方舟小路PBMリアクションのように見えるプラリアだけど、やっぱりリア(笑)


P1たすP2たすP3最終話  担当:ぽけぽけ彩凪


『ふぉるかのお空をお船がとんだ日』


 それなりに大きな交易路の中継点に位置しそれなりに平穏で、それなりに満たされた生活がフォルカの街の住人たちにとって過去の思い出となってしまったのは、いつのころだったろうか。方舟小路という名の裏通りにどことなく風変わりな連中が集うようになったころが始まりだったのか。平穏を失うこととなったが、すばらしく(人によってはそう感じる)非現実的な日常をたまーに楽しむことができるようになった。そして、長と呼ばれる異生物がこの町の実験を握ったとき、それは日常的な出来事へと音高らかにレベルアップを果たした。いやはやおめでたう☆

「いやもぉ、空にあんな大きな船が浮かんでようが、長の顔が浮かんでようが俺はどうとも思わねえぞ……」

 気丈にそう呟きながら空を見上げる一人の青年。が、言葉に反して彼の口元はヒクヒクと引きつっていた。空に浮かんでいるのがフォルカの漁師が使うような小船ならどうってことはないお話であるのだが、何せひゅんひゅんと浮かんでいるのはフォルカではお目にかかったことのないようなそれはもうおっきなお船。それも、フォルカから少し離れたところに存在する軍事大国が、かろうじて数隻ていどなら保有可能かと思われる外洋での長期航海を念頭において建造されたのが見てとれるほどの大型軍船であり、かの船からただよう威圧感は尋常ではない。

「だが、空に浮かんだままでぴくりとも動かねぇな」

「それはそれで気味が悪いわ……」

 住人たちは空に浮かぶ船を見上げてお互いにそう囁きあった。そして口々に自警団は一体何をしているんだと毒づいている。自警団はフォルカの外で暗躍している魔法使いたちとの戦いで大幅な戦力をそちらに拘束されており、街には少数の自警団員しか残っていない状況なのだが、住人たちはそんなことも知らずに好き放題いいまくり。


「うおっ!? ココは一体どこでやんすかっ!?」

 部屋の中にぷーんと漂う強い酒の匂いに、ウクバック・ルーゼンベルグは頭がふらつきそうになるのを辛抱して立ち上がった。薄暗い部屋の中で目を凝らしてみると、どうやらこの部屋は大きな船には珍しくない貯水庫らしく、天井近くまで水とお酒の詰まった樽が積み上げられていた。ウクバックの足元には、そのいくつかが破壊された残骸が転がっている。

「確かあっしはルシアの姐さんと一緒に……」

 お金持ちエクテのお嬢様フォルのお目付け役であるホリーのルシア。フォルカに来てからも謎の多かった彼女が、同じく謎の少女ヒナちゃんがまたしても謎のサクサの男たちに拉致された事件に関わっているに違いないと踏んだウクバックはルシアの元に突撃。理由は聞けずとも、ただヒナちゃんの元に連れて行ってもらえればいいという一念でルシアの元にたどり着いた。そして行動を共にしているわけだが、当のルシアといえば隣で船をじっと見上げている。たが、その表情には驚愕の色が浮かんでいた。

「何故船が飛んでいるの? わ、私はここにいるのに、何故……」

 あの船は、ホリーである私がいなければ、浮かび上がるどころか、動くことすらままならないはず……なぜなら、あの船をこの地に導いてきたのはルシア当人なのだから。

(まぁ、人にはそれぞれ都合ってものがあるでやんす)

 ウクバックは沈んだ表情を浮かべるルシアを横目で見ながら、そう自分を納得させてみせた。メリア・ティルス・ハートグラフやマリーシュエル・ステラグルの陰謀策謀その他もろもろのおかげで地上に置き去りにされたウクバックであったが、理由はどうであれ、ルシアのおかげで何とか空を舞うこの船にたどり着くことが出来た。いうなれば結果オーライ、おーるおっけー(笑)

「さぁ、行くでやんすよ。きっとヒナちゃんの姐さん一人ぼっちで寂しくて泣いているに違いないでやんす。ここはこのあっし、岩の意志を持つ漢ウクバックがヒナちゃんの姐さんを助け出し、全身全霊を持って笑わせてあげるでやんす〜」

「あー、笑わせるだけなのね?」

「そ、その声はっ!?」

 聞き覚えのある声が聞こえたような気がして、ウクバックは驚愕の表情を作りながら背後を振り返った。

「キャスカの姐さんっ……って、誰もいないでやんす。気のせいでやんすか」

 声はすれども姿は見えず。ウクバックは空き樽の中などを覗き込んでみたが対象は発見できず。だが、こんな薄暗い場所で無駄に時間の浪費をしているわけにもいかず、ウクバックはヒナちゃんの姿を求めて、ルシアと共にこそこそと移動をはじめた。どうでもいいが、もう一人、護衛対象を忘れちゃってないか?


