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 龍一たちは中学校に上がって初めての遠足を迎えることになった。今回、遠足の最大の見所は、昨年出雲にできた新名所、出雲ドームの見学であった。2人はバスの中で、

 桜  「ねえ、龍一君。出雲ドームって、野球をするところ?」

龍一  「そんなにデカくなかった気がするけど…、どうだろうね」

 その、出雲ドームの見学は午後のことである。午前中は、出雲のシンボル、出雲大社へ行くことになっている。とは言っても、出雲市民であれば1度や2度は行ったことのある出雲大社へ遠足で行くのは、いささか反対意見もあったが…

ガイド 「ところで皆さん。九州にある大宰府天満宮は、学問の神として有名ですが、では、出雲大社は何の神様がいるといわれているでしょうか?」

 バスガイドの人から出雲大社に着く前にこんな質問が出た。

龍一  「あ、あれ、桜。なんだったっけ?」

 桜  「もう、知らないの」

 二人がこんなことを話していると、後ろにいた順一が

順一  「はい」

ガイド 「はい、後ろにいる白のトレーナーの男の子」

順一  「確か…縁結びの神様が入るって聞いたことがあるけど…」

ガイド 「はい。よく知っていましたね」

 ここで、こともあろうに後ろで順一と一緒に座っていた達也が

達也  「ひょっとして、そこの2人のことを言うの?」

 と言い、僕たち二人に視線を合わせてきた。バスの中はしばらく笑いに包まれた。

 桜  「ほ、ほえー(赤面)」

杉蔵  「こらこら。あまりからかうんじゃないよ」

 担任の杉蔵先生がそういったが、僕たちはしばらく動けなかった。

 同じ頃、あやめの乗っているバスでも、真矢の乗っているバスでも同じような質問が出されていた。

あやめ 「あの2人のバスでこんなこと言われたら、いったいどうなりますかね」

真矢  「龍一のバスで同じ質問が出てたら、あの2人、どうなっているやら」

 その龍一たちの乗るバスでは、

龍一  「へーくしょん」

達也  「あっ、噂されたかな?」

龍一  「う、うるせー」

 なんて言いながら、午前の目的地である出雲大社に到着。今日は特別に本殿を間近に見ることができた(ちなみに本殿は国宝です。一般には祭りの時と正月のみ公開となる)が、やはりみんな何度も来たところか、みんな飽きが早かった。

 昼食も終わり、いよいよ出雲ドームへ。

 

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 いよいよ遠足の見所。出雲ドームへやってきた一行は、クラス別に分かれて行動をとることになった。

 係員の説明によれば、この出雲ドームは92年に完成した日本で初めて米松の集成材とテフロン加工の幕を利用し、プッシュアップ工法で建築された建物みたいだ。

龍一  「へえ、すごいなあ」

 桜  「そうだよね。これだけ大きい物を松の木で作っちゃうんだから」

龍一  「本当にすごいや」

 桜  「ねえ、龍一くん…」

龍一  「なに?」

 桜  「こ、こういうところで、いつか、結婚式…挙げてみたいね」

龍一  「ブッ!!!」

 桜  「な、なによ」

龍一  「な、な、なな、何てこと言うんだよ。頭がい骨がずれそうになったぞ!」

 その瞬間、クラスメートの冷たい視線が2人を襲った。

龍一  「あ、あ、あら?」

達也  「龍一、声がでかいって」

龍一  「わ、悪かったよ」

 そう言って桜のほうに振り向くと、

龍一  「あのなあ、あんなこといきなり言われたら、誰だってビビるだろうが」

 桜  「で、でも、たとえば、であって…」

龍一  「そのたとえが大げさ過ぎるって」

 桜  「わ、悪かったわよ」

 そんなこんなで、終始龍一と桜はいっしょに行動を共にしていたのであった。

 さて、休憩時間のことである。逆側から回ってきたあやめのクラスの人たちと同じところで休憩を取ることになった。

あやめ 「あら、お二人さん。お元気そうで」

 桜  「あっ、あやめさん」

あやめ 「あれ?確か龍一くんとは違う班じゃなかったのかっけ」

龍一  「うん、僕が桜と同じ班の人と話し合って今日だけ交換してもらったんだ」

あやめ 「へえ、やるじゃない」

一郎  「おーい、龍一」

龍一  「あっ、一郎が呼んでる。ちょっと行ってくるね」

 龍一が一郎のほうに向かったそのとき、桜の目の前を信二が通りかかった

 

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 桜  「!!(あっ…)」

信二  「!!(えっ…)」

 桜  「(あ、あの人。そういえば、あやめさんと同じクラスだったんだっけ)」

信二  「(る、るり…?ち、違うよな。驚かすんじゃないよ…)」

あやめ 「ねえ、桜さん」

 桜  「(で、でもどうしてだろう。彼の事を考えると…)」

あやめ 「桜さん?」

 桜  「(ど、どうして?わからない)」

あやめ 「さーくーらーさん」

 あやめは桜の目の前で手を振った。

 桜  「!」

あやめ 「まったくどうしたの?」

 桜  「い、いや、別に…」

あやめ 「はあ?ひょっとして信二くんを探しているの?」

 桜  「し、信二くん?」

あやめ 「そう。まだ言ってなかったっけ?あの転校生の名前」

 桜  「そ、そう言えば…」

 そのとき、一郎との話を済ませた龍一がふたりのうしろから

龍一  「やあ、おふたりさん。そんなところでなにしゃべってるの?」

 桜  「わぁ、龍一君」

あやめ 「こ、こら、人を驚かすんじゃないって」

龍一  「ごめん。でも、桜が朝やってきたからお返しに…」

 桜  「もお、龍一君ったら」

龍一  「ははっ。あっ、そうそう。あやめさんのお父さんの会社だって。このドーム作るのに手伝ったのは、さっき一郎から聞いたぜ」

あやめ 「そうですよ。あの時は父さん、大変だったですから」

 桜  「そうなの。そう考えると、やっぱりすごいね」

杉蔵  「おーい。そろそろ行くぞー」

 桜  「あっ。もう行っちゃう。じゃあ、またね」

 こうして出雲ドーム見学も終えた一行。その遠足の帰り道、一郎と信二の別れ際、

一郎  「じゃあ、またね」

信二  「うん。(なんか…今日は、嫌なもの、思い出しちゃったな)」 つづく