2000.10.25(水)
木山英明著「人間の来た道」
(好文出版、1994年)
頁数:523頁
定価:3835円

お気に入り度:10

 今日の一冊は木山英明著『人間の来た道』(好文出版)です。
 つーか、前日に続き講義で使った教科書だったりするんですが(^^;本の内容は、進化論から始まり化石人類の発見史、インセスト・タブー、家族、道徳、農業など、人間の形態的特長も精神的特長も様々な角度から検討しているのが特徴。形質人類学も文化人類学もとりたてて区別せず綜合的に人間を見る観点から書かれているので、も、これ一冊読めば人類学の基礎知識はばっちりのはず。去年木山先生の「綜合人類学入門」という講義を受けたんですが、授業内容もほぼこの教科書に則っていて非常に分かり易かった。そのわりに学生の評判が芳しくないのが不思議ですが。
 特に興味を惹いたのはインセスト・タブー(近親相姦忌避)の起源に関する話ですかね。去年、この講義と平行して文化人類学の講義を受けていたんですが、こちらの教授はインセスト・タブーに生物学的な原因を求める説を甚だ嫌っているらしくそれを徹底的に攻撃してたのに対し、木山先生の方はどちらかというと生物学的な原因のほうを重視する立場だったようで、両者を比較してみるとどうも生物学的な原因があると考えるほうが適当ではないかと思えました。
 具体的には、この本の方が、近親相姦で生まれた子供に知的障害が多いこととか逆に遺伝的に遠いもの同士の結合は雑種強勢と呼ばれるように強い個体を生み出すというインセスト・タブーの利点が挙げられ、さらに人間だけでなく動物の世界でも巧妙な仕組みで近親相姦が起こらないようにできているということを日本猿の観察実験などから例証しており、実例に裏付けられた説得力があります。対する文化的原因説は実証性を欠き曖昧な印象が拭えませんでした。文化人類学という狭い学問の中に閉じこもらず、動物行動学や遺伝子生物学の分野での成果を積極的に取り入れている生物的原因論のほうが信頼するに足りると思えます。
 また、この立場の違いはおそらく平等観念の違いと結びついているのではないかと思っています。この本を読むとよくわかるのですが、木山先生は人間一人一人の個体差というのを十分に認識しています。男女差、体格差、容貌の差、知能差などといった生まれ持った生物としての個体差を是認し、その差異を前提として平等を確保することが大切だという考えのようです。
 逆に文化の力を過大視する立場の人は生物としての個体差を無視して人間の能力が均質なものとして扱う場合がままあるように思います。そんなふうに現実の差異を無視した上に成り立つ平等が、本当に平等だとは到底思えないというのが僕の立場で、だから木山先生のように生物としての人間存在を知り尽くした人の現実認識のほうが僕にとってははるかに重要に感じられます。とりわけ最終章「人間の来た道」は人類学的知見に基づいて人類の行く末に関して多くの示唆を与える非常に刺激的な文章で感銘を受けました。


戻る