振り返った呂霧の眼に、蛭田の剣が映った。
ザクッ!!
蛭田の剣は、呂霧の喉元を捕らえ、そのまま根こそぎ首を斬り飛ばした。
ダンッ!!ガシャーン!!
呂霧の首は、後ろの石燈龍に当たりそれをひっくり返す。主を失った体は、血飛沫を上げながら後ろ向きに倒れていった。
「おのれえええ!!」
海老は怒りの咆哮を発っし、蛭田に斬り込んでいった。
ギン!!
激烈な一撃であったが、蛭田は鍔で受け止める。
(うけおったか!・・・しかも・・・何という剛力!!)
ぎりぎりと力任せに押して行ったが、蛭田は微動だにしない。それどころか徐々に押し返されきている。
「くっ、くっ、くっ・・・。」
汗を滲ませ奮闘する海老をみて、蛭田は嘲笑した。
(ちっ!・・・・ならば)
海老は一気に後方に下がった。
こちらから一気にひいて、蛭田のバランスを崩し、一閃を浴びすのが目的であった。
がっ、・・・・蛭田はその動きを予期していたかの様に、逆に間合いをつめ、すくい上げるように刀を振るった。
ザンッ!!
剣を握ったままの海老の二本の腕が、空中に飛ぶ。
「〜〜〜〜〜っう!!!うぐうあ〜〜。」
信じられないほどの激痛が、海老を襲う。切断された両腕からは、滝のように鮮血がほとばしっていた。
海老は立ちつづけることができず、がくりと膝をついた。
「どうした?・・・・仇を討つのではなかったのか。・・・くっ、くっ、くっ。」
「ぐっ・・・・っっうう・・・おのれえええ。」
海老は歯をくいしばり、激痛の襲う体を精神力で屈服させ、立ちあがろうとした。
そこへ蛭田は無情の一撃を加える。
赤く染まった太刀は、海老の脳天をとらえ断ち割った。
ザクッ!!プシューー!!
「・・・・・無・・念・・・・・」
海老はそう呟き、絶命した。
蛭田は、ふたつの死体が作る血の海を、しばらく満足そうに眺めていたが、唐突に自分がくぐって来た門の方向に声をかけた。
「おい!・・・・・・そろそろ出て来たらどうだ。」
蛭田が声をかけた方向に動きはない。朱色の門と、石畳、そして樹々をも、とろかすような深い闇である。
「ならば・・・・こちらから出向いてもよいぞ!・・・くっ、くっ、くっ。」
蛭田の眼光が闇を睨み付ける。
と、朱門の裏で影が動いた。
「へっ、へっ、へっ。ありゃあ。ばれてやしたか。」
ひょいっと、男が揉み手をしながら現れた。
石灯籠に照らされたその男は、小男だが、仕立てのよい藍色の着流しを身に付けていた。町人のようにみえる。
一重のまぶたに、低い鼻、やや開き気味の口元、けっして男前と言える顔ではないのだが、どこか憎めない不思議な愛敬を、その眼と口元に溜めた男であった。
「・・・先刻より、わしをつけていただろう?」
「えっ。いえいえ、つけてきただなんて・・。」
蛭田の両眼が益々鋭く青光りしていったが、その男は呑気そうに返答した。
「ふっ。まあよいわ。・・・・・名を聞こう。・・・こちらへ来い。」
「いやあ。へっ、へっ、へっ。そちらに呼んどいてお斬りになるおつもりじゃ・・。」
「ふんっ。わしは今、気分が良い。・・・それに一夜の殺生は二人までと、決めておるのでな。」
蛭田は蛇のようにニタリと笑った。
「へっ、へっ、へっ。そうでやすか!こりゃ、助かりやした。いえね、あっしは血車の半次ってえ、けちな野郎でさあ。ちょっとお見かけした旦那が、顔見知りのものに似てたもんで。へっ、へっ、へっ。ちょっと、おあとを・・・」
半次は、のこのこと、蛭田の間合いに入ってきた。
(ばかめ!)
と、同時に蛭田の剣が唸る。
シュイィィン!!
