例えば、何処かへ消えてしまったら、
きっと、この日は祝えない。
いつも何処かへ消えてしまいそうな少年を見て、
私はいつも不安になってしまうのだから。
誕 生 日 - 花 が 咲 く ま で -
「さ……幸村」
私が彼を呼び止めたのは、ちょうど学期末テストの終わった、週末の放課後で
幸村は私の呼び止めに、少し苦笑しながら振り返った
「、一年間同じクラスで、まだ覚えてくれてないのか?」
「いや、一度間違えるとクセになっちゃって、さ、ごめん」
私と幸村は、この一年間同じクラスだった
全国制覇をしたテニス部の来年度部長と、帰宅部の私は接点というものがなく、
それまでは別段、単なるクラスメイトだったんだけど、二学期の半ばくらいに、席替えで隣になった
「よろしく」って、幸村は私の名前をちゃんと覚えていてくれたのに、私は酷い間違えをしてしまった
『よろしく、サチムラ』
本当、今思い出しても、穴があったら入りたい
日直の時など、名簿を見る時に名前は見てたけれど、『幸』を読み間違えるなんて
第一『サ』と『ユ』では、名簿番号も全然違うのに、私は迷うことなく『サチムラ』と覚えていた
それを聞いた時の幸村は、どんな気持ちだったんだろう
でも、幸村はそんな間違いをしたと知らない私に、小さく笑いながら返した
『ユキムラだよ』
それから何の笑いのつぼにハマったのかわからないほど、笑って、
でも名前間違えた私を、怒るどころか笑ってくれたのが、きっと彼の優しさなんだろうけれど
『、面白いな』
って、涙目になりながら、頭をポンポンと撫でられた
いきなり男子に頭を撫でられるなんてビックリしたけれど、酷いことをした私に拒否権はなく、
彼の笑いが収まってから、すごい勢いで謝った
それでも幸村は寛容に許してくれて、
それからは、席替えがあっても仲良くなった
「それで、何だっけ?」
「ああ、そうそう」
名前のこととなると、どうにも過去の過ちで恥ずかしくなってしまって、用件を忘れてた
「幸村、改めて誕生日おめでとう」
「ありがとう」
学期末テストが終わったこの日は、幸村の誕生日だった
テスト最終日ということもあってか、クラス皆で誕生日を祝った
ホームルームの前には、一年の子(確かテニス部の、髪のウネウネした子)も来たし
「お納めください」
取り出したのは、よく花屋で見るような、種の入った袋
いや、いろいろと悩んだんだよ
女子の友達だったら別段悩まないんだけど、男子って何あげたらいいのかわかんない
お菓子とか作ってあげたらよかったかもしれないけど、得意じゃないし
テニスのこと詳しくないから、下手にテニス関連のものとかあげられないし
「ガーデニング、趣味だったよね」
「覚えてたんだ」
「覚えてるよ」
そんな、記憶力が全くないみたいに……(そりゃ幸村みたいに頭良くないけど)
ごめんね、名前は間違って、と、少しいじける
幸村は、よくクラスの花とか気にかけてる
テニスとか忙しいだろうに、花の水を替えてることも多い
話をする時も、植物のことが話題になることが多かったから、母親のガーデニングのことを話すと、
『俺もガーデニングするよ』と、わりと好評だった
「何の種?」
「よくわかんない、お店の人に勧められて買ったから
あ、でもね、ハーブだって言ってた
花も咲くみたい」
「ハーブか、楽しみだな」
私から種を受け取ると、目を細めてそれを見ている
その顔を見ていると、どんなに大人びている彼も、やはり私と同い年なんだなと、改めて感じた
テニス部でもきっとそうなのだろうけれど、クラスでの幸村も、他の男子と比べるとやっぱり大人びていた
もともと優しい性分なのだろうけれど、話し方とか仕草とか対応の仕方とか、どこか同い年とは思えないところがあるんだ
だから、今のような顔を見ると、どこかほっとしてしまう
幸村は、ちゃんと中学生の顔をしているって
大人びていることが、無理をしているとは思わないけれど、それだけでは疲れてしまわないか、時々心配になるから
「最近、幸村って疲れてる顔してるから
その花で疲れを癒しなよ」
そう言うと、幸村は少し驚いたような、きょとんとした顔で私を見た
そういう顔すると、本当、女の子みたい
失礼だから、言わないけれど
「疲れた顔してるかな?」
「うん、なんとなく。この前から思ってたんだけど」
学期末だからかな
テストもあったし、テニス部って練習量ハンパじゃないって聞くし
前よりも、少し線が細くなったような気がする
幸村は少し考えた風にしていたけれど、やがてまた穏やかな顔で種の袋を見ていた
「そうか、じゃあ早く育てないと」
そう言った顔は笑っていたけれど、目が笑っていなかったのに、私は気付いてしまった
その理由は、後からわかるようになる
「どんな花咲くんだろうね」
ハーブって言うから、ラベンダーみたいなのかな
あれラベンダーって花だよね、あれ
そんなことを考えていたら、幸村はいつもと少し違う、少し真剣な目で、私に笑いかけてきた
「それはもちろん、も一緒に見るだろ?」
うん、知ってるよ
幸村って、穏やかで優しくて、大人っぽいから忘れがちだけど、やっぱり男の子なんだってこと
性格だって、誰よりも男っぽいことも
有無を言わせぬその笑顔に、私はもちろん、首を縦に振った
「楽しみだね」
両面性って言うのかな
その笑った顔は同い年だってちゃんとわからせてくれるのに、
頷いてしまうような重圧も兼ね備えていて
顔が熱くなるのがわかった
その言葉と笑顔は、
反則です。
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