超短編小説第一弾 「8月11日」    ***−1−*** 今日は、朝から良く晴れた天気だった。 いや、『晴れた』というより『暑い』といったほうがピッタリかもしれない。 もはや部屋の隅の方に置物となっている温度計に 目をやる気も起こらないほどの暑さだ。そもそも寝る事さえできない。 「こんなことなら昨日クーラーにタイマーをつけて消さなきゃ良かった」 昨日の夜にフル活動していたクーラーの威力も今は暑中の日光により、効果は皆無となってしまった。 「とにかくこの暑さを何とかしなければ…。」 手探りでエアコンのリモコンを探り始めた。指先にわずかだがリモコンの感触がある。 最後の力をふりしぼってそのリモコンを鷲づかみにし、 リモコンに向けて電源をONにする。すると 「これで、本日の十時のニュースを終わります」 という、クーラーからはあまり聞き慣れないニュースキャスターの声が流れてきた。 「ああ、これテレビのリモコンだわ」 何たる失態。 ならばともう一つのリモコンを確認する。目線では分かるのだけれど、手が届かない。 近くて遠い、そんな言葉もイメージされる。仕方なくベッドから下りてリモコンまで歩いて行き、 それからまたベッドのほうに静々と戻って行く。 文字通り無駄足を踏んでいるような気もするけど、届かないものは届かないのだからしょうがない。 でも、わざわざベッドに戻る必要はあったのだろうか? とりあえず今度こそ、とリモコンを手に取りクーラーの方に向けてスイッチを押す。 「ああ、これCDプレイヤーのリモコンだわ」    ***−2−*** 起きたばっか(といってももう昼近いけど)からフル活動しているクーラーにより だいぶ『涼しい』と言う感覚が目覚めて、ようやく起きようとする気になった。 ベッドから降りて朝飯を食いに一階にある食卓に行くと 「高校の同窓会に行ってきます。晩までには帰るので昼ごはんはこれで弁当を買ってください。母より」 などという妙によそよそしい態度の手紙が千円札とともに 文鎮代わりの紅葉の形をした箸置きにはさまれていた。 おそらく朝に起こそうとしたのだが全く起きなかったのでこのような 置き手紙をして出かけていったのだろう。感謝はしたいものである。 母親に起こされるほど鬱陶しいものはない。 とりあえずその後に俺が思った事はただ一つ。 「朝飯は?」 文句を言っても仕方が無いのでゲームでもしてウサ晴らししようと自分の部屋へと足を進めていった。 好きなときにゲームをしたり寝たり出来るのは親が出かけていった休みの日の特権だ。 そう思いながら二階の自分の部屋の扉を開けた。 クーラーのつきっぱなしだった涼しい部屋でACアダプタの刺さっている ゲーム専用のテレビのスイッチをつけ、毎日遊んでいる大作のゲームのスイッチを入れた。 テレビからは訊きなれたRPGのオープニングである軽快な音楽が流れる。 そして、改めて毎回毎回飽きずに同じ記録を選択しようとした瞬間…ふと手は止まった。 「……………。」 まずこれが夢かどうかと言う確認をする為、頬を抓ると言う動作をしてみた。 正常な感覚からは、痛いという感想が得られた。 俺が数日かけて進めたデータが全て消失していたのだ。 これは一体、何故なのだろうか?と、様々な気持ちが困惑していった。 普段から確実にセーブしているのに偶々忘れた日にかぎって記録が消えるのである。 人生とは皮肉なものだ。    ***−3−*** しかたないので一日で終わりそうな格ゲーをやっていると、ふと考えた事があった。 「今日って何日だっけ?」 といいながら近くのカレンダーに視線を向ける。 すると、8月の中ほど辺りに書かれた赤色の丸印がまず目に入ってきた。 見たからにはその日が何かとてつもなく気になってしまい、カレンダーの方に近寄っていく。 正常な目からは『8/12』という情報が見られた。 さらによく見ると『登校日』という赤文字が入っていた。 登校日といえば、たしか夏休みの間校内の掃除とかいろいろな事で学校に行く日だ。 俺の記憶が正しければ今日は8/11だろう。それから総合して考えると… 「明日かーーー!!」 誰でもわかりそうなことなのだが俺の絶叫する理由にはピッタリであった。 それはなぜかと言われると… 俺は担任が終業式の日にそれなりの束になったプリントを配りながら 『この課題、ちゃんとやっていたかどうか登校日に集めるからな!』 とか言っていたような気がする課題を全くと言っていいほど手をつけていなかったからだ。 っていうかこんなことする学校は存在するのか? これはヤバイと自分で思いつつ課題になっていたプリントをひっぱり出し、 シャーペン片手に手をつけていった。 ……… 「缶ジュースでも買いに行くか」 結論。多分一日では終わらないだろう。    ***−4−*** 缶ジュースを買いに近所のコンビニまでわざわざいくのもどうかと思ったが、 それ以外に今の気分を晴らせる事が無かったのだ。 自動販売機の前で買うものも決まり、百円玉を入れようとしたそのとき、事件は起こったのだ。 親指と人差し指とでしっかりとつまんでいたはずの百円玉がまるで小銭の全身に油でも 塗られていたかのようにあっさりと手から飛び下り、歩道の方にころころと転がっていったのである。 それに即座に気づいた俺は、なんとしても他人に取られる前に取り戻そうと、 百円に向かって全力疾走した。 百円といえばゲーセンで十分は暇が潰せる(長いか短いかは人による)ほどの金額であるからだ。 しばらく追っかけてから異変に気づく。 自販機から五十メートルは走っているのに全く百円玉の勢いが弱まるけはいは無いのだ。 「このまま走ってたら永遠に走り続けるんじゃないだろうか?」 そんな楽しげな妄想をしながらも足は必死に百円玉を目指していた。 ここまで来てやめるのはさすがに少し悔しいし。 自販機どころか自分の家からも離れていったところで百円玉は 路地の入り口のようなところで直角にカーブして路地へと入っていった。も はや物理的法則を無視した転がり方はこの際二の次だ。 「いま、俺に出来る事はこの百円玉を捕まえるのみ!」 そんな調子で路地をしばらく走ってるといきなり、 パン! という、パーティグッズには欠かせないクラッカーのようなものの音がしたと思えば、 すぐさま百円玉も転がるのを止めてその場に倒れこんだのだった。動くのをやめた百円玉を拾い上げると、 「私が百円玉を使ってあなたをここに呼んだのです」 と言う声が聞こえたので、顔を上げるとそこには、人や動物とも言えない、 謎の生物としかいえないようなものがそこに立っていた。 「この度、一年に一度だけ行われる抽選が、多数の人達のなかから見事あなたに当選いたしました!」 謎の生物は妙な会話をした。 当然の事だがこの生物を見たこともなければ抽選に応募した事も無い。 この生物を例えて言うなら、 身体の形はちょうどコロ助とドラえもんを足して3をかけ、 さらに6で割ったような感じである。 そして魔法使いの被りそうな、二又の帽子を被っているのだ。 そんな山ほどにある疑問の中から、まず一番気になった質問を最初にいうことにした。 「抽選ってなんの?」 こういう時は『オマエは誰だ?』とか『どっから来たんだ?』とか いうのが基本のようだがこんなありきたりな質問をしても無駄だという事は火を見るより明らかだった。 それにこんなありきたりな物は面白くない。コロえもん(俺命名)はそんな疑問にもあまり気にせず、 「好きな願い事を一つかなえるという抽選です」 「???」 もはや何を言っても無駄だ。完全にマンガの世界である こんなSF的な話を現実世界で平常心で聞いてられる人間はそうそういないだろう。 けれど、よくよく考えたら得な話だ。 なんでも願い事を一つかなえてくれるんだったらそれにこしたことはない。 そしてしばらく俺が考えた一つの願いは 「百億円をくれ」 しばらく考えてこの願いも人として少し悲しくなる。 当然の事ながら、軽くあしらわれてしまった。 「つまり、もう一人の『あなた』がいると考えてください。  そうすると『金』や『名誉』などの『私欲』に関することはかなえられませんよね。  そういえばお分かりでしょうか?」 わかりたくないのだが、わかるしかない。もう何でもありである。 となれば、今痛烈に聞いて欲しい願い事はただ一つ。 「今から課題やんの手伝っ…」 俺は『今から課題をやんの手伝ってくれ』と言いそうなところでふと口を止めた。 たとえ手伝ってくれたとしてももう一人の『俺』の知能では役には立たないだろう。 1の力が2になっても敵(勿論課題の事)は倒せない。 そんなわけで、最良の願いを考えるのにもうちょっと時間はかかりそうだった。 ***−5−*** あれから三十分くらいたったいま、俺はまだ願い事を考えると言う、 慎重なんだか莫迦なだけなんだかわからない行動をしていた。 もう、考えるのも嫌になってしまい、コロえもんに一言言って帰ろうとすると 「我々の世界では抽選の当たった人に願い事をかなえなければならないという決まりとなっています。  でないと我々の定めでは起きて破りとして殺されてしまうのです」 と引き止められたのだ。 つまりそれは言い換えると『抽選が当たったら願い事をしなければならない』 ということを言っているのだろう。ここでくだらない願いをしてもコロえもんは怒り狂うかもしれない。 このピンチを耐え抜く方法として、思いついた方法がこれである。 「願い事を一ヶ月間遅らせてくれ」 これなら相手は問題なく帰ってくれるはずだ。 それにその時はもう脳細胞が混乱してこんな願いしか思いつかなかったのである。 「それが…今の願い事ですね」 納得してくれたようだ。全身を安心の二文字が盆踊りをしている。 「わかりました。その願いにより、また一ヵ月後にこの場所に来ます」 そう言った直後、コロえもんは跡形も無く消えうせてしまった。 嵐のように現れ嵐のように去っていく。 っていうか何の為に現れたんだ? ***−6−*** 何が起こっていたかもよくわからず、しばらくその場所に呆然と立ち尽くしていた。 とりあえず、最初の目的ぐらいは果たそうとさっきの百円で 缶ジュースを買って家に帰った。 しばらくしてから、後悔の波が渦となって襲ってきたのは言うまでもない。 < 後書き > この話は、昔に兄の文化祭に出展したものを ほとんど文章表現を変えてここに載せました。 当時激しく眠かったことを覚えていますので なにやら奇天烈なストーリーになっています。 ちなみにこの話には続編があります。 コレを書いてる時点ではできてないけど きっと書きます。 鮪刺身の次回作に期待しないでください。