あいかわらずなボクら

 

† capture

 

陰翳な地獄の縁を歩く。

路地を出口に向かって歩くポプランの目には光りに溢れる表通りは今の自分にとても似つかわしくない別世界のように映る。昨日まで自分が歩いてきた道は、果たして正しい道標を辿って来たのだろうか・・・。

日常に戻るためのキーワードを掴むために、彼は街を歩く。

 

近道を探そうとするからかえってそれが遠回りの原因になっているのか、現場の手がかりは数多残っていていい筈である。にもかかわらず、役に立ちそうなものはまったくなく、聳え立つ壁に突き当たったかのようにパタリと足取りは途絶えてしまった。その場に残っているものといえば、買い物の荷物ぐらいのものだったのだから当然と云えば当然なのだが・・・。

いくらたっても堂堂廻りを繰返すだけの毎日にそろそろ嫌気が差してきたのも事実だろう。自分の行動に一挙手一投足理由をつけて考え過ぎて、そして己が付けていた足枷に拘束されていたのかもしれない。

下らない。―――いったい誰に何の遠慮をしていたというのか?

自分のすることに理屈を求めて、正しいことをしなければ正解に行きつかないと勘違いして、何時の間にか目的さえ曖昧になっていた。

けれども、いつまでも暗鬱と過ごすのは彼の性分には合っていない。

らしくない。――― お節介な同僚達は今の彼にそう云い放ったが、まさにこの言葉がぴったりくるだろうか・・・。

何かを振り切るように表通りへ歩を踏み出す。

可惜な陽の光りを浴びて覚醒する。

 

 

飛交う人々の取り留めのない会話に、ポプランは耳とどまる素振りも見せず、ショウウィンドウに映る街並みやその姿を確認するでもない。ただぼんやりと空を眺めながらポケットに手を突っ込んで進むその姿は、一見ぶらぶらと暇を潰して歩いている街の若者のようにしか見えない。とても戦闘機乗りには思われないだろう、それどころか、稀代の名パイロットだと云っても信じてもらえないかも知れない。一見調子のいいプレイボーイにしか見えない言動をもそのイメージの崩壊の一因となっているに違いない。

何を考えているかも定かでは無い、得体の知れない青年。

彼の知り合いと思しき女性たちが声をかける。そこの中にいた馴染みの年上美人から、

「あら、いつも隣りにいるcoolな坊やは一緒じゃないの?おいていかれて退屈してるんじゃない?」

と、冗談混じりに問われると、苦飯でも食べたかのように瞼を寄せて、

「ばーか、野郎相手にそこまで気ぃつかってられっかよ」

と、ジェスチャーも大袈裟に少し投げ遣り気味に返した。その掴みどころのない心の内を知ることが適うのはこの男自身だけなのだろうか。軽く投げキスをよこし、ポプランは足取り軽く交差点を通りすぎて行った。

端から見れば不真面目そのものなのだろうが、彼は明確な意図を持っているのだ。ポプランの目的は、そう、あの女を探し当てること。

肉は肉屋で、とはよく云ったものだ。他の小難しくも面倒くさい捜査の手順や内容なんかは、デスクワーク嫌いのポプランにとって手におえるものではない。と、おそらく彼も己の事はよく解かっているのだろう。結局は、自分の分野で動くのが一番だと悟ったといってもいい。

街を行く、その彼の視線をふと留める者がいた。それは、いつか見た赤毛の・・・いや、見ると赤というよりは黒に近い赤茶色といった感じだ。

・・・・・・。 ビンゴッ。―――

「おい、ちょっと待て!お前っ!」

追いかけながら肩を掴む。掴まれた方はその瞬間何がどうしたのか、自分の行く手を阻む相手の理解に苦しんだようであったが、ポプランの褐色の前髪の下にある緑の双眸に見覚えを感じ取ったのか一瞬顔色を変えた。が、今更逃げる事も出来ずに助けを求めるように廻りを振り返るしかなかった。

「ちょっと何するの!離してよ!」

肩を揺すり、二の腕の縛めから逃れようともがく。だが男はそんな事には構いもせずに射るような双眸を衝きつけて彼女に迫る。

「お前はあの時の女だろう。見てただろ?! あの時。おれに何を云おうとした?!」

「痛いってば。あんたなんか知らないわよ!離してって!」

「何云ってんだ。嘘付け!あんたが呼ぶからおれは・・・。それとも、何か知っているのか?!」

「知らないってば、あんたなんか知らない!いい加減にしてよっ!」

首を振りながら必死で腕を振り解く。逃れるように大通りを反れて路地裏を走り去ろうとする、執拗な彼女の態度に、ポプランは何かを、悟った。

「お前、何を隠してるんだ?何だよ?!何か知ってるんだろう。 ・・・はっはーん。それで変わったつもりか?いくら髪の色かえて服装変えて雰囲気誤魔化したとしても、このおれが間違うかよ!」

これこそがポプランの妙技、とでもいおうか、一度会った女は忘れない。そして、探し出す嗅覚を持っている。笑い事のようだが現に見つけ出しているのだから、まんざら嘘でもないかもしれない。MPが今の今まで彼女を割り出せなかったのが不思議なほどの勝ち誇った言葉つきだ。

ポプランの確信を得た口振りに彼女は、動揺して取り繕う態度がいっそうに怪しく見える。

「なっ・・・何よ! そ、そんなの知らないって云ってるでしょ!」

「まだ云うか、このっ・・・。だいたいお前が・・・」

ポプランが彼女にさらに詰め寄ろうとしたその隙間を、一瞬かすめて何かが横切っていった。

押し問答の様相を呈して来た2人の目には何か上から降って来たのか、程度にしか思わなかったが、その後に地表から響いた、くぐもった破裂音に一瞬ビクリと身を強張らせた彼女の頭を、ポプランは思いっきり地面に押しつけるようにして下げた。そのあとを間髪入れずに、サイレンサーによって消された銃弾の音が単発ではあるが何度も、空回りするように空気に微かな振動を伝える。

 突然の襲撃に、一見すると若いカップルの痴話ゲンカのようにも見えた口論は一時中断を余儀なくされ、押し黙ったまま2人は壁に背中をもたせつけた。

女、というよりむしろ少女と云ったほうがいいかもしれない外見をしたカップルの1人は、完全に腰を抜かしたように震えて、動けないでいる。

 一向に退く気配を見せない攻勢に、ポプランは少々うんざり気味に愚痴た。

「おいおい・・・これはシャレにならねーぜ。」

昼の最中からなんつー無茶をするおっちゃんたちだ―――ポプランは赤毛の少女を、否、濃赤茶色の髪をした少女を抱えるように飛び退くと、傍にあったレンガと積み上げられたダンボール箱の陰に見を潜めて息を大きくついた。そして、なかば意を決したかのように体勢を立て直すと、道の先を見据えて通りの様子を窺った。

「おい、あんた。助けてやるから、そのかわり知ってること全部話してもらうぜ」

 道路の焼けた痕からたつ硝煙を、うっすらと滲む額の汗をぬぐうように振り払いながら見つめると、返事の確認もせずに、ポプランは彼女の手を引いて、モール街に通じているであろう路地裏を、全速で駆け出した。

Next