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−Iga Fantasy−
Chapter03 トラスト王

――5年前、私はかけだしの賞金稼ぎだった。

その頃は、波にのりはじめた頃だったから、
勢いにのって、高額の賞金首を狙っていた。

その賞金首の名は、エアリーといい、
アースラヴで盗賊団を組みし、
貴族たちの屋敷を荒している団の、頭領だった。

そいつが、アースラヴに居を構えていると知った私は、
隣国からアースラヴへと向かった。

城下へと入り、下調べをしていると、おかしなことに気がついた。

その賞金首は、隣国では名の知れた、小悪党だったのだが、
この国ではみな、義賊として、もてはやしていたのだ。

それから、調査を進めるうちに、その者の手下に遇うことができ、
実際に、本人と対面した。

――会ってみると、街の評判通りの好漢で、
強い信念をもち、義賊をしているらしい――

それから、
仲間のひとりから、彼の素性を聞くこともできた。

彼―エアリー―は、貧しい生まれで、親戚のうちで育てられ、育った。
彼が15になり、そのうちを出、
地方を転々としてから、ここにたどり着いた。
彼がきた当時、国は旱魃により、かなり荒れていたらしい。
そこで、貧しいものたちへ、
悪どい貴族などから獲ったものを流し、
また、街で起きる暴力などから市民を守る、
義賊団を結成した・・・。

私はとまどった。
彼が、本当に悪なのか・・・。
私が捕らえても良い人物なのか。
そして、それができるのか。

そんな私に、彼、エアリーは言った。

――たしかに盗みは悪であるが、
政府の少しばかりの救援で、漏れた人々を救うには・・・。
それに、これからは、違う方向をめざしていく――

私は、彼らと別れ、宿に帰ってからも、ずっと考えた。
賞金稼ぎとしての名誉をとるか、民間人としての良心をとるか・・・。

それから、一晩中考えぬいた挙句、
この国の王に会って、決めようと決心した・・・。


先代王トラストは若く、その王子はまだ4才足らずだった。

「ようこそ、我が国へ。
ブレーメン、
君は女性でありながら、賞金稼ぎをしていると聞いたが・・・。
なにか目的のあってのことだと思う。
この私にできることは、
君の話を聴いてあげることだけだ」

「――ありがとうございます、国王様。
今日は私の、心の迷いをきいて欲しく、伺いました」

そんなやり取りをしてから、
ブレーメンは事のなりゆきを話した。

「・・・なるほど、
君が他国から追ってきた賞金首は、
他国と我が国では批評が違っていたと・・・
そういう事だね?」
「はい」

トラストの口調はゆっくり穏やかで、
少し笑みをもらしながら言った。
「・・・それで、君はどうしたいんだい?」

「私は・・・」
と言って口ごもった。
私は、どうしたいのだろう・・・――

「わかりません、自分でもわからなかったので、ここに来ました」
と言うと、トラストは、
「はははっ」と声をあげて笑った。

「――失礼。それもそうだ。
でなければ、行列に並んでまで、こんなところへ来ないよな」

トラストは、見かけは目つきが悪く、意地もワルそうに見えたが、
意外と気さくなようなので、
ブレーメンも落ち着きを取り戻した。

そして、

――わかっているだろうに、この人。
私が女だと思って、試しているのか。
それとも、
からかっているのか――

そんなふうに思いはじめていた。

しかし、
トラストはそんな空気を感じ、

「ブレーメン?
・・・気を悪くしたのならば謝るよ。
しかし、聞いて欲しい。
決めるのは誰であろう、私では無い。
君なんだ。
だから、どうしたいのかと訊いたんだよ」

ブレーメンは、少し間の抜けたような顔をして言った。
「私は今、二つの心の間で葛藤しているのです。
ひとつは賞金稼ぎとしての名誉欲。
そして、もうひとつは、
義賊を討つという事が本当に良い事なのか、
・・・という民間人としての良心です」
そこまで言うと、ブレーメンの表情は真剣になっていた。

トラストは、
その変化をゆっくりと、言葉をかみしめながら、見つめていた。
「・・・そうか。
では私はひとつ、君に言ってあげられる事が、 実はある。
――しかしながら、
この場では私の立場というものがあって、 話す事はできない。
だからどうだろうか、
今晩はここに泊まって、夕食の時にでも話したいと思うのだが。
どうするかい、ブレーメン?

