――――― 地球教本部
人類がその存在を捨てて以来、荒廃した地球(ほし)。岩の瓦礫と土がむきだしとなった無残な地表の一角に
隠れるようにあるその入口の奥には、地球教教徒と呼ばれる信者達が静かに眠りの中を漂っていた。
自らの体内の異常にも気づかずに・・・。
寝静まる部屋の中カーテンで敷きられたベッドの上で、ポプランは身体の深淵から迫りくる悪寒を感じていた。
――――― 『サイオキシン中毒だ』
昼間の食堂での出来事を思い返す。
「おれ、よく食うからなぁ〜」
気分をまぎらわすようにかるく、なげやりな溜め息をついてみる。
悪寒の振幅はいよいよせりあがってき、とまりそうにない。
彼は一人呟く。
「頼むぜ・・・」
まるで、運命の女神にそうするがごとく、首からかけたもう一枚のプレートタグを握りしめ、
祈るように口付けをした。
夜の闇の中、土の香りを含む空気を吸い一息ついた時、それはやってきた。
突発的な激咳を皮切りにめまいを覚えるような呼吸困難がおとずれた。
全ての感覚器は悲鳴を上げるように持ち主の意思に反して狂い出す。
喉を突き上げる激しい嘔吐感と体中を支配する不快感すべてがポプランの意識を苛んだ。
何度、己を失いそうになっただろうか、
時間の経過は、既に、一瞬のようでもあり永遠のようでもあり、認識のおくところではなかった。
体を、宇宙空間の中で横から激しく何度も殴打され、叩きつけられる、そんな感覚が、ポプランを自我の混濁へと引きずりこむように襲いかかる。
彼は激痛と不快感の暗闇の中で、
何度目かの自我の喪失の淵でその誘惑に屈することを余儀なくされようとしていた。
その闇のうちで、ポプランの手をひく者がいた。
その歩みはひどく緩やかで穏やかで、しかし力強くしっかりとポプランの手を引きよせ歩いていく。
ポプランは意識半ば、わけもわからずその手に引かれていた。
暗黒の真空の虚空を、確信を持つようにその手はポプランを一点の光へとつれて歩いていく。
身体の苦しみとは別に、無意識に、脳裏によみがえるその手の感覚、感触を思い出そうとしていた。
彼を光へとみちびいている手を、
よく知っているはずの、その手を・・・。
精神の混濁とともに、彼は光の出口をみいだした。
その光を背にあび、彼の手を引いて歩いていた者を一瞬みた気がした。
流れるように心にひびきかける声が・・・・
『――――― ・・・・ポプラン・・・・・ ―――――』
彼らの間にはそれだけで充分であった。
ポプランはその声をきいた
声は、まるで、すべてを浄化するかのようで、
ポプランの身体をおおいつくし、脳裏にはびこっていた、えも知れぬ不快な支配感の侵蝕は、
潮を引くように水平線の彼方へと消えて消滅していった。それと同時に、声の主も霧のように光を砕いて消えていってしまった。
「―――・・・コーネフ・・・・・・お前なのか・・・・――――」
ポプランはカーテンの隙間からもれこむ電灯の光に目をほそめた。
もう一度、体中の不快感をとりはらうかのように大きく息を吸い、深く溜め息をつくと、
それに合わせるように教団の医務員らしき人物たちが入ってきた。
「調子が悪いようなので医務室に来てはどうか」
という内容の事を言っているようであった。
ポプランは、気付かれないよう小さく笑み、たどたどしく見えるか弱い足取りをよそおいついていった。
医務室への廊下をすすむ途中で、演技達者な撃墜王は、
数時間前に自分がにぎったプレートタブを再びにぎりしめ、何ともいえぬ表情で、一人独語した。
「・・・また助けられたな・・・・。」
今度は、彼らしく少し笑い、
「まったく・・・・。借りばかりができちまう。」
そう、呟いた。
数分後、彼は、彼の悪友をよく知った"亜麻色の髪の少年"に再会することになる。
――― hallucination ―――
* hallucination・・・幻覚による幻影、幻
◆きぎすのコメント◆
原作読んでるときに頭の中で同時進行してできた、初めての話。
でも、小説としてはじめに完成したのは、「消失点」が先なのですが。
ちょっとややこしいですが、そういうこと。
原作中で、あんまりポプランが思い出してくんないんで、
強制的にブラックアウトしてもらった。(笑)