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その後一応の自己紹介を終えた彼女たちは、激しい演習の後であったため巽テクノドームの誇る温泉で汗を流している。 服も替えなくてはならないだろう。 精神的にタフなのかそれほどの混乱も見せず、どちらかといえば落ち着いていると言える。 だが、自分の置かれた状況を完全に認識したというわけでも無いようだった。 「確かに異次元というか、平行世界理論ってやつは頭の悪い俺もなんとかおぼろげに理解しているつもりさ。でもさすがに今回のはちょっと驚いたね」 「太正時代。蒸気と魔術が混在する日本。時代が多少ずれていて、世界を構成する法則が多少異なる。それだけのことじゃないかねジュンペイ君」 「科学者がそんな軽い認識でもいいのかい」 「確かに、魔術が確立された技術として存在する世界からの来訪者ははじめてだがね。なにしろ異次元だ。さきほども格納庫で言ったが、どこにどんな世界があるかはわからんよ。むしろそういった未知の世界の技術との出会いは科学者としては歓迎すべきなのだとわたしは思う。積み重ねた常識を覆されることを嫌う者もいるだろうが、世の中全てを知り尽くしてしまってもつまらないからね。君の祖父や父上もそう思うのではないかな」 「親父はともかく、じっちゃんはそう言うだろうな」 ジュンペイの祖父はキカイオーを孫に託して死んだ。 両親もキカイオーのシステムをつかさどる中枢である超物質オリハルコン合金の開発の中、事故によって死去している。 キカイオーだけが彼にとっての形見であった。 今二人は巽テクノドームに大小いくつもある会議室の一つにいた。 一番大きな会議室は各種設備も充実しており機能的に優れているが、あまりに大きくても実は使い辛い。 多くても集まるのは10人程度というものがもっとも使いやすいのだ。 「女性の入浴時間の長さを考えてもそろそろやってくる頃かな?」 巽博士が時計を覗くのと同時にドアをノックする音がした。 さすがに年頃の娘のいる父親である。 「失礼します」 女子高の制服を着込んだ少女が異世界から来訪したばかりの三人、真宮寺さくら、神崎すみれ、李紅蘭を連れて姿を見せた。 こうして見ると、三人はほぼ同じような背格好である。 使いの少女はやや背が高かった。 「レイカ君ごくろうさま」 「それではわたしは失礼します」 「うむ、ディアナ17の修理も急がせるからもう少し我慢していてくれ」 「わかりました」 レイカと呼ばれた少女は丁寧なおじぎを残して会議室を辞去していった。 「ちょっとええかな」 「なにかね、ええと李君だったかな」 「紅蘭でええよ。李君やなんてなんだかこそばゆいわ。さっきの娘やけど・・・」 「天宮レイカさんのことかい」 「そやそや、あの娘もなにかロボのパイロットなん?」 「そうさ、格納庫で姉ちゃんも見たろう。機鋼天使ディアナ17のパイロットだ。見た通り、いいとこのお嬢様でもあるんだぜ」 「へえ、すみれはんと同じやん。でもええなあ。あんなのに乗ってみたいわ」 「残念だが、ディアナ17は修理中なんだ。情けない事だが今動かせるのはここにいるジュンペイ君のキカイオーだけなのだよ。つい先ほどまでツインザムVも健在だったのだが、ガムダの襲来で小破してしまった。ツインザムの場合、機体よりもパイロットの怪我の方が心配なのだがね・・・」 「それは本当に残念やな」 「それよりも皆、座ってくれたまえ」 通常会議室というのはテーブルを囲むように椅子が配置され外見よりも機能が重視されるが、この部屋では低いテーブルをソファが挟むという応接室に近い作りになっていた。 カーテンや絨毯などの調度も整っており、会議室特有のいごこちの悪さが無かった。 テーブルを挟んでジュンペイ、巽博士。 反対側のソファにさくら、すみれ、紅蘭が落ち着いた。 「まず、これを見てほしい」 巽博士はテーブルの端にあるパネルを開くと、中にあった小型のコンソールの操作を始めた。 するとテーブル横の壁の一部が明滅し、すうっと鮮明な画像があらわれる。 「わあ、ごっついなあ。総天然色型画面や。しかもこれほどデカいのが普通に設置されとるなんて、こらやっぱ異次元なんやな」 おとなしいすみれとさくらとは対照的に紅蘭はやたらと元気だった。 