いつものように修行の名目で出奔して、今回はグラントの大樹亭にたどりついた。いつものように日々ぶらぶらとすごしていたが、いつものように「そろそろ仕事でもさがすか」と思いはじめたころのこと。
その日もカレント教会のミサに参列した帰途、さて今日は何をしようかと思案していたアムナーを、呼びとめる声があった。
「司祭様とお見受けしました。お願いしたいことがあるのですが」
振り向いたアムナーの目に入ったのは、20代前半とおぼしき青年だった。おそらく同じミサに出ていたのであろう、正装し剣は持っていない。賤しからぬ気配をまといながらも簡素ななりは、厳格な家風で育てられたそれなりの地位の出と感じさせる。なにしろミサさえも社交の場と化し、財ある者は華美に装うのがなかば当たり前となっている昨今である。
「君は?」
「失礼しました、ボアズ家のトーブと申します。もしご迷惑でなければ。。。」
別に急ぐ用事もない。青年が辺りを気にするふうであるのをみて、場所を変えゆっくり話しを聞くことにした。
「トーブと言ったな?いい名だ」
のちにアムナーが庵をむすぶことになる、静かな林の中に二人は来ていた。
ボアズ家といえば、超名門とまではいかないが、グラントに流れ着いたばかりのアムナーでも耳にしているほどの実力者だ。
「ところで、私を司祭と見ての話しなら、その前に訂正しておかないと。わたしは元修道僧だが、今はただの旅行者、正式な司祭じゃない」
「承知しています。失礼とは思いましたが、実はしばらく以前からご様子をうかがっていました。礼拝なさるお姿や信者たちとの接し方は聖人のようでありながら、カレント教会の司祭様たちの前ではあくまでも謙遜でいらっしゃる。。。事情あって身をやつしておられるが実は、ということではないかと」
”聖人のよう”と言われて、アムナーは吹き出すのをこらえていた。大樹亭の連中が聞いたら、笑い転げることはまず間違いない。しかし、自分をもぐりと承知で司祭と呼び、頼みたいことがあるとは、一体。
「わかっているなら話しは早い。私に頼みたいこととは?」
「実は。。。」
「心配ない。引き受けるにしろお断りするにしろ、他言はしないよ」
「はい、司祭様に結婚式を執り行っていただきたいのです」
正直なところ、アムナーは拍子抜けした。がしかし、教会で挙式できない事情があるとはすぐに想像がつく。
しばらくの思案の後、承諾の意を伝えた。司式したことはさすがにないが、結婚式なら何度も手伝っているし、式文も頭に入っている。
「近いうちに、お相手にも会わせてくれ」
といってトーブと別れたアムナーは、さらに思案しながら大樹亭へ帰って行った。