プロローグ
93年3月。ここは神いずる町出雲。金本 信二は父親の仕事の関係で、名古屋から引っ越してきた。この物語は、あなたの知らないもう一つのストーリー。さあ、開けてください。もう一つのせつなさの扉を。
第1話
4月4日 引っ越しの作業も終わり、今はただなんとなく1日が過ぎる日々を送っている。明日になれば、また新しい学校が始まる。ここでもまた、新しい出会いがあるのであろうか。
今日は4月とは思えないほど冷え込んでいたが、朝はきれいに晴れ上がっていた。ところが昼過ぎから急に曇り始め、外はあっという間に曇天模様となった。夕方になって、空から雨が降ってきた。そんな中、父からの電話が鳴り響いた。
信二 「あっ、そう。わかった」
今日は父の仕事が長引きそうで、早く帰って来られそうにない。そこで僕が買いものに行くことになった。外は少しずつではあったが、雨の降りが弱まった気がする。
僕は傘をさし、近くのコンビニで買い物を済ませた。父の仕事が忙しいのは、昔っから変わっていない。父の帰りが遅いときは、いつもこんな感じだ。そんな買い物の帰り道、曲がり角を曲がったその時、
(ゴツッ)
僕は女の子と頭からぶつかっていたのであった。
? 「あいたっ」
信二 「痛てててて、だ、大丈夫ですか」
? 「あっ、ご、ごめんなさい。私は大丈夫だけど、あなたは」
信二 「あ、ああ。平気だよ」
? 「そう、よかった。ところで袋の中身は」
信二 「うーん、見た限り大丈夫じゃないの」
? 「よかった」
信二 「じゃあ、気をつけてね」
? 「うん」
僕が謝るまでもなく、彼女から先に謝ってきた。なにか考え事でもしながら歩いていたら、前が見えなくなっていたのだろうか。それとも、傘をさしているせいであろうか。外はいっそう寒くなってきたので、家路を急ぐことにした。
ともかく新しい家に帰って、夕ご飯をひとりで食べた。案の定、袋の中身は何ともなかったが、まだちょっとぶつかったところが痛かった。
明日のことを考えて今日は、早めに寝ることにした。明日は中学校の入学式だ。外の雨は、いつからか雪に変わっていた。
第2話
さて、その翌日。中学校の入学式が行われた。ここには信二と、幼馴染の二人、大神 龍一と一条 桜が通うことになった。
先輩たちに花の付いたバッチをつけてもらって、早速1年のクラスを確認にいった龍一。クラス名簿を見た龍一は、
龍一 「あっ、桜と同じクラスだ。ラッキー」
龍一と桜が仲良しであることは、誰もが知っている。しかし、運がないというか、ついに小学校では1度も同じクラスにはなれなかった。
真矢 「龍一、おはよう」
龍一 「真矢か、おはよう」
小学校からの友達である田中 真矢である。彼は小学校のとき、ずっと龍一と同じクラスだった。
真矢 「どうだ、新しいクラスは」
龍一 「これこれ。やっと桜と同じクラスになれたよ」
そう言って1年のクラス表を見せる龍一。嬉しそうに自分の名前と桜の名前を指で指し示す。
真矢 「やったじゃん。でも、俺はおまえと同じクラスじゃないな」
龍一 「あっ、そうだな。少し残念」
真矢 「いいじゃないか。桜と同じクラスだから。それより、当人はまだかな」
そんなことを話していると、後ろからいきなり
桜 「やぁ、お二人さん。おそろいで」
龍一 「わぁ!いきなり出てくるやつがおるかい」
真矢 「来た来た。噂をすればなんとやら」
桜 「そんなに驚かなくてもいいでしょ。ところで、今回はどうなの」
真矢 「これだよ、見てみい」
真矢は桜にクラス表を見せた。
桜 「わあぁ、やったー」
喜びの表情を浮かべる桜。しかし、真矢はややあきれた顔で
真矢 「あーあ、他のクラスメートがこれじゃ迷惑だよ」
桜 「なんか言った?」
真矢 「べつにぃ」
喜びの表情を浮かべる桜。しかし、真矢はややあきれた顔で
龍一 「ねえ、そろそろ入学式が始まるみたいだよ」
立ち上がって体育館へ向かう龍一。
桜 「あっ、龍一君、待ってよー」
少し遅れて桜が後を追う。
真矢 「やれやれ」
呆れ顔で二人の後について行く真矢。それぞれの中学校生活が始まろうとしていた。
そんな桜の目に一人の男の子の姿が見えた。昨日の夜、友達のうちから帰る途中にぶつかった男の子であった。
桜 「あっ!」
龍一 「どうしたの?」
桜 「ううん、なんでもない(あの子も一緒の学校なんだ。でもなんで気になるんだろう。昨日ぶつかったから?そうじゃない。だとすると、なんで?)」
第3話
入学式も終わり、新入生は中学最初の1年を一緒に過ごすクラスメートと顔を合わせることになる。一条 桜はついに念願だった大神 龍一と一緒のクラスになることができた。しかし、どうしても「彼」のことが、気になっていた。桜はこのクラスに「彼」はいないか探してみたが、このクラスにはいなかった。
龍一 「どうしたの、さっきからキョロキョロしちゃって」
桜 「えっ、そ、そう?」
龍一 「なんか今日の桜、ちょっと変だよ」
桜 「そ、そうかな。私は別に…」
龍一 「まあ、始めて同じクラスになって、少し緊張しているんじゃないの」
桜 「そうかもね」