はじめて目の当たりにする異次元の科学力に興奮が隠せない様子だ。 二人の方はこの画面がすごそうなことはなんとなくわかるものの、なにがどうすごいのかまで理解できないらしい。 巽博士が更にコンソールをいじくると、だだっぴろい荒野で争うふたつの人影が映し出された。 だが、それは人というには無骨すぎる。 黒い太い腕の人型機械兵器と石作りにしか見えない無理に人型にこじつけたような兵器との激しい闘いの映像だった。 「これが、なんなんですの」 「まあ、もう少し見てみてくれたまえ」 やがて闘いは石作りの兵器の逃走で終わりを迎えた。 「ここで、視点をキカイオーのメインカメラに切り替える」 巽博士の操作で画面がきりかわった。 高い位置から見下ろすような視点だ。 「うわ、これあのロボから見た映像かいな!?こんなことまで出来るんか。ええなあ、欲しいなあ」 画面は横たわる二機体へ歩み寄っていく。 やがてそこに紫、桃色、緑の鉄の塊が映し出された。 「あ・・・」 いままで黙っていたさくらが声をあげた。 「わたしたちの光武だわ」 「そう、これが君達だ。君達は我々の闘いの最中、こうやって現れたのだよ。覚えてはいないかね」 だが、三人は一様に首を振った。 回収した時は意識がなかったからやむをえないかもしれない。 「それではその前でいい。おそらく君達はこの世界に飛ばされてくる前になにかがあったはずなのだ」 「そういえば・・・演習中にいきなりかえでさんが怒りだして、なんかすごく卑猥なことを言われたような気が・・・」 「卑猥??」 「そやそや、さくらはんとすみれはんが喧嘩するやさかい、かえではんが切れはったんや。いや〜〜あれはごっつかったで、かえではんって海軍の指導教官あがりなんかいな」 「すると紅蘭はかえでさんがこの世界に送り込んだというんですの」 「いやいや、まさかな〜。そりゃ姉のあやめはんが実は天使やったっちゅーどんでんがえしやから、かえではんにこんなことができてもおかしゅーないかもしれへんけど」 「待って待って!確かあの時、いきなり天気が悪くなってきて、雷が落ちたんじゃなかった?」 そこで三人の意見が初めて揃ったようだった。 「おそらくそれだな。それは実は雷のようで雷ではないものだったのだ」 きょとんとする三人に巽博士は推論を述べた。 一時的に空間が異常な歪みを見せ、それが空間の補修作用が加わることによって限定区域が通常の世界法則の一切通用しない一種のブラックホールと化した。 そこを通り抜けてさくらたち三人はこの世界に現れたという。 「なんですかそれ、そんなことが現実に起きるなんて信じられません!」 「そう考えるのは無理もないことだと思う。だがこれは現実なのだ。この世界では君達のようにして現れた異世界からの来訪者が他にも存在する。我々の間ではこの現象を「神々のきまぐれ」と呼んでいるがね」 「他・・・にも?」 「そうだ。たとえば先ほどの天宮レイカ君もそうだし、他ではナカト君もそうだ」 ここに至ってようやくさくらたちは事の重大さに気がついた。 神だか天使だか知らないが、きまぐれが起こした現象であるならば、それの意味する所は明白だった。 「ちょっとお待ちになって。するとわたくしたちはこの世界から帰れないというのですか!」 「それはわからん。きまぐれとは言ってもこの世界に迷い込む人間には一定の共通点があるのだ」 「共通点?」 「そう、レイカ君とディアナ17、ナカト君とディクセンS型、そして君達。必ず戦士が兵器を伴ってやってくる。これが意味するのは・・・」 むずかしい説明は全て黙って博士に任せていたジュンペイが、ここで初めて口を挟んだ。 「誰の意志かなんてどうでもいいこった。あんたたちはこの世界へ戦うためにやってきたんだ」 会議室が静寂に包み込まれた。 あるいは、この少女たちもうすうす感づいていたのかもしれない。 その表情は皆、なにか重いものを背負わされたような、そんなものだった。 「闘うって言ったって。誰とですの、わたくしたちとは関係ないでしょう?」 「先ほどの映像を見たろう?あのような敵が地球にたびたび現れている。その名はゴルディバス軍!」 ゴルディバス、魔神大帝ゴルディバス。 それは全てを破壊するもの。 世界の破壊者。 ゴルディバスは種を蒔く。 種は文明となって成長し、ゴルディバスはそれを刈り取る。 