「うっわー、ウク作に任せたのは失敗だったかな……」

 今ひとつ頼りなげなウクバックの後ろ姿を見送りながら、キャスカ・クックベイトは大後悔。キャスカはルシアが作り出した空に浮かぶ船につながる門を便乗使用。本当なら颯爽と前に飛び出して、格好よく決めてやるのもなかなか魅力的だったが、今回ヒナちゃんの身柄確保については、母親役のメリアと、ウクバックに任せることに決めた。ならばキャスがやることとは……一体、何か。

「今後の憂いを断つために落とし前をつけに行くわよ……」

 ぎらっと黒光りする戦闘用包丁。この船の中なら大暴れしても自警団の連中とかに咎められる心配はない。問題は落とし前をつける相手だが、グレイファントマか、悪人どもか、もしくはそれに類するマリエルか。

「お、何だお前は!」

 いきなり近くの船室から出てきた船員らしきサクサに、不覚にも発見されてしまった。だがしかし、どう見ても大暴れしに来たとしか見えないキャスカに対してそんなオマヌケな誰何しかできず、戦闘態勢すらとることのできないオマヌケなサクサなんかには『匹夫ごときに開く口を持たぬな』てなかんじで無視して応えず、ただずかずかと包丁片手に肉薄するキャス。はっきしいって、コワイ。

「ぐ、ぐわぁ!?」

 逃げようとするサクサをキャスは背後からぶん殴った。派手に吹き飛んだ船員。

「何よ、きみ。少しガード甘いんじゃないかなー」

 安心しなさい、料理人たるもの無駄な殺生はしないわ。今の一撃は峰討ちよとは言うものの、サクサは白い泡を吹いて悶絶している。それそこあからさまに実力差のある相手に手加減をしないキャスの方がまずいんじゃないかなぁ。しかしながら峰討ちという単語を用いることにより、全てが免罪されると考える主義者なのだキャスは。

「あ、適度に手を抜いて、口を割らせればよかった。でもまぁいいか」

 口を聞けない状況だってことを自覚してるじゃないか……。かくして、船内でキャスの戦闘包丁がうなりを上げることとなる。

うなりを上げるといえば。

「みて下さいまし、フィーさま。人がゴミのようですわよ」

 心から楽しそうにマリエルは彼女の背後で、目の前の現実に硬直しているフィーア・ノースファームを振り返った。外では自警団がかき集めた有翼種族の有志が襲い来る強風によって弾き飛ばされている。この船はホリーの、もといヒナちゃんの持つ風の力を用いた防壁で覆われていた。今こそ称えよ天空を駆ける船の雄姿、称えよホリーの伝えられし偉大なる知識、称えよヒナちゃんの可愛さと不思議な力!

「いうなれば空の力によってもたらされた見えない最強の盾、ですのよ?」

 自由を奪われて、空で数回転しているヴューリーに、まるで語りかけるようにマリエルが呟いた。

「マリエルしゃん、どうして、そんないじわるするのぅー」

 泣きべそでマリエルに抗議するフィー。

「ああ、なんのいうことでしょう、フィーさま。マリエルだってかのようなイジワルなどしたくはありません。だがしかし、今マリエルは不覚ながらも悪者さんたちに操られてしまっていたりするのですわよ」

 先程の悲しげな表情とは一転、深く物悲しげな雰囲気をかもし出すマリエル。俗に言うところの愁いを帯びた表情という奴だ。イチ・ニィノ・サンあたりに言わせるならば、この表情をマリエルが浮かべたら、用心してかからねぇとこっぴどい目に遭わされるといったような、まさに修羅場を生き抜いたベテランが新兵に語る大変お役立ちなお言葉を聞くことができるだろう。だが、ここにイチはいない。

「ひゃぁっ!? 大変のぅ〜!」

 マリエルの言葉を信じ込んだフィーは、その場でパタパタと走り回る。何とかしてマリエルの自由を取り戻し彼女を救うべく飛び出したい所だが、船の中枢というか、出口どころか、船窓すらない。まるで宙を浮いたように感じる不思議な閉鎖空間から脱出する術を思いつくことが出来ない。

(ああっ、その純真なお心大層愛しく感じますわぁ。ですが、その美しさと儚さは紙一重。ゆえに戦場では生き残れませんわよ)

 なんか違う展開になってきたけど、まあいいや(笑)


「みろ、自警団どもは近づくことも出来ん!」

 怪人グレイファントマとその量産型たちを操り、ついに空駆ける船の力を手に入れたサクサの男は興奮を押さえきれずに、唾を吐き散らかしながら周囲の空域を指差している。

「我らが第2の故郷を手に入れる日は近いということですかな?」

 かっては副官と呼ばれていたもう一人のサクサの男も、元上官の喜びに同調するかのように声をかける。

「いや楽園だ、ユートピアだっ!」

 大風呂敷を広げたな、おい。しかし、あるホリーの生き残りの一族が、自らの命運を賭けて守り抜いてきた古の力だけあって、複数の軍事大国に比肩する戦いの力をその空飛ぶお船は授けられ……いや、ヒナちゃんは備えていた。

「郷にいれば郷にしたがえだ。いかに我々の力がこの世界と一線を画した強力なものでも、ただ使いつづけるだけでは限界はくる。戦況を把握し、一番のタイミングで持ちうるすべての戦力をつぎ込む……、そこが他の敗北主義者どもとの違いだ!」

 ちなみにこの男も、どこぞの内戦であっさりと物量に敗退したどこにでも転がっていそうな一将軍だったことは、彼の名誉のために伏せておこう。でも、今度の敵は倍する戦車や倍々する航空戦力とか、第3国の後ろ盾とか言う腹立たしい存在とは無縁な連中だ。ろくな兵器などなくとも、戦術に関しては一日の長があると自負している男。

(せめて戦略眼もその何分の一かでもあれば、この将軍の未来もまた違ったものになっていたかもしれない)

副官の人生の方が、もっと華々しいものになっていたと思うぞ。

「しかし、あのルシアというホリーの女が協力を拒んだ時は、計画の頓挫も危ぶまれましたが……」

 どんな理由があるのかは知らないが、同族、それも血筋の近いものたちを裏切り、落命させるきっかけを作ったのであるから、今さらながら罪の意識に苛まれているのだろう。だが、すでにあの女に用はない。なぜなら……。

