
2000.11.3(金)
ルソー著、本田喜代治・平岡昇訳「人間不平等起源論」
(岩波書店、岩波文庫、1972年)
頁数:282頁
定価:505円
お気に入り度:3
今日読み終わった本はルソー著『人間不平等起源論』(岩波文庫)。
『社会契約論』で有名なルソーが、その前提となる人間と社会に対する認識を表明している論考。それによれば、人間はもともと政治的な不平等の存在しない自然状態にあり、基本的欲望以外の余計な願望を抱いたりはしなかった。しかし、集団が形成され社会化してくる過程で私有制が誕生し、結果として名誉心や支配欲などという余計なことを望むようになり政治的不平等の状態が誕生した、ということです。
基調としては原始状態の人間は足ることを知っているから幸福であり、現代人は他者による評価という価値基準でものごとを行うから結局不幸である、といった感じで、これに政治的不平等の起源を絡めて絶対王制を批判するという構成をとってます。
まぁ、結論的には概ね悪くないけど、その結論に辿り着くまでの論拠にちょっと問題があると思います。ルソーは原始状態の人間像を構築するために人類学的な見地から論じていますが、これがほとんど机上の空論で実質的にはなんらの根拠もなく語っていると同然です。一応、新大陸や暗黒大陸の未開諸民族の記録を援用してはいますが、この記録の科学的正確性にも重大な疑問があります。結果として、現在明らかになっている人間の原始状態とはかけ離れた原始人を想定することになっています。
例えば、現在の人類学の成果では人間は初めから家族を営んでいて一夫一婦制が貫かれていたとされていますが、ルソーは家族の存在を否定し一度性交したらもう二度と会わないような男女関係だったと推定しています。こういう人類学的誤謬や浅薄な考えはあちこちに見出され、ルソーの導いた結論にはなんらの合理的根拠は存在しないと思われます。
また、ルソーはプラトンの影響を強く受けているらしく、原始状態の人間の姿を一種のイデアとして捉える傾向があるようです。僕の個人的好みとしては、一つの真理が存在してそれへ向けて近づいていくというようなアプローチは嫌いなのでヤな感じです。
もっとも、だからといってその結論が無意味だというわけではなくて。文明社会の弊害を指摘することは悪くないし、絶対王制下の政治的不平等を是正しようという方向性は間違っていないと思います。ただ、僕は法というものがこういう非科学的な人間理解の上に成り立っていることが様々な弊害を招いている面もあるのではないかと思うので、現代法に大きな影響を与えているルソーの著作に含まれる間違いは看過できないのです。
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