人々の恐怖と死を食らい生きる悪夢そのもの。 ゴルディバスがいつどこで生まれたのかは誰にもわからない。 しかしゴルディバスはかつていくつもの文明を滅ぼしてきた。 ゴルディバスは実在するが、どこにもいないし、同時にどこにでもいる。 あらゆる次空間に潜み、いつか食らうために観察しているのだ。 「あんたらの世界ではゴルディバスとは闘っていないのかい」 すみれはその問に無言で応えた。 「でもな、ゴルディバスはどの世界にもいるんだぜ。今はいなくてもじきに現れる。やつは全ての人類にとって天敵なんだ」 「そうなんだ。やつはどの世界にも同時に存在するらしい。いつか来るべき日のためにも君達が闘うのは無駄ではない」 「でも、わたしたちの光武は小さすぎます!あんな化け物にどうやって戦えというんですか?」 「闘いなんてもんは根性さえあれば出来るさ」 「それで、わたくしたちは闘えば元の世界へ帰れるというのですの?」 「あるいはそうかもしれない」 「それはどういう意味です?」 「もうここにはいないが、以前にこの世界にサイモンとアムリッタというパイロットがラファーガという兵器とともにやってきたことがある」 それは以前に来襲したゴルディバスの手先、異次元生物クヴァールとの闘いの最中だった。 クヴァールには脚が無く空を浮遊して攻撃してくるためにキカイオーやツインザムは非常に苦戦を強いられた。 その時に現れたのがサイモンとアムリッタの駆る二機のラファーガだった。 ラファーガはその形態を三種に変える汎用兵器で、特に空中戦を得意にしており、その援護によって地上に叩きつけられたクヴァールにツインザムがとどめを刺したのである。 闘いの後、この世界での役目終えたのか二機のラファーガは姿を消していたのだった。 さくらたちはそれを神妙なおももちで聞いていたが、すみれが至極当然な疑問を呈した。 「それでそのサイモンという方々が元の世界に戻ったという保証はありますの?」 そうである。 この世界からきえた所で、どこに飛んでいくのかはわからないのではないか。 「それは大丈夫だ。この世界では平行世界理論の解析が進んでいる。空間には復元作用というものがあるのだ」 結局の所その世界で生まれたものはその世界の所有物であり、失ったものを取り戻そうとする。 その作用が元の世界へ送り帰すのだという。 「君達の世界ではまだゴルディバスとは闘っていないと言ったね。今もこの世界に残るレイカ君やナカト君の世界ではゴルディバスと戦っていたそうだ。だが、サイモン君の世界ではまだゴルディバスは現れていないらしい。わたしは君達のケースもこのサイモン君の時と同じだと思うのだよ」 「でもそれじゃ、レイカさんの世界はどうなるん?ゴルディバスが攻めてきよるんやろ」 「いや、ゴルディバスは全ての平行世界に存在し、同時に1人しかいないのだ。この世界を攻めているのならば、他の世界では安泰となる。だが、この世界が敗北してしまえばその限りではない」 「・・・なんか微妙に都合の良い話ですわね」 「それは確かにそうだ。だから我々はこの現象を「神々のきまぐれ」と呼ぶのだ」 話は全て終わった。 あとは決断するだけだった。 戦うのか、戦わないのか。 結局三人は返答を保留した。 戦うにしてもあの巨大なガムダに対して光武でどう戦うのか。 それが最大の問題であった。 ジュンペイと巽博士は三人が去った後の会議室に残って今後の対策を考えていた。 「どうかな博士。あの姉ちゃんたちは戦ってくれるかな」 「わたしは期待しているよ。迷いの色は見えたが、わたしはあの娘たちの瞳の中に君やレイカ君や空君、大地君と同じものを見たような気がするよ」 「なんだよそりゃ」 「邪悪と戦う正義の光さ」 「・・・くせぇこといってんなよ博士」 だが、それはジュンペイも同じく感じたものであった。 この荒廃した世界の人類最後の希望、巽テクノドームはだがしかし快適な居住性が確保されていた。 さくらたち三人は彼女たちの居室が準備されるまで、ドームの上部にあるサロンで一息ついていた。 このサロンもかなり広々として居心地が良いものだった。 少なくともすみれが愛用する大帝国劇場のサロンよりも、快適さでは上といえるものだ。 「これがウチたちよりももっと未来の世界なんやなあ。すみれはんたちには悪い思うけど、ウチは感激でたまらんわ」 「ふう、紅蘭はいいわよね。