「全くだ。こんな田舎町に運良くホリーが定住しているとは」

 副官の意見に、感慨深げに頷く元将軍。このフォルカという街には若いながらも純粋なホリーが2人も存在していたのだ。

「が、さすが将軍。どのような手段をもってあのホリーを従属されておられるのかお聞かせ願いたいところですな」

「はっはっは、謙遜はよせ。あからさまな部下の手柄を横取りするような狭量な私ではない。お前のその交渉能力の高さは我が部下ながら感心しきりだ」

「そちらこそ、ご謙遜を」

「いやいや、冗談はよせ」

「わっはっは、からかうのはおやめいただきたい」

「その言葉、そっくり返そう」

 やがて二人の間に妙な沈黙が漂いはじめた。大人しく従ってついてきたあのホリーは、おとなしく船の中枢にその身を収めた。文句一ついわずに、あれほど嬉しそうに中枢の中に入っていく姿をみていれば、魔法の力か何かで操られているとしか思えないであろう。いや、現にそう思っていたし。

「……未だこの船は我々の手中に収まったとはいえぬかもしれませんな。状況が混沌としておりますゆえ、断言はいたしかねますが」

「早急に手を打つべきだな。近衛小隊を集めて、例のものを引っ張り出せ」

 あれがあれば、ホリーを脅して従わせるなど造作もないこと。将軍は再び豪快な笑い声をあげた、動揺を悟られないために。

※   ※   ※   ※

「……おおっ。おおおおおおおっ!?」

 突然高所から叩き落された衝撃と同時に気を失っていたメリア・ティルス・ハートクラフが目覚めと同時に素っ頓狂な声を発するのには理由がある。目の前を無数にまるで舞を踊るかのように存在している白い物体。これこそが、メリアが最近血眼になって探していた究極の美顔薬の原料といわれる怪鳥アクバートの羽根。その上、貴重といわれていた羽根が乱舞している。これだけの原料で薬を生み出したならば、一体何回分、もとい何十年分の美しさが保証されるのだろう。

「そうよ、あのウクバックのおかげで船倉の穴ぐらへと追い落とされることになってしまったけれど、こんな奇跡的な結果になるなんて、自分自身の運のよさに惚れ惚れしちゃうわねー。美しさゆえに幸運にも恵まれるのね☆」

 鼻歌なんぞ歌いながら羽根をかき集め、皮袋の中に収めていくメリア。そんな彼女の手がふと止まる。見覚えのある角そして、仮面。

「グ、グレイファントマ……」

 突如、わが身にふりかかってきた恐怖にメリアは言葉を失った。

「あんたも美顔薬を狙っているクチね!」

 びしっと指を突きつけ、そう言い放つ。そのすごい自信はどこからくるのだろう。それに対してのグレイファントマの回答はある程度予想できた内容のものだった。

「いえ、美顔薬には興味はないのですが……」

ほーら、それみろ。

「ただ、羽根を集めるのはやめていただけませんか。この娘が嫌がると思うので」

 ハセクラ・フタバが以前語ったように、気の弱そうなぼそぼそとした口調でグレイファントマは口を開いた。おおよそ、魔王軍には相応しくないような人材。それは非難であり、賞賛でもあるフタバの言葉。だが、オリジナルグレイファントマとしての力を手に入れても、それは変っていないように見える。詰まるところ、それはメリアにいとも簡単に言い負かされてしまうことを表しているのでは。止まれ、話を戻そう。

「あーん?」

 まるで不機嫌モードのキャスのように、素晴らしく不満げな表情を浮かべるメリア。そしてグレイファントマより奥の空間を一瞥した。乱舞する白い羽根に包み込まれているかのように宙を浮かぶ一人の少女、ヒナちゃん。

「ひ、ヒナちゃん!?」

 さすがに驚くメリア。刷り込みの影響もあるが、母親代わりに育ててきた愛娘。そんな彼女がまるで翼が集まってヒナちゃんのためにその姿を変化したとしか思えない純白のドレスに身をまとい、メリアの前では微塵も見せたことのない強大な力をその身から放っている。

「その羽根は彼女の身体から生まれているみたいなんですよ」

「じ、冗談を言わないで! この子は私の娘なんだから、そんなことが……」

だが、メリアはその力から形容のしがたい不安感を感じ取る。そんな不安を振り払うかのように、メリアはヒナちゃんに向き直った。

「やめなさい! そんな危ない遊びはメリアお母様が許しませんよ!」

 いつもはそんなメリアの叱り声にも、ぴひゃあと明るい声と笑顔で応えてくれたヒナちゃん。今度も同じ笑顔を返してくれると確信していたメリアを襲ったのは、突然出現した空気の壁。まるで自ら壁にぶつかったかのような衝撃を身体に感じてメリアは吹き飛ばされてしまった。

「このふりょうむすめぇ……ふにゅぅ」

 いとも簡単に再び昏倒してしまったメリア。そんな彼女に自分のマントを羽織ってやると、グレイファントマは再びヒナちゃんを見上げた。

「やはり、こんなことはおかしいですよ……」

この巨大な船が宙を浮かぶことにどのような意味があるのか。亡くなった魔王さまに代わる新しい上官は彼にこの浮遊船の動力として絶対的に必要な強力な風の精霊力を保持する存在、この少女の拉致と監視を命じた。そしてフォルカ中を怪人グレイファントマとして賑わせていたのもフォルカの地下で行われていたこの企みを隠蔽するため。ただの冗談では済まされない計画。自分が呈のいいように利用されているのはわかっていた。だが、過去のあの戦乱から過ぎ去った月日が、彼のそんな弱さを消してくれることもまたなかった。が、無表情なヒナちゃんから感じ取れる悲しみの感情は、そんな彼に僅かな勇気を与え様としているのだろうか。もしくはただの物質として扱われることに抗うことすら出来ぬこの少女を救おうとする正しき心か……。

