ずっと昔から、夢見てた。
大好きな人のもとへ、お菓子を焼いて届けること。
白いレースのエプロンの紐を背中できりりと縛ると、気分も引き締まる。
エプロンの下には、お気に入りのワンピース。
サーモンピンクに白い小花を散らした生地が一目で気に入って、1週間がかりでミシンを踏んだ自慢のお手製。
仕事の制服の方が似合うってみんなは言うけれど、コットン素材の肌触りの優しさの方が好き。
卵は新鮮なものを選んで、ツノが立つまで泡立てる。
見た目よりうんと力の要る作業。このときばかりは力持ちで良かったな、と思う。
あまり甘い物の好きそうなタイプじゃないから、お砂糖は控えめに。
あの人の好きなブランデーで香りを添えて、ていねいにふるった小麦粉を混ぜたら、生地を練るのは絶対禁物。
ハートの形のケーキ型に流し込んだら空気を抜くのも忘れずに。
あとはオーブンに任せて、デコレーションの果物を刻もう。
あの人の喜ぶ顔を想像するだけで、幸せな気分。
オーブンから漂ってくる、甘い香りが部屋を満たして……
「…なんだ、これは」
不機嫌の国から不機嫌を広めにきたみたいな表情で、ハーレムは自分の机の上を見やった。
世界最強の殺し屋軍団の中でも、さらに恐れられている特戦部隊の隊長にはおよそ似つかわしくない物体が、そこにちょこんと置かれている。
シュガーピンクの包装紙で綺麗に包まれ、赤いリボンまでかかったケーキ箱を、ハーレムは汚い物でも触るようにつまみ上げた。
「ああ、それならさっき、Gのヤツが…」
軽く事実を告げたロッドの顔めがけて、いきなりケーキ箱が飛んできた。
「…いっ…いきなりなにすんですか、隊長ぉ!」
ロッドの抗議には耳も貸さず、ハーレムは、地の底から這いあがるような声で言った。
「捨ててこい」
「はっ?」
「聞こえなかったか!宇宙の果てまで捨ててこい!」
Gは、ドアの陰からその一部始終を見ていた。
「…隊長。やはり甘いものはお気に召さなかったのですね…」
そう呟いて、爪を噛んだGの脳裏に、すばらしいプランがひらめいた。
…そうだ。今度はプレゼントの王道、手編みのセーターで勝負!
そうと決まれば毛糸を買いに行かなくちゃ。
太めの毛糸でざっくり編んだ、ワイルドな感じのが似合いそう。
あ、自分の分も編んでペアルックなんかも悪くないかも…
そーゆー問題ではないということに、彼はまだ気づいていない、ようだ。
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