未知の技術に触れられてしあわせそうだもの」 「実際しあわせやもん。大神はんのいない帝都には正直少し退屈しとったやさかいにな」 「すみれさんはどうです?」 さくらとすみれは大体同じような表情であった。 紅蘭ほど楽観的にはなれそうもなかった。 「わたくしですか・・・。そうですわね、この世界の衣装も悪くはないですわね」 ドームの女性から借りたすみれは紫のタイトミニにやはり紫のコートを羽織り、黒のストッキングといういでたちだった。 ドームの女性には「黒いLOVEマシーン」と言われたが、なんのことかはわからない。 さくらはTシャツの上にデニムのジャケット、Gパン。 紅蘭は元の太正の時代でも着ていたような飾り気の無いつなぎだった。 こういうものはいつの時代でもたいして変わらないものであるらしい。 さくらは溜め息をついた。 「そういうことじゃなくて、戦うのかどうかですよ」 「この世界の人たちに義理は無いのですけれどもね」 「ゴルディバスって悪ですよね。悪と戦うのが帝国華撃団だと思うんですよ」 「そういう単純な理屈はわたくしにだってわかっていますわ。でも、なにか引き金になるようなものがないと、漠然とした闘いには赴けませんわね」 二人が悩むのも無理は無かった。 異次元に転移してしまうという非現実な状況の上に、彼女たちは当のゴルディバスもガムダさえも目の当たりにしていないのである。 拳を振りあげるにしても、どこへ下ろせばいいのかがわからないのだ。 「うちはやってもええで。そのかわり、この世界の技術を見られるだけ見せてもらうけどな。きっと光武のパワーアップにも貢献できるはずや。フランスの光武Fの助けにもなれるかもしれへん」 「それだってちゃんと帰れたらの話でしょう?」 「そらそうやけど、悩んだとこでしゃーないやん」 「ところで紅蘭、さっきからなにを読んでいるの?」 紅蘭が膝に乗せて読んでいるのは本では無い。 この世界では既にペーパーレスが実現されているのだろう。 B5のノートサイズの薄い携帯端末に画面がついており、そこに書かれている情報を彼女は読んでいる。 操作も画面上のアイコンで行うようで、直接画面に触れてページをめくっているらしかった。 紅蘭は平気で読んでいるが、さくらとすみれはその操作さえよく理解できず、彼女を奇特なものを見る目で見ていた。 「ん?さっき博士に借りたんや。超物質オリハルコン合金の理論について書いてあるんやけど、これかなり斬新でおもしろい概念やね」 「そんなもの理解できるんですの?」 「細かいことはわからへんよ。でもこれ概論やし、システムの理念はようわかるねん。あとで整備にも顔出してみるつもりや」 「そんな、機密でしょうに易々と見せてくれるのかしら」 「そのへんは平気や。この世界のために戦うのに、それくらいの代償はもらったかてバチはあたらへんよ」 「あ、そう」 その時サロンへ松葉杖をついて、あぶなかしくふらつく少女がやってきた。 さくらたちよりもずっと幼いかんじだが、背丈は少し小さいくらいである。 後で聞いてみたら11才ということだった。 そのわりにはかなり大人びた雰囲気だ。 眼鏡はかけていないが、紅蘭と同じように長い髪をふたつに結っている。 「あ、いたいた!お姉ちゃんたちが新しく来た人たちでしょ?」 どうやら少女はさくらたちを探してドームの中を歩きまわっていたらしい。 杖をつきながらでは、それだけでも楽な作業では無かっただろう。 やや広い額には空調が働いているのにも関わらず、滲み出る汗が光っていた。 「そうですけどあなたは?」 すみれが素早く駆け寄って少女を支えてソファまで促した。 脚にはめられたギプスが痛々しい。 「あたしはユメノ空。あたしもツインザムVのパイロットなの」 「ん、ツインザムVっつーとさっきのあの赤と青のロボのことかいな?」 「うん、そう」 「なんや、人類最後の砦ちゅーのはこんな小さなコまで使って闘っとるんかいな」 「だってツインザムを操れるのはわたしと弟の大地だけなんだもの。ついさっき負けちゃってしばらくリタイヤなんだけどね」 空は笑おうととしたようだが、それはうまくいっていなかった。 「それでわたしのかわりにお姉ちゃんたちに戦って欲しくて、お願いに来たの。まだお姉ちゃんたちどうするのか迷ってるみたいだから」 さくらとすみれは顔を見合わせた。 いまもその話題で相談していたところだった。 「でもわたしたちが役に立てるのかどうか・・・自信なんか無いのよ。第一、あなたたちの機体とわたしたちの光武でも大きさが全然違うでしょう?」 「あの機体光武っていうんだ?漢字の名前なんて、なんかかっこいいね。ゴルディバス軍にも轟雷っていうのがいるけど。確かに小さいかもしれないけど、でも3機もいるじゃないですか」 「う〜ん・・・」 「要はチームワークだと思うんです。今までこのドームの人たちはそうやって戦ってきたんですから」 さくらもすみれも実はそのチームワークにいまいち自信が無かったのである。 この世界に飛ばされる直前の演習で、その悪さを露呈してしまったばかりだった。 二人の脳裏にはずっとそれがひっかかっていたのである。 「せめてここに来たのがマリアさんにカンナさんだったら・・・」 「そうですわね。親友同士ですもの、きっとうまくやると思いますわ」 二人はそれが結局自分たちがマリアやカンナに劣ることを無意識に肯定しているようなものであったことに気がついていない。 はためで見ている紅蘭には分かっていたが、あえて指摘することは避けていた。 「お姉ちゃんたちは、もとの世界では頑張って戦っているんでしょう?どうしてそれと同じように出来ないの?」 「そう言われましても、ねえ」 「力にはなりたいのよ、でも自信が・・・」 煮えきらない二人の様子に、空の顔には落胆の色が見えた。 「だいじょーぶ、ウチはやるで。どれほど助けが出来るかわからへんけど、あのキカイオーちゅージュンペイはんのロボの援護射撃くらいはできるやろ」 「本当!えーと」 「紅蘭や」 「ありがとう!紅蘭のお姉ちゃん!」 とりあえず紅蘭の言質をとって機嫌をを良くした空は、まっすぐにさくらとすみれの瞳を見つめてきた。 小さい子供特有の邪気の無い澄んだ瞳。 さくらやすみれならずとも、誰しもこの視線には弱いものだ。 二人はバツの悪さを隠せなかった。 「なあ空はん、ツインザムVのパイロットてゆーたよな」 「ええ、そうですよ」 「あれはどないして作ったん?」 「それはよくわからないんです」 「わからへんて、どないなことや」 「いつもわたしと大地が夢で見ていたロボが、突然本物になって現れたんですよ。だから仕組みとかわたしもよく分からないし、超合金夢幻Vっていう金属で出来ているらしいんですけど、他に類を見ない特殊な金属みたいです」 「へえ、そらすごいなあ。でも確か二機で一機ちゅう機体やった思うけど」 「そうですよ。わたしが青の二号機、大地が赤の一号機のパイロットです」 「その大地君はどないしてるんや」 空は表情を曇らせた。 「さっきのガムダとの闘いで、わたしよりももっと重傷で入院してます。死にはしないそうなんですけど・・・」 「そやったか、それは悪いこと聞いてもーたな」 「いえ、いいんです。だから今戦えるのはジュンペイお兄ちゃんとお姉ちゃんたちだけなんです。それにジュンペイお兄ちゃんも平気にしてるけどさっき怪我してたみたいだったし、みんな無理してるんです・・・」 「そうなんやろうね、厳しそうな闘いやさかい」 実際このドームでは会う人会う人がことごとく疲れているように見えた。 そして無理しているようにも。 いまのほほんとしているのは、ここにいる三人だけだったといっても過言ではなかった。 「ね、ねえ、空ちゃんのいた世界のことを教えて欲しいな」 重苦しい空気に困ったさくらが、そう聞いた。 だが、その問に対する空の回答はシンプルだったが、それほど軽い内容ではありえなかった。 「もう、無いよ」 一瞬さくらとすみれは空が言った言葉の意味を理解できなかった。 「ゴルディバス軍に滅ぼされて、わたしたちの世界で今生き残っているのはわたしと大地の二人だけなの」 「そ、そんな!」 「ゴルディバスってこうやって、一つずつ世界を滅ぼしていくんだって、巽博士が言ってたよ。最後に残ったわたしたちは、まだ闘いたい、ゴルディバスに負けたくない、そう強く願っていたら、ツインザムがこの世界に連れてきてくれたの」 「それじゃ、もしゴルディバスに勝っても帰る世界は・・・」 それはあるいは聞いてはきけない質問だったのかもしれない。 だがさくらはそれを押し止めることが出来なかった。 「うん、無いの。全て終わったら巽博士の養子になるんだ。それまではまだ、ユメノ空よ」 その時館内放送で空を呼ぶ声が流れた。 「あ、大地だわ、きっと。それじゃお姉ちゃんまたね!もっと考えてみてね」 空はさくらの助力を断り、一人でメディカルブロックへと松葉杖をついて歩いていった。 その小さい背中を見えなくなるまで見送っていた三人は、だがしかし子供にあるまじき覚悟をその背中に見たような気がした。 「強い子やな」 「そうですわね・・・」 「あれ見てもまだやらないゆーんや、ないやろな?」 紅蘭は二人を睨みつけた。 「ちょっと待って、ひょっとして紅蘭は全部知ってたんでしょう!?」 「そーや。実はこの端末で大体のことはもう調べてあってん」 「知ってて、こういう話題になるように誘導したのね?」 紅蘭は応えるかわりに、ぺろっと舌を出した。 彼女はわざと二人をたきつけたのだ。 「わかりましたわ!やりますわよ、やればいいんでしょう!」 「ありがたいなあ。いくらなんでもウチ一人じゃ心細いもんな。三人きっちり心合わせればなんとかなるわ、きっと」 「わたし・・・自分が情けない。なんだか人間として空ちゃんに負けてるような気がする。本当は弟さんの看病をしたかったはずなのに」 「それだけウチらの戦力が重要てことや」 「わたくしは負けません!やるからには勝ちます!」 「・・・そうですね!」 堅く右手を握りあうさくらとすみれ。 元の世界でこじれたチームワークが、こうして異世界で修復された。 まるで、そのためにこの世界に来たかのようだった。 「そうと決まれば、ウチは光武を整備せなあかんな。久々に腕が鳴るで!」 その頃巽博士は呼び出しを受けて作戦司令部に足を運んでいた。 重傷だった大地の症状が安定してきたのでほっとしていた所である。 「どうしたのかね、ナカト君。なにかわかったのかね?」 「ええ博士、これを見てください」 ナカトは天宮レイカのディアナ17と同様に修理中の機体ディクセンS型のパイロットである。 彼は自ら討って出られない状況に耐えられず、なんとか対ガムダの突破口を探るべく司令部にこもっていた。 彼が巽博士に見せたのは、さきほど博士自身がさくらたちに見せたのと同じ映像だった。 「不死身のガムダか。ひょっとして不死身のカラクリが分かったのかね」 「いえ、それはまだ。少し気になったことがあったので報告しようと思いまして。この際どんな些細なことでも重要であると・・・」 「その通りだよ、ナカト君。それで気になる事というのはなんだね?」 「もう一度最初から見てください」 ナカトはコンソールを操作し、かの闘いの映像を繰り返した。 「これがどうかしたかね?なにもわからんのだが」 「そう、わからないんですよ」 「どういうことかね」 「いままで次空を越えて機体が現れる時には必ず前触れのようなことがありましたよね」 「・・・そうだな。空間にかかる負荷が特異な現象を引き起こしていた。君の時はものすごい嵐が吹いたぞ」 「ですよね。でも今回彼女たちが出現したというのに、なにもそういうことが無いんです」 「・・・!そういえば、そうだ。だがそれがどういう意味を持つのだろうか」 巽博士はふさふさの顎髭をいじくりまわした。 これは博士がなにか重要な事変について考察するときの癖だった。 一見たあいの無いことのようだったが、博士はこの事実に重大な秘密が隠れているような気がしたのだ。 これは科学者としての勘であるが、これまで彼はこの類の勘を外したことは無かった。 「・・・どのタイミングで彼女たちが出現したのかが問題だな」 「ボクもそう思いました。彼女たちは最終的にはツインザムの近くに倒れていましたが、ボクの推測ではここです!」 ナカトが映像を止めたのは、キカイオーが必殺の覇王雷鳴斬をガムダに叩き込んだ場面であった。 全身石造りのガムダの構造は粉砕され、砂煙がもうもうとたち登っている。 「ボクはこの時に彼女たちがガムダの内部から放り出されたんだと思います」 「なるほど!ガムダは宮殿が無理に人型をしているが、その内部があったか!察するに彼女たちは放り出された時に意識を失ったのだろう。すると・・・」 「はい、彼女たちはガムダの中でなにかを見ているかもしれません」 「うむ!よく気がついてくれたナカト君。これはガムダ攻略の突破口になるやもしれん!」 (3)へ続く |