ガンマ団員宿舎地下一階の小部屋には、ほとんど人が寄り付かない。
その部屋の名は、ランドリールーム。
人の寄り付かない理由については、三度の飯より喧嘩好き、という野郎どもの集団の中でマメに洗濯なんぞをする奴がどれだけいるものか、ということに思いをめぐらせば、おのずと納得はゆくだろう。
それでもクロゼットを開けた途端に汚れものの雪崩に押し潰されれば、諦めもつこうというものだ。
そんなわけで。
リキッドは、満杯のランドリーバッグをサンタクロースのようにかついでランドリールームのドアを開けた。
先刻まで誰かが乾燥機を使っていたらしい。むっとする熱気がそう広くない部屋に充満している。
「ふん…珍しいこともあるもんだ」
そう呟きながら洗濯機のフタを開け、ランドリーバッグの中身を投げ込み、洗剤をいい加減にふりかける。もちろん洗濯機の容量とか洗濯物の素材なんかにはまるっきりおかまいなしである。
…これは余談だが、そういう輩が実に多いため、ランドリールームの洗濯機はしょっちゅう壊れる。しかも壊れた洗濯機をグンマがいじるため、さらに壊れる。そんなわけで四台ある洗濯機のうち常に二台は使えないことも、人が寄り付かないひとつの理由であるようだ。
蛇口をひねり、タイマーをセットしたらあとは洗濯機におまかせ。
「さて…と」
そう大した仕事をしたわけでもないのに、リキッドは解放されたように伸びをした。
「部屋に戻ってビデオでも見てるか」
この間の外出日に手に入れておいたディズニーの新作が自室で彼を待っているはずだ。
ランドリールームを出ようとした時、リキッドは、何かを踏んだ気がして歩を止めた。
足下に目をやると、靴先になにやらピンクの布きれがひっかかっている。
「なんだぁ…?こりゃ」
思わず拾い上げ、広げてみて、リキッドはその場で石になった。
その小さな布きれは、目にも鮮やかなショッキングピンクのスキャンティーだったのである。
前身頃は総レース。腰の脇を細いヒモで止めるタイプのそれは、うら若い女性が身につけたならさぞかし…な代物ではあったが、潤いがないのが売りとも言える男集団ガンマ団の中に、そんなものがある理由などどう考えてもあるはずがない。
広げてしまったそれをどうしたもんかと思いつつ石になっているリキッドの目の前で、間の悪いことにドアが開いた。
「おやぁ?リキッドちゃん何持ってんだぁ?」
「げっ!」
やはり満杯のランドリーバッグをかついで入ってきたのは、よりにもよってロッドである。
「うわあ、色っぽいじゃん、それっておまえの趣味?」
「んなわけあるか!ここに落ちてたんだよっ!」
「またまたぁ。結構似合いそうじゃんか」
そう言ってロッドは、カンに触る笑い声をたてる。
「…ぶっ殺されたいか?」
「それはいてみろよ。俺のマグナムで殺してやるから」
ロッドお得意の下品なジョークが炸裂する。
「てめぇぇぇ…」
リキッドのコメカミの血管は、ぶち切れる寸前である。…しかし、怒りに震えるその右手にしっかりと例のスキャンティーが握られているあたりが笑いを誘う。
そう広くないランドリールームが殺気に満たされたその時、またもやドアが開いた。
「あ、それ!」
野太い声とともに、リキッドの右手からスキャンティーがむしり取られた。
「やっぱりここに落としてたんだ…どこやったのかと思った」
ピンクハウスの新作に身を固め、レースとリボンをたなびかせた声の主…Gは呆然とするふたりに目もくれず、スキャンティーを大事そうに握って階段を駆けのぼっていった。
その後ろ姿を見送って、リキッドは大儀そうに口を開く。
「…なあ、ロッド」
「…ん?」
「あいつでも『マグナムで殺して』みる気あるかぁ…?」
「本物のマグナムだったら、考えてもいいな」
「…同感」
顔を見合わせてため息をついた後、リキッドは疲労感をひきずったまま乾燥機のフタを開けた。
一度自室へ戻ったら、もうここへ来る気力はないような気がしたのだ。
乾燥機のドラムに、ピンクの布きれがひっかかっていた。
ロッドはのろのろと自分のランドリーバッグを取り上げて、使えるもう一台の洗濯機のフタを開けた。
洗濯槽の底に、ピンクの布きれがへばりついていた。
ふたりは、もう一度顔を見合わせた。
階段をかけおりてくる足音が、遠くで聞こえていた。
Fin.
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