「必ず、救ってみせる!」

 この計画を止めるために走り出す。そんな男の仮面の下には、怒りと決意に満ちた表情が。見えないけど。


「おー、この国の船は空を飛ぶのかい。これは遠路はるばる意識を失うほどの体験をして辿り着いた甲斐はあるねぇ」

 河の向こうで死んだおじいちゃんがおいでおいでしていたり、光に包まれた洞窟を潜り抜けてきたりしたかもしれないほどの経験をしながら、ユッテ・ステンガルドという名の一人の女吟遊詩人(且つ元女探検家)がフォルカの街に(限りなく運の悪いタイミングで)辿り着いた。

「その上、住んでる連中も変なセンスをしてるみたいだしさ、これはいい話のネタになりそうだよ」

 明らかにイチの頭の上についた犬耳を見ながらそう呟いている。あからさまに不機嫌な表情を見せているイチ。

(人がこれからせっかく街から避難させる手はずを整えようって時に、うっとおしいアマがきやがった……)

 一瞥してユタを女性だと認識できるところは、さすがイチである。それに、こういうボーイッシュな女もそれはそれで。

「ねぇちゃん、ねぇちゃん。こんな女好き、女たらしのイヌっころ、この街じゃ珍しくも何ともないぜ!」

 どこから一瞥しても、皆異論はないほどの典型的な悪ガキスマイルを浮かべながら、ツダ・コウキはいとも簡単に言い捨てた。

「コウキ。テメエ人生の先達相手にその口の聞き方たぁ、いい度胸だなぁ」

 先達も何も、ろくなことを教えてもらっていないような気がするぞぉ。それは、コウキの態度がはっきりと示している。

(コウキって名の男の子は、みんなこんな感じなのかねぇ)

 ユタは自分の髪に手をやりながら、思わず苦笑を浮かべる。コウキ、呪われた名か。

「とりあえず、この街は普段は冒険者にとってそれなりに退屈しないいい街なんだけどよ、今日は間が悪い。悪いこといわねぇから次の町を目指すんだなぁ」

 一応、この場にいるフォルカ住人を代表する形で、イチが警告してみせる。

「あれが原因かい。この街のもんなんだろ、何とかしなよ?」

「半分当たりで、半分ハズレだ。今ここの住人どもは、あの得体の知れない船がここで一体何をしでかすか、そりゃあ不安な気持ちで一杯だ。一部活き活きしてる奴もいるが」

 まるで他人事のような口調と、口元にへらへらした笑みを浮かべながら、イチはそういってのける。

「かといって、いくらメリアやキャスやマリエルやイーシャやユイニィとかが、底の見えない捕らえどころのない連中だとしても、さすがにありゃあ範疇を超えてると俺様は思うわけだ」

 ちなみにポリシーなのか、無駄に男連中の名前は全く口にしないイチ。船を見上げたまま、思い出したかのように口を開く。

「いや、ぶるじょわじーもどきなメリアとか、妖怪ダークホリーならやりかねんか?」

 何故かイチはコウキではなくユタに同意を求める。

「あたしにきかれてもねぇ?」

 メリアやマリエルのことなど知らないユタは、困惑した様子で、両手を掲げてみせる。

「あいつらの悪行は全世界規模だと思ったんだがなぁ」

 ひどいいわれようである。

「何にしても、船が風かなんかに包まれてるみたいでな、自警団自慢の空を飛べる連中ですら船に取り付けねぇんだよ。取り付いちまえば、いろんな意味で荒くれ共も裸足で逃げ出す手癖足癖の悪い輩が何とかしてくれんだろうけどよ」

一応、自警団のことを誉めているのだろう。

「えー、俺が乗る前に墜としちまうのかよー」

 不満げなコウキ少年。あの船の舳先に立って海賊船長の気分を味わうとかいろいろやりたいことがあるのに。一方、ユタはコウキとは違う意味で眉をひそめる。

「あー、落とすのはやめた方がいいかもしれないよ。少なくともここではね」

 それは、元探検家として、あの船が持つ価値に気づいたからだろうか。

「あれは、ただのでかい船さ。ただ、怪しげな力で浮いてるあの船があれほどの高さから落ちてきたら、また船を浮かべている力が、とんでもなく危険なものだったとしたら、どうなるかと思ってさ」

 とりあえず、もう少し近づいてみようかね。警告とは正反対の行動を取りながら、方舟小路から移動しようとするユタの後をイチとコウキが続く。

「あの船が一番よく見える場所はどこだい?」

「一番高い場所だったら時計塔のてっぺんだぜっ!」

 コウキが間髪いれずそう応えてみせる。

(くそ、面倒なことになっちまいやがったぜ)

少しはフタバの機嫌をとっておこうかと住民の避難を誘導し、一応ネイ・コロネッサの国士としての威厳を見せておこうかと企んだイチだが、実際、この騒ぎもバカ話で終わる程度に考えていた。

「空から船が降ってきて、フォルカの街がぶっ壊れちまうかもしれねぇなんてよ!」

 ……やっぱりバカ話なんじゃないか?

※   ※   ※   ※

「……はっ!? どうしていきなり拘束されているんですかっ!?」

 思わず意識を取り戻した途端そう叫ぶのはグレイファントマオリジナル。ヒナちゃんを自由をするために、勇気を振り絞って単独で上官たちの下に乗り込んだのだが、所詮ぽけのリアでNPCが英雄的活躍をすることは無理、もとい上官の下に辿り着いたものの、何故か戦闘態勢を整えていた他のグレイファントマ数人に一斉に踊りかかられた。

(つまり、話すら聞いてもらえないということですか?)

怪人としての怪力を行使すれば蹴散らして逃げることも可能だが、そんなことをすれば、あの少女に危害を加えられることになるかもしれない。

「全く、駄犬の分際で飼い主に噛み付こうとするからこうなる。首輪は返してもらうぞ」

 しかし、そうもいっていられないようだ。

(ん、魔法の縄か!?)

