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−Iga Fantasy−
Chapter02 晩餐

「あ〜!疲れた―!」
ブレーメンは、靴を脱ぎ捨てた。
「あーゆうとこ、やっぱ苦手だわ!あたし」
といって、ベッドに飛びこむ。

先ほどの態度とは、うってかわって、元気な普通の女の子だった。

ブレーメンは、ふとドアの方を見つめた。
そこには、アルに借りた、マントがかけてあった。
「アルクト何とかっていったけ・・・あいつ。
マント借りたまま返すの忘れてた・・・」
ブレ―メンは、そう言いながら瞳を閉じた。
言い様のない睡魔が、彼女を襲う・・・。

――ドアの外から足音が聞こえてくる。・・・ゆっくりと、軽い足音。
それに気づいたブレーメンは、ハッと目が覚めた。
その足音は、ブレーメンの部屋の前で止まり、ノックの音に変わった。

「はい、どうぞ」
・・・といいつつ、ブレーメンは身なりを整え、ドアの方へ行き、
そしてドアを開けた。

――そこには、一人の女性が立っていた。
女官ではなかった。
彼女の品のよさそうな顔立ち、雰囲気がそれを語っていた。

歳は17・8か・・・
上質な布で織られた、派手すぎない色と飾りの服。
背中まで伸びた髪はストレートで、きれいなライトブルー。
どこかで見たような面影を漂わせていた。

「おくつろぎのところ、申し訳ございません。
兄から貴方様のことを伺って・・・
ぜひお会いしたいと思って、参りました」
と、はにかみながら言った。

「兄って、・・・もしかすると、アルクトウルス様ですか?」
その問いに彼女は、にこやかに「はい」と答えた。

ブレーメンは彼女を中へ案内し、
席を勧め、紳士のように椅子を引いて彼女を座らせた。

そして、備え付けの茶器でお茶を入れて彼女に出し、
自分も座った。

それまでおとなしく座っていた彼女が、口を開いた。
「私はミラプレア・スピカと申します。プレアと呼んでください」
・・・そう静かに話しはじめた。


ミラプレアは生粋のお姫様だった。
落ちついた物腰、丁寧な話し言葉、上品な笑顔・・・。

およそ苦労などしたことがないのだろう。
ブレーメンの冒険談に、一喜一憂しながら耳を傾けていた。

やがて、時計を見やれば、午後5時を示していた。
リクティンと対面したのが午後2時ごろ、
部屋に案内され、プレアが訪れたのが3時ごろだったので、
約2時間は話をしていたことになる。

部屋の柱時計が鳴り出したのに気がついたプレアは、
「まあ、もうこんな時間?夕食の時間ですわ。
ブレーメン様もいらっしゃるのでしょう?
・・・そうですわ!お召しかえ致しませんか?
ブレーメン様に似合いそうな服がありますの!」
――と、今までのおしとやかムードを吹き飛ばすように、
元気な声になった。

ブレーメンは少し呆気にとられて、
「はぁ・・・?」と口ごもってみたが、
プレアはそれを肯定とみなし、ブレーメンの手を取った。

「こちらですわ!」
と、ブレーメンを引っ張るように、彼女の居室へ連れていった。

部屋に到着したプレアは、奥へ進むと、
クローゼットからがさがさと、靴やらアクセサリーやらを取りだした。
そして最後に、一着の、薄い紅色の服をだした。

「これは、私の母のものなんです。
母は、ブレーメン様のような、きれいな緑の髪をしていました。
・・・貴方のほうが、きっと似あうとおもいます」
そういって、ブレーメンに手渡した。

ブレーメンは、呆気にとられていた。
――初対面で、しかも身分もかなり違うこの私に、
 大事な母親の形見の服を借そうとは。
 このミラプレアという人、
 人ができているというか、ただのお人よしというか・・・。
 今まで会ったことのないような貴族だ・・・――