龍一はまだこのとき、彼女の、このわずかな変化に気がついていなかった。
ホームルームも終わり、みんなが家路につくその時、桜は「彼」がどのクラスにいるか確かめたかった。しかし、
あやめ 「あっ、桜」
桜 「あやめさん。こんにちは」
桜とは小学校時代からの友である大内 あやめが廊下からやってきた。
あやめ 「どう、彼とはうまくいってる?」
桜 「もう、あやめさんまで」
あやめ 「ははは、冗談よ。でも、よく同じクラスになれたね」
桜 「ほんと、日ごろの行いが良いせいかな」
あやめ 「そうよ、神様に感謝しなきゃ」
桜 「ところで、あやめさんのクラスはどうなの」
あやめ 「そうだね…あまりパッとしたところがないクラスよ。でもね」
桜 「でも…」
あやめ 「うちのクラスに、名古屋から越して来たって人がいるんだよ。確か…金本って言ってたな」
桜 「へえ。どんな子だった」
あやめ 「どんな感じかって、ううん。なんとなく、つかみ所のない人だな。まあ、そのうちわかるよ」
このあとも、桜とあやめは話しつづけた。桜はすっかり「彼」を一目見るということを忘れ、友達との楽しいひとときを過ごした。その放課後、あやめとわかれた後、
桜 「(あっ、さっきあやめさんが言ってた人って、まさか。確かぶつかったときに見た人の顔は、ここら辺では見ない顔だった気がするけど…)」
桜の気持ちは、そして龍一との関係は。あやめのクラスに入ってきたのは、本当に「彼」なのか。
第4話
さて、翌日。朝早く学校に出かけた桜。しかし、
龍一 「おかしいな。いつもならこの時間に桜が来るはずなんだけどな?」
龍一は通学路の途中、桜とよく登校時に出会うところで待っていた。しかし、桜はすでに、学校に着いていた。
龍一 「風邪でもひいたかな。なんか昨日、様子が変だったし。なんとなく、そんな気がするな」
さて一方桜は、
桜 「ハクション!まったく、誰か私の噂でもしたかな」
あやめ 「あら、桜。おはよう」
桜 「あっ、あやめさん。おはよう」
あやめ 「何なの、今日はえらく早いじゃない?」
桜 「そ、そうかな」
あやめ 「だめよ、大事な彼を置いてきぼりにしちゃ」
桜 「も、もう」
と、いうことは
龍一 「ハクション」
こうなるということだ。
あやめ 「それで、早く来たって事は、何かしらの理由があるみたいだけど」
桜 「そうそう、昨日の帰り道でさ、あやめさんのクラスに転校してきた子がいるって言ってたじゃん。その子ってどこに座っているの?」
あやめ 「うーんと、廊下側の前から3番目。今日はまだ来ていないみたいだね」
桜 「そう…」
あやめ 「どうしたの?ひょっとして、その子を一目見たさに今日早くやって来たってわけ?」
桜 「そ、そんなんじゃないけど…」
そんなことを話しているうちに、「彼」がやってきた。
あやめ 「おや、噂をすればなんとやら」
桜 「あっ!」
そこで桜が見たのは、
桜 「(間違えない、あの時の、あの子だ。でもなんだろう。この胸の高鳴りは?)」
あやめ 「どうしたの?」
桜 「(とにかく、一言話しかけなきゃ)」
しかし、その時
龍一 「あっ、いたよ」
桜 「あっ、龍一君。おはよう」
龍一 「おはようじゃないだろ。心配したんだぞ」
桜 「ご、ごめん」
あやめ 「おやおや、朝からお熱いこと」
龍一 「あ、あやめさんまで。でも、こんな早い時間どうして」
あやめ 「さあ、どうだったかしらね。それより、時間が時間だから、その続きは教室でやったほうがいいんじゃ」
ふと目をやった時計の針は、もう8時23分。ギリギリまで桜を待っていた龍一は遅刻寸前であった。
桜 「あっ、本当だ、もうこんな時間。あやめさん、じゃあね」
あやめ 「じゃあ、また後でね」
あやめのクラスと龍一たちクラスは校舎の両端。二人は急いで教室に行くことにした。
入学式翌日となる今日は、暫定的な席替え。これは皆さんも経験したと思われるが、わかりやすく言えば名前順に座る席替えのことである。二人は、名字が大神(お)と一条(い)のため、うまくいけば隣り合わせという可能性もあったのだが、このクラスは名字が「あ行」の男の子が多く、龍一は教室の最後方。一方、桜は女子の1番。したがって、先頭である。
龍一 「あーあ、せっかくならもう1人、俺の前がほしかったな」
桜 「でも、こればっかりはしょうがないよ」
さてこの日の学校も終わり、皆さんが家路につくころであった。
桜 「ねえ、一緒に帰ろう」
桜は、龍一は誘って帰ろうとした。
龍一 「ああ、いいけど、ちょっと待ってて。トイレ行ってくるね」
桜 「早くしてよ」
そこへ、隣のクラスから
あやめ 「やあ、彼とお帰り?」
桜 「うん」
ふとあやめが、桜のクラスを見渡して
あやめ 「おや、席替えでもしたのかな」
桜 「う、うん」
あやめ 「どうだった。彼の隣になれた」
桜 「いや、私が前で、彼が後ろだった」
あやめ 「そう、あっ、彼が来たみたいだよ」
桜 「じゃあ、あやめさん。さようなら」
龍一 「いやー、ごめんごめん。待たせちゃった?」
桜 「もう」
龍一と桜。この教室間の距離が後々どの様になるのか。次回へ続く。