相聞往来10



「まあ、マルセル様!」
 ドアの外に立っていたのは、金の髪と淡い紫の瞳の少年、緑の守護聖のマルセルだった。
「こんにちは、アンジェリーク! あのね、今、暇かなあ?
 もしよかったら、お菓子を焼いたから、お茶でも一緒にどうかと思って来てみたんだけど…」
「いらしてくださって嬉しいです。どうぞお入りください」
 育成とお話を何度かした程度で、執務室以外で会ったことのない相手の突然の訪問に、少々とまどいながら、アンジェリークはマルセルを部屋に入れた。
 マルセルが、持ってきたバスケットをアンジェリークに渡す。
 アンジェリークはそれを机の上に置き、そっとふたを持ち上げて、どのお茶にあうお菓子なのか、中身を確かめた。
 入っていたのは、ラズベリーパイだった。
「わあ、こんなにたくさん! そうだ、レイチェルも呼びましょうか」
「うん、人数が多い方が楽しいもんね!」
 そこでアンジェリークはとなりの部屋からレイチェルを呼び、青い小さなバラが描かれたティーカップを出して紅茶を入れた。おそろいのお皿に、マルセルのラズベリーパイを取りわける。
「うわあ、おいしい! マルセル様って、本当にお菓子を作るのがお上手なんですね!」
 さっそくレイチェルが味見をする。
「あ、本当、すっごくおいしい! ありがとうございます、マルセル様!」
「気に入ってくれて、ぼく、うれしいよ」
 マルセルは、にこにこしながら、
「ところでさ、2人とも、今日はどこにいたの?」
「今日は育成をお願いしました」
「私は、森の湖に行きました」
 アンジェリークは、セイランのことを思い出しながら、真っ赤になった。
「へえ、森の湖に行ったんだ。僕もあそこが大好きだよ」
 無邪気にマルセルが笑う。
「あっれー、アンジェ。何、真っ赤になっているのよ」
 レイチェルが、見とがめた。
「さては湖で何かあったの? ねえ、ねえ」
 来ているのがマルセルという気安さで、レイチェルがアンジェリークをつつく。
「べ、別に、なんでもないわよ。ほら、マルセル様の前よ、レイチェルったら」
 アンジェリークが、レイチェルのひじを軽くたたいた。
「ねえ、知ってる、あの湖には別の呼び名があるんだよ。『恋人達の湖』っていうんだって」
 見かけよりも低いマルセルの声だが、含まれているのは純粋な、子供に近い思いだけ。恋人という言葉にも、微塵も悪びれたところがない。
「へえ、素敵な名前ですね」
「うん。大好きな人と行く場所なんだって。ぼくはよく、チュピと行くんだよ」
 そういって、可愛らしく笑う。
 青い小鳥と一緒に森の湖のほとりで嬉しそうに遊んでいるマルセルの姿は、簡単に想像できる。
「マルセル様って、本当にチュピのことが大好きなんですね」
「うん。ぼく、大好きなものばかりだよ。動物さんと遊ぶのも、風や木やお花とお話するのも、みんなみんな、大好きなんだ。レイチェルもアンジェリークも大好きだよ。
 2人とも、試験、がんばってね。育成がうまくいくように、ぼく、力になるからね」
 3人は、おいしいパイをゆっくりと食べ、ひとしきりのおしゃべりを楽しんだ。
 楽しいお茶のひとときを終えると、マルセルとレイチェルは、挨拶をして帰っていった。





(2003.9.22)


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