その何気ない仕草に、

その低い声に、

その男前な笑顔に、


意識するようになったのは、最近。









          恋 - 振 り 返 れ -










元々、私と忍足はクラスメイトで、その中でも男女の友達としては、よく話すほうだった
忍足は確かに女子からモテたけれど、それ以上に親しみやすい性格で、男女問わずに友達が多かった
私も、ある意味、その中の一人
ただ、クラスメイトで、席も近くって、ノートとかDVDとか貸し借りしてて、それでよく話してた


ー、この前借りたDVD持って来たで」

今日も、休み時間には忍足が振り返る
その度に、ドキッとしていることに、君は気付いてないんだろうね

「ああ、アメリ?」
「なんや不思議な感じだったけど、おもろかったわ」
「でしょ?」

そんな他愛もない会話でも、心臓の鼓動が早くなってるのに、
忍足は、いつもの屈託のない笑顔
自分の席、私のすぐ前の席に後ろ向きに座って、次の授業の宿題をしている私の手元を見てる

「あ、そこ公式違うで」
「え? どこ?」
「二行目。それ面積の公式。これ体積求める問題やろ」

ノートに直接指差す、男の子の手
触れるんじゃないかと思って、シャーペンを持つ手を引いてしまった

「ああ、そうか、いけない」
そう言って、慌てた振りをした
は理数系ダメやな」
忍足は、茶化すようにそう笑った
その顔が眩しくて目を細めそうになったけれど、軽く睨んで、またごまかした


ごまかしてばかり

意識し始めたのって、いつからだっけ?


あんまり明確じゃない
だって、友達やってるうちに、あれ? これは……って気付き始めたから
ああ、でもあれは決定打だったな

いつだったかの、テニス部の練習試合
いつもだったら準レギュラーでやるはずなのに、その試合は珍しく、皆レギュラーだった
あんまりテニス詳しくないからわからなかったけれど、けっこう強豪だったらしい
ちょうど委員会の仕事で、休みなのに学校に行っていた私は、テニスコート覗いてみたんだ

ダブルスの試合がやってて、

その時の、クラスではあまり見ないほどの、真剣な顔をした忍足に、

これは惚れたんだって、完全に意識してしまったんだ。


「うん、これで宿題セーフ」
次の授業の宿題を休み時間ギリギリで終えると、自然と溜め息が零れる
「もっとはよやりゃいいのに」
少し呆れながら、忍足
「そういう忍足だって、一時間目に内職してたじゃん」
知ってるよ、と言うと、少し驚いたように忍足は目を瞬かせた
「なんで知ってるんよ!?」
「え、だって……」

しまった、墓穴掘った
まさかずっと見てたなんて言えないし
それはいくら友達だからって、さすがに気味悪いよ
ええと、何て言えばいいかな

「プリント配った時に、ちらっと見えたの」
忍足は私の前の席だから、プリント配る時は、必然的に後ろの席、つまり私に振り向くわけで、
その時に少し見えたのならば、不自然じゃない、よね?
「歴史の時間に、数学の教科書広げてたら、さすがに気付くよ?」
やばい、少し顔が熱くなってきた
平然と、平然としてなきゃ
忍足はあちゃー、と頭を抱え込んでた
に気付かれるようやったら、小林(歴史教師)にもバレてるな」
「多分ね」
ご愁傷様、そう言って、手を合わせた


教室に、ガラガラって先生が入ってきて、各々が席につき始めた
忍足も、私に手を振って、前を向いた
起立、礼、着席
さっき急いで宿題したところから、授業が始まる


いっそのこと、打ち明けてしまった方が楽になるんじゃないかと、時々思うことがある
だってこんな片思い、辛いもの
でも、それは出来ないでいる
今の関係崩したくないし

友達に告白されるのって、どうなのかな
知り合い程度だったら、まだ何とかなるよね
でもさ、お互い知りすぎてる
女とか男とか超えた関係になってしまっているから(月の一度のアレだって言ったことあるし)(忍足も下ネタ言ってたことあったし)


数学は単元の復習とかで、プリントが配られた
忍足はいつものように、振り返ってプリントを私のほうに配る

その時、プリントの上に、ルーズリーフが乗っていることに、すぐに気付いた
手紙かな
とりあえず、そのルーズリーフだけ除けて、プリントを後ろに配った


『もうそろそろお互い下手な芝居するのもやめにせんか



俺はのこと、気になって仕方ないんやけど』


ルーズリーフには、忍足の丁寧な字で、そう書いてあった

混乱してしまって、驚いてしまって、慌てて忍足の方を見上げてしまった
もちろん授業中、忍足は、きちんと前を向いて、多分何食わぬ顔をして、ノートをとっているに違いない
忍足の背中は、そんな様子を思い浮かべてしまうくらい、何も語っていない

でも、
この文字たちは、そんな忍足の代わりに、しっかりと私に囁いている

そっか、私、下手だったかな
忍足も、下手だったのかな
私は、自分のことばかり気にしてしまって、ちっとも忍足の芝居なんて気付かなかった

忍足は、自分のことも、私のことも、知っていたんだね


顔が、熱くなってきてしまった
まだ授業だって終わってないのに、ドキドキしてくる

振り向いたら、言いたいことがたくさんあるのに
今まで言えなかったこととか、たくさんあるのに

でも、それは、きっと、ゆっくり話せばいいことなんだろうけれど、

でも、

今すぐ伝えたいことがある


ドキドキする

早く、授業が終わればいい

そうしたら、真っ先に伝えたいことがあるの


早く、いつもみたいに、「」って、


そう、いつもみたいに、



振り返れ









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