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−Iga Fantasy−
Chapter01 賞金稼ぎと幼き王

「あ〜!たいくつだー!」
「なんか変わったことはないのかー!」
「余は置きものではないぞ!」
「これ、そこの!なんか芸でもやってみせい!」
…などと騒ぎたて、周りの重役を困らせているのは、幼い王であった。

幼き王は、今年で御歳13さい。
もう落ち着いてもいい年なのだが、朝から晩までかっちりと決められた日課の、
特に、民の声を聴く時間がいやだった。

ここアースラヴでは、おかげさまで平和そのもの。
国民たちは王様に相談するよりも、自分たちで解決しようとしているのだ。
以前は、この時間にかなりの人々が訪れていたが、
前の王様が急死して以来、めっきり訪れる者がいなくなった。
・・・だから、とってもヒマ。

そこに、この国の右大臣であり、幼き王の義兄にもあたる、
アルクトウルス・スピカ―通称・アル―がやってきた。
「ま〜たワガママいってるんだろ・・・リク〜」
リクというのはもちろん、この幼き王の名だ。
正式には、パ・リクティン・アースラヴ・アストロラーヴェであるが・・・。

「なんだ、アル!余に説教でもしにきたのか?」
と、リクはつっぱねると、
「せっかくお客様を連れてきたのに、ひどい言いぐさだな」
と、アルが言った。
アルは前述したとおり、リクの義兄である。
彼の妹・ミラプレアが、リクと婚約したため義兄弟となったが、
以前から、本当の兄弟のように仲がいい。

「お客様?!」
リクの顔が、パッと明るくなった。


今までヒマだった分のエネルギーが、一気に充填されたような表情で、
「・・・で、どんなやつなんだ?その客というのは?」
と、きいてきた。そして、
「堅苦しいやつはヤだぞ、アル」
・・・と付け加えた。

「大丈夫、そんなひとじゃない・・・と思う」
アルは自信がなかったのか、
「世界でも1、2を争う賞金稼ぎだし・・・」
・・・と付け加えておいた。

「ん〜、余はあまり、その世界のことはわからんが・・・」
「とにかく・・・退屈しないですみそうだ!連れてきてみてくれ!」
そう言ってから、ふと、
「・・・しかし、余に何のようなんだ?」
と独り言をいった。

――しばらくすると、廊下から大きな声が聞こえてきた。

「・・・いいって、この服で!」
澄んだ、聞きなれない声。
「でも困ります!そのようなお姿で、王様に会わせるわけには参りません!」
という、聞きなれた女官の声。

そのやり取りを聞いて、リクは好奇心を隠せず、
「何だ?何だ?」と、そわそわしている。

「・・・私がみてこよう」
アルがそういって、声のする廊下へ向かった。

――またしばらくして、今度はアルの声がしてきた。
「ん〜、たしかにそのような格好では、困りますネ〜」
「・・・それだったら、こうしたらどうでしょうか?」
そして、仲介役がよかったのか、両方とも納得したようだった。

廊下から、ヒョコっとアルが顔をだすと、
リクは待ちくたびれた様子で、
「どんな格好でもいいから、早く連れてきてくれ」
・・・と、言った。

1999/03/27


世界で1、2を争う賞金稼ぎ、ブレーメン・・・。
その姿は、誰がどう見ても女性であった。
細くしなやかに伸びる肢体、整った上品そうな面持ちといい、
どうして彼女がそんなたいそうな肩書きを持ち、なぜそんな殺伐とした世界にいるのか・・・
彼女をみた周囲の人々は思ったことだろう。

それから、彼女が、先ほど女官と言い争っていた理由が、
その姿を見るとわかった。
彼女の服装は、王の御前には相応しくなかったからだ。
上は肩もあらわに、下は五分。
下町では、この姿は珍しくなかったが、王の御手前では正装するしきたりがあった。
旅の者ならば垢を落とし、小奇麗な服を着なおすというように、
専用の控え室があり、また、その専門の女官たちがいた。
しかも、女性であれば、なるべく露出しない服装が望ましかった。

・・・だから、肩から足首まで、マントをスポリと羽織っていた。
どこかで見たマントだ。
・・・アルのマントだった。
彼は廊下に出た後、彼女を見て、
機転を利かせ自分のマントを羽織らせたのだった。
これならば、女官の面目も立つし、ブレーメンと名乗る賞金稼ぎの言い分も通る。

アルは、ブレーメンを後ろに従え、王の御前に進み、紹介した。
「たいへんお待たせしました、我が王。
彼女が、先ほどお話しました、ブレーメンと申すものです」
彼の後ろから、するりと音も立てず歩く。
マントの間からは、きれいな脚が見え隠れしていた。
「お初にお目にかかります、アースラヴ国王様。
私のような者に御目通し願えて大変光栄です・・・」
どもりもせず、さらさらと、大広間に澄んだ声が広がった。

国王の側近、周囲にいる重役たち、そして警護にあたる兵士たちは、
知らぬ間に、彼女に心奪われていた。
少しあどけなさの残る顔立ち、彼女の醸し出す独特の雰囲気に、
みな年や役目を忘れ、のまれていった。

ただ幼き王とアルだけは、興味の方向が違ったので、その雰囲気に平然としていた。
リクは、にこやかにさわやかに、こう告げた。
「ようこそいらっしゃいました、ブレーメン殿。
私は、パ・リクティン・アストロラーヴェです・・・我が国は、あなたを歓迎いたします」

1999/04/03


「――彼女は、先代の王に会いたい、
といって訪ねられたのですよ・・・リクティン様」
これは、アルの言葉である。
アルは来客中には格式ばった言葉使いをする・・・。

「・・・そうでしたか、それは残念でした。
父は、4年前になくなりました。本当に残念なことです。」
リクティンも、同様だった。

ブレーメンと名乗った賞金稼ぎは、少し憂いをおびた瞳で、
「それは知らず、大変な失礼をいたしました。
私は先代王から、お目をかけていただき、
ある依頼をお受けしていたのです――」

「ある依頼?」
リクは聞いたが、ブレーメンは首を横に振り、
「先代様がいらっしゃらないのでは・・・
もう意味を成しません」

・・・と意味ありげな言葉に、
「ブレーメン殿、それはどういうことです?
それに、父は、いったい何をあなたに依頼したのですか?」
「もし、よろしければ、お教え願いたい・・・」
リクは追求したが、ブレーメンは、
「――それは、このような場所ではお話できません。
先代様の名誉を、傷つけることになりかねませんし・・・」
と、きっぱりと言った。
それだけいうと、ブレーメンは、一通りの挨拶をし、出て行こうとするので、
リクはあわてて、

「ブレーメン殿!
もしご都合がよければ、今晩はこの城でゆっくりしていって欲しい。
たいしたもてなしもできないが・・・」
先ほどの話を進めるべく、とりつくろった。
ブレーメンはかすかな微笑を隠しつつ、返答した。
「そうですね・・・ではお言葉に甘えさせていただきます」

リクはその言葉をきいて、安心したのか、
「よかった、外の話がいろいろ聴ける!」
と、つい本音を言ってしまった。
周りにいた臣下、女官、兵士たち一同から、どっと笑いが起った。
リクとアルは顔を見合わせて、あちゃ〜というような表情をした。

ブレーメンは、ただ静かに、微笑んでいた・・・。

1999/04/05