彼の父は、とある教区の、とある小さな村の、とある小さな教会の司祭だった。
名をエイワンというその司祭は、神と人から愛される人物で
近隣の村や他の教区からも説教を聞きに来るものがいた。
父といっても、司祭が妻帯できるはずもない。彼はその司祭の養子だった。
血がつながっていないとはいえ
誰からも愛され、愛をもって人々を教える養父を
彼は心から尊敬していた。
彼はあかんぼうのときに、司祭の養子になった。
そのいきさつについては誰も知らなかった。
もちろん彼自身にも記憶はない。
込み入った事情があったのだ、と訳知り顔にいう人がいた。
教会の前に捨てられていたのだ、と見たようにいう人がいた。
どんな経緯があってかはともかく、彼は司祭の第一養子となった。
そして”信仰”と名づけられ、ひとびとからアムナーと呼ばれた。
養父と養子ではあったが、二人はまるで実の親子のように似ていた。
性格や立ち居振舞いだけでなくそっくりだった。
アムナーの声は、司祭のそれと同じように、聞く者を安心させるところがあった。
アムナーの黒い瞳は、司祭のそれと同じように、どこまでも深く、どこまでもやさしかった。
アムナーの黒い髪は、司祭のそれと同じように、どんな画家も表現できないようなツヤがあった。
もっとも、司祭は頭が白くなるのが早かったのだが。
しかし司祭が赴任してきたころを知る年代のご婦人方は、
アムナーに会うたびに「本当に、神父様の若いころそっくりで」と口にした。
心ない不信仰者どもは、「あれは司祭がどこかの女に生ませた、実の息子なのさ」と言うようになった。
実のところ、実子でないほうが不思議なくらいだった。
そしていつの時代も、ゴシップめいた話しの方が広まりやすく、真実味があるように聞こえるものだった。
ある日、アムナーは旅に出た。
そのことで人々はまたいろいろ噂をしたが、アムナーは旅に出た理由を誰にも告げなかった。
アムナーの仮庵への小径
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