大樹亭についたのは、まだ夜も浅いうちだった。そのせいか酒場にいたのは、隠れ里の姫君アスラと、ドワーフのバン=バスカークことバスクだけだ。
しかしアムナーは二人に挨拶もせずに、考え込んでいた。トーブと別れて歩いているうちに、コトの重要性に少しずつ気づいたのだ。
「どうかしたのか?」と口を揃える二人に、実はめんどうを頼まれたと答え、これまでの次第を説明した。
「やってあげればよいではないか。何かやれない理由があるのか?」
と問うアスラに、
「せっかくだからと思うんだが、まともにこの町の教会で挙式できない事情があるとするとな」
と答えて、エールを一口飲む。
「どんな事情があるか解らぬが、そなたを信頼して頼まれたのであろう。正式な神官職に負けぬぐらいの気持ちを込めてやればよいのでは?」
「問題はそれだけじゃないんだよ」
結婚は、信仰者としても重要な祭儀のひとつだ。男と女が神の前で、これからの人生をかけた誓いを立てるのである。司式者はその誓いの証人となり、二人を神の名において祝福するのだ。
正式な司祭職でないものが、神の名においてこの神聖な儀式を執り行うなら、それは冒涜行為と糾弾されてもおかしくはない。
「下手したら、宗教裁判なんてことにもなりかねない、というわけだ」
「やっかいなことになっとるようじゃのう」と、バスクが話しに入ってきた。
「して、正式な神官に頼めぬ理由は聞かなんだのか?」
「聞いたが、口を濁された。まあ、一番シンプルに想像するなら駆け落ちってとこかな」
それくらいですめばいいのだが。
「とりあえず、ここだけの話しにしといてくれよ。もしやばい事情があったりすると、って考えるとね」もちろん、二人ともうなずいた。
「まあ、そなたが引き受ける気で、結婚する当事者同士も納得しているのならそれでよいのではないか。わしもその二人に幸多からんことを祈るとしよう。」
バスクが、会ったこともない若い二人のために乾杯する。
アムナーはバスクの上げたジョッキに自分のジョッキをあわせた。
「ただ、まさか聖所で挙式というわけにもいかないし、やりかたをどうしたものかな」
「問題は場所か。なにか前例はないのか?」とバスク。
「前例といっても、結婚式を司式すること自体がはじめてだしな。。。」
人が入ってきたために、それ以上の話はできなかった。にぎやかになっていく酒場で、アムナーは調子を合わせて盛り上がりながら、思案を続けていた。
すぺしぁるさんくす to バスクさん,アスラさん。
このエピソードは、二人が酒場で昼間の仕事について話していたところから、神官系キャラに来る依頼について考えて生まれたものです。