ブレーメンは、少したじろいた。
「お話、ですか?

しかし、私のような下賎の者をこのようなところに泊めて、
よろしいのですか?」
「ははは・・
君は、なかなかお人よしだな、ブレーメン。
――心配は要らないよ。
この城は部屋が余っているし、私の家族はみな、話好きだから。
君のような人なら大歓迎だよ」
と、にっこり笑った。

1999/05/20


ブレーメンは、夕食に招待されていた。

案内されたダイニングは、
意外にも家庭的な雰囲気だった。

トラスト王に、王妃、ひとり息子のリクティン。
トラスト王の妹夫妻。
トラスト王の親友・スピカ夫妻も呼ばれていた。

食事も中頃にさしかかると、トラストは先ほどの話題を出した。
ブレーメンは、先の言葉を思い出していた。
――私はひとつ、君に言ってあげられる事が、実はある。
そう言っていた。

「今日は紹介したい人が、もうひとりいるんだよ。
もうそろそろ来る頃なのだが・・・」
そして、しばらくすると、
扉がノックされて、一人の男が入ってきた。

ブレーメンは彼を見て、驚いた。
誰であろう、盗賊団の頭・エアリーだったからだ。
「紹介しよう、エアリー・マクスウェルだ」

エアリーはぺこりとお辞儀をすると、
呆けているブレーメンの頭を、ポンとたたき、
「そういう事さ。お嬢ちゃん」
と言った。

トラストは、その一部始終を見て、ニコニコしていた。


「彼は、私の直接の手足となって、
我が国の保安を維持してくれているんだ。
それと、色々な情報の提供もしてくれている。
私は、それにともなう依頼料を支払う・・・
要するに、ギブ&テイクだよ」

ブレーメンは、エアリーの言葉を思い出していた。
――これからは、違う方向をめざしていく――
このことだったのだ・・・。

トラスト王は、
そのことをブレーメンに伝えたくて、夕食に招いた。

・・・すべて知っていたのか・・・

ブレーメンは、
今まで悩んでいた自分がおかしくなって、
笑いだしてしまっていた。

トラストは、その様子を見て言った。
「どうやら、君の言っていた賞金首は、彼の事だったのだね?
本当は、懸けたくはなかったのだが、
彼がどうしても、と言うものだから・・・」

それに対し、エアリーは、
「オレは、盗みという罪を犯したのだから、当然のことだ。
いくら、国王の命で良い行いをしたとしても、
その罪は消えることは無い・・・」
と、きっぱりと言った。

ブレーメンは、そのやりとりを見、
「私も、賞金が懸けられているのは、どうかと思います。
・・・そうだ。
召し捕られた、ということにしたらいかがでしょうか?」
と、提案した。

「そうだな。
そういうことにして、彼には自由の身になって欲しいな。
君のような賞金稼ぎに狙われるのは、申し訳ないからね」
「オレは、こんな娘が来てくれるなら、大歓迎なんだけどな」

一同は大笑い。
――楽しかった。
ブレーメンが、久しぶりに味わった雰囲気だった。

夕食もほぼ終わり、
トラスト王は少し真顔になって、ブレーメンに問うた。
「君のような人が、
なぜ賞金稼ぎなんてしているのか・・・興味あるな。
よかったら、きかせてくれないか」

ブレーメンは、ぴくりと身を震わせてから言った。
「私は、ある者を追って旅をしているのです。
そのために必要な旅費を賄うため、賞金稼ぎをしています・・・」
「――ある者とは?」
「それは言ったとしても、ご理解いただけるかどうか・・・。
しかし、この世にあってはならぬ者。
私は、その者を『バグド』と呼んでいます・・・」

トラストは、ひとつ、ため息をついた。
そして、こう言った。
「・・・この世にあってはならぬ者、か・・・
――しかし、事情はどうあれ、

君のような若い女性には、そんな殺伐とした世界にはいてほしくない。
だから、こうしよう。
『私の依頼でその者を追っている』と。
もちろん依頼料は支払うし、ここも自由に出入りしてもらってかまわない。
・・・行列に並ばなくてもいいし、ね」

このときの『依頼』が、私、ブレーメンのなかにあった・・・。

1999/06/05