半次の体を、切り裂いた・・・・はずでだったが、・・・・蛭田の太刀は空を切っていた。
まるで化鳥のように、半次は地を蹴って後方に跳びずさっていたからである。
「あちゃあ〜。旦那〜。嘘ついちゃいけやせんぜ〜。は〜、死ぬかと思いやした。」
「・・・・・・・・・・・。」
蛭田は、苦々しく半次を睨みつけた。
「貴様。・・・・・ただの町人ではないな。」
じりじりと後退しながら、半次は答える。
「いえいえ、あっしはただの遊び人で。へっ、へっ、へっ。」
そういうと半次は、一目散に駆け出し、あっというまに姿を眩ました。
「血車の・・・・半次か。・・・ふんっ。」
蛭田はそうつぶやくと、ゆっくりと、その視線を天に向けた。
頭上の天には、雨雲をやぶり月が見えかけていた。
「ねえ、旦那・・・・。」
男の広く逞しい胸を、唇で弄びながら、お佑は聴いた。
「どうしていつも、そんな冷たい目をしていらっしゃるんです?」
「・・・・・冷たい目か。」
雨月狂四郎はそうつぶやくと、苦笑いした。
二十代半ばであろうか。細面で非常に整った甘い顔立ちだが、何処か鋭利な影が漂う。
「でもね、女は、そういう目に弱いんですよ・・・。」
お佑は、そう言って顔を上げた。
二人とも、一糸まとわぬ全裸で、寝具に入っていた。日はもう高い。
先程の激しい一戦を終え、お佑の乱れた髪は汗で、その形のいい胸に貼りついていた。
ここは神田町にある、小奇麗な長屋の一間である。
「半次。・・いつまでも覗いてないで、早くはいってこい。」
「えっ?」
お佑は、あわてて胸を隠す。
「へっ、へっ、へっ。えー御免下さいでやす。・・・・お邪魔しやす。」
覗いていたのを見つかり、罰が悪そうに半次は、頭を掻きながら戸口から入ってきた。
「きゃっ!」
お佑は自分の寝具を身に巻くと、半次を睨みつけながら奥の間に消えていった。
「相変わらずな奴だな、お前は。・・・・その覗き癖は、早くなおせ。」
「たはは、すいやせん。」
狂四郎は側の煙草に手をのばす。
「でっ、・・・・・どうだった?」
「はあ。危うく切られちまうとこでやした。」
「切られる?・・・・尾行していたのがばれたのか?」
「へえ、まあそんなところで・・・・。奴をつけてたらですね、たまたま、斬り合いの現場にでくわせちまいやして。」
「ほう。」
「お侍ですかねえ。二人ともあっという間に、奴に斬られちまいやした。しかし、まあ、すげえ腕前でやした!」
「ふふふ、噂どうりってやつか。」
「はあ、奴はあちこちで恨みを買ってる様でやすねえ。」
「なるほどな・・・・それで、こちらにも仕事が回って来たと言う訳か。」
狂四郎は、ふうーっと紫の煙を漂わす。
「ところで、雨月の旦那あ。・・・・やっぱり、あっしが・・・この仕事受けるんでやすか?」
「当たり前だ。」
狂四郎は、冷たく言い放った。
「はぁぁぁぁ。そうでやすかぁぁぁぁ。・・・・・他に手のあいているやつは・・・・いねえでやすか?」
「いないな。」
「うーーーん、そうでやすか。・・・・でもですねえ、奴は・・・すげえ腕が立つんでえ・・・・できれば・・・へっ、へっ、へっ。」
「仕事師が、仕事選んでどうする?それとも俺の言う事が聞けねえってえ、訳か?」
「いえいえ、とんでもねえ!わかりやした!んもー、あっしが、やらせてもらいやす。」
半次はあわてて仕事をひきうけた。
「そうか、そんなにやりたいか。ふふふ、ではさっさと行ってこい!」
「えっ。・・・あああ、そうでやすね。ああ、もう喜んで。・・・では行ってめえりやす。」
「ふふふ、頑張れよ。」
「へえ。・・・」
半次は、とぼとぼと狂四郎の長屋を後にした。
(半次が仕事を受けるのを、嫌がる程の奴か。・・・依頼主には仕事料上乗せしとくか?ふふふ。)
