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−Iga Fantasy−
Chapter04 なかま

「――そうして、私は依頼とは名ばかりの、恩恵を授かったのです」

ここは、アースラヴ城、召花の間。平たく言えば食堂だ。
中央には大きなテーブルがあり、沢山の食物があった。
そして、美しい燭台が、いくつかの明りを灯し、広いこの部屋を明るくしていた。
王宮のわりには、意外にも質素であったが、
その代わりに、なんとも言えない雰囲気を醸し出していた。
強いて言うならば、家庭的とでも言うのだろうか・・・。

リクティンたちはブレーメンの話をそこまで聴くと、
一息ついて、食事を再開した。

いつしか時間は午後7時を過ぎていた。

夕食もメインディッシュになっても、まだ来ぬ叔母は、
いったいどうしたものかと、リクティンに尋ねたところ、
「きっと今ごろは、湯から上がって、
お肌のお手入れとやらをしているんだと思う」
と、あっさり答えた。

しばらくして、急に廊下が騒がしくなったと思ったら、
一人の騎士が、ノックとともに、中に入ってきた。

「お食事中のところ申し訳ございません。
国境付近の森から、
今まで見たことの無いような怪物が出現しました!
ただ今応戦中ですが、どうにも歯がたちません。
そこで、御来城中のブレーメン殿に、
ぜひとも、お力をお借りいたしたく、早急に参りました!」

ブレーメンとリクティンは顔を見合わせた。
「私がトラスト王に依頼されたのはこの為です、リクティン王。
異世界の怪物退治――私は奴を追う旅を、ずっとして来ました。
そういう訳で、席を外させていただきたいのですが・・・」
リクティンは頷き、そして言った。
「我が国を、どうかお守りください・・・
――頼みます、ブレーメン・・・」

プレアは、心配そうにブレーメンを見つめて言った。
「御武運を、お祈りしております・・・
帰ってらしたら、またゆっくりお話を、お聴かせください・・・」

そうして、ブレーメンは、この城をあとにした・・・―――


数人の騎士とともにブレーメンは、
愛馬のカラシにまたがり、駆けていた。

「ブレーメン殿!
貴方は、奴をずっと追っていたと聞きました。
いったい何モノなんです?
受けた傷はすぐ修復するし、手のほどこしようが無い・・・!」
「詳しく説明している暇は無いので、手短に言うが、
奴はこの世のモノでは無いのです・・・」
ブレーメンは苦い顔をして言った。

ところで、彼女には数人の戦友が、行動を伴にしていた。
猫と犬、今乗っている馬と。
猫は腹の前に腰かけ、犬は背にしがみついている。

「ブレーメン殿!
先ほどから気になっていたのですが、
その動物はいったい何です?
戦地には不必要ではありませんか?」

ブレーメンはその言葉にかぶりを振り、毅然と言った。
「彼らは私の、心強い仲間です。
彼らのお陰で、私は此処まで来られたのです」

しばらく馬を走らせると、街をぬけ、街道の横に森が広がってきた。
そこまで来ると、その怪物の姿が見えてきた。
それほどまでに、怪物は巨大だった。
その下では戦士たちが苦戦しているようで、数々の悲鳴、怒号が聞こえる。

ブレーメンは近くに寄ると、馬から降りた。
猫、犬を降ろし、そして言った。
「さあ、今日こそはあいつを倒し、故郷へ帰ろう」
猫と犬、そして馬は、かすかに頷いたようだった。

「ロカは皆の傷の手当てを頼むよ」
「は〜いっ」
ブレーメンのマントの中から、光玉が現れたと思うと、小さな妖精が現れた。

「ナイはあいつを操る、サモナーを見つけてくれ」
そう言われて、犬はきゅーんと鳴いて、
淋しそうな表情を浮かべて茂みの中に消えた。

「アシンとカラシ兄さんは、私と、
ナイが奴を見つけるまで、時間を稼ごう」

猫と馬は、頷いてから深呼吸した。
次に息をはいた時、
もうすでに2匹の姿は無く、ふたりの男がそこに立っていた。

猫は、目の細い涼しげな格好の男に、
馬は、聡明そうな眼差しの、
長髪の男(頭の上の方は短く刈ってはいたが、尾のように下に髪が生えていた)に、
それぞれ変化したのだった。

