心の目覚めに
恐ろしいもの
我が心は夜の湖水
万象を映し出す凄烈な鏡だ
幾千の絶対零度を数え
湖水は凍てつき
少々の事では微動だにせぬ
温味なき紅葉の炎
雪の潔白
新緑の木もれ日
壮烈な夏の日差しさえも
ただひたすらにその美を映し留めるのみ
均衡はここちよく
映る森羅の万象はこの腕を通して
画布に降り
五線紙に降り
幽けき存在の確かさをあらしめる
氷面にはいささかの傷も緩みも許されぬ
傷を受け揺るぐ湖面は事物の輪郭をにじませ
万象の本質は届かず
我は我が身を失うだろう
傷を、つけないでくれ
そんなに大きな傷を
灼熱の笑顔はスケート靴をはき
湖面に遊び、転げ、はねまわり、
きらめく刃でえぐり
あざやかな刃で傷をつける
氷点は君の笑顔にある
傷を、つけないでくれ
君の笑顔は恐ろしい
誤算
胸の中のすきとおる蝶はひらひらと
いつも何かを追って旅を続ける
恋こがれても知らないよ
君は何?
羽をピンで止めて悦に入る収集家?
瞬間を写真に映しとるカメラマン?
双眼鏡で遠くからのぞくウォッチャー?
いつものことじゃないか
気のない振りをした香り高い花に
ひらりと舞い降りてしばし憩う
そしてまた大空へと舞いあがる
誤算は、めくるめく花の色に気をとられたこと
甘すぎる香りに心をからめとられて
旅立つことさえ忘れて、傍らにいたくなったこと
ユニコーン
遠くの宇宙のおとぎ話に
一本の角を持つ気高く優美な獣がある
聖獣にも似た生き物の名はユニコーン
ユニコーンは処女にしかなつかない
清らかで自由な魂で野や森をさまよう
鈴の音に誘われて森を出で
草のしとねに眠る乙女に鼻づらをすりつけて
かたわらに憩う
しばし乙女の心は獣に寄りそうが
季節のうつろいとともに、
乙女は青年に恋をしてユニコーンのもとを去る
次の年にはまた別の乙女が現れて
獣はまたしても恋に落ちる
永遠の聖なる恋をしつづける
笑っているね
ただのお話だよ
僕をユニコーンにするも、青年にするも君の自由さ