 びくりともしない縄に苦戦している間に将軍の命を受けて、部下たちが二人がかりでグレイファントマの証の一つである仮面を外した。仮面を外されてしまえば、グレイファントマとしての怪力を失うこととなる。

(力を失う……だが、それもまたいいかもしれませんね……)

 反対に肩の荷の下りたような感覚すら覚える。

「あなたたちの口車に乗り、魔王様に少しでも近づけると信じた私が愚かでしたよ」

「ふん、解かっているではないか。だが、安心しろ、お前らが敬意を払っているその魔王とかいう男の為し得なかった野望、私が変わってこの世界に君臨してやる」

 最初は元の世界に帰ることを望んでいた男の望みは、浮遊船を手に入れたことにより、大きく、恐ろしいものに変化しつつあった。

「それは、無理です……あの方ほど偉大な人物でさえ為しえなかったことですよ」

「この私が、その魔王とやらより格が下だと言うのか? はん、その魔王とやらに愛想をつかされて追い出された男が、随分と偉そうなことをいうではないか」

「ええ、あのような少女の自由を奪うような企みに荷担した私にそんな偉そうなことを言う資格はありませんね」

 セキドの言葉に将軍の言葉はあくまで冷静だが、その表情は怒りにゆがみ始めている。

「情が移ったのか? 小娘の格好をしてはいるが、あれはただの道具に過ぎんだろうが?」

「……私は何としてでもあの方たちの側にいて最後を迎えるべきでした、一兵卒に身を落としてででも。あなたたちと轡を並べるという愚かな行いを一度でも最善の策だと……いえ、それであの方を見返すことができると思った自分自身の判断を、今さらながらに深く後悔していますよ!」

 セキドの男の脳裏には、魔王と彼の側に付き従っていたあの少女の顔が浮かぶ。縄を切ることもせずに、体ごと将軍に襲い掛かろうとするセキド。

「最後の最後まで運なく誤った道を歩みつづける男よ。私がこの世界に君臨するその日を見届けることなく死んでいく……それがお前の最大の幸運なのかもしれんな!」

 将軍は手にしていた剣をセキドの胸に突き立てた。

「た、大変ですっ!」

「どうした。何を慌てている!?」

 片角のセキドを始末しようとしている将軍に代わって、副官が船室に駆け込んできた伝令を一喝する。

「じ、実は、中枢に向かった部隊が……一人残らず」

「何をいっている。連中がホリーの一人ごときに」

「いえ、中枢に辿り着くことすら出来ずに」

 妙な沈黙。

「……通路の守りを固める。手の空いている者は我に続け!」

 副官が残りのグレイファントマと手勢を連れて出て行ったことを確認すると、将軍はセキドの血に染まった剣を放り捨て、伝令に報告を促す。

 実際、この船の全ての力は中枢にいる目的不明のホリーが握っているといえた。そのホリーが自分たちの命令を受け入れるようにすべく、グレイファントマという名を冠してはいるが実際は戦闘訓練を受けた将軍親衛隊や傭兵たちを中枢へ向けて派遣したのだ。 

「力は、自分の手で掴めという事か」

 サクサである自分が効力を得ることはわかっている。それでも、将軍はグレイファントマの仮面を被った。副官たちの後を追うため立ち去る将軍の後ろ姿を見つめ、苦痛のため薄れゆく意識の中、片角のセキドは呟く。仮面をかぶることにより微かな恐怖心を打ち払おうとするあなたは……。

(私と同じですよ)

 
 船内特有の通路の狭さが、この戦いの全てをキャスに有利なものへと推移させていた。この狭さでは多人数で襲いかかっても、一対一の戦いを強いられてしまうのだ。その上キャスの戦闘包丁は切ってよし突いてよしで、得物の長さも調理器具らしく剣などに比べては振り回しやすい。それもどうかと思うが。そんでもって峰討ちという名の免罪符を手に入れたキャスの戦闘包丁術は、切れ味まさに微塵の曇りもなく冴まくり、軍で暗殺術を身につけているはずのサクサなど一蹴してみせる。

「ふぃい。クラヤニーの調理直後みたいになっちゃった」

 一仕事を終えた後の満足げな笑顔と返り血が微妙にマッチしているキャスの御姿。

「にしても、こっちだと思ったんだけどねぇ失敗失敗☆」

 会敵直後にグレイファントマの一人が『さては貴様、中枢にいるあのホリーの仲間だな! だが、たった一人で我らを止められると思ったら大間違いだ!』とかぬかしていたのを思い出した。ま、いとも簡単に一人で止めちゃったけどね。とにかく、連中がこちらに向かってやって来たということは、キャスカの目的地は。

「中枢とか言ってたとこは、えっと逆方向ね」

 やっぱりマリエルか、マリエルが最終ターゲットなのか!? 顔についた返り血だけをぬぐうと、キャスは来た通路を軽やかな足取りで戻り始めた。

『おいっ、誰か返事しやがれ!』

 どこからともなく聞こえてきた聞き覚えのある下品な声に、きょろきょろと辺りを見渡した。すると今度は子供っぽい声で、これまた聞き覚えのある声が呼びかけてくる。

『おーい、聞こえるか〜? 空の上を飛んでる船の中にいる奴、もし聞こえてたら返事してくれ〜』

 今度は聞こえてくる方向も、声の主もはっきりと認識することが出来た。声の主はコウキで、なんと戦闘包丁からその声は聞こえてきた。


『コウキ、大事な戦闘包丁にヘンなことしたんだったら、わかってるわよね?』

「……おい、キャスカだ。予想外の展開だぜっ」

「あいつ、そんなやばいアイテムなんか、持ってやがるのか……」

 時計塔のてっぺんで船を見上げていたイチが息を呑んだ。イチたちがキャスとの会話に用いているのは、マジックアイテム同士を繋いで通信手段とするこれまたマジックアイテムで、この付近から避難したユタが他の国で手に入れたものを貸与してくれた。ただ、結べるのは同じ属性のアイテムでなければならず、また、必要な属性もアイテムごとに違うという……今回の場合は厄介なことに世間一般でいうところ『死』の属性を持つ呪われアイテムだった。役に立たないと思われたが、何故か偶然にもコウキが三歩歩くごとにHPが一点減ってしまいかねない指輪を所持しており、こちらの手段は確保できた。つまり、キャスの戦闘包丁は呪われアイテムと認定。血に染まりすぎたのではないだろうか(笑)

