これは、一体?
私は、目の前の光景に、軽い眩暈を覚えた。
プ レ イ ス テ ー シ ョ ン 2 - 冷 凍 庫 み た い な 君 の 部 屋 -
「…………結人」
「あー、」
「うん、来たんだけど」
「おー」
「…………」
一体? え、
何様
結人さま?
とりあえず、結人の部屋を見回す
サッカーの練習から帰ってきたままのカバン、
脱ぎ散らかした服、
あ、グラビア写真集……せめて隠しといてよ、
とにかく、……散らかってる。
そして、何より……
「何なの、この冷えっぷりは」
「涼しくていいだろ」
冷凍庫並みに冷えた、空気
その中で結人は、私なんか見向きもしないで、テレビにかじりついていた。
手には黒い機械から伸びたコントローラー
アクションゲームかな、それに夢中だ
え、私、来たんですけど
君の「サッカー久々に休みだからさ、遊びん来る?」っていう電話に、来たんですけど
「結人」
「……ち、強えなコイツ」
「結人」
「お、救急道具」
「……」
まさか、プレステ2に嫉妬するようなことになろうとは、夢にも思わなかった
人差し指に、少しだけ力が入った
この指さえ少し動かしちゃえば、『あの子』は止まってしまう
でも、そんなことして、些細なことで喧嘩したくないし
そう、これは些細なこと
結人が私のことなんて放っておいて、プレステのゲームにかまけてるなんて、些細なこと
とにかく、
私はリモコンを探した
テレビの、ではない
この異様なまでに冷え切った空気の中に、ずっと居られなんてしない
お、ベッドの上のアレは、そうかな?
表示を見て、愕然としたと同時に、どこか納得してしまった
小声で、呟く
「冷房16℃……風速最大……」
ふたつの納得、
だからこんな冷凍庫みたいな空気なのかってのと、さすが結人の部屋っていう、ふたつの納得
ピピピピピピッ、ピピピッ
とりあえず、25℃くらいまで上げた、あと風速も自動に直して
これで幾分かは、涼しい程度になるかもしれない
結人は、まだゲームに夢中
あんなにテレビに近づいて
電磁波にやられても知らないよー
いつも一緒にいるっていう、一馬くんと英士くんを、少しだけ尊敬した
結人のきらきらした顔と明るい声から出てきた、幼なじみにして親友の、二人の男の子の名前
ずっと、結人と一緒にいた人
それに比べたら、私なんて短い付き合いだな
中学からだし
ちゃんと付き合いだしてから、1年も経ってない
それまでは、『クラスの明るい若菜くん』しか知らなかった
私は、結人のどれくらいを知っているというのだろうか
だからって、冷凍庫の部屋を認めてしまうわけではないけれど
だけど、
結人の横顔と、明るい光を放つテレビを見ながら、何かがストンと心に落ちた
そっか
これで一つ、また私は結人を知ったんだ
こんな一面の結人を、私は知ることができたんだ
そう思うと、構ってくれないのは不満だけど、少し感謝
「結人っ!」
少し嬉しくなって、だけどもう我慢できなくなって、私は大きな声で彼を呼んだ
結人はゲームを止めないまま、不機嫌そうな顔をこちらに向ける
「なんだよ」
「なんだよって、一応呼ばれてきたんですけどねっ!」
構って、とは、口に出して言えない
けど、遠まわしに少し伝えたい
「だから、もう少しなんだよ」
「クリアするのが?」
「そ、」
そしてまた、結人はゲーム画面に顔を戻してしまう
指が器用に動く
サッカーしてる足も器用だと思うけど、ゲームしてるその、少しゴツゴツし始めてきた指も、えらい器用
「そしたら二人でできるだろ?」
「はい?」
「クリアしたらイージーモード出んの、これ」
ピコピコ
それは、私がアクションゲーム下手だと、知っていて?
「来るまでに出すつもりだったんだけどよ」
顔は変わらず、真剣にゲームに取り組んでる
だけど、声が、
声が、少し申し訳なさそうに、どこか愛しくなる響きだった
結人だって、アクションゲーム、あんまりしないくせに
RPGだと、二人であまり楽しめないから?
ああ、
愛しいなあ……
自分のコウフクを思って、私は真剣にテレビを向いている結人の顔を見つめた
嬉しくて、口元が少し動いてしまうのが、自分でわかった
「……見てていい?」
「も少しだからな」
「うん」
それにしても、冷凍庫みたいな君の部屋
……きった方がよかったかな、冷房……
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