狂四郎は狡賢く、笑った。
日本橋を渡った半次は、神田鍛冶町に伸びる通りをまっすぐ歩いて行く。
(はあっ。・・・・まったく。・・・頭痛いでやすねえ。)
ぶつぶつと文句を言いながら、通りの両側に並ぶ茶屋を過ぎ、横丁の角を曲がった。
(困った時は、ちょう助さん。・・・・・で、やすね。やっぱり。)
半次は”道具屋”と書かれた看板の、こじんまりした店に入って行った。
鉄の匂いが漂うその店は、なべや、やかんなど生活用品に並んで、武具や大小の刀が乱雑に置いてある。いわゆる、なんでも屋のようである。
店には半次の他、客はいない。
奥には青い道衣を着た店主らしき男が、空樽に腰をおろしていた。
身の丈は並みであるのだが、道衣を着ていても鍛えられた身体であるのがわかるほど、胸板が厚い。ただの道具屋の主人にしては奇妙な男である。名を、ちょう助という。
ちょう助は、半次に気づくと陽気に声をかけた。
「おお!半次!!」
「へっ、へっ、へっ。えー、御免下さいでやす。」
「なんだ、なんだ。しみったれた顔してるじょ。この世のおわりかい。」
「えー、まあ・・・そんなところで。」
「ははん、また面倒な裏の仕事引き受けたな。・・・半次よお。わるいことは、いわねえ。まっとうな仕事やりな。・・・とくに、狂四郎とは早く縁を切ったほうがいいじょ。」
「へぇ〜。まあいろいろ義理と借りがありやして・・・。」
半次は、頭を掻いた。
「・・・・で、また獲物探しに来たのか?」
「へっ、へっ、へっ。ご推察どうりでやす。」
「まったく。・・・・で、相手はどんな奴だい。」
「へえ、まあ腕の立つ奴でやして。まともに殺りあうと・・・やられちまうかな?と・・」
「ふ〜ん、そうか。・・・・じゃあ、飛び道具なんかどうだ?」
ちょう助は、ごそごそと棒手裏剣や油玉を出してきた。
半次は棒手裏剣を手に取り、投げる真似をする。
「うーん、どうもしっくりきやせんねえ。」
「贅沢な野郎だな。」
「へっ、へっ、へっ。」
ちょう助はさらに奥の棚の獲物を探りだす。半次も一緒にみていたが、ふと、顔をあげると、そこにある大きな筒状なものに興味を引かれた。
「ちょう助さん!・・・あれ使えるでやすか?」
「ああん、そんなものどうする?仕事ほっぽって、祭りでもやるつもりかい!」
「いえいえ。・・・・・あれを使ってでやすね・・・・仕事のほうを・・・・へっ、へっ、へっ。」
「本気かい!どうやるんでえ!おめえ打った事あるのかい?」
「いえいえ、あっしはございやせんが・・・。」
「ま、ま、まさか?・・・・おいらにやらせる気か?」
「へっ、へっ、へっ。頼みますよおお。ちょう助さああん。去年ちょう助さんが、使うとこ見やしたよおお。祭りの花形だったじゃねえでやすか。」
「断わる!」
「お願えしますよおおお。」
「やだじょ!!!」
「あ〜。そうでやすか〜。残念でやすねえ。・・・・いい浮世絵が手に入ったんでやすがねえ。歌麻呂ですぜ、歌麻呂!」
「・・・・・・・・・。」
「もう何処でも手に入らねえ代物で。もう、あっしなんかそれ見て、立ちっぱなし!大興奮でやんした。」
「・・・・・・・・・。」
「残念でやすねえ。手伝ってくれたお礼に、ちょう助さんに進呈しようと思ってやしたが・・・う〜ん、残念でやす。」
「・・・・・・・・やるじょ。」
「えっ。手伝ってくれるでやすか!へっ、へっ、へっ。すいやせんねえ。」
「ちっ。嵌められちまったな。」
それから半次とちょう助は店を閉め、密談を重ねた。そして二人は夜中に荷車を引き、何処へともなく消えていったのである。蒼い月だけが、それを見ていたのだった。
「ふん。奴め・・・・わしの宿まで調べておったのか。」
