第1話プロローグ

 

 8月、原爆記念日、甲子園、そして…

 

   「この後のお天気ですが、広島県地方、南部、北部ともよく晴れるでしょう。気温も高い状態が続き、寝苦しい夜が続きそうです。さて今日は…」

 その日はこの時期にしては珍しく夕立が起こらなかった。部屋の中に入ってくる西日を浴びる信二の姿は何か退屈そうだった。しかし、彼には一つ引っかかる事があった。

信二 (あの時の感じ…、一体なんだったんだろう)

 広島に足を踏み入れたその第1歩だった。信二の体の中に感じた感覚。その衝撃が、まだ体の中に残っていた。

 広島に引っ越してから3週間。9月に近くの中学校へ転校するまではまだ時間があり、一人で過ごす時間が多い。夏休みの宿題はないが、あの時の衝撃が彼の中で、宿題以上の謎を残していた。

 

 夕食をとり終え、食器を流し台に入れる。ふと台所にある窓から外を見た。

信二 「あっ…」

 3日前に台風が通り過ぎていったためか、星々の光が今日に限っていつもより輝いて見えた。

信二 「そういえば、星空なんてゆっくり見たこと無かったな」

 そう言って、信二はしばらくその星空を見入っていた。

信二 (!!)

 その時だった。

信二 (こ、これは…)

 

 洗いかけの皿を残して信二は家を出た。

信二 (間違えない、誰かが、誰かが僕を呼んでいるんだ)

 その時感じたのは、広島に着いたとき感じたあの感じと同じだった。それは定かではなかったが、信二はそれを信じて市街地の中へと消えていった。

 

信二 「ふう…」

 家を出てからどれくらいの時間が経っただろうか。紙屋町を通り過ぎ、平和記念公園をぐるり回った後、今は太田川のほとりで座りこんでいた。

信二 (でも、その人って、どういう人なんだろう?)

 よく考えてみればその人がどういう人で、どういう格好をしていて、男なのか女なのか、若いのか年寄りなのか、それもわからずに、ただあての無い人を探しつづけていたのであった。

   (ザワザワ)

 野球が終わったのか、人がまた多くなってきた。

信二 (どうしよう、さすがに遅くなってきたし…)

 野球が終わっているということは、さすがに9時は回っているだろうと思った。信二は立ち上がり、家に帰ろうとしたとき、ひとつの考えが思い浮かんだ。

信二 (まてよ。僕がその人のことを思えば、その人は反応してくれるかな?)

 信二はやってみることにした。とにかくその人に会ってみたい。いつの間にか、このような気持ちになっていた。

信二 (あなたは、あなたは今、どこにいるの?できれば会いたいんだけど…)

 信二は高い星空に向け、思いを解き放った。すると、

   (…あっ)

 その人のことを、今までより強く感じることができた。そしてそれがどこから出ているのか、大体の場所がわかった。

 

 信二はその場所へ急いだ。そこに誰がいるのか、そして何が待っているのか。信二はそれを見たかった。それを確認したい一心でその場所へ急いだ。

信二 「ここか?」

 信二は近づいていく。長い上り坂を登った先にあった、その高台にたたずむ一人の少女、信二と同じくらいの年頃だった。その子はただ、何かを待っているかのように、星空を見上げていた。

信二 (あの子…、間違えない)

 その人の後姿を見たとき、信二は確信した。自分を呼んでいたのは、この人だということを。そして、信二は声をかけようとした。

信二 (あ、あの…)

 しかし、その声はかけられなかった。その直前に彼女は、まるで信二が声をかけるのがわかっていたかのように、振り向かずこう言ったからだ。

   「キミ…、誰?」

信二 「えっ…」

 

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