幸せな食卓

眠れない夜に側にずっといてくれる柔らかい眼差し。
目覚めると光の中で僕を見つめる優しい笑顔。
かけがえのない温もりに心から感謝できる幸せ。
幸せは…いつも近くにある小さな出来事。

あの戦争から3年…
あんな戦いがあったなんて夢だったかのように穏やかにすごしてる…。


「坊ちゃん、おはようございます。今日も良い天気ですよ〜」
物音に身じろぎした僕に気が着いたグレミオがハイテンションの笑顔全開でついでにカーテンまで全開にして眩しい朝日を部屋に招き入れる。
「…おは、よ」
僕の挨拶にもなっていないような寝ぼけ声ににっこり微笑み返すと窓を開けて部屋の空気の入れ替えをする。
「朝ご飯はグレミオ特製のふかふかオムレツですよ」
朝早くからぱたぱたと走り回って、いつも元気だね…。
ぼんやりと目を擦りながらよろよろとベッドから這い出た僕は、待ってましたとばかりに洗面所へ追いやられる。
「ちゃんと顔を洗って、歯磨きしてくださいね」
小さな子供にするみたいにこまごまと世話を焼いて…それを嬉しいと思っちゃうなんて‥やっぱり甘えてるのかな?
二人で旅をした3年の間にまた過保護癖がついちゃったみたいだね、グレミオ。
それが嬉しい僕も何とかしないといけないんだけど…。
何気無い会話、挨拶、笑顔。些細な事がとても幸せで…
「坊ちゃん?」
無意識のうちに僕の手はグレミオの服を掴んでる。
「あ…と、その…」
赤くなって慌てて手を離した僕をグレミオがびっくりして見てるじゃないかっ!
こんな、子供っぽいことしちゃ…
「坊ちゃんっ!!」
こっちが思わずビクッとするような声を上げて苦しいくらいむぎゅぅぅぅ〜!!
とかきだくように抱き締めてきて…
「グ…レ……苦し…」
「ああああ!なんて可愛らしいんでしょう!!!」
僕の頭に頬をぐりぐり擦り付けてきながら思春期の少年に言ってはならない禁断の言葉をグレミオは事もあろうに大声で口にした。
可愛い!?可愛いだって!!!

「は、離せってば!!」
「??坊ちゃん!?」
両手を振り回して束縛から解き放たれるとビシィッと指さし、きょとんとしながら手持ち無沙汰にしている無礼者に宣言する。
「今の言葉はこれから禁句だからなっ!」
「え?え?ええ〜〜??」

おろおろしているグレミオを残して洗面所に向かうと歯ブラシをひっつかむ。
まったく!自分だって思春期の男の子だったことがあるだろうに。
がしがし歯磨きをしながら鏡を見ると、そろ〜っと様子を伺う姿がはしっこにしっかりと映ってる…たぶんあれでも隠れてるつもりなんだろうけど…。
勢いよく振り向くとひえっと声を上げて慌てて引っ込む。
「‥‥‥‥」
歯ブラシをくわえたまま無言で仁王立ちして見ていると、柱の影からちらっと目だけを覗かせる姿がまるでリスみたいだ。

「あの、まだ怒ってるんですか?」
こくんと頷くと予想に違わずにうりゅうりゅした目になる。
「ぼ、ぼっひゃん……」
ちょっと可哀想かなとか思うけど、いつまで経っても僕を子供扱いする癖は何とかして直してもらわないと。僕だって頑張ってるんだから。

「えと、朝ご飯に…プリンを付けますから…」
敵が爆弾を投下してきた。
「‥‥‥‥」
かなり心を動かされるけど降伏なんかしてやるもんか。
歯磨きを終えてジャバジャバ顔を洗う。
「…チョコレートドリンクとパンケーキ…食べたくないですか?」
むむむ…最終兵器を持ち出してくるとは…。
タオルでごしごし拭いていた顔を上げると祈るような目をしたグレミオとばっちり視線が交差する。
「サクランボも付けますから…」
その一言に怒りの砦は撃沈されたね。
にかっと笑った僕を見てそれ以上にぱっと顔を輝かせ
「じゃ!すぐに支度してきますねっ!!」
言い終わらないうちにばたばたとキッチンへ向かう。

さらに子供扱いされたような気がしないでもないけど、このさい良しとしておこう!
「やった!プリンにパンケーキとチョコレートドリンクだ!!」
喜んじゃう僕は、やっぱりまだ子供なんだろうしね。

うきうきしながら着替えをしていると、ばかでかいパーンの
「うおっ!朝からやけに豪勢だなぁ!!」
なんて嬉しそうな声と
「‥グレミオ‥また坊ちゃんに…」
なんて言ってるクレオの呆れたような声が聞こえてくる。
我が家は朝からとっても賑やかだ。

襟のボタンをきっちりとめて、深呼吸をしてドアを開けよう。
新しい一日を始める為の光り溢れる幸せな食卓へ…。



−fin −