蛭田斬鬼はそう呟くと、今朝方、旅篭の主人より届けられた添え状を握り潰した。
添え状には、短くこう書かれてあった。
”今夜、亥の中刻、御相談したき儀あり。貴方様の腕を見込んでの儲け話なり。小石川、幻覚寺にてお待ちしており候。
血車の半次”
(くっ、くっ。見え透いた嘘をつきよるわ。・・・・しかし、この太刀の切れ味を試すよい機会やもしれぬの・・)
蛭田は、側にあった大刀を取り、七分ほど抜いてみる。
刀身の表には朱雀、裏には玄武の彫り物があり、銀色に艶めかしく光っていた。先日、海老飛之進の死体より奪い取ったものである。
(なかなかのものよのお。・・・・切れ味を・・・・是非に試してみたくなったわ。)
蛭田は蛇のように、舌なめずりした。
亥の中刻(午後十一時)を告げる鐘が、遠く聞こえてきた。
周りを鬱葱とした森に囲まれた、小石川、幻覚寺の頂上本社前で、半次は腕組みをしながら立っていた。
天上には昨夜と同じく、蒼い月が輝く。・・・さえぎる雲ひとつない満月の夜であった。
月の光は、まるで真昼のように半次の影を写しだし、虫たちもそれに呼応するように、騒々しく鳴きわめいている。
(こねえでやすかねえ?・・・・・文面がありきたり・・・だったでやすか。)
半次が考えを巡らしているところに、石段を登って着流し姿の蛭田が現れた。
紫の着流しに染め抜かれた般若の顔が、闇の中、にやりと笑った様に半次には見えた。
「血車の半次だったな・・・・先日の侍二人も、良い儲け話があると持ち掛けてきたが・・・・くっ、くっ。最後はあの通りよ。」
「へえ。あっしも斬られまうとこでやしたが。」
「・・・・一応、用件を聞こうか?」
「ええ。・・・まあ。・・・・もちろん良い儲け話は、でたらめで。・・・・・はっきり言いやして、・・・貴方様の、お命いただきたく、めえりやした。」
「ふはは。貴様、仕事師か。・・・・銭で殺しを引き受ける・・・下衆な野郎どもよのお。」
「へっ、へっ、へっ。まあ、そんなところで・・・。」
「・・・・・で、・・・わしに勝てるとでも、おもっているのか?」
「う〜ん、むずかしいでやすねえ。」
「ふっ、・・・・とぼけた男だな。」
「へっ、へっ、へっ。」
蛭田はにやりと笑い、海老飛之進より奪い取った大刀をゆっくり抜いた。
「くっ、くっ、くっ。そろそろ始めるか?」
「へい!」
半次も背中に背負ってきた、大刀を抜く。両名は対峙した。
あれほど騒がしかった虫達が、今はひっそりと息を潜めている。
二人は三間(約四、五メートル)程の距離をおいて相対した。互いの闘気が空中でぶつかり合い、渦を巻いている。
(こりゃ、すげえでやす。これほどの腕とは・・・。や、や、やばいでやすねえ。)
半次は冷や汗をかきながら、心のなかで唸った。
二人の武士を叩き斬った、鮮やかな手前を目撃していたが、実際に抜き合い対峙してみると、蛭田の力量は驚くべきものであった。
蛭田が、じりじりと間合いを詰めてくる。
半次は後退した。
「きえええええ!!」
蛭田が叫んだ。一気に半次に向かい突進する!剛風のような気とともに、下段から剣を跳ねあげる。
その剣風に煽られたように、半次が宙に跳んでいた。
しかし、蛭田の剣はそのまま、半次を追う。宙に浮いた半次の股間に入り込み、真下から恥骨を叩き割ろうとした。
「うひゃあ!」
半次は、咄嗟に刀を下方に打ち下ろす!股間ぎりぎりで、刀と刀がぶつかり合った。
ギイン!!
その勢いを利用して、半次はくるりと回転し、後方に着地する。
「ほほう、軽業師のような奴だな。面白い!!」
蛭田は、攻撃の手を休めない。今度は横手より剣を疾らせ半次を襲おうとした。
半次は帯に手をのばすと、仕込ませてあった棒手裏剣を、跳躍しつつ投げつける。
キン!