「ブレーメン、奴が見つかるまで、暴れ過ぎるなよ」
「わかってるよ、カラシ兄さん」
ブレーメンはウィンクして、言った。

「ブレーメンはん〜!
早う還って、兄さんと祝言あげんと〜♪」
アシン(猫)は、のんきな顔をして、
細い目をさらに細くして、ふたりをからかった。

ブレーメンとカラシ(馬)は、照れ笑いをした。
――近くでは、戦士たちが悪戦苦闘していた・・・。

1999/06/20


「わ〜、みんなガンバったのねぇ〜!すっごくイタそう♪」

にっこにこしながら、
妖精のロカは、
回復の光を兵士たちに浴びせた。

すると、
肉の裂けたものは肉がもりあがり、薄皮が生じ、
焼けただれたものは、表皮がきれいに形成された。

「まだ完全じゃないから絶対安静!
次に穴あけても、治してあげないから★」
と次々に、傷の手当てをした。

兵士たちは、
その光景を見て、驚きと興奮の声をあげた。

なぜなら、
この世界では妖精なんてものは実在しないからだ。

幼い頃、物語の中に登場した妖精が、
あちらこちらに移動し、自分たちの傷の修復をしている・・・。

彼らには、
ロカが、女神か天使のように思えたらしく。
ロカに向かい、十字をきり、祈りを捧げた。

「あ〜、安静って言ったのにっ!
傷が開いても知らないからねぇ#」

と、
他人事&ノーテンキのような独白を言い、
まだ回復していない戦士たちの方へ、飛んでいった。


モンスターに対峙した3人がいた。

ブレーメン、カラシ、アシン。
まだ皆若い。
彼らは長い間、「奴」を追っていた。

モンスターは巨大で、身の丈5メートルはある。
鋭い牙をもち、龍の姿をしていた。
騎士の話では受けた傷はすぐに治ってしまうという。
頭も良いようで、
彼らを見据え、ターゲットにしたようだ。

ところで、
城から案内した騎士たちは、
猫と馬が人間に変化したのを見て驚き、
ブレーメンに問うた。
「ブレーメン殿、彼らは一体・・・噂に聞く妖術使いですか?」

ブレーメンは苦笑し、「そんなところです」とだけ言った。

アシン(猫)とカラシ(馬)はそんな事はお構いなしで、
モンスターに気づかれた事を察知し、
戦闘態勢にはいる。

「カラシはん!
奴はA級モンスター、ブレスオブコールド。
吹雪のブレスに注意や!」

「わかった。ありがとう、アシン」
カラシは矛を構え、
怪物の方へ走りだした。

アシンは防御シールドを張る為、
何やら詠唱を始めている。

ブレーメンは、彼らの姿を見て、久しぶりに胸が高まった。
そして、カラシの後を追うように駈けていった。


そんな頃、アースラヴ城では・・・

夕食も終わり、それぞれ部屋に帰っていた。

結局あの後、叔母は夕食へ来なかった。
・・・ダイエット中だったらしい。

部屋へ帰る途中、
プレアがリクティンの部屋の前で訊いた。
「リク・・・ブレーメン様たちのところへ、
行きたいとは言わないのね?」
「余も、もうオトナだ。それくらいの分別はついているさ」
そう言い、
にこりと笑って、部屋の中に入った。

「リク・・・」
プレアは心配そうに、部屋の前に立ちすくんでいた。
そして、扉の向こうへ話はじめた。
「リク、聞いて・・・
あなたが行きたいというのなら、私は反対しない。
でも、自覚していると思うけど、
あなたは、この国の王・・・行くのなら絶対帰ってきて」

すると、カタンと音がし、返事がかえってきた。
「ありがとう、プレア・・・」

プレアは、ハッとして、
リクティンの部屋の扉を開けた。

――そこにはもう、彼の姿はなく・・・、
ただ開け放れた窓の、カーテンがなびいていた・・・。


ナイ(犬)はボヤいていた。
「なんでこのオレが、サモナーなんかを捜さにゃならんの・・・」
「もうっ!ブレーメンさんのイジワル・・・」
「・・・!サモナーを見つけたら、褒めてくれるカナ???」
「オレってもしや、信頼されてンのかも!」

などと、喜怒哀楽を一人で演じ・・・、
ふんふんと鼻を利かせ、
以前嗅いだことのある奴の匂いを探る。

「おお!こっちだ!」
・・・と、一人むなしく歩き始めた。


アースラヴ城下、町酒場。

一人の男がいた。
名をディオニュソス―通称ディオ―、
歳は24・5、長髪を肩の所で軽く結んでいた。

「マスターおかわり〜!」
と、空ジョッキを手前へ出した。

もうすでに32杯は呑んでいた。
「ディオ・・・あんた呑みすぎだよ・・・
ユナちゃんに怒られるぞ!」

「だ〜いじょぶだって!
ユナは、アルタとかと小旅行中さ・・・。
2・3日は帰ってこんよ・・・」
ゴキゲンな顔をして、大笑い。
明らかに酔っぱらっていた。

「まったく・・・」
呆れ顔のマスターは、
しぶしぶとおかわりを差し出した。

・・・ユナというのは、ディオの愛娘だ。
亡き妻によく似ていて、将来が楽しみだった。

――ところで、
この国の人々について少し触れておこう。

特徴ですぐ判るのは、耳だ。
皆とがった耳をして、長さもまちまちだった。

特異な力も無く、普通の人間だ。

しかし、この国だけで無く・・・この世界は皆こうだった。
だから、長い耳は当たり前のこと。

・・・ディオは違った。
丸い、私たちで言うところの普通の耳・・・
思い出してみると、ブレーメン、カラシなども、この丸い耳だ。

「あーーー!!!
やっぱ仕事後の一杯は格別だー!」
と、33杯目を呑み干した・・・。

「一杯じゃないでしょお・・・」
マスターは、ひそかにツッコミをいれた。

1999/07/20