「……まぁいい。実は伝えておかなきゃいけないことがある」

『えー、これから重要なナシをつけに行くんだから、邪魔しないでくれる?』

 イチの言葉になんか、聞く耳持たないとでもいいたげなキャス。

「なんだとぅ? 人が下手にでてりゃあいい気になりやがって」

 ケンカを仕掛けてどうする。

「いいか、下手に手出しをして船を落とすようなことをするんじゃねぇぞ? ことによっちゃあフォルカが大変なことになっちまうからな!」

「別に船を落とす気なんてさらさらないってば。ただ、交渉次第に寄っちゃあどうなるかはわかんないけどね〜。お、ここかなぁ?」

「それがダメなんだ、っと切りやがった……くそっ!」

 思わず舌打ちをする。逆に不安になってきてしまった。

「これは真剣に住民どもを避難させて、俺たちも逃げたほうがいいな。ところで、何で離れねぇんだ、これ?」

「それ、指にはめたら、呪われるんだぜ。いわなかったっけ?」

 聞いていないぞ、コウキ。おかげで、イチは真っ先に逃げ出すことも出来なくなってしまったのだった。

 

 ふと見下ろすとフォルカの街が見える。それはルシアの暮らしていた小さなホリーの集落とは比べ物にならない大きさだ。けれども、ここではあの集落と同じように人々が暮らしている。

(その街を私は消すためにここに来た。私のあの集落と同じように……)

「過ちに気づくのが遅すぎたのよ……」 

突然ルシアがその場で跪き、嗚咽をもらし始めたのをみて、ウクバックは困惑を通り越して激しく動揺した。

「何で、いきなり泣くんでやんすか……、あっしなんかルシアの姐さんにひどいことをしたでやんすかぁ?」

 こっちの方が泣き出したいでやんすぅといいたげに、ルシアの顔を覗き込むウクバック。

「……いいえ、ウクバックさん。あなたは何も悪いことをしてはいない。許しがたい悪いことをしているのは私です」

 ルシアがウクバックに語った事実。それは驚くべきものであった。この船はルシアの集落の一部のホリーだけに伝わっていた風の精霊に伝わる伝承を元に、浮遊船は作り上げられたもので、船は元々あったものを強奪して流用しているということ、ルシアが将軍たちに協力したために、集落のホリーたちは散り散りになり、集落は消滅したこと。そしてルシアの主人である大海洋商人グラマルセンの愛娘フォルティは本人は知らないことなれど、拉致誘拐されている身であり、それを手引きしたのはまた執事であり家庭教師としてグラマルセン家に雇われたルシアであるという。当のグラマルセン家ではルシアも共に誘拐されたと思っているようだが。

「フォル様の身の安全を案じて、公表をお避けになっているようですが、間もなく、この船を占拠している男の手で近隣の国家に向けてフォルカ占拠の宣言が為されます。グラマルセン家は多くの王家に影響力を持っていますから、フォル様は人質としてのフォルカの価値をあげるための役目を担うこととなるのです」

 ということは。

「フォルの姐さんもこの船におられるんでやんすか?!」

「いえ、私が密かにお逃げいただきました。今はメリア様として、長様のお側におられる筈です」

 それはなかなかに考えたものだ。しかし、この船がフォルカに危害を与えるつもりであるなら、市庁舎にいてもフォルの身の安全は保障されない。沈黙を続けるウクバック。さすがの彼も怒りにうちふるえているのだろうか。

「……だったらいいでやんす。ここにいるのは将軍たちに騙されて悪いことをさせられたルシアの姐さんじゃないでやんすよ。フォルの姐さんの身を守るために戦おうとしている強いルシアの姐さんでやんす!」

「ウクバックさん……」

「あっしも姐さんの心意気を見習って、必ずヒナちゃんの姐さんを救い出すでやんすよ!」

 差し出されたウクバックの手を、ルシアはぎゅっと握り返す。そして、嘆き悲しむだけだったルシアに、フォルの執事としての凛とした表情が戻った。

「……ウクバックさん。この船は実質、中枢といえる場所におられるヒナちゃんの力で空を飛んでいます。将軍たちを倒すより先に中枢へ向かい、ヒナちゃんを救い出す方が得策でしょう。さ、こちらです」

「り、りょうかいでやんすぅ〜」

 突如としてルシアに主導権を握られて、情けない声をあげるウクバック。その姿の方がかっこよく決めたときより彼らしいと思うのは私だけだろうか。


(あらあら、役者の皆さまがお揃いになられましたですわね、うふふのふ)

 もうすっかり良識のタガが外れまくっているマリエル。彼女がまるで他人事のように今まさに眼下で勃発しようとしている戦闘を見物しているのには理由がある。マリエルとフィー、そしてヒナちゃんは風の精霊力により生み出された一種の結界のようなものに包まれているからだ。