「ありゃ?」
「ばかめが!!」
蛭田はいとも簡単に、棒手裏剣を刀で打ち落とした。
さらに半次は連続して棒手裏剣を投げつけるが、蛭田も右に左に体を躱し、半次に的を絞らせない。棒手裏剣は、ことごとくかわされていた。
「ふっ、どうした!そんな安っぽい飛び道具が、わしに通じるとでも思ったか!・・・・けえええ!!」
蛭田の剣風が吹き荒れる。上段、中段、下段。半次の身体に向かって、蛇のように剣先が疾る。
半次も必死でかわし続けていたが・・・。
「・・・っ痛うう!」
半次の右腕から血飛沫が上がる。かわしたと思っていた剣が、右腕をかすっていた。蛭田の剣先は確実に、半次の動きを捕らえはじめていた。
(やばいで、やす!)
半次は蛭田の剣を避ける為、境内の松の木の裏に回り込み、蛭田との間に樹木を置いた。
(これで・・・・・一息つける・・・・・げっ!!)
が、目の前で信じられぬ事が起こった。
蛭田は松の樹木ごと、半次を断ち切ろうとしたのだ。
「けえええええ!!」
ガッ!!
ズザアア!!ズシイイインンン!!
松の幹の上半分が吹っ飛び、その切っ先は半次の首元をかすめた。
(ば、ば、化け物でやすかああ!)
(つづきは、明日UPしまーす。)
「ゆかちゃん」
わたしね、このごろいじめられてるんだ。みんなにね、はなしかけてもね、だれもへんじしてくれないの・・・。いっしょうけんめいはなしかけたよ。でもね、だめなの。・・・さみしいなあ。
いっしゅうかんぐらいまえからかなあ?べつに、むしされるようなこともしてないのに。みんな、ひどいよお。
あっ、でもね、りかちゃんはちがうんだよ。だって、こっちむいてくれるもん。でも、かなしそうなかおしてるけど・・。
きょうもね、だれもあいてしてくれないから、きょうしつのすみにすわってるの。
あれ、みんなでていっちゃった。たいいくのじかんかなあ?まあいいや。ここにいようっと。どうせ、むしされるだけだし・・・。
・・でも、りかちゃんだけのこってるや。・・・あれ、こっちにきた。うれしいなあ。ひょっとしたら、わたしとおはなししてくれるのかな?
「ゆかちゃん、よくきいてね。あなたね、もうね、しんでるのよ・・・・。いっしゅうかんまえ・・・くるまに・・はねられたの。ゆかちゃんのおそうしきも、わたしでたよ。・・・だからね、もういかなきゃ。こんなところに・・いつまでものこってたらだめだよ。・・・・みんなには、みえないんだよ。わたしにはね、みえるんだけど・・。わたしね、そういうちからがあるんだって。おばあちゃんがいってた。・・・ゆかちゃん、だから・・・もう・・おわかれだよ・・・。」
りかちゃん、なきだしちゃった。そっかあ、わたし、しんでたんだ。・・・でも、やだよお。ひとりぼっちは、こわいよお。・・さみしいよう。それに、どこにいけばいいの?わからいよお。ねえねえ、りかちゃん。・・・・・・そうだ、りかちゃんもいっしょにいこうよ。りかちゃんといっしょなら、さみしくないや。
・・・・・りかちゃん。わたしが・・・・ころしてあげる。
(1999・3・1UP)
「ユーカリ鉄道の奇妙な旅T」
もう、どれぐらいこの汽車に、乗っているんだろう。
まるで、思いだせなくなっている。1週間?いや1カ月ぐらいなのか。車窓の外の景色は変わらない。
青い空に、何処までもつづくトウモロコシ畑だ。・・・・また、眠くなってきた。起きて、窓の外を確認して、また眠りにおちる。
そればかりを、繰り返しているように思う。・・・・眠ろう。汽車のここちよい揺れが、体に伝わってくる。
(がたん、ごとん、がたん、ごとん)
「ここはー。猫田駅、猫田駅ー。またたび屋まえで、ございー。」
車掌の声で、私は目をさました。体が重い。大きく伸びをして、車内を見渡した。
私と車掌の他には、だれもいない。というか、客がのっているのを見たことはない気がする・・・。
「ここは・・・何処ですか?」
「はーいー。ここは猫田駅でございー。」
黒い車掌服に、赤い靴。顔には、何処で買ってきたのか、ウサギのお面をつけている。奇妙な車掌ではあるが・・。
「この町には、なにか・・・・ありますか?」
ふと私は、降りてみたくなった。
「はーいー。この町にはー。世界最大のー。またたび樹がありますー。」
車掌は、うれしそうに答えた。
「またたび樹?」
「はーいー。その樹をみたものはー。一生、しあわせにー。なれるという伝説がー、あるそーです。」
「そうですか。・・・じゃ、ここに降りてみます。」
幸せなるものに、なんの感情もわかなかったが、その樹にはやや興味をひかれた。
「わかりましたー。ちなみにー。猫田駅での停車時間はー。6時間でございー。」
なんだ6時間も、止まっているのか。私はそう思いながら、駅に降り立った。
駅をでると、そこには商店街が広がっていた。しかし、私はすこし違和感を感じている・・・・。
そこそこの店が、小さいのだ。規模というわけではなく、サイズの話だが。
[パン屋]と書かれた店に、私は入ってみることにした。すこし腹も、へっているようだ。
ちいさなドアを、体をまるめて店内に入ってみると、そこに店主が座っていた。
「うにゃ?お客さん?いらっしゃいだにゃあ。」
ネコ?・・・そこには、服をきたネコが座っていた。いや、正確にいうと体つきは人間で、顔がネコというべきなのか。
「あんた、・・・人だにゃ。知ってるよ、ワシ。遠くの町には、人っていう生き物がすんでるって、聞いた事があるにゃ。」
「はっ、はあ?・・・」
「やっぱり、またたび樹を、見に来たのかにゃ?」
「はあっ・・・・・・・そうですが・・。」
店主はその大きな目で、私をのぞきこんだ。左右にのびたヒゲ。そして大きなネコ耳をそばだてている。
「うにゃにゃにゃ。おもしろい顔だにゃ。」
あなたの顔も、そーとーおもしろいぞと、私は思ったが、口にはしなかった。
しばらく、私の事をジロジロ見ていた店主だったが、見飽きたのかイスに座り直し、いねむりを始めだした。
そうだ、私はパンを買いに来たのだった。
店の中にある陳列棚のうえには、「またたびパン」と書かれたパンが置いてある。他の種類は・・・ないようだ。
うまいのだろうか?と、いうより食べれるのだろうか?ひとつ手に取ってみたが、ごく普通のコッペパンのようだ。
「すみません。コレをください。」
私は、いねむりをしている主人にパンを差し出した。
「うにゃあ?・・・・あんた、まだいたにょ。・・・あっ、それ100円だにゃ。」
胸のポケットから財布をだし、私は100円を払った。
「まいどありにゃあ!・・・あんた、またたび樹を見に行くにゃら、店でたところに案内板あるかりゃ、それを見るといいにゃ。」
「とおいのですか?」
「うんにゃ、近いよ。あんたにゃら、歩いて10分ぐらいじゃにゃいかにゃあ?。」
「わかりました。ありがとう。」
私は礼をいって、店をでた。振り返ると主人はまた、いねむりのつづきに入っている。
(ネコの町なのか・・・・ここは。)
商店街を見渡すと、たしかにみんなネコである。酒屋の主人はクロネコで、ビールのケースを積み上げている。薬屋の女主人は、ブチネコ。お客のペルシャネコと、井戸端会議の真っ最中だ。玩具屋のまえには、子ネコ達が集まっていて、ネズミのオモチャで遊んでいる。
(とにかく・・・またたび樹を、見学に行くか。)
私は、パン屋の主人から教えられた、案内板を探した。
(これか?)
そこに、古い案内板らしきものが、木の途中にぶらさげられていて、こう書かれてある。
”またたび樹 あっち→”
(あっち?・・・ふふっ。矢印のとうりに進めというわけか。簡単な案内板もあったもんだ。)