高い天井、そして薄く開けられた視界の前に、広い空間がひらけている。
天井を見上げているのか天上を見下ろしているのか、無重力にも似た感覚が五感を狂わせる。
宇宙空間に放り出されたような、この懐かしい感覚。どこかで感じた・・・。
朦朧とした意識の外界、遠くでカミナリが墜ちているのが聞こえた。
雨・・・だ・・。―――
豪雨の中、窓枠の外で樹葉に滴り落ちる水がはぜる音が規則正しく耳に入ってきた。
さっきから、割れるように頭が痛む。さらに輪をかけるように、地に唸る轟きが頭の芯から壊れる音を震わせつづけている。
ひんやりと冷たいシーツから肌に伝わる感覚と、雨の匂いの混じった大気の馨りが、存在する空間の雰囲気と融合して、閉じた視界が担うべき役割の代わりを果たしている。
他には誰もいない部屋。何もない空虚な、それでいて懐かしい場。
自分が今居る場所にも疑問を感じず、雨の染み込んだ空気の中、
彼は月を見ていた。
カミナリが鳴っていて、雨が降っていて、月なんて見えるはずもないのに、それどころか、
自分の目はいま明いてさえいないというのに、
なお、くっきりと、目の前に浮かび上がる青い月が・・・。
ふいに、耳を劈くすさまじい雷鳴が稲妻に続いた。
本能が告げる、
ここは嫌だ。―――
と。
ここには戻りたくない、早くここを出たい。―――
もう、これ以上この場に居るくらいなら・・・―――
自身の中の説明のつかない意識に戸惑いつつ、彼は微睡むような熟眠に、再び引きずり込まれていった。
雨音に交じり、遠くで誰かの声が聞こえる。
―――・・・から、・・彼は・・昏睡・・・のみと、様子を・・・でして・・・。
昏睡・・・。
何のことを云っているんだ。誰のことを云っているんだ。
ああ、そうかこれは夢なんだ。―――
真青な月が見ている。
夢に見える。
白い手がこちらに向けられていた。
あれは・・・ あれは母さんの手だ。―――