ブレーメンは、驚きと戸惑いを隠せない様子だったが、
それでも笑顔で、言った。
「ありがたき幸せでございます、プレア様。
このような卑しい私に、そのようなお心遣いを・・・」

1999/04/20


午後6時ごろ、ブレーメンが
先ほどプレアに借りた服に着かえていると、
侍女がやってきて、
「お夕食の準備が整いましてございます」
と知らせた。

プレアは先ほどの服に、
ちょっと羽織をしただけの格好であったので、
ブレーメンは、
自分だけこのような服で、浮いてしまうのではないか、
と気になった。

「ブレーメン様、参りましょう」
と、プレアは廊下へ出た。

ブレーメンも後に続いたが、
借りた靴は少し小さかったので、足は痛いし、
慣れないロングスカートをはいていたので、転びそうになった。

廊下をしばらく歩くと、つきあたりに大きな扉があり、
そこには一人の初老の男が立っていた。

その男は一礼をして、言った。
「みなさまお待ちかねです。プレア様。
・・・そちらは、ブレーメン様ですか。お久しゅうございます。
以前もお会いしましたな・・・。
憶えておいでですか?執事のザックです・・・」
「――お久しぶりです。ザックさん。
もちろん憶えていますよ。
あなたには、とてもお世話になったから・・・」

ザックは微笑むと、
「さあ、お入りくださいませ。
みなさまお待ちかねです・・・」
そういって扉を開いた。


扉の中は、意外と質素だった。

豪華なシャンデリアなどはなく、何箇所かに燭台があるだけ。
部屋の中央には、古い歴史のありそうな大テーブルがあり、
そこにはもうすでにリクティンたちの姿があった。

テーブルには、
リクティンの他に、太った中年の男と、
それによく似た、小太りの子供がいた。

厳かな雰囲気の中、案内された席に腰かけると、
リクティンが、上座から話しかけてきた。

「こんばんわ。ブレーメン殿。
・・・プレアの母上の服ですね。よく似合っておいでです」
「お招きに与り、光栄です。リクティン王。
プレア様には、お礼の言葉すら浮かばないほど、良くしていただきました。
・・・それから、私のことはどうか、ブレーメンとお呼びください。
先代王、トラスト様にもそう呼ばれておりましたから・・・」

リクティンは、くすっと微笑んでから、
「紹介しましょう、
こちらは左大臣のダヌスです。
・・・私の叔母の夫でもあります。
その隣は子のルーリィ。
・・・プレアは、もう紹介の必要はなさそうですね。
私の将来の妻です」
と、最後は少し照れながら言った。

次に、ダヌスと紹介された男が、
「ブレーメン殿、お初にお目にかかります。
昼間は、城を出ていて会えずに残念でした。
それにしても、トラスト王とお知りあいとは存じませんでした」
「お知りあいといわれるほどのものではないと思いますが・・・
5年くらい前にも、ここでお夕食を御一緒したことがありました。
その時、確かダヌス様はいらっしゃらなかったと思います。
リクティン様は、まだ物心つく前で、覚えておいでではないようですが・・・」

そこへ、ひとりの侍女が来た。
「アルクトウルス様は、
研究で遅れるそうなので、お先にどうぞ、
とおっしゃられましたが、いかが致しましょうか・・・」
それに対して、リクティンは、
「じゃあ、エリ様が来たら始めるとしようか」
と、皆に言った。

「叔母上は身仕度に時間がかかるんだ。
・・・そうだ、ブレーメン。
ここでならば、先ほどの依頼の件、話してくれるかな?
ここにいるのは皆身内だから、父上の名誉などは関係ないし・・・」
「そうですか・・・それではお話しいたしましょう。
――あれは、5年前のことです。
私がまだ、かけだしの賞金稼ぎをしていたころ――」
ブレーメンは、瞳を閉じ、語りはじめた・・・。

1999/05/05