あいかわらずなボクら

 

† agitate

 

思い当たるところに連絡をいれ、本部に捜索依頼を出した。

前日の事件は一部には知れる事となったが、公にはまだ知れていない。

なにせ、事の大筋すら分からない状態で派手に動くと取り返しのつかない事になりかねない、との配慮の結果でもある。

自身で街を歩き廻ってはみたが得られるものは少なく、手持ち無沙汰になり、センターのモール街のベンチに腰を下ろした。缶コーヒーを片手にしばらく思考を巡らせていると、かつて声をかけたであろうと思しきダークブラウンの髪をなびかせた女性からお呼びがかけられた。

「来るものは拒まず」と公言している彼であり、女性からのお呼びであれば断るはずもなく、と云いたいところであるが、実際のところは、断る気力すらなかっただけの話だ。

そのままモール街をあとにすると、わりとお洒落な女の子受けのしそうなバーへと連れ立って入り口の扉を開けた。

しかし、間が、悪かった。・・・非常に。

そこには日頃からいがみ合いの仲であるMP様御一行が、まさに職務の真最中であった。

先に述べた配慮のためもあり、前日の事件について聞かされているのはMPでもごく一部なのだが、そのために人出が足りずに勤務時間がずれこんでいる上に、情報が全くといっていいほどなく、さらに彼らを苛つかせているのだ。

一応の職務を終えたMPが、次の聴き込みやら見廻りのために出口へと向かおうと顔を向けると、そこにはまさに今残業を強いてくれている厄介者が、極り悪そうに立っていた。後ろに連れをひかえて。

MPはちらりと隣りの女に目をやりながら、云ってくれた。

「のん気なもんだな。そうか、あいつはおまえにとって興味対象外の”男”だったよな。」

なかなか利いた皮肉だ。あいつのポストを狙えるぐらいだ。―――

すでに云い返す気力もない。

なにやら、周りの雑音すべてに対して関わりを絶ちたい気分になっていた。

一緒にいた彼女も、しばらくいろいろと話していたが、何を云ってもいまいち反応の薄い、うわの空の彼に、とうとう

「ふざけてるの?! その気がないのなら付き合わないでよ、失礼ね」

と、怒りをあらわに帰っていったのだ。

彼女の勇ましい後ろ姿を、何とはなしに見送ると、その後、馴染みのバーに飲み直しのために足を向けた。

今日一日でなんだか随分と疲れた・・・―――

 

飲んでいたグラスをカウンターに置くと、フンッと嘲笑気味に鼻を鳴らした。

彼は別にふざけているわけでも、遊んでいるわけでもない。

いたって、真面目なのだ。

ただ、こういう時にどういうリアクションをとればいいのか分からずに、戸惑っているといったほうが正しいのかもしれない。

こんな気分になったのは初めて、といもいえるほど彼は戸惑っていた。素直に言ってしまえば、動揺していたのだ。

 

奴が消えてから丸一日が経つ。

気に喰わない事この上ないが、取り敢えずMPに連絡もした。だが、一向に有益な情報は得られない。

奴の安否を思うと居ても立ってもいられない。こんな自分はらしくないと思いながらもどうにも出来ない。

まったくもって不本意である。

「何でおれがこんなにっ・・・」

舌打ち交じりに呟いてみる。

考え事をしようにも眩暈が襲い、通常の思考機能を作動させることが出来ないのだ。

少し投げ遣り気味に顔に落ちてくる横髪をはらい上げると、溜息を吐き出しながらカウンターの椅子に若干深く腰をかけて、再びグラスを口にもっていった。

何をさっきから、おれはこんなにイライラしてるんだ?―――

期待した冷たさは咽におりてこない。カツンッと氷がグラスの中で乾いた音を立てた。グラスの中はすでに空っぽだ。

いったい何杯飲んでいるのか、自分でもすでに判らない。いくら飲んでも酔えないのだ。

カウンターの向こうのマスターに追加を注いでもらいながら、そんなことにすら気が廻らないほど動揺している自分に正直驚いた。

 

あの日、あれから近くのBoxに駆け込んで連絡をとった後に再び裏通りに戻ってみるとそこには何もなかった。

いや、何もなかったというわけではない。ただ、紙袋の中身が飛び出して散乱している道が残っているだけだった。

一瞬目の前が白くなった。

何が起こったのか理解不能。思考停止。

鎮まり返った裏通り、どこにも人の気配はおろか、生きている物の気配がない。

あいつにかつがれたか、とおもうのも無理のないことだろう。

もしかしたら、自分一人で先にフラットに帰ってるかもしれない。―――

ここからフラットまでは、もうそんなに距離はない。もしかしたら・・・―――

走って、フラットまで戻ってみる。

しかし、微かな期待も、静まりかえった部屋に撃ち砕かれた。

訳が分からないまま、再度、裏通りまでやってくる。相変わらず人の通りも車の影も見られない。

唯一、そこに人がいたということを物語るものは、道路に残った血痕と、鎖が切れて落ちたらしいプレートタグ・・・・・・

それのみだった。

そしてその血痕をも、降り出した雨が一粒一粒、血の痕を消しにかかるように上から落ちてきた。

 

 

あの時あの場で自分が冷静に的確な判断を下していたか、といわれると自信を持って肯定は出来ない。

だが少なくとも、あの場ではああするのが精一杯だったのだ。

あそこで自分があいつの傍に残っていても、奴に適切な処置をとってやれたとはどうも思えない。

ならば、なるべく早く、すぐにでもあいつの身を助けることのできる方法をとるしかあるまい。

そう思って、奴の傍を離れたのだ。一刻も早く医者に連れて行くべきだと思って。

そう、考えていたはずだ・・・。

でも、やっぱり動揺していたのだ。

何故あの場であいつのそばを離れたのか、その後悔の念が強く残る。

そうだ。あんなに血が出ていた。きっと頭を打ってる。おれの呼びかけにもよく応えてはいなかった。

起き上がることだって出来ないのに、まともに歩けたはずはないのだ。

なのに、何故あの場所からコーネフは消えたっ?!―――

考えられる結論は、あまり喜べるものではない。しかし、それ以外には考えられない答えでもある。

つまりは、何者かがコーネフを連れ去ったとしか考えられないという・・・そういうことだ。

しかもあの状態のコーネフを。

いったい誰が・・・―――

解答不出の堂堂巡りは、よりいっそうに彼を苛つかせるだけだった。

ぐしゃぐしゃっと髪を掻き回す。出口のない怒りは拳となり大理石調のカウンターテーブルにぶち当たった。

何事か、と驚く客の視線を気にも留めずに勘定をテーブルの上に置くと、

痛む心を引き摺りながら、ポプランは店のドアを開けて

激しく雷鳴とどろき始めた雨空をくぐり、夜の豪雨の風景に溶け込んでいった。

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