
2000.12.6(水)
新渡戸稲造著、矢内原忠雄訳「武士道」
(岩波書店、岩波文庫、1938年)
頁数:159頁
定価:300円
お気に入り度:8
今日読んだのは新渡戸稲造著『武士道』(岩波文庫)。
いなぞーさんといったら5000円札で有名ですが、大概の場合、「で、何やった人?」というのがオチじゃないでしょうか。僕もよく知らんかったので、まぁ有名な『武士道』ぐらいは読んでみようかと。
いなぞっちは基本的に教育畑で活躍した人らしいですね。東大の教授とか東京女子大の初代学長とか務めたりアメリカの大学で教鞭を執ったり。で、国際人らしくこの本も元来は英語で書かれたらしいです。でも日本語訳が上手なんで、英語作品とはとても思えません。
内容は、全体としては日本文化礼賛といった感じですか。仁・義・誠・忠・孝などの観念を説明したり、武士にとっての刀の意義とか武士の婦(腐ではなくて)女子の教育についての説明とか。ただ、いなっちはキリスト教徒なので、民族主義的偏狭さをもって日本と欧米との違いを強調するのではなく、むしろキリスト教の精神との合致を主張することで、日本の精神がいかに普遍的真理を内包したものかを力強く論じています。
僕自身は、東洋の思想と西洋の思想がそのように合致する点が多いかどうかについては懐疑的に思う人間なんですが、こんなにも西洋文化が侵入している現状を見れば、逆に西洋精神との合致を強調することで東洋精神との融合を図るほうが、日本の文化的伝統を護持するためには有効な手段なのかもしれないな、とちょっと考えました。その点で『武士道』は参考になる本でした。
ただ、この本はその名も『武士道』なわけで、武力を持った特権支配階級の道徳に過ぎないという見方もできるんですよね。はたして町人や農民の道徳とはどの程度共通するのでしょうか。理性によって主人のためには死をも厭わないような武士道徳は、はたしてどれだけの現代的価値をもっているんでしょうか。今は理性的支配に基づく合理的硬直的社会から脱して、むしろ情緒的支配に基づく柔軟な社会を目指す方向で動いているのではないかと。その中で武士道徳がどんな役目を果たせるかということについては、簡単には結論が出せそうにありません。
まー、なんにしても、さすが「太平洋の懸橋」たらんと欲した人の文章だけあって、古今東西の知識に通暁していて読者に知的好奇心を与えてくれる好著であることは間違いないです。
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