「あらあら、サクサのみなさまったら、あのように無粋なものを引っ張り出されるとは……面白くなってまいりましたわね」

 すでに中枢にはキャスとウクバック、そしてルシアの三人と、副官に追いついてきた将軍自らに率いられたグレイファントマ部隊がにらみ合いを繰り広げていた。

「お前は、なるほど、その上にいるホリーはお前の仲間か。他にも2匹ほどネズミが入り込んでいるようだな。全くもって迷惑な話だ。ひとまとめに始末してやれ!」

「そんなやられキャラ特有の台詞なんか恥ずかしげもなく口にする奴になんか、このキャスカさまは負けないよっ!」

 副官の命に従ってグレイファントマたちが三人を包囲すべく移動を開始する前に、キャスはそのうちの一人の間合いへと一気に踏み込んだ。そしてそのまま包丁の腹で殴り倒し、流れのまま将軍のほうへと包丁を向ける。

「……貴様何者だ!」

「ただの料理人っ!」

 ケンカをするなら、相手グループの頭を狙う。どこで身につけたかは知らないが、そんな定石どおりに突進!

(タマとったら〜!)

 そんな叫びを心の中で叫びながら、キャスと将軍の距離が一気に縮まる。そんなキャスの背筋に形容しがたい悪寒が走る。

(っ!?)

 龍の咆哮するかのような音と、風が強引に切り裂かれている感覚、そして死と隣り合わせの威圧感。どれもがはじめて体験する……恐怖。

「な、何よあれ!?」

 

キャスカたちには解からなかったが、それは将軍たちがこちらの世界に引きずり込まれたことの証であり、人間としての暗部を象徴する道具。

「マジックアイテムでやんすか!?」

 驚きのウクバック。

「風の精霊力を挑発するようなあんな道具を使ったら……」

 切り裂かれた風の精霊力が怒っている。そして、それは痛みとなってヒナちゃんを襲っているようだ。何とか、精霊と交渉して風の加護を得られることができれば……。

「……ウクバック! 君何の役にもたってないんだから、盾!」

「む、むちゃくちゃでやんす、キャスカの姐さん〜!」

 真剣なルシアの隣で、あいかわらずの二人。

「マ、マジックアイテムが怖くてクラヤニーが料理できるかっ!」

 関係なさげだけど、すごい自信だ(笑)わざと射線に身を晒すようにして、再び突進するキャス。ついにぶちぎれたか!?

「戦闘包丁、シールドモードっ!」

 戦闘包丁の腹を盾代わりにして、そのまま再突進っ!ああっ、むちゃくちゃである。なぜなら30ミリチェ……げほんげほん。と、とりあえずすごい武器なのにっ。

「な、なぎ払えっ!」

 将軍の言葉に反応するかのように、龍のブレスのような弾道が波打つ。つまり、弾が限られた広さしかない中枢の部屋の中を跳ねまくり、

「いてっ、いててててっ!」

「バカもん! み、味方にむけるなっ!?」

「おかーさーん! おかーさーん!! おかーさーん!!!」

などなど、どえらい情景へと情景が変化していく。もちろん、マリエルたちやヒナちゃんを守る結界にも多くが命中。その行いは風の精霊力の怒りに触れる前に、ダークホリーの逆鱗に触れてしまった。怒らないホリーに逆鱗があるのかどうかは不明だが(笑)

「うふふふふふふふ、そんなものをあぶないではありませんの。どれぐらい危ないか、教えて差し上げませんといけませんわ〜」

「うわぁ。あのダークホリー本気だよっ! みんな伏せっ!」

 マリエルをよく知るキャスカのど真剣な警告に敵味方関係なく(将軍ですら)思わず……伏せっ!(笑)

「ぴぎゃっ!」

ヒナちゃんが嫌がっているにもかかわらず、マリエルは風の精霊力を行使して、床に落ちている無数の弾を浮かび上がらせる。そして、ものすごい勢いで飛び回らせ始めた。乱射、再び。

「ああっ、あのときの公邸と全く同じだ。我々の親衛隊を蹴散らして反乱軍どもは、私のあの美しかった公邸を踏みにじった……」

「い、いかん。将軍が現実逃避なさっている。脱出する、退路を開け!」

 マリエルいわくまさにゴミのように逃げ惑うサクサや傭兵やグレイファントマ。

(あわわわわ、ヒナちゃんしゃんくるしそうですし、まりえるしゃんもすごくワルそうにみえますのぉ〜。ほんとは、こういうこしちゃいけないけど、ふぃーはやるでしゅ!)

 うふ、うふふふふと楽しそうなマリエルの背後に静かに忍び寄るフィーとその手に握られた物体。

「何ですのフィーさま、マリエルは今いそが……あ、あうっ!?」

 フィーの身長の一体何倍あるのだと聞きたくなるような氷の柱を抱きかかえて、フィーはいつにもない追い詰められた表情で立っている。というか、殺られる?

「あの、落ち着きなさってフィーさま。マリエルは操られていたのでありまして、でも今まさに目が覚めましたので、安心なさっていただきたく……うぐ!?」

 正確にいえば、氷の重さにフィーさまが耐えられなかったというべきか。マリエルは氷の柱で顔面を痛打され、無様に転倒し、後頭部をこれまた痛打。そのまま気持ちよく昏倒した。つまりどういうことになったかというと……。

「うわ、天と地がぐるぐるまわっているでやんす〜。空の上に浮かんでいても転覆っていうんでやんすかねぇ?」

「そんなこといってる場合じゃないでしょ!」

「そ、そうでやんした! ルシアの姐さんっ!?」

妙なことを口走るウクバックを包丁の柄で殴り飛ばす。それが原因か、ルシアを探そうと身を起こしたウクバックの姿が視界から消えた。キャスはさりげなく、それを無視(笑)

(ひ、ヒナちゃん!?)

 目の前を転がり落ちていったダークホリーとフィーももちろん無視して(笑) キャスカは包丁を木の甲板に突き刺してそれに掴まりながら、ヒナちゃんの姿をキャスカは目で追う。だが、ヒナちゃんの姿を突如湧き出した白い羽のようなものが覆い隠していく。

「白い羽がヒナちゃんを連れて行く! こいつっ! ヒナちゃんを、ヒナちゃんをかえせっっっ!」

 手を一杯に伸ばすキャス。だが、その手は無情にも空を掴み、キャス自身の身体も亀裂から空へと投げ出された。


「落ちていく、船が……」

 高台からフォルカの街を見下ろすイチたち。船はまるで重力に掴まれたかのように、落下していく。時計塔が船に接触され、倒壊したとき、フォルカの街の消滅をついに誰もが覚悟した。


 いつ気がついたのか、自分自身も解からない。ただ、目の前に散乱している無数の羽根をメリアは魔法の背負い袋と呼ばれる、何十倍もの物質を収納することができるうえ、重さを感じる事のない背負い袋にがむしゃらに押し込んでいた。

(こ、これであたしは……一層美しさを際立てることが出来るのよ)

 だが、その表情には嬉しさなど微塵もかんじられない。

「急がなきゃ。いくら泳ぎの得意なあたしでも、船が沈むときの渦に巻き込まれたら大変だもの」

 フォルカ上空でコントロールを失った船は、奇跡的に湾上空まで浮力を保つことが出来た。水上に出たころを見計らって、船内にいたサクサたちは海に飛び込んで脱出していった。今船に残っているのはメリアだけ。そう思っていた。羽根を踏みしめる音と共に姿を見せる一つの影。

「ぴっ……」

「ヒナ……ちゃん?」

 メリアは記憶とはあまりに隔たりのあるヒナちゃんの姿に、言葉を失った。ヒナちゃんの年恰好は少女のものではなくすでにメリアと同じぐらいに見えるし、時たま生えていた光り輝く翼も、今は大きく広げられていた。

「こ、こんの不良むすめっ!」

「ぴひゃっ!?」

 大きく手を上げるメリアに、いつもと同じようにヒナちゃんは怯えた様子を見せる。でも、何かと違う。まるで何かをいいたげなヒナちゃんをメリアは見つめる。そうか、そういうことなのね。メリアは指をヒナちゃんに突きつけて言い放つ。

「……あれだけおイタしたかと思ったら、今度は勝手に親のところから出て行こうというのね! そんなことは絶対に!」

「ぴ、まま……」

 別れることはヒナちゃんも辛いのだ。それが、ヒナちゃんのたった一つの呟きでメリアの心の中に流れ込んでくる。

「好きにしなさいヒナちゃん。もうママは何も言わないわ」

 メリアは魔法の小袋から、アクバートの羽根を撒き散らした。羽根はヒナちゃんの翼に吸い込まれるように消えていく。すると、翼は一層輝きを増し、大きく立派なものへと成長する。ヒナちゃんが羽ばたいた。一つ、また一つ。

(これだけ美しい羽根ならば、美顔薬の材料になるって伝えられるのもわかるわ)

 その光を見ていると、まるで心が癒されるかのようであった。でも、メリアの心に沸き起こる寂しさは決して癒されることはない。別れを惜しむように旋回するヒナちゃんに小さくメリアは呟いた。

「うん、気をつけて行ってらっしゃい、ヒナちゃん」 

 

 あの浮遊船の騒ぎからひと月。フォルカの街が静けさを、いや活気を取り戻すには充分な時間の長さであった。

「全く人騒がせな話だぜ、なぁフタバ」

「いいんじゃない、いつも人騒がせなことばっかしてるイチが少しでもみんなの役に立ったんだから」

 イチはそういってのけるハセクラ・フタバの顔を横目で見ながら、鼻を鳴らした。

(お前があの瀕死のセキドを助け出して、フォルカから脱出させてやったことはわかってんだぜ?)

 ま、そんなことでどうこう言うつもりはないけどな。それにしても、フォルカにとって損害ばかりで何の得もない騒ぎだった。落下間際の浮遊船を何とか海上まで制御してみせたルシアは、本物のグラマルセン家からの迎えに守られてフォルとともに旅立った。騒ぎを起こしたサクサたちもいつの間にか騒ぎにまぎれてフォルカを脱出したようだし、罪を償わせる対象すらいない。あ、もちろんマリエルは操られていたことを主張し、さも当然であるかのように被害者面で、のほほんと生活している。

「まぁキャスカのあの恐ろしい包丁が船と運命を共にしたっていうのが、俺様にとって唯一幸運な話だなぁ」

「あ、なんかあれより強力な包丁があるんだって活き活きとためし斬りをしてたよキャスカさん」

「マ、マジで……」

 力なく机に突っ伏すイチ。押しなべて、何事もなくフォルカの日常は過ぎていく。


 あ、そういえば。

「……何をしてるんでやんすかメリアの姐さん?」

 怪しげな薬を顔に塗りつけているメリアをみて、未だにヒナちゃんのいなくなった寂しさを引きずっているウクバックが声をかける。

「キミみたいな岩石顔面男には関係のない話よ〜」

 上機嫌なメリア。まさか、あんたちょろまかしたのか!?

「娘が母親のために孝行するのは当たり前なお話でしょう? ヒナちゃんいい子だから、なくなったころにまた持ってきてくれるわ☆」

 ヒナちゃん。こんなひどい母親その1を捨てた君の判断は正しかったと思うぞ。



《あとがき》

 ようやく完成しましたというべきなのでしょうか。お待たせいたしました(笑)

一部NPCという形で見知ったキャラが登場してきておりますが、基本はアクトをくださった4人がメインとなっております。全てはエテルーナ魔法学園にむけてのリハビリのつもりだったのですが、逆に自信喪失